振り上げられた巨人の拳──
フィル「やめてよ!アニキ!!!!」
少年の叫びが、爆発のように響き渡る。
逃げ惑っていた人々も、絶望のあまりその場に立ち尽くした。
しかし──何も起こらない。
フィルはおそるおそる、閉じていた目をゆっくりと開ける。
──ピコン、ピコン、ピコン。
低く響く電子音とともに、ノクシスの胸部アークが紫色に点滅している。
そして──振り下ろされるはずだった巨人の拳は、もう片方の腕にがっちりと掴まれ、寸前で止まっていた。
フィル「はぁぁぁ…アニキ…」
その場に崩れるように座り込み、胸をなでおろした瞬間──
──バタンッ。
フィルは意識を手放し、その場に倒れ込んだ。
ガンダス「大丈夫か!!フィル!」
ノックス「早く運ぶぞ兄弟!みんなも今のうちだぁぁあああ!」
「うぉおおお!」「逃げろぉ!」
避難所へと走り出す人々。
その隙を逃さず、ガンダスとノックスはフィルを抱え、駆け出す。
⸻
⬛ 精神世界
巨人が拳を振り下ろそうとしている。
ノクシス「やめろぉおおおお!」
ノクシス(闇)「ふあっはっはっはっ!」
──ドクン!
ノクシスの左腕に装着された銀色のブレスレットと、胸部のアークが同時に光を放つ。
その光はやがて、暗く濁っていた精神空間全体を真っ白に染め上げていった。
ノクシス「身体がうごく…ん!?」
何かの気配を感じて振り向くと、白いモヤの中から人影が現れる。
ノクシス「誰だ!」
靄が晴れ、姿を現したのは──蒼き巨人だった。
ノクシス「あんたは…」
ドレヴァス「私はドレヴァス…君のバカな父親だ」
ノクシス「…父さん?」
ドレヴァス「ああ…久しぶりだな…ノクシス」
その声は優しくも凛とし、どこか耳馴染みがある。
──記憶の断片
???「……生きろ……ノクシス……生きてくれ……」
ノクシス「本当に…俺の父さん…なの?」
ドレヴァス「ああ!」
ノクシス「父さぁぁあん!」
泣きながら抱きつくノクシス。
ドレヴァスは、静かに、力強くその背を抱きしめる。
ドレヴァス「ノクシス、時間がないんだ。
私の光はわずかしかお前に与えられなかった…だから、さっきの闇を長く抑えておくことはできない!」
ノクシス「そんな…」
ドレヴァス「いいか、ノクシス。よく聞きなさい。
闇にのまれてはいけない。私はかつて闇にのまれ、自分を見失い、愛するものを不幸にした大馬鹿者を知っている。
そいつは、最後──後悔と共に消えた……。
お前には、そうなって欲しくないんだ!!」
ノクシス「でも…俺の本質は闇だって…」
ドレヴァス「違う!お前の本質は……だ!
しっかりと──お前には……の……が流れてい…だ!
自分…を…じろ! お前のその“守りたい”という思いを……信じるんだ!!!」
ノクシス「父さん!父さん!」
──声が、遠ざかる。
ドレヴァス「父さも…んも…お前…見守って…る…まえ…は…れっき…した…ト…ラ…士なんだ!」
ノクシス「父さぁぁあああん!」
再び──闇が精神を包み込む。
ノクシス(闇)「ドレヴァスのやつめ…余計な真似を。
なるほど…お前のそのブレスレット……それが光の元か。
お前の父親が開発し、母が身につけていたアイテム。
光を集め、エネルギーに変換できるブレスレット──“ノクス・グレイス”か。
ドレヴァスは最後に、お前にわずかな光を与えておいたというわけか……
どおりで変身時に微かに光が目にある訳だ……忌々しいやつめ」
ノクシス「くっ!」
ノクシス(闇)「だが、お前の中の光はわずかだ。
簡単に乗っ取ることが──」
ノクシス「そうはいかない!!」
ノクシス(闇)「なに!?」
ノクシス「俺はもう、何者かわからない“俺”じゃない!
ノクシスという名があって、父親と母親がいる……そして──」
ノクシス(闇)「ん?」
現実のフィルの姿が、精神の窓に映る。
ノクシス「俺には、新たな友……いや、“兄弟”ができた!!
はぁぁぁあああ!」
ノクシス(闇)「な、なにぃぃい! やめろ! お前は闇なんだ!こんなことがあってたまるか!」
ノクシス「光とか闇とか関係あるか!
俺は──俺が正しいと思った、俺のやりたいことをやるだけだぁぁぁああ!!」
──ブレスレットと胸の光が閃光となって弾け飛ぶ!
ノクシス(闇)「くっ…ふん!だが次はこうはいかない。
俺様はいつでもお前の前に現れる。
お前は“絶望の闇”であり、僕にとっての“希望の闇”なのだから!!
ぬぁぁあああ!」
⸻
⬛ 現実
──ピコン、ピコン、ピコン。
ノクシスの拳は、今もなお、寸前で止まっていた。
漆黒のオーラが消え、瞳の色も黄色へと戻っていく。
フィルはその場に崩れ落ちる。
逃げ惑う群衆の叫び声が、徐々に歓声に変わりつつあった。
ガンダス「お前さん……」
ノクシス「うん!」
黒い巨人は、力強く頷いた。
──ギギガガ!
背後から、機械の起動音が響く。
片腕を失ったレギオノイドが、再びエネルギーをチャージし始めたのだ!
ノクシス「ドゥワッ!」
──チュイン!
ノクシスは即座に構えをとる。
両足を肩幅に開き、両手を脇腹へ引き寄せると、黒と赤の雷、そして白い光が体に集まっていく。
──テュゥウウウウウウン!!
右足を弧を描くように後ろへ下げ、右手も同様に後方へ伸ばす。
左手は肘を曲げたまま、胸の前で並行に保つ。
全身のエネルギーが、両腕へと集中していく──
──ドゥフィィィイイイン!
敵が先にビームを放った!
ノクシス「ノクシウム・レイ!!!」
──カッ! ゴォォオオオオオオ!!
右手首を左手首に打ち合わせ、十字を形成した瞬間──
黒・白・雷が渦巻く三層の光線が放たれた!
その余波は凄まじく、後方の人々でさえ立っていられないほどの威力。
──ギギガガ……ボカーン!
光線がぶつかり合い、ノクシスの一撃が敵の砲撃を呑み込み、命中した!
──ピコン、ピコン、ピコン。
十字の構えを維持したまま、ノクシスの巨体がゆっくりと黒や白の粒子となって消えていく。
一瞬の静寂のあと──
ガンダス「よっしゃぁああ!」
ノックス「うぉおおお!」
「やった!」「よかった!」「俺たち生きてる!」
人々は、生き延びたことに歓喜し、巨人の消えた空を見上げた──