その通知音が聞こえてきたのは菊岡が退社するまさに直前のことだった。
ホロウエリア潜入作戦の調査員四人の身柄と情報のすり合わせが先日完了し、二年前から今日まで毎日続いているSAOプレイヤーたちの親族への情報発信を一段落させて、部屋に残っている部下に声をかけ、ある研究施設へと赴こうとしたそのとき、金属の壁を叩いたかのような音が響いたのだ。
そこからの彼の行動は迅速だった。
通信用のパソコンへと駆け寄った彼は、今まで使われることなどなかったその通知音に驚き慌てて回線を取り次ごうとする通信員を止めて、彼自身でセキュリティ突破用プログラムの起動コードを入力する。
今、向こう側とこちら側にはSAOサーバーの壁が立ち塞がっており、ほぼ完全に隔離されてしまっている。この連絡手段はそのサーバーの穴を潜り抜けて向こう側に割り込ませた使い切りのものだ。もたもたしている暇はなかった。
かくして通信は繋がり、彼はマイクを近づけて調査員との間であらかじめ打ち合わせされていた言葉を発する。
「接続完了。こちら総務省通信ネットワーク内仮想空間管理課、SAO事件対策チーム。そちらの調査員番号は」
彼は努めて冷静に、しっかりと声をかけることを心がけた。ここで相手を急かしてしまっては様々な齟齬が生じかねない。
ホロウエリアにいる調査員の内の誰かが連絡を入れてきただろうことは確実だ。しかし、それが誰なのかまでは分からない。僅かな緊張が走る。
「125番。――桐ケ谷直葉です」
スピーカーから発せられる音声。侵入に成功した調査員の中で初めてこの連絡手段を用いたのは、あるSAOプレイヤーの妹だった。
フロア内で小さなどよめきが走る。部屋にいる局員は決して多くないが、誰もがあちらからの初めての通信に興味を示していることは明らかだった。
「了解。この回線はダミーソフトウェアが動作する限り接続されるため、急な断線の可能性も考慮すること。また、これは個人へ向けて発信されたものではないので注意するように。……が、そういうことはひとまず置いておこう。侵入成功おめでとう直葉君。調子はどうだい?」
最低限の情報を事務的に告げた後、菊岡は口調を崩した。相手はそのVR適性とSAO事件の関係者であることを重んじて選ばれた一般人、しかも中学生だ。こういう場では上層部の人々にいい顔はされないだろうが、堅苦しい言葉を強要する必要はないと彼は判断していた。
「ありがとうございます。調子はいい感じです」
「ふむ、それを聞いてひとまず安心だ。この回線を使ったということは何かあったようだね?」
スピーカーから聞こえてくる声も落ち着いている。この通信をする余裕もあったということで、菊岡はほっと胸を撫で下ろす思いだった。
「はい。できるだけ早く伝えた方がよさそうなことがあって、かなり早いですけどこの回線を使わせてもらいました」
「君がそう判断したのならそれでいいんだ。特に時間は指定していなかったからね。それで、その伝えたいことについて教えてほしい」
確かに彼らがホロウエリアに侵入してからそう月日は経っていない。ALOに出現したホロウエリアは広大で、なおかつ遺棄されたエリアであるらしいことが明らかになっているのでこの短期間で成果が挙げられるとは考えにくかった。今まで調査してきた中でホロウエリアに付いて分かったことをまとめてくれるのだろうかと彼は考えていたが……
「――アインクラッドの人たちと逢いました」
流石に、この一言には度肝を抜かれた。
今度こそ、歓声にも似たどよめきがフロア内を駆け抜けた。菊岡はあまりの衝撃に言葉を失いかけたが、なんとか立て直して再び声をかける。
「そ、それは本当かい? アインクラッドの人たちということは今までの二年間、SAOに閉じ込められていた人々であるという認識でいいのかな」
「はい。実際にSAOでプレイしていた人たちで間違いありません」
フロア内のざわめきは鎮まらない。あまり褒められた行為ではないが、仕方のないことだった。
SAO事件が発生し、プレイヤーとの連絡が取れなくなったのはもう二年以上前のことだ。あれから今に至るまで、ナーヴギアを介した通信は一切行われていない。
技術先進国である日本がこのような事態におかれているのは、被害者の安全上の問題があったからだ。日本も、そして世界でも、VR技術における法というものは未熟で確立されていなかったのである。
ナーヴギアを理論上安全に外す方法は既に見つかっているのだ。しかし、外す方法が分かっているからと言って実際に試せるかと言えば話は別である。しかも、その方法が失敗すれば対象者が死亡する可能性も少なからずあった。ナーヴギアは、そういう設計のもと作られていたのだから。
そして、この決断に踏み切れなかったもう一つの理由が、『大切断事件』だった。SAO事件に巻き込まれた人々を政府の指定した病院へ運び込む際に起きた事件である。
ナーヴギアの予備バッテリーが本体を二時間近く駆動させることができる容量を持っていることを前提として行われたこの計画は大半が滞りなく実行されたが、ごく一部、数十人のプレイヤーを死亡させてしまった。バッテリー残量は十分にあったのにもかかわらず、電源コードを抜いた直後に死亡したプレイヤーが確かにいたのである。
その原因は未だ分かっていないが、この事件の責任を政府は問われ、被害者に対し強気な姿勢をとれなくなってしまったのだ。首謀者の思惑通りにことが進んだと言える。
しかし、スピーカー越しの彼女が言うことが真実であるとするならば、二年間もの間崩されることのなかった壁はとうとう突破されたことになる。彼女の成し遂げたことは、まさに積年の快挙であった。
「……少し込み入った話になりそうだ。個人通信に切り替えるから少し待ってくれ」
菊岡はマイクから顔を放し機器を繋ぎ代え、ヘッドセットを装着する。状況が状況である。これから彼女と語られる内容の重要度は非常に高く、多人数を相手にできないものだ。
「――では、アインクラッドの人々……生存者と呼ぼうか。それらと接触した経緯と状況を簡単に教えてほしい」
「はい。あたしがホロウエリアに入って数時間が経ったあと、一人目の生存者の方に会いました。マップではホロウエリアの北東辺りです。その後、中央部にある『管理区』で二人の生存者の方と会って、お互いに連絡を取り合っている、と言った感じです」
「それは……かなり遭遇頻度が高いように思えるな。ひょっとしてそっちには生存者が多くいるのかい?」
あのホロウエリアにアインクラッドからのプレイヤーがいるという時点で菊岡にとっては大きな驚きだった。それは、間接的とはいえALOのサーバーにSAOのプレイヤーがいることに他ならないからだ。ましてその数が多いとなれば、対策チームとしてもなんらかの処置を追加で検討することになるかもしれない。
「いえ、数はそんなに多くないと思います。ひょっとするとあたしが会った三人以外には一人もいないかもしれないです」
しかし、彼女は少々思慮混じりにそう呟く。そこまで言い切るということは何かしらの根拠があるのだろうか。強く興味を持つ話題ではあるが、菊岡がそれについて質問する前に彼女の方から声がかかった。
「あの、あたし以外でここに来ることができた方っていますか?」
その質問の意図するところは、かの場所へのログイン時に調査員たちに課せられた試練を乗り越えられたプレイヤーは何人か、ということだろう。
『実装エレメント調査』と呼ばれていたらしきその試練は、調査員のほとんどをふるいにかけた。現実世界に帰ってきた人々はその多くが取り乱し、恐慌に見舞われた。心的外傷を負ったとして今も専門医へ掛かるプレイヤーも少なくない。
そんな、阿鼻叫喚の様を成した試練を潜り抜けることができたのは――
「君を含め、三人だ」
「……そう、ですか」
四人。調査員全員の3%にも満たない人数だった。
このような惨憺たる結果になった理由は明確だ。帰ってきた人々は口を揃えてその恐怖を伝えてきた。「仮想世界で受けた傷が現実の痛みとなって反映された」と。
菊岡たちも全く知らなかった、アミュスフィアに隠された恐るべき機能。彼は開発者に弁明を求めたが、アミュスフィアを開発したレクト社は未だ黙秘を貫いていた。
「まだその人たちとは会えてないですね。ホロウエリアは広いので……どこかですれ違ったのか、全然違う場所にいるのかもわからないです。その人たちとの合流を優先した方がいいですか?」
「いや、それよりはホロウエリアの調査と攻略を優先してくれ。彼らとの連絡はついていないが、各々役割を果たしてくれているだろう」
菊岡の返答に対し、彼女の反応は落ち着いたものだった。きっと突破できたのはその程度という予想をしていたのだろう。先程の質問の仕方から考えるに、彼女は自身がたった一人生き残ることができたプレイヤーである可能性も考えていたのかもしれなかった。
「話を戻そうか。君が出会った生存者についてだ。彼らと接触してみて得た印象を教えてほしい」
「あっごめんなさい。えっと……」
話題が逸れていたことを慌てて謝った彼女は、少し言葉を選ぶようにして
「……ALOのプレイヤーとそんなに変わらないと思います。MMORPGらしいと言うか……あぁ、でも」
「ゲームの世界に生きてる、って感じがしました。振る舞いが凄く自然で……一緒にいると現実世界との区別がつかなくなっちゃいそうです」
「――――そう、か」
やはり、という言葉を菊岡は寸前で飲み込んだ。かねてより危惧していたことではあるが、素人目だろう彼女が見てもそういう印象を抱いたのだ。彼らが帰還したときのケアの焦点におかれるだろう重要な証言だった。
「その言葉から推測するに、ホロウエリアもまた、SAOのシステムが成り立つ場として存在しているようだね」
「あ、はい。ホロウエリアはSAOのテストフィールド? 新規機能の実験場なんじゃないかって生存者の方は言ってました」
「なるほど……広さは外見と同じくらいかい?」
「ほとんど同じですね。かなり広い一つの大陸がいくつかのエリアに分かれていて、今はその内の一つを攻略しようとしているところです」
口調から察するに探索は順調なようだ。とすれば攻略を進めていく上での心配はないと見てもいいだろうと菊岡は判断した。
「では、先程の君の発言を拾い上げることになるが、そちらに生存者が君が出会った人々以外にいないと思われる理由を教えてほしい。また、生存者の間で君がどういう立場の人間として置かれているかも教えてくれ」
「……始めに謝ります。ごめんなさい。自分の正体はばれちゃってます。ここにきてすぐに出会ったのでいろいろとボロが出てしまって白状せざるを得ない状況に……」
「仕方ない、そこは割り切って考えよう。状況整理を入念に行わない限り自らを偽るのは難しい。問題はそれを明かした後の彼らの反応だ」
「はい。あたしの正体は三人の生存者の方全員が把握しています。最初はすごく驚いていましたけど何かアインクラッドの方でもおかしなことが起こっていたみたいで……その流れで話がまとまったみたいです」
「怒りとか妬みとかの負の感情を向けられたりはしなかったかい?」
「それはありませんでした。あたしの境遇をちゃんとわかってくれていて、本当にいろいろと助かっています」
彼女の言葉からは嘘偽りは感じられず、親切なプレイヤーに出会ったのだろうことが分かる。
柔軟な思考力と冷静な判断力を持つ人はなかなかいないが、そんな人ならば彼女の境遇を知ったうえで保護に回るはずだ。長い目で見た運営側の陰謀という可能性は捨てきれないが、それをするにはリターンが少なすぎる。SAO対策チームを揺さぶったところで彼らはアインクラッドに干渉できないのだから。
「それで、ホロウエリアの生存者の数についてですけど、これはおに……生存者の方が言っていました。その人はアインクラッドとホロウエリアを行き来できるみたいです」
危うく立ち上がりかけた菊岡はゆっくりと腰を下ろした。「その人は」ということは他の人々はアインクラッドに渡ることができないということだ。甘い話はそう連続しない。
「あたしが会った生存者の人たちの内、あのホロウエリア出現バグの日からここに閉じ込められている人が一人、こことアインクラッドを行き来できる権限を持った人が一人、その人に同伴して付いてきた人が一人って感じなんです。その人は自分以外にここへの転移ができるプレイヤーを今のところ知らないらしくて、アインクラッドで行方不明になったプレイヤーの話もあまり聞かないからここにいるのは自分たちだけじゃないかって言ってました」
その三人が広大なホロウエリアで彼女を含めて合流するなど、なんとも出来すぎた話のように彼には聞こえたが、まぎれもない事実である。大方、その三人の協力も得つつ攻略を進めているのだろう。
「そちらの事情は分かった。では生存者と会ったときにしておくようあらかじめ打ち合わせておいた質問は?」
「ええと、いくつか取りこぼしはあるかもですけど。ちゃんとやってます」
菊岡は心の内で小さくガッツポーズをする。ここでアインクラッドの人々から生の情報を得られるのは大きい。遺族や被害者の親族への弁明も切れのあるものにすることができるだろう。この情報は重要な手札になる。
「よし、じゃあそっちから進めていこう。まずは現在の攻略度合いについてだ」…………
「――そうか。あちら側でも分かっていたことだったか」
いくつかのやり取りを経て、菊岡はそう重々しく呟く。
「『HPがゼロになると現実世界でも死亡する』……生存者の人たちはこれを限りない事実として認めたうえで安全との折り合いをつけながら戦っているみたいです。でも、本当のところはやっぱり知らなかったみたいで……」
「それは……辛い役目を追わせてしまったね」
言われずとも分かることだった。彼女は生存者の人々に現実世界での事情を嘘偽りなく伝えたのだ。死亡者が先日3000人を超したという紛れもない事実を。
慈悲はなかった。彼らの反応を受け止めて、さらに自分の境遇を振り返れば誰だって心が痛む。が、それを嘆いてもどうしようもなさすぎる。
「いえ、大丈夫です。ちゃんと伝えなきゃって覚悟はしてたので。生存者の人たちも辛そうでしたけど、何とか受け入れてくれてとても助かりましたし」
「であれば、その後については彼らの方に任せてもいいかもしれないな。一応、公表は控えるよう僕が行っていたと伝えておいてくれ。君の存在はあまりにも特殊だ。何が起こるか分からないから」
「分かりました」
彼らは彼らなりにこの情報の扱いを決めるだろう。それはあちらの世界での話だ。できれば公にならないことを菊岡はがらにもなく願うことにした。
と、ここで警告音が鳴る。不正アクセスをSAOのサーバーに感知された音だ。菊岡は時計を見やる。17分、そこそこもった方だと思われる。
彼女にもこの警戒音は聞こえたはずだ。お互いにだいたい情報交換は終えられたのでほっとしたような雰囲気が漂う。
「あと1、2分で通話はできなくなるだろう。こちらからはもう特に用件はないが、なにかメッセージなどはあるかい?」
「ええと……あたし、これからたぶんボス攻略に挑むことになると思います。生存者の方と攻略するつもりですけど……もし、敵が強くて生存者の方が危なくなったりしたら殿でも身代わりでもなんでもやってここに戻ってきちゃうかもしれません。それは……いいですか?」
少しこちらの出方を窺うような声。菊岡は苦笑した。自身の背負う任務の重要性を分かっている証拠だ。そう簡単に放棄できる程度の責任ではない。
しかし、
「人命救助が最優先だ。それだけ頼りになるプレイヤーもSAOにはなかなかいまい。彼らがここで死んでしまっては大きすぎる損失だから率先してやればいい。だが、それで攻略のペースを乱してはいけないぞ。彼らは君に対してもHP管理には敏感だろうからね」
彼女は真面目なのでしっかりと理由をつけてやる。こうすれば彼女も迷いなく今後も行動できるだろう。
「…………はいっ!」
菊岡がそう予想したように、彼女はこのやりとりで初めて嬉しそうな返事をしたのだった。
「……あともう一つだけ、これは秘密にしてほしいことなんですけど……あ、お母さんにならいいかな」
少し間を置いて彼女は言葉を続ける。もうあまり時間は残されていない。伝言を残すなら急かした方がよさそうだった。
「何かあるなら急ぐんだ。もう残り時間はほとんどないぞ」
「あっ、えっとじゃあ、言います。あたし、お兄ちゃんと会いました」
一秒ほどの時間を開けて
「――――はぁっ!?」
「ごっごめんなさい! 話題が逸れそうだったので言ってなかったんですけど、そのアインクラッドとホロウエリアを行き来できるって人はお兄ちゃんです。ものすごく強くて連れの人もすごくて……あぁでもこれであたしの願いは叶いました! お母さんにも安心してって言ってたって伝えてくだ――――」
ぷつっ、と。そこで通信は途切れた。ヘッドセットの向こうからは不正アクセスのためのソフトウェアが撃退されたことを知らせる電子音が断続的に聞こえてくるのみだ。
菊岡はゆっくりとヘッドセットを外す。そこで初めて彼は周りの部下から注目を集めていることに気づいた。大方、直前の大声は何事だったのかと驚いてのことだろう。
「き、菊岡中佐。いったい何が……?」
一番近くにいた通信員が戸惑いがちに声をかける。菊岡は椅子に深くもたれかかり、天井を仰いだ。そして盛大にため息をつく。
「いやぁ、こうもサプライズが連続すると僕も運命ってものを真剣に考えざるを得なくなるかもね……」
「は、はあ?」
事態が全く飲み込めないのかきょとんとする通信員を脇目に菊岡は再度深いため息をついた。
とりあえず、明日にでも桐ケ谷家の母と連絡を取った方がいいだろう。まさかのホロウエリアでの再開になるなど当人を含めても誰が予想できただろうか。菊岡はある種の必然ではないのかとすら思った。
「頭の中で状況を整理してから伝えるからちょっと休ませてくれ……」
「わ、分かりました」
ぱたぱたと離れていく足音。他の部下にも伝わったのか感じていたいくつもの視線は外れていった。
それにしても、と菊岡はこのこととは別に気にしていたことについて考える。彼女は結局痛覚の話には一切触れなかったなと。
フルダイブ中の彼女の脳波を検出してみれば分かることだが、彼女は今もペインアブソーバなる機能の影響を受け続けている。戦っていく中で常に痛みに向き合っているのだ。
それについて触れなかったのは菊岡も同じだが、彼女の方から話題が出なかったのは意図的なことだったのか、それともその程度気にも留めていなかったからだろうか。
(どちらにせよ、強い)
彼女がかの試練を乗り越えられたことが単なる偶然ではないことを、その言動が示していた。
「ボス攻略も君はしっかり乗り越えるだろう。――兄妹揃って期待しているぞ、桐ケ谷君」
「……ふぅっ」
耳に当てていた手を放してあたしはため息をついた。が、
「やっちゃった……こっちが一方的に話して終わっちゃったよー!」
うわあぁっと心の内で喚きながら頭を抱える。あんな終わり方になってしまって菊岡さんに申し訳なさ全開だ。今頃あちらで呆然としてるんじゃないかな……。
あたしでも信じられない出来事だったんだからすごい衝撃だろう。そのせいで今までのやり取り忘れちゃってなければいいなと願うしかない。全ては後の祭りだった。
「――でも、やっぱり連絡しておいてよかった」
手で頭を抱えたまま、あたしはそう呟く。おかげでこれからも全力でホロウエリアの攻略に挑むことができる。
お兄ちゃん、いや、フィリアさんやアスナさんも守れるように強くなって、その上であたしが身を投げ出すべき状況で後悔しないように。あたしのもう一つの目標が明確に立って純粋に嬉しかった。
「……あ、ペインアブソーバの話すっかり忘れてた。ああぁぁなにやってるんだろうあたし! 相談しとくべきだった……!」
そしてまた呻くことになる。そしてこんなに喚いていれば当然向こうで寝ていたであろう人も起こしてしまうわけで……
「どうしたのリーファ? ゆ、幽霊のエネミーでも出たの……?」
「わー!? ごめんなさいフィリアさん起こしちゃって! あたしの勘違いでした気にしないでください!」
静かな平原の夜は、こうして更けていくのだった。
菊岡と直葉のやり取りから数日後。セルベンディスの樹海エリアが攻略される。
エリアボス名はシャドウファンタズム。ダンジョン『供物の神殿』内の『民が捧げられた鮮血の祭事場』にて該当ボスが出現。これを倒す旨のホロウミッションが発動される。
これに挑んだプレイヤーの数は四名で、名をそれぞれ [Kirito] [Asuna] [Phiria] [lifa]。
ボス討伐までの所要時間は42分。
――犠牲者はゼロ。
SAOのサーバー『カーディナル』はこの事実を受けて高位テストプレイヤー二名に『セルベンディスの樹海エリア』に隣接する『アレバレストの異界エリア』及び『バステアゲード浮遊遺跡エリア』へ向かう通路の封鎖の解除キーを施す。
奇しくもこれは『グレスリーフの入り江エリア』が攻略された日と同じ日の出来事だった。
舞台はこれより二つ目の新規エリアへ。
『アレバレストの異界エリア』と『バステアゲートの浮遊遺跡エリア』の攻略が幕を開ける――。
これにて第4章は終了となります。そして今まで言っていませんでしたが、この物語の第一部がこれで終わりました。
これから番外編をひとつ挟んで第5章が始まります。リオルナとユウキを覚えている人ははたしていらっしゃるのでしょうか……が、頑張ろうと思います。
最近のVR技術の発展はすごいですね。自分は情弱なのでまだまだ古い情報しか持っていないでしょうが、仮想現実が夢ではなくなってきたかもしれません。
ナーヴギアとはまた違うアプローチですが、あの仮想現実でSAOをやってみたいです。あとログホラとかも……夢が広がりますね!