風見さんとエッジオブオーシャン前で合流した。
消火作業はすでに完了しているようだ。
目の前には水浸しの半壊したエッジ・オブ・オーシャン国際会議場が見える。
TVで見たあの美しい巻貝に似た建物がこうも無惨に焼け落ちていると、やはり俺も感傷を覚えざるを得ない。
風見さんはお堅い表情を隠さず、神経質そうにメガネをあげて「降谷さんから伺っています。どうぞこちらへ」と言った。
降谷さんとのやりとりを見ている限り意外と愛嬌のある人だとは思うのだが、公私混同はしないということなのだろう。
まず、コナン君と二人で爆発のあった火元へと向かう。
そこは地下階ではあるが崩落を免れ、黒焦げながら原型を留めていた。
残念ながら、ガス栓もキッチンもすっかり爆発で粉々になってしまってはいたが。
黒焦げの残骸から当時の通信状況を調べることはできそうにない。
だが、同系統のガス栓のデータは既に渡されている。
中に組み込まれているソフトウェアの形式は分かっているから、道中の経路を調べればわかることはありそうだ。
コナン君がパシャリ、パシャリとスマホでいくつも写真を撮っている。
おそらく火元を特定するためのものだろう。
ガス漏れだけじゃ狙った時に爆発させることはできないからな。
次に向かうのはこの商業階のネットを支える「門」に当たる機器である。
こちらは無事ではあったが、消火の際の水でぐっしょり濡れてしまっている。
持ってきたPCにLANケーブルで繋ぐと、風見さんが声をかけてきた。
「現在電気設備が止まっているため通信はできませんよ」
「おう、魔術的に抽出するだけだから問題ないよ。後から警察でアクセスできるのと同じ情報を、魔術で先取りするだけだ」
「はぁ…」
風見さんがよく分からないと言った顔で肩をすくめた。
深く突っ込まないのは、そういうものとして降谷さんに飲み込むよう言明されたか。
LANケーブルで繋いだのは、魔術的な処置をし易くするための形式に過ぎない。
電気が通っていてもいなくても、魔術的にアクセスするなら問題ないというわけだ。
固そうな表情の中に伺うような仕草を見せ、風見さんがおずおずと口を開く。
「貴方は、降谷さんの主導する怪異対策の中核と聞きました」
「そうだなぁ。日本の怪異の洗い出しと通し番号振りと概要資料作成と新人教育は俺がやったし、そうなるかも」
「それは全部と言うのでは」
風見さんは静かに突っ込んだが、こればっかりは人間に調査させたら死人が出過ぎるので仕方あるまい。
教育にしてもノウハウがゼロな以上、俺が教えないと今後公安で死者が多発するし。
「風見さんも怪異対策課に行くのか?」
「……いえ。『お前は真面目過ぎてすぐ死ぬから』と言われまして」
「降谷さんにか。まあ、こればっかりは向き不向きもあるしな」
「………」
風見さんが思い詰めたような表情で黙り込んだ。
戦力外通告され、降谷さんの力にならない己が辛いのかもしれない。
でも、どちらかと言うと降谷さんは風見さんが大切だから、職務の枠を超えて死んで欲しくなかったから怪異対策に呼ばなかったのだと思うので、なんとも、歯痒いものである。
話す間も手は止めず、事件当時のデータを一括して取り出し、その通信履歴を探っていく。
どの機器にどんなデータを送ったかがコンマ秒単位で記録されている。
魔術でざらっと付近の通信可能な機器をリストアップし、一つ一つ照らし合わせる地道な作業だ。
すると爆発発生より少し前、いくつか怪しげな通信が外部から入り込んでいたことがわかった。
爆発で吹き飛んでいる機器も多いし、科学的にコレ、と証明するのは少しばかり手間がかかりそうだ。
まあログも残っているだろうし、細かい立証のほうは警察に任せれば良いだろう。
とすると、あとはこの暗号化された不審な通信の中身だ。
じろーっとPCを見つめて眉間に皺を寄せていると、コナン君が後ろから覗き込んできた。
「何か見つけたの、黄衣さん?」
「うん。妙に複雑に暗号化された通信データが残ってる」
「何を通信してたか分からないってこと?」
「いや、内容の暗号化まではされてなくて、通信経路が分からなくしてある感じ?」
内容は普通に読めた。
魔術で解析にかけた所、文面的におそらくは組み込みシステムにアクセスするものだと思われる。
つまり不正アクセスは炊飯器とかエアコンとかIoT対応ガス栓とか、そういう機器に行われている。
「発信元情報を暗号化しながら複数の中間地点を踏んで進んできた感じだ。普通に使えばよっぽどのことがない限り通信元は特定できないだろうな」
「そっか……」
「それと、不正アクセスは多分ガス栓と、ネットに繋がる家電とか向けの二件あった。参考までに」
「!ということは…」
コナン君が難しい顔をして黙った。
例えば公安が中間地点にあらかじめ罠を仕掛けていれば、アクセス元の特定ができたかもしれない。
今のところその脆さを犯人が踏んだ痕跡は無い。
一応使用した出口ノードは分かったので、管理者に問い合わせれば教えてもらえるかもしれんが。
答える義理はないし、無理だろうなという気もする。
魔術的解析で容易に犯人がわかったのに、それを証明できないとはなんとも歯がゆいものぁ。
「うーん、やっぱりこりゃ時間がかかりそうだな。出口ノードはアメリカだし、日本が頑張れば開示されなくもないかも、ぐらい?」
「つまり犯人は不正アクセスをしているけど、身元特定は難しそうってこと?」
「ああ。ま、『公安が中間地点に大量の罠をあらかじめ仕掛けていた』って歴史改竄するなら別だけど」
コナン君が嫌そうな顔をした。
でも、コレが一番早い解決策だ。証拠のない話に警察は付き合わない、とは降谷さんの口癖でもあるし。
風見さんが「先ほどの解析データを我々にも送ってくれませんか」と言ったので、いいよ、と応じて軽く整形する。
コメントを書くのが面倒なので、ずろろろと思考を直接別のテキストデータとして出力した。
それらをUSBメモリに入れて完成である。
「魔術で抽出したものだし、証拠能力は無いだろうから正式に復旧したデータと照らし合わせるための参考ぐらいにしておいてくれ」
「ありがとうございます」
風見さんが一礼した。
道中でも、もう風見さんはさっきの怪異対策の話をしようとはしなかった。
それでもどこか悩み苦しむ雰囲気が抜けきらず、俺はつい口を開いていた。
「風見さん」
「はい」
「さっきの話だけど、風見さん、割と怪異対策課で働く素質あると思うよ」
風見さんは目を丸くした。
謎を謎のまま飲み込んで職務に忠実なところとか、時に冷酷に振る舞うところとか。
どちらかと言えば、前に会った新人三人より有望そうだ。
「で、ですが降谷さんには…」
「生半可な覚悟じゃ務まらないって意味じゃないか?たぶん風見さんの方から押せば抜擢してもらえると思うぞ」
「そう、でしょうか」
「そうそう」
コナン君が胡散臭そうな表情で俺を見た。
だ、だって風見さん元気ないし!こういうすれ違いが長い目で見ると人生最大の後悔になること多かったし!
コナン君が袖を引っ張ってきたのでちょっとばかり堂々と内緒話。
「黄衣さん、これがバレたら安室さんにぶっ殺されるよ?」
「まじか。やばい。あ、風見さん!さっきの話俺がしたことは誰にも内緒で!」
「えぇ…?はい」
慌てて風見さんに一言言って口止めしておく。
そうだな。
わざわざ遠ざけてまで守りたかった部下を唆したなんて知られたら、いくら俺でも八つ裂きの上たこ焼きの具にされてしまう。
また、本当に職務中昇天したら可哀想なので、ちょいと細工をひとつ。
「よく考えるとハスターの瞳に繋がる」魔術だ。
簡単な思考補助魔術で、システム的に言うなら「ヤバげな時にアイデアを振ると解決策が思い浮かぶ」ぐらいのもの。
ふむ。この魔術を簡易化して怪異対策課に配るのも良いかもしれない。
さて、仕込みも済んだし、仕事も一通り済んだ。
風見さんと出口で別れて、あとは帰るだけだ。
コナン君が考え込んだままぼんやりと車の助手席に乗り込んだ。
「犯人は何を目論んでいたんだろう」
「ん?」
「だって、各国首脳を狙うならサミット当日に爆破するのが筋でしょ?わざわざ一週間前に爆破するなんて、何が狙いなのかなとおもって」
「たしかにそれもそうだな。警官しかいないサミット会場を爆破して何、って話だし」
考えながらまったりと事務所と帰る。
公安二人は俺の化身を連れて出かけたらしく、事務所は夕方の光に照らされて赤く染まっていた。
コナン君は写真の解析のために阿笠博士の家に行くそうで、今夜は帰らないらしい。
「じゃ、何か分かったら教えて!」と言ってコナン君がスケボー片手に走り去っていく。
その道交法違反スケボーは常用しない方がいいと思うんだが、まあいいか。
ぎしっと事務机の椅子に座って窓の外を眺める。
現在化身は受動モードで「手を引かれればその方向に歩いたり座ったりする」程度の動きしかしないのだが。
今頃降谷さん達は何を話しているのやら。
と、その時電話がかかってきた。
諸伏さんからだ。
俺はすぐに電話を取って、明るい声を出した。
「はーい、黄衣です」
『すまんな。今後の動きが決まったから警察庁まで来てくれるか?それと、現場を見た君の所感が知りたい』
「おっけー。俺らも今帰ってきたとこだし、すぐ警察庁に行くよ」
ちょうど一人孤独に苛まれていた所だし、渡りに船とはこのことだ。
この時間から会議となると夜遅くなる気がするし、車で出ようかと袖机から車のキーを取り出した。
車でしばらく。
到着した先は霞ヶ関の警視庁のお隣さん、警察庁や総務省の合同庁舎である。
流石の俺も警察庁はあまり出入りすることはないから少しだけ緊張する。
警視庁なら事件の捜査でめちゃくちゃ頻繁に行くんだけどな。
合同庁舎に着いたら、受付で身分証を見せて一時通行証を受け取って待ち合わせだ。
しばらくすると、迎えに来てくれたらしい諸伏さんがやってきたので「よ!」と手で挨拶する。
そのまま2階の廊下を進んでいき、会議室に案内された。
入ると、公安信者さんと降谷さんのほか、見慣れない大柄で髭面隻眼の男が座っていた。
とても怖い見た目だ。
ヤクザとしてもやっていけそうだ。
俺の入室に気付いた公安信者さんがガタッと勢いよく立ち上がり、直角にお辞儀をした。
やはりとても怖い。
「ご足労いただき誠に恐縮でございます!!」と叫んでいる。
降谷さんは降谷さんでイライラしていて、鋭い舌打ちと共に書類を睨みつけている。
もうなんというか、怖いの煮凝りみたいな場所である。
俺の化身も待機状態で目を閉じて奥に座らされているようだ。
降谷さんが「ん?」と言って片眉を開げてこちらを見た。
「コナン君はどうした?彼なら着いてくると思ったが」
「コナン君は阿笠博士の家で現場の写真を解析するらしいよ。なんか気になる破片があったとかで」
「なるほど。なら彼はそっちを任せておくべきか」
降谷さんは納得したようで、「適当に座ってくれ」と興味なさそうに言い放った。
公安信者さんがそんな降谷さんを激しく睨みつけている。
俺は恐る恐る一番手前の椅子に座り、ぺこりと頭を下げた。
まず話しかける相手は見知らぬ大男さんである。
「ええと、お初お目にかかります。探偵の黄衣ハスタです」
「黒田兵衛警視正だ。よろしく頼む」
役職も所属も言わないのは、ようは存在しない……つまりいわゆる裏の理事官と呼ばれる存在なのだろう。
すげぇコワモテだ。
身が引き締まる心地がして、思わず固唾を飲んだ。
「話は降谷から聞いている。人より強大な力を持ちつつ、人に協力する善性のものだと。コレまでも数々の事件解決に力を貸してくれたそうだな」
「ま、まあ…」
「今回の犯人役も含めて、深く感謝する」
照れくさい気持ちにかられ、もぞもぞと体を動かす。
ますます公安信者さんが降谷さんを鋭く睨みつけているが、俺は見なかったことにした。
「それで、今後の話というのは何があったんだ?」
「僕達の方で彼女…小翠リャマについての今後の処遇を決めたから、君の同意が欲しくてな」
降谷さんはそう言って、俺をまっすぐに見つめたのだった。
・風見さん
脳に魔術を仕込まれた。
ジンニキが「どこが危険がわかる」直感なら、風見さんは「危険を解決する術がわかる」直感。
答えが降りてくる天啓に近い。
・定期ジンニキ
この村は怪しい所だらけだ。
面倒臭い。
ジンが公民館の管理人に銃をつきつけ、軽く肩を撃ち抜いてやればピィピィ話し出した。
ようは、井戸の底には水のない空間があって、その下にいるナニカから強い耐火性を付加する原材料が取れるらしい。
石を入れたバケツに水中カメラとマニピュレーター付き水中用ロボを放り込み、様子を見る。
確かに、中の空間には半分爛れた巨大なイカのようなものが痙攣しているのが見えた。
さらに下の水底には祠が沈んでいる。
マニピュレーターを操作して祠を開けると、中には護符のようなものと、木箱が見つかった。
祠を開けた瞬間、内側の空洞が消え去り中は水に沈んだ。
同時にイカも死亡したらしく、激しく焼け爛れながら死体がゆらゆらと水中を彷徨っている。
木箱を回収して、今回は任務完了である。
どうも村ぐるみでこの化け物を飼っていたようなので、村の各所に爆弾と発火装置を仕掛けて村を出る。
二体目を飼う方法が残っていたら面倒だ。
燃え盛る村を背景に、ジンは車を発進させた。
・ニャル谷さん評価:A
見事村を焼いてくれたようで僕も嬉しいです。
クトーニアンの幼生の招来魔術も村ぐるみで伝わってましたので丸ごと処分したかったんですが……公安で処理すると角が立ちますからね。
村はクトーニアンを召喚・飼育し、便利な耐火素材として売りにしていました。
また、特殊な邪教も跋扈していました。
井戸の内部空間は、その昔村にいた魔術師が作ったようです。
この辺の情報は村の蔵など漁ることで出てきます。
ちなみに、一泊した場合クトーニアンは結界を正しく解除してくれるよう話しかけてきます。
もちろん日本のため絶対に応じてはいけませんよ。
応じた場合、直々にペナルティの呪詛をかけるつもりでした。
まあ、ちょっと今回は難易度がぬるかったですね。
次回も健闘を祈ります。