ノクシス「……3日も……?」
ノクシスの呟きに、フィルがうなずいた。
フィル「うん。今日はようやく目が覚めたから、まずはそれだけでも大進歩だよ!」
静かにうつむくノクシスを前にして──フィルの脳裏に、あの夜の記憶がよみがえる。
ザハルダに、炎が降った夜。
⸻
ーカン……カン……!
金属を打つ音が、乾いた空気に響いていた。
赤茶けた岩盤を背に、屈強な男たちがスコップやドリルで鉱石を掘り返している。
資源に満ちたこの惑星では、採掘こそがすべてだった。
ノックス(親方)「おーい! もう終業時間だ、野郎ども。手を止めろー!」
響き渡る低音。親方ノックスの声に、男たちが一斉に手を止める。
作業員たち「お疲れ様でーす!」「助かったー!」
笑い混じりに口々に返す作業員たち。
その中に、ひときわ小柄な少年──フィルの姿もあった。
ノックス「フィル、お前さんも上がりだ。お疲れさん!」
フィル「はいっ! ありがとうございます、親方!」
ノックスは顔をしかめたように、周囲を見回す。
ノックス「……んで、あのガンダスのジジイはどうしてる?」
フィル「え、あっ……おやっさんは、その、腰が……」
ノックス「どうせまた飲んでんだろ。腰がどうとか言って、どうせ嘘だな」
フィル「いやいや……」
ノックス「ダメだぞ、あの怠け者に伝えとけ。ボーナス日までに一日でも休んだら、支給はゼロ。今回の遠征分もチャラだ!」
フィル「は、はい……わ、わかりました!」
笑顔のまま釘を刺すノックス。
その“本気”は、冗談には聞こえなかった。
⸻
夕暮れの岩山を歩きながら、フィルは帰路についた。
買い出し袋を抱えて、ぽつりぽつりと独り言。
フィル「おやっさん……今日はちゃんと起きててよ……」
岩をくり抜いた住居──ザハルダではよくある構造の家にたどり着く。
扉を開けると、焦げた油と酒と埃が鼻をついた。
フィル「ただいまー……おやっさん?」
返事はない。
フィル「おやっさん? どこにいんの?」
さらに静かに、奥へ進む。
フィル「おやっさん……起きてよ」
──反応なし。
フィル「……もう、いい加減に……」
部屋の奥で、椅子に座ったまま目を閉じているガンダスが見えた。
フィル「……おやっさん……?」
ゆっくりと近づいていく。
フィル「おやっ……」
ガンダス「どわぁぁぁあああ!!」
フィル「うわぁぁぁああああ!!」
ガンダス「んぁ? なんだフィルか、帰ってたのか?」
フィル「まっっったくふざけんなよ!!! 驚かすんじゃねぇ!!!」
(ゴチーン!!)
ガンダス「いってぇぇぇぇ!!」
フィル「心臓止まるかと思ったわ!!」
フィルはふぅっとため息をついたあと、思い出したように口を開く。
フィル「そうだ、親方から伝言だよ。**“ボーナス日までに1日でも休んだら、ボーナスも遠征分もゼロだ”**ってさ」
ガンダス「ぬぁぁぁにぃぃぃ!? ノックスのやろう、調子に乗りやがって……あいつは昔、ワシの部下だったのに……」
フィル「もう今は親方。立場逆転ってやつだねぇ」
キッチンから料理の支度をしながら話すフィル。
そのときだった。
ガンダス「こりゃ飲まなきゃやってられんわ!」
フィル「ちょ、ダメ! また飲むの!? もうやめ──」
ガンダス「はなせっての!!」
言い争い酒瓶の奪い合いをしていると──
⸻
ズドォン!!
突如として、家全体が揺れた。
ガンダス「……な、なんだ!?」
フィル「お、おいフィル! 空が──!」
外へ飛び出すと、夜空が灼けていた。
巨大な火球が、燃え上がる尾を引いて、一直線に地表へ向かっている。
ガンダス「あれは……隕石じゃねえ……脱出ポッドだ!!」
フィル「脱出ポッド!?」
ズザァァアアァッ!!
耳をつんざく音と共に、火球が裏山の方へ墜落した。
フィル「おやっさん!オイラ、行ってくる!」
ガンダス「バカ! 待て、危険だ!! ぬぅ……!」
ガンダスの静止も聞かず、フィルは走り出していた。
⸻
フィル「はぁ……はぁ……あそこだ!」
岩陰に横たわる、銀色の物体。
脱出ポッドだ。扉は開き、煙が漂っている。
フィル「……だ、誰か……誰かいませんか!?」
──返事はない。
フィル「おい、誰か──」
そこに人のようなシルエットが見えた。
フィル「おい! 聞こえるか!? 大丈夫か!?」
⸻
【場面は現在へ】
フィル「本当は、ちゃんとした施設に運ぶべきだったかもしれない。でも、今この星じゃ医療リソースが足りてなくて……」
ノクシスは俯いた。
フィル「だから、うちに運んだんだ。地下の部屋でもうしわけないけど……」
ノクシスは黙っている。
フィルは照れくさそうに笑う。
フィル「じゃあさ、明日……一緒に脱出ポッド、見に行こうよ。何か思い出すかもしれないし」
ガンダス「うむ。それがいい。何かの手がかりがあるかもしれん」
ノクシス「……ああ」
ノクシスの目に、少しだけ光が宿った。
こうして、3人の不思議な生活が始まっていく。