ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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公安との協力

 

「ここだな…」

 

 翌日。

 俺たちは東都内にあるオフィス街にやってきていた。

 

 都内のビルに設けられた貸し会議室の一室が、今回の会合の開催地である。

 一応今回は俺とコナン君、そして諸伏さんという3人パーティで乗り込む所存だ。

 

 やや緊張に固くなりながら、コナン君が約束の会議室のあるビルを見上げた。

 

「……ここに協力してくれるって言う公安の人が来るんですか?」

「おう。相手側がすぐに会議室を取ってくれたらしくて。俺らは手ぶらできていいって連絡があったから」

 

 ちなみに、信者さんは連絡の手段として「ハスターとの接触」の呪文を使ってきた。

 普段はあまりにも迷惑電話が多いため基本信者からのそれは着拒にしているのだが。

 今回は俺からの要請ということもあり開通させておいたのだ。

 

 この短時間で「ハスターとの接触」なんて重い呪文を使えるとは、かなり腕のいい魔術師であるらしい。

 

 なお、俺に準備が整った旨を伝える際、信者さんは完璧に感極まっていたが気付かなかったことにした。

 不安要素が満載だが、今は考えないに限る。

 

 エレベーターに乗り込み、連絡の受けていた階へ。

 特に途中で止められることもなく、問題なく会議室の前までたどり着くことができた。

 

 少しばかり躊躇ってから、指定された会議室の扉をノックする。

 

 コナン君も隣で興味津々でキョロキョロしている。

 

 ちょっとネットで調べたところ、ここはバベッジジャパンの所有する貸オフィス専用のビルらしい。

 バベッジジャパンは例によって俺、旧支配者ハスターを信仰するタイプのカルト的背景を持つ企業だ。

 各オフィスに堂々と俺を祀る神棚とかもあるし、碌でもないタイプの企業であることは間違いない。

 

 俺は嫌な予感で震えながら扉の向こうへ声をかけた。

 

「すみません、約束しておりました黄衣です」

「………神の使いよ……!」

 

 扉の向こうから上擦って震える声が響く。

 やはりというべきか、不穏な滑り出しだ。

 

 一応過度に信者さんが盛り上がるのを避けるために「今日来るのは旧支配者ハスターの使いである」と身分を偽ってある。

 流石に俺レベルの存在規模を晒しておいて「一般人です」は魔術師相手にバレないはずないからな。

 

 だから神本人ではないということで多少は信者も落ち着くはずだが……。

 俺は意を決して会議室の扉を開けた。

 

 ガチャリ、となんの変哲もない扉が開く。

 

 その先には。

 邪悪の儀式中としか思えぬおどろおどろしい光景が広がっていた。

 

 ひとまず目につくのは血塗れの黒い石のモニュメント。

 九つの黒い石に血を塗って、そこに魔力を込める古式ゆかしいスタイル。

 急遽用意したにしてはかなり手が込んでいる。

 恐らくは血は鶏のもので、その鶏が持つ少量の魔力をかき集めてここまできちんと魔術場を立ち上げたのだろう。

 

 カーテンは閉め切られ、暗い室内に充満する血の匂いが鼻につんと来る。

 コナン君が隣で驚愕に目を見開いたのが見えた。

 

 部屋の中央には五体投地するスーツ姿の女性が見える。

 

 スゥーー、と息を吸って、血の匂いに走り出そうとするコナン君の襟首を引っ掴み、俺はぺこりと頭を下げた。

 

「失礼しました…」

 

 そして、扉をバタンと閉めた。

 ドッドッドッと脈打つ心臓を宥めながら、俺はできる限り平静を装ってコナン君に笑いかける。

 

「帰ろっか」

「いやいや、いやいやいやいや、そうはならないでしょう!?」

「だって君も見ただろ!?あれは絶対関わると碌な事にならないって!!」

「分かりますけど半分は黄衣さんのせいじゃないですか!責任取りましょうよ!!」

「やだやだ!関わりとうない!!」

「子供か!!ってかカルトって言っても程があるでしょ!?あんなんがデフォルトな宗教なんですか!?」

「………まぁ……デフォルトだね………」

 

 嘘でしょと言う顔でコナン君が沈黙した。

 仕方ないだろカルトなんだから!と俺は無言で憤慨した。

 

 ちなみに、あの儀式はハイパーボリアの時代に成立した、かなり正式に近い俺との交信方法になっている。

 本来は鶏ではなく人の血を使うとかいう限りなく最悪に近い術である。

 

 これを俺への敬意の表れとして使ったのは近年になってから…具体的には古代エジプトあたりが始まりだったか。

 

 俺は奥歯を食いしばって、もう一度扉のドアノブに手をかけた。

 びびってても埒があかないし。

 諸伏さんもコナン君も小声で口々に「この小心者!」『ビビリ!』などと俺を責め立てるし。

 

 俺は覚悟を決めて、もう一度扉を開けた。

 先ほどまで五体投地で顔を伏せていた信者さんは、顔を上げて涙目で俺へと叫んだ。

 

「神の御使い様!!!何卒ご慈悲を!!」

 

 ブホォッ!?と盛大に吹き出した諸伏さんが「ゼロんとこの課長さんだろ!?!?」と狼狽え出した。

 どうやら知り合いだったらしい、さっきは顔を伏せていたせいで見えなかったようだ。

 

 俺はむせ返るような血の匂いに「会議室返却の時クリーニングとかどうするんだろ」などと変なことを考えて精神を統一して口を開ける。

 

「……うーん、いや、うん。出迎えご苦労。なんというか、俺もあんまり盛大な歓待だったからびっくりしただけで、お気になさらず」

「畏まりました御使い様、いと高き宙(ソラ)に座する人類の守り手よ!忠実な信徒が貴方様の御心を満足させると誓います!」

 

 隣のコナン君の視線が痛いなんてもんじゃないレベルのそれである。

 だが、空気を読んで黙っててくれるようなので俺は遠慮なく話を続けた。

 咳払いをひとつ。

 

「えーっと、改めまして。俺は黄衣ハスタ。こっちは俺の連れの江戸川コナンだ」

「私は黄色の印の兄弟団日本支部、エイボン魔術君3位階、君永都と申します。ところで、そちらの下等な亡霊は……?」

「あー、こっちは諸伏って言うんだけど、連れの一人だから気にしないでくれ」

「出過ぎた真似をいたしました。申し訳ございません」

 

 君永と言うらしい信者さんは、丁寧に俺に頭を下げた。

 

 コナン君が「…亡霊って?」と胡乱な顔をしたが、なんと説明すべきか。

 コナン君の目の前で諸伏さんが満面の笑顔でダブルピースしているのだが……まあ、普通は見えないんだよな。

 ひとまずこの場は本題とは外れているし、「こっちの話」とだけ答えて誤魔化すことにした。

 

「あー、本題に入ろうか。えっと、俺たち訳あって探偵として働きたいんだけど、それに必要な後ろ盾とかが無くてな。たとえば社会的信用とか知名度とか」

 

 そう言うと、困惑の色を強くして信者さんが「探偵…御身が?」と漏らした。

 いやまぁ、神話生物が探偵やるってちょっとよくわからない話なのは確かだが。

 しかし神に疑念を抱くのは不敬だと思ったのか、信者さんは首を振って平伏した。

 

「なるほど。そのお力の強大さは魔術師の目からすれば明らかですが、下賎な民にそれを理解する力がないのは確かですね」

「お、おう……」

 

 本性は隠していたつもりだったが、やはり魔術師から見れば漏れ漏れだったらしい。

 触手のほんの上の方がはみ出ていたのがまずかったか。

 でも俺ほどの存在規模を人間サイズにまで押し込めるのは困難を極めるから、多少は仕方ないと目を瞑ってくれると助かる。

 

「とりあえず、貴方には俺たちの探偵業の後ろ盾になって欲しいんだ。つまり仕事の斡旋とか、実績づくりの手伝いとかをして欲しいと言うか」

「かしこまりました。すぐに手配いたします」

 

 できる美女、というような様子で眼鏡を上げて君永さんが頷いた。

 

 どうやら信者さんは本来は結構な年齢なようだが、魔術でアンチエイジングしているらしい。

 結構悪質なニャルラトホテプの化身・「皮膚なきもの」の魔術を自分なりにアレンジしている様子が見うけられた。

 やはり結構実力のある魔術師のようだ。

 

 そこでコナン君が口を挟んだ。

 

「お姉さんは公安の人って聞いたけど本当?」

「ええ。私は警察庁警備局警備企画課の課長…警視長の任に就いております。もっとも、神の御前においてそのような立場や階級など些事ではありますが」

 

 信者さんの謙遜に「警視長!?」とコナン君が驚いたのか声を上げた。

 警察官の階級はよくわからんが、反応からしてかなりのお偉いさんらしい。

 慎重な様子でもう一度言葉を重ねる。

 

「本職は黄色の印の兄弟団ってこと?」

 

 その問いに、信者さんはやや困った顔をした。

 おや、意外と正気だ。

 

「どちらでもない…というのが正確でしょうか」

「どちらでもない?」

「偉大なる神が人を愛し人を守護するのならば、我ら魔術師が人を守るのもまた義務でしょう。私は教団に忠誠を誓っているのでなく、神に忠誠を誓っているのです」

 

 やや瞬いて、コナン君は「なるほど」と困ったように頷いた。

 つまり兄弟団も公安も、神の意思を示す手段でしかない、と。

 割と狂信者の中ではまともな方かもしれない。

 

 俺は「じゃあ、準備ができたらまた連絡…いや。接触の魔術は負荷が高いだろうし、この番号に電話してくれ」と電話番号を記したメモを渡した。

 話を終わらせようとする俺に、コナン君がボソボソと「黒の組織のことは聞かないんです?」などと聞いてくる。

 

「いや、多分聞いたら洗いざらい公安の持ってる情報が出力されると思うから…それは最終手段にしよう」

「うっ……なるほど……」

 

 コナン君がしょっぱい顔をした。

 流石にそれはコナン君も憚られたらしい。

 まぁあまりに進展がなかったら頼るしかないが、初手で使うのにはやはりちょっと心の拒否感がある手には違いない。

 

「お気遣いありがとうございます、御使い様。ひとまず、公には公安の協力者として便宜を図らせていただきます。加えて探偵事務所開設の支援、伝手のご紹介なども致しますので、疑問等ありましたらお気軽にこの番号までご連絡ください」

 

 そう言って名刺を俺たちへと渡してくる。

 できる社会人と言ったような雰囲気だ。

 ほえー、と感心しながら握手のために手を差し出し、「了解。頼りにさせてもらうよ」と笑いかける。

 

「!!!!!!!!!」

 

 素早く信者さんはまた五体投地の姿勢に戻った。

 しかも感極まってだばだばと涙をこぼす有様である。

 

 その後幾らか今後について話し合った後。

 俺たちは十分な成果を手に家に帰ることになったのであった。

 

 なお、俺の捨て台詞は「……あとこの儀式場、俺別に必要ないから今度会う時は用意しないようにね」であったことを追記しておく。

 





・黄色の印の兄弟団
 三億年前、ハイパーボリアを襲撃した旧支配者クトゥルフ。
 本作ではその脅威に対抗した魔術師団体を起源に持つガチカルト組織となっている。
 主にアメリカの政治を裏から操り、富裕層に魔術で奇跡を授けて取り込んで暗躍している。
 中東などではハスター信仰に関連する古代の遺跡を土地ごと強奪。
 現地勢力とドンパチやるなどかなり危険な組織である。
 中身としてはかなり純粋なハスター信仰。
 「人類は旧支配者ハスターの奉仕種族であるべき」という思想を掲げている。
 元々は別の教団名だったが、8世紀ごろにハスター主が「勝手に俺に会いにきて発狂するのやめろ!黄衣の王の方がSAN値減少少ないからその時に来い!」と怒った際に改名。
 現在の教団名になったという。
 
・ハイパーボリア
 本作ではハスターの加護を受け、4億年近く繁栄を謳歌した人類系国家となっている。
 原作より成立が早く、クトゥルフ襲来の際大きな被害を受けた。
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