ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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探偵事務所籠城事件〈制圧〉

 

 黄昏の館のリフォームが完了した。

 あれから10日。

 

 降谷さんはギリギリまだ生きていたが、余命幾ばくかという蒼白の顔で事務所へと顔を出した。

 

「良く頑張ったな降谷さん!もう大丈夫だ!」

「うっ……」

 

 降谷さんはちょっと男泣きしていた。

 よっぽど酷いことがあったのだと思われる。

 

 最低限、夜中にデスゲームに参加させられるとか人格を壊されて非道な真似をさせられるとか、そのぐらいは普通にあっただろう。

 最悪だと架空の過去で大切な人を材料に家具を作らされて、その出来栄え次第で現実の大切な人も家具になるとかその辺か。

 

 なお、これは俺が見聞きした実話ゆえ俺の発想ではないため勘違いしないように。

 

「で、実際のところ何があったんだ?」

「………話したくない…」

 

 蚊の鳴くような声で返事があった。

 やはりそっとしておくべきだろう。

 

 諸伏さんが「よしよしゼロ、頑張った!お前は本当に頑張ったよ!」と犬を撫ぜるみたいな様子で降谷さんをわしゃわしゃする。

 「ヒロぉぉおおお!」と降谷さんがワッと号泣し出した。

 諸伏さんに抱きついて小刻みに震えている。

 

 これがアポトキシン4869に依らない幼児化ってやつか。

 

 コナン君が事務机で新聞を読みながら「山梨で不審火、かぁ」などと我関せずを貫いている。

 まあ関わっていい事は何もないからね。仕方ないね。

 

 ちいかわと化していた降谷さんが若干気を取り直してこちらへと向き直る。

 

「で、本体の搬入はもう今日でいいんだよな?絶対今日にする。今すぐに蹴り出すつもりなんだが、問題ないよな?」

「押し強いかよ。いいけど」

「よし」

 

 降谷さんが強く頷いた。

 もう絶対今日出ていってもらうという強い決意に満ちている。

 

 黄昏の館の方は拡張性を持たせた基礎魔術でガチガチに固めてある。

 あの中ならば、どんな形にも環境にも変化させられ、かつ周囲に悪影響を及ばさない。

 魔術的親和性を極めて高く設定したので、ニャルも直感的かつ快適に住まいを作ることができるだろう。

 幾つかの設定変更フォーマットとしてユゴス、混沌の宮殿、ドリームランドなどを付属させておいたから、それを元にカスタマイズしてもらえると嬉しい。

 

 加えて、デフォルト状態は黄金の館である事は変わりないが、現代的な利便性も追加。

 もし人間が住むとしても使いやすく改変してある。

 まあ、ニャルが人間と同じ生活を営む事はないので単なるおまけだ。

 

 あとはニャルを連れていくだけ。

 これから最後かつ最大の大仕事、ニャル搬入が待っている。

 途中で車が異次元に墜落する可能性、過去に向かって遡行する可能性、道交法が歪められて車が時速300kmで逆走する可能性。

 様々嫌な予感はするが、頑張るしかあるまい。

 

 皆で決意を新たにした、ちょうどその時である。

 

「すみません、お話を伺いに来たんですけど、沢栗さんから聞いてらっしゃいますか?」

 

 そのように、探偵事務所のドアを開けて尋ね人が現れたのである。

 

「?ようこそいらっしゃいました。ご依頼の方でしょうか」

「私たち、女流ミステリー作家でして。取材のためにお約束させていただいたのですが…」

 

 控えめに入ってきたのは三人の女性であった。

 見覚えのない顔だ。

 手帳をざっと確認するも、それに類する予定は入っていない。

 諸伏さんがこちらへ視線を寄越したので、首を振って否定する。

 

 俺たちの様子に、女流作家達は困惑したようだった。

 それに続いて、不審な男も一名入ってくる。

 

「悪いな、突然。コイツらと俺は生憎アポ無しだよ」

「!どういう事ですか沢栗さんのお兄さん、私たちは、」

「ウルセェッ!!黙って部屋の中央集まれ!」

 

 男は不意に激昂し、拳銃を取り出した。

 「キャァァアアア!!」と女流作家達が甲高い悲鳴を上げた。

 

 僅かに重心を下げる諸伏さん。さりげなく椅子から降りるコナン君。

 

 ふと横を見ると、降谷さんがあまりにも綺麗な笑顔で微笑んでいたので思わずギョッとしてしまった。

 どういう感情これ?キレてる?信じられないくらいキレてるのか?

 

『ゼロ、落ち着いて』

「落ち着いてるよ。ただ嬉しいんだ。こんなふうに鳴物入りで羽虫の方から来てくれるなんて。ふふ、ははは」

『目がイってる、目がイっちゃってるからゼロ』

 

 ゆらり、と降谷さんが犯人の前に出る。

 犯人は「この銃が見えねぇのかテメェ!!」と叫んで降谷さんに銃を向けた。

 だめだ、降谷さんはまるで正体を隠す気がない。

 鬱憤が溜まりすぎておかしくなってしまっている。

 

 慌てて俺は女流作家三人の意識を落とし、そっとソファに座らせた。

 いらんもんを見て悲しい思いをする必要はないからな。

 

 ケタケタと笑う降谷さんに、犯人がブチ切れた。

 

「テメェから死ねやッ!!!」

 

 けたたましい銃声。

 銃弾が降谷さんの体を通り過ぎ、暴風に進路を曲げられて犯人の頬に一筋の傷を残す。

 

「………え」

「あは。それ、僕にどんなふうに遊ばれても文句言わないってことですか?」

 

 「なん、」と男が動揺して数歩後退し、そのままもう3発発砲する。

 やはり銃弾は曲げられ、男の右手と両足に細い筋のような傷を残した。

 今のところ、降谷さんには銃弾で男を仕留める気持ちはないらしい。

 

 一歩、降谷さんが男に近づく。

 男は激しく視線を彷徨わせ、それでも震えながら上着を脱いでボタンを持つ手をかざした。

 どうやら爆弾を巻いているらしい。

 そのコードがボタンに繋がっていて、一斉に発火する仕掛けのようだ。

 

 コナン君が歯噛みして「安室さん!」と制止の声をかける。

 喜悦に甘く蕩けた優しい声色で、降谷さんが返事をした。

 

「大丈夫だよ、コナン君。爆発での被害は出さないから。それよりこの羽虫の調理はどうしようか?単純に手脚を捥ぐだけじゃつまらないよね。中に玩具を仕込んで外に放そうか。きっととっても楽しい───」

「安室さん。その人は爆弾を巻いてまで僕たちに聞きたいことがあったんだと思う。話だけでも聞いて、警察に届けるのはその後だ」

 

 降谷さんは目を見開いた後、少しだけバツが悪そうに視線を逸らした。

 そして爆弾を巻いた男から離れる。

 

 男は荒い息でこちらを睨みつけ、震える手でボタンに手をかけている。

 

 なんにせよ、これでは安心して話は聞けなさそうだ。

 重要人物と思しき女流作家達も意識を失ってるし。

 

 パチン、と軽く指を鳴らす。

 同時に男が意識を失い、その身につけていた爆弾が消え失せて入り口脇へと瞬間移動する。

 

 諸伏さんが大きくため息をついて肩を回した。

 

『何をしたんだ?』

「男は爆弾を巻いて銃を持って突貫したけど、あえなく諸伏さんと降谷さんに制圧され、武装解除させられた。という形に記憶を変えた。ついでに女流作家さん達は驚いて気を失ったことにした」

『なるほど。そりゃ穏当だな』

 

 爆弾一式はずるずると部屋の端に移動させ、男をロープで簀巻きにする。

 現場検証用のロープだったんだが、まさかこんなふうに使うことになるとは。

 

 むすっとして壁にもたれかかる降谷さんに、コナン君が「犯人は法が裁くんだよ。警察学校やり直したら?」と辛辣なことを言っている。

 ぐうの音も出ないらしく、降谷さんはやり場のない怒りをぽすぽすと諸伏さんを殴ることで発散していた。

 

「お前のせいだぞ。お前のせいでコナン君に怒られた」

『完全にゼロの自業自得な件』

「あーーーー、遊んで良い羽虫はやっぱり組織にしか存在しないってわけだ」

「安室さん僕の話聞いてた?本気で警察学校やり直した方がいいよ?」

「やだやだ僕のささやかな趣味を取らないでくれ!そうだろう黄衣君!」

「キラーパス飛ばすのやめてくれないか」

 

 俺は男の縄がしっかり結ばれているのを確認して、ひとまず壁にもたれかけさせた。

 

「あ、そういえばこの事件で多分警察の事情聴取入るから、ニャルの搬入は明日な」

「は???」

『ゼロの目から光がなくなってしまった…』

 

 暗黒の闘気をたぎらせた降谷さんが「この…羽虫のせいで……」と燃える三眼を開いている。

 凄い、本体にリンクした本性顕現一歩手前である。

 そんなマジにキレんなよ。気持ちは痛いほどわかるけど。

 

「今からでも遅くはない。この羽虫は居なかったことにしよう。そして本体を田舎の屋敷に放ちに行こう」

『落ち着け。早めに終わらせれば今日中でも間に合うかもしれない!』

「そうだね。僕ら全員揃ってるんだし、事件の解決なんてすぐだよ」

 

 そのように二人に鼓舞され、降谷さんは心を持ち直したらしい。

 

 「今日も本体と同居になったらこの羽虫はあらん限りの苦痛で甚振って死ねなくしてやる…」と降谷さんが呟く中。

 犯人の尊厳がかかったある種のデスゲームに、俺たちは挑むことになったのであった。

 





・今朝のニャル
今日は化身を「親友がビル屋上で自死した日を繰り返す」という空間に放り込んでみた。
人間の身で歴史を変えようと頑張って頑張って結局変えられないごっこ遊び。楽しいね。
味付けに「歴史改変の結果死のありさまが酷くなったら、その分だけ本物の親友の魂も傷付く」という術式を組んでみる。
眼下で、涙目の死に物狂いで化身が走り回っている。
なかなか良い遊びだ。
昨日は「化身への侵食を強めて自らの意思で東都を蹂躙させる」夢を見させたが、これも催しとしてはまあまあ良かった。
自らが哄笑とともに砕いた親友入りペンダントを見せつけるとかね。
ちょっとやり過ぎて朝起きて本当に街を蹂躙しようとしたので、四肢を拘束せねばならなかったのが少し面倒だった。
でも正気に戻って己のやろうとしたことに気づいて絶望した顔もあったし良しとする。
一人遊び用としてはかなりいいオモチャに仕上がったのではないかと思うなど。

・降谷さん
コロシテ……。
最早己のやられた苦しみを羽虫に転化することでしか生きられない哀れな化身。
遵法意識はあるのに見ないふりをしている。
上手く羽虫で遊ぶとニャルラトホテプ本体も喜ぶため、その感情が流れ込んできて中毒になってる節もある。
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