明日へ繋ぐ切先   作:Senritsu

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こんばんは。お久しぶりです。更新が非常に遅くなってしまったのであらすじを添付します。

今までのあらすじ

アルヴヘイム上空に出現したホロウエリアの調査のため、アミュスフィアを介してSAOへとログインを果たしたリーファ、ユウキ、リオルナの三人。ホロウエリアの各地へと飛ばされた彼らはそれぞれで合流し、アインクラッドへの足掛かりを探して攻略を進める。

リオルナとユウキは『グレスリーフの入り江エリア』で合流。道中で『モガ村』というNPCとは思えない人々ばかりが暮らす不思議な村との交流を図りながら、二週間をかけて主要エリアを踏破。苦心しつつもエリアボスを撃破し、次のエリアに向けて歩みを進める。

リーファは『セルベンディスの樹海エリア』にて短剣使いの少女フィリアと邂逅する。その後突如現れたボスエネミーを撃破し、ホロウエリアの中心部に位置する『管理区』への転移に成功する。そこで数年来の願いねあった兄キリトとの再会も果たした彼女は、アインクラッドへ転移できるようになる条件を見つけるために再度『セルベンディスの樹海エリア』へ挑む。



第27話 新天地の指標

 

 安全エリアでの休憩と少しの就寝を挟んで、あたしたちは探索を再開した。そして丸二日かけてダンジョン『聖剣を望んだ待機所』の攻略を終える。

 

 ものすごくあっさりした報告だけど、実際特に目だった出来事はなかった。あのホロウミッションの一件をふまえてお兄ちゃんとアスナさんが当該ダンジョンの攻略マニュアル的なものを考案し、安全重視かつ効率的に探索を進めたからだ。

 ダンジョンの最奥にはボスが控えていたけど、そいつも特に苦戦することなくクリア。姿の四人でのボス戦は初めてだったからあたしが少し足を引っ張ってしまった。でもお兄ちゃんとアスナさんがそれぞれダメージディーラーになってタゲを取り、あたしとフィリアさんがスイッチを織り交ぜつつ遊撃に徹する、という布陣で倒しきれた。こういう連携もちゃんと身につけていかないとな、と思う。

 倒したボスは『サンクチュアリ』という名前で、六本足版のケンタウロスみたいな姿だった。かなり大きなエネミーだったんだけど、それよりもあたしはそいつが二刀流だったことにびっくりした。お兄ちゃんたちもこのタイプの敵は初めてだったみたいで驚いていたっけ。

 クリア報酬は『虚光に燈る首飾り』。ビー玉くらいの大きさの琥珀色をした宝石が埋め込まれたペンダントネックレスだ。どうやらこの『セルベンディスの樹海エリア』の攻略を進めるうえで必要になるアイテムらしい。

 

 

 そんなわけで、今あたしたちは『聖剣を望んだ待機所』の西口(入ってきたのは南口だった)を出てすぐの林道にいる。フィールド名は『植物たちの楽園:北領域』だ。

 ゲーム内での時間は朝。とはいっても既に空は青く澄み渡っており、あたしたちも早々に寝袋をアイテムストレージにしまって次なるダンジョンに向けて歩みを進めている。

 と、先日とは逆に先頭を歩いていたお兄ちゃんが身体をほぐすようにして腕を回しながら言った。

 

「しっかしとんでもなく広いな、ここは」

 

 その声には感慨深そうな含みがあって、それはお兄ちゃんにとって予想外のことだったんだろうな、と思う。

 

「とんでもなく、って言ってるあたり凄そうだね。お兄ちゃんたちがいるところと比べたらどれくらいなの?」

 

「そうだな……アスナ、フィリア、どう思う?」

 

「うーん……、この『セルベンディスの樹海エリア』だけで考えたとしても、アインクラッドのひとつの階層はまるまる収まっちゃうんじゃないかな? もしかするともっとあるかも」

 

「フィールドとかダンジョンの広さがアインクラッドのそれに比べてかなり広い。マップ上の私たちのアイコンの移動速度から見ても、このエリアはアインクラッド第一階層に匹敵するかそれ以上の大きさだと思うよ」

 

 お兄ちゃんの問いかけに対して、アスナさんとフィリアさんは神妙な顔で答える。それから察せられるようにこのエリアはアインクラッド側から見ても相当な規模を誇るみたいだ。

 

「もとは普通のフィールドで、作成の過程で遺棄された可能性が高いってユイも言ってたっけか。あながち間違いじゃないどころかそうとしか考えられないなここは」

 

 お兄ちゃんも考え出すと止まらないのか、ぶつぶつと何か呟きながら思考を巡らせているようだった。

 

「…………」

 

「…………」

 

 ……こうなると暇になるのがあたしだ。だって他の人たちと違ってアインクラッドのこと知らないからなあ。現地との比較ができないのが辛いところだ。

 まあ、ALOという比較対象はあると言えばあるんだけど、やっぱりハードから違うし、お門違いと言うかゲーム違いだ。あたしがALOしかゲーム経験がないのも手伝って、その辺りの考察は苦手というか見たままと言えないというか。こう考えてみるとこことALOの基本的な仕様が同じなのはすごく不思議なことなことのような気がしてくる。これは頭の隅に留めといたほうがよさそうだ。

 

 そんなわけであたしも含めて考え事に傾倒しながら黙々と探索を進めていたあたしたちだけど、しばらくすると「んっ?」という声で沈黙が破られた。お兄ちゃんだ。

 

「どうかしたのキリト君?」

 

「なあみんな。周りに敵がいないことを確認した上でメインメニューを開いてみてくれないか」

 

 珍しく、というか初めてかもしれないお兄ちゃんの戸惑いの声に、アスナさんもフィリアさんも、もちろんあたしもすぐに反応した。

 お兄ちゃんとフィリアさんがお互いに目くばせし合い、目を閉じてそれぞれ別のバトルスキルを発動させる。『エネミーサーチ』と『警戒態勢』だ。これでたぶん身に迫る危険はほとんど事前に察知できるだろう。あたしとアスナさんは索敵をフィリアさんたちに任せてすぐにメニュー画面を開く。

 

「開いたらどうすればいいの?」

 

「メニュー画面のリストを確認してみてくれ。見慣れない項目が見当たらないか?」

 

 ん? それはいったいどういうことだろう。なにか項目が増えていたりしたのかな。でも昨日もサブスキルとか武器種の説明とかを見るためにメインメニューを開いてたから見落としなんかはないはずだけど……。

 とりあえず、お兄ちゃんの言われたとおりにメインメニューのリストをスクロールする、と、すぐにそれは見つかった。

 

「……実装エレメント調査?」

 

「それだ。リーファのにも出ていたみたいだな。他の二人はどうだ?」

 

 お兄ちゃんは続けて、入念にメインメニューを確認しているアスナさんとリーファさんに声をかける。

 

「……ううん。私のメインメニューにはそんな項目は出ていないわ……」

 

 しかし、返ってきた答えは芳しいものではなかった。アスナさんが重苦しく首を横に振る。

 そんな、見落としただけじゃ? って思ったけど、この『実装エレメント調査』なる項目はメインメニューの最初から見える画面にそれ見よがしに表示されている。流石にこれを見落とすなんてことはないだろう。

 

「……私もない。リーファ。ちょっと見せてもらっていい?」

 

 なんとフィリアさんも見つからなかったみたいだ。あたしはフィリアさんと一緒にもう一度メインメニューを確認する。そこにはやっぱり『実装エレメント調査』と記されたアイコンが表示されていた。

 フィリアさんに目くばせすると、彼女はその意図を察してメニュー画面を開く。あたしのメニュー画面にはある項目が、確かに全く見当たらない。本当に、あたしとお兄ちゃんのにしか表示されていないみたいだ。

 同じくお兄ちゃんのメニュー画面を見せてもらっていたアスナさんが厳しい表情で言う。

 

「……昨日までにメインメニューを確認した人はいるかしら?」

 

「あ、はい。昨日の夜に」

 

 咄嗟にあたしは応えた。このゲームの仕様を勉強する意味でも寝る前など時間があるときにはなるべくメインメニューを見るようにしている。

 

「改めて確認だけど、昨日の時点でこの項目が出てたり、新要素が追加されるとかのお知らせがあったりしたかしら?」

 

「いえ……。いつもと変わりなかったと思います。メッセージウィンドウにも通知はありませんでした」

 

「じゃああの項目は……」

 

「ああ。つい今さっきいきなり出現したって線が濃厚だな」

 

「……そういうことってよくあったりするの?」

 

「いや、これが初めてだ。メインメニューの項目数はサービスが開始してから全く変わってなかった」

 

 今まで全く!? だとするとこれは相当な事態なんじゃないかな。ゲームのメインメニューは言わばそのゲームの顔のようなもの。そうそう簡単に項目が追加されたりしないだろうことは明白なはずだ。

 事実、お兄ちゃんとアスナさんは少し警戒気味にメインメニューを見ながら議論を交わしている。

 

「まさかメインメニューにまで変化があるなんてな……流石に予想外だぞ」

 

「私とフィリアさんのには見当たらなかった理由も分からないわね。きっと何かの理由があると思うのだけど……」

 

 しかしながら、あたしはすぐにでもこれを開いてみたい気持ちにかきたてられていた。それはこのゲームに対する警戒心のなさと捉えられるかもしれないし実際そうなんだろうけど、それよりもこのホロウエリア独自項目らしきこのアイコンが気になって仕方がない。

 ちらりとフィリアさんに目くばせする。どうやらフィリアさんも同じ考えなようで、あたしたちは互いに頷き合ったあと、トン、とそのアイコンをタップする。

 

「名前からも内容がいまいち推測できないな。今は保留した方がいいか……って、リーファ?」

 

 お兄ちゃんが驚きの声を上げる。しかし、もう画面は開かれた。ざあっとリストが表示される。だけど、他に特に変わったことはない。

 

「……大丈夫。開いた途端に名前にある『実装エレメント調査』が始まったりするわけではないみたいだから安心して。それよりもこれは……早く確認しといた方がいい」

 

 フィリアさんの声は真剣そのもの。すごく興味深そうに開かれたリスト画面を見つめている。

 それを見てお兄ちゃんたちも好奇心の方が上回ったのか開いてみることにしたらしく、林道の隅に寄ってコマンドを操作した。

 

「うお、すごい数の項目があるな……これはクエストの選択肢……か?」

 

「ぱっと見だとそう見えるわね。何か情報を得られるコマンドはないかしら?」

 

「あ、画面の隅っこにヘルプがありますよ。これを見ればわかるんじゃないですか?」

 

 メニュー画面とリストの間に挟まって見えなくなってるけどそれは確かにヘルプページを開くためのアイコンだった。なんでこんな分かりにくいところに配置したんだろう?

 あたしに言われてお兄ちゃんたちもそれを発見したのか、四人でその画面を開いて記述とにらめっこする。もちろん周囲へ気を配りながらだ。ここは安全エリアではないから索敵していても注意するに越したことはない。

 

 で、その結果分かったのはこの実装エレメント調査と言うのがホロウエリアで受けることができるクエストであり、特定の調査内容をホロウミッションに参加しつつ実行することで達成することができるという、まさにこの浮遊大陸限定の仕様であるということだった。

 項目の数は多岐に渡る。達成条件も採取系ホロウミッションの一定数クリアだったり、一定数値までダメージを受け続けるなど様々だ。その他にもいろいろと細かい設定があるけど、ざっと言えばこんなものだ。

 

 どうしてアスナさんとフィリアさんのメインメニューにはこれが出ていないのかは結局分からずじまいったけど、あたしとお兄ちゃんでとりあえず何か選択してみようという話になった。ものは試しってね。

 実装エレメント調査の達成報酬は普通のクエストとは違い、特殊なバトルスキルや武具がもらえるクエストが多いみたいだ。だからこそ、あたしとお兄ちゃんはうんうんと悩み続けた。

 かれこれ数分が経過したころ、ようやくあたしが候補を一つに絞りこんだ。

 

「……あたし、この『テクニカルスタブ仕様の進化調査』にしてみようと思います」

 

「なんだか難しい名前だね。達成条件を聞いてもいい?」

 

 調査項目の閲覧に集中したお兄ちゃんに代わって、周囲の警戒を務めていたフィリアさんが尋ねてくる。

 

「ええと、ジャストステップで敵のスキルを50回回避すること、ですね」

 

「回避系の調査だね。でも、今までの戦い方を見るにリーファって回避特化型ではなさそうだけど、どうしてそれを選んだの?」 

 

 フィリアさんが少しだけ首を傾げて尋ねてくる。確かに、あたしは敵の攻撃を回避するよりも受け流すか迎撃するかで対処することが多い。フィリアさんが不思議に思うのもおかしくない。

 

「この前のスカルリーパーとの戦いで気付いたんですけど、ステップ系回避で上手く相手の攻撃を躱せたらその後の攻撃にクリティカルが付与されますよね。それが結構魅力だなあって思って。その練習のついでですね」

 

「なるほど? でもあれモーションが大きいから、ある程度図体の大きい敵じゃないとあまり役には立たないかもよ」

 

「でしょうね。少なくとも中ボスくらいの大きさは必要かなあ。でもフィリアさんとタッグ組んでると余程のことがない限りmobには苦労しないじゃないですか。まああたしもステ振りはDEXとAGI重視なので攻撃力がある方とは言えないんですけど、もうちょっと火力が出せるようになりたいんです」

 

 『刀』は刀身による防御を完全に捨てることで高い攻撃力とある程度の機動性を手に入れた武器だ……とあたしは今のところそう認識している。ALOの『刀』の概要と内容が被ってるけど。

 対してフィリアさんの武器カテゴリ『短剣』はある程度の攻撃力を捨てたうえで高い汎用性とデバフによるサポート力を得ているように思う。これはALOとはちょっと仕様が違ってて、ALOでの短剣は武器に属性魔法を付与しやすく、投擲もできることから結構攻撃的な武器だったりする。やっぱり魔法が存在するかしないかっていうのは重要だ。

 

 フィリアさんはそれで納得したようで「そっか。じゃあネームドとかが来たらそういう立ち回りを心がけようね」とあたしに言った。あたしが回避しやすいようにサポートもしてくれるらしい。本当にフィリアさんにおんぶにだっこ状態だけど、厚意はありがたく受け取ろうと思う。

 ……実はこの調査内容を選んだのにはもう一つ理由があるんだけど、今はフィリアさんには内緒にしておこうかな。あたしはメニュー画面を閉じて、お兄ちゃんたちに声をかけた。

 

「ごめんなさい。時間取らせちゃって、こっちはもう大丈夫で……」

 

 

「やっぱり『高位プレイヤー適正能力サンプリング』にするべきなんじゃない? ここでの基礎的な技能を確かめられるし、高位プレイヤーっていう言葉にも興味があるわ」

 

「いや、でもあくまでサンプリングであって報酬とかは特に用意されてないのがな……。あるにはあるけど他の調査内容と比べると見劣りするんだよな」

 

「そうね……。キリト君的にはやっぱり報酬はポイントとか物品じゃなくて新スキルの方がいい感じよね」

 

「ああ。最近レベルアップで覚えられるスキルも少なくなってきたからこういうのには惹かれるよ。報酬武具にも興味があるけど、現状俺たちが持ってるものより高い性能を持つ武具はなかなかないはずだ」

 

「でも、だいたいこういうのってクリアしたら小階層が解放されるシステムなはずよ。そのことを考えたら長い目で見るのも悪くないんじゃない?」

 

「それは俺も考えてた。滞在時間を考えるとどれもこれもと手を出してはいられないな。とすると様子見程度でさっきアスナがいってたやつを選ぶのも悪くないか……?」

 

 

「……しばらく時間がかかりそう」

 

「……そうですね……。……ここエネミーもあまり来ないみたいですし、決闘(デュエル)でもしときますか?」

 

 ここは安全エリアじゃないから気兼ねなく決闘できるわけじゃないんだけど、かといって危険な場所でもないから問題はないと思う。

 決闘システムはフィリアさんに教えてもらった。仕様はだいたいあの理不尽なログイン試練と同じらしいけど、ここに来てからはまだやったことがないからそれなりに興味がある。

 

「と、唐突だね」

 

 ですよね。あたしも言ってから自覚した。暇だから決闘しようって言う人はなかなかいないだろう。

 でも、もう口に出して言ってしまったことだ。以前指摘されたことや痛みに対してのいい訓練になるし、さっきまで戦闘してたから勘はいい感じに高まっているはずだ。

 

「やっぱりここだとまずいですか?」

 

「……ううん。いいよ、決闘しよう。リーファがやりたいならそれに越したことはないよ」

 

 フィリアさんは了承してくれた。その言い方はなんだか誰かにそう言い聞かせるような感じで、あたしはそれを少しだけ不思議に思った。

 

「しかも、あの二人なんかさっきより白熱してるみたいだし」

 

 フィリアさんの呟きに導かれてお兄ちゃんたちを見やる。確かに議論は白熱していて『リスク軽減』やら『速度調整』などのよく分からない言葉が飛び交っている。少しもついて行ける気がしない!

 というかあんな様子で周囲への警戒は大丈夫なのかな、と思ったけどフィリアさんに「ああいう人たちはたとえ寝てても攻撃される前に気付いたりするんだよ」と言われて妙に納得してしまった。

 

「それじゃあ……お兄ちゃん! わたしたち決闘とかして待っとくからね! じっくり考えてていいよー!」

 

 とりあえずお兄ちゃんたちに言っておく。「おーう」という返事が返ってきたので聞こえはしたんだろうけど、内容がちゃんと捉えられているかは定かじゃないような気がする。

 

「それじゃあまずはお試し程度にやってみようか。『初撃決着モード』を選択して」

 

「はい! 『初撃決着モード』ですね。たしかソードスキルを相手に一回でも当てればいいんでしたっけ」

 

「あとは通常攻撃だけで相手のHPを半分以下にすることだね。今回はソードスキルは封印して打ち合いだけやってみよう。リーファはログインの前に一回決闘は経験してるんだよね?」

 

「はい。あのときは『全損決着モード』でしたけど」

 

 今考えるとぞっとしない話だ。SAOの中で『全損決着モード』の決闘など考える余地もなく禁忌なんだろうなと思う。

 フィリアさんからのデュエル申請を承諾すると電子音と共に60秒のカウントダウンが始まった。道の脇から歩いて道の真ん中へ。平坦な土の地面をざっと踏みしめる。そしてあたしとリーファさんはお互いに五メートルほど離れて向かい合った。

 

「『初撃決着モード』はHPが全損するようなことはないから安心して。あ、でもリーファは痛いんじゃ……?」

 

「いえ、気にしないで切りかかってきてください。こういうのって慣れしかないと思うので」

 

 心配そうに言うフィリアさんにあたしは手を振って答えた。そういうことを気がかりにされて手加減されるのもなんとなく嫌だった。

 

「そう? じゃあ言われたとおりにするね。私は結構強いよ?」

 

 フィリアさんはそう言って少しだけ好戦的な笑みを浮かべた。あたしも深呼吸をして気持ちを切り替えていく。腕試しだ。まずは一撃当ててみたい。

 カウントダウンはそのとき残り30秒を切っていた。残された時間が、風の音とお兄ちゃんたちの議論をBGMとして静かに過ぎさっていく。

 

「……あ、そういえば」

 

 不意にフィリアさんが口を開いた。何でもない風を装う、ってわけじゃなく本当に気兼ねない感じで。

 剣道の試合をイメージして集中していたあたしはその口調に大きく戸惑った。こっちが思っていた以上にフィリアさんは戦い慣れていたりするのかもしれない。

 

「は、はい?」

 

「キリトたちが一段落したらちょっとお願いしたいことがあるんだ。内容は宝探しだね」

 

「宝探し、ですか」

 

 フィリアさんの言葉を反芻する。そういえばフィリアさんは自分のことを探索者スキルに特化したトレジャーハンターだと言っていた。宝探しは寧ろ本業なのかもしれない。

 

「うん。このフィールドの先にあるダンジョンに私の使ってる武器の強化素材になる鉱石があるんだ。『鈴音鉱石』って言うんだけど、ダンジョンにいるエネミーがやたら強くて十分に採掘ができなくて……手伝ってほしいんだ」

 

「なるほどー。そういうことだったら是非お手伝いさせていただきます!」

 

 特に悩むこともなく了承を返す。フィリアさんにはお世話になりっぱなしなのでこういうことはできればもっと言ってほしいのが本音なんだけど、そういう機会はなかなかにない。だから断る理由はなかった。

 それにしても『鈴音鉱石』って面白そうな名前の素材だ。採ったらなにか音が鳴ったりするのかな? そういうことにも興味がある。

 

「ありがとう。すごく助かるよ! ――じゃあ、始めようか?」

 

 悪戯っぽい笑みを浮かべるフィリアさんにはっとしてタイマーを見ると――残り1秒!?

 

「えっちょっとそれずるくないですかってわああぁぁぁ!?」

 

 





またストーリーが脱線しかけてますが強制的に引き戻しますので大丈夫だと思います←


【設定・用語説明】

・テクニカルスタブ仕様の進化調査
リーファが選択した実装エレメント調査。ここでは『ジャストステップ』について説明する。ジャストステップとは特定の回避系スキルで敵の攻撃を回避したときに発生するボーナスで、一定時間クリティカル率が上昇する効果を得ることができる。該当する回避系スキルは『サイドステップ』『バックステップ』の二種類のみ

・決闘
SAOに存在するプレイヤー同士が一対一で戦うためのシステム。『初撃決着モード』『半減決着モード』『全損決着モード』の三種類が存在する。アインクラッドにおいては『初激決着モード』以外の決闘はほとんど行われない。何れのモードにも開始までの60秒の準備時間と開始後の制限時間が存在する。
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