ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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ゼロの執行人〈終幕〉

 

 5月1日となった。

 公安では急ピッチで作業を進めている。

 

 結局、犯人である日下部検事は、荒っぽい方法で身柄を確保したらしい。

 具体的には諸伏さんとバーボンが組織の一員を装い検事を拉致。

 第二のテロを防ぐとともに、NAZUがアクセス元を特定するまでの時間を稼ぐ、ということのようだ。

 

 霞ヶ関なんて各省庁がまとまってる上、ホテルもかなり多いからな。

 10万人以上もの人間を急に避難させるなんて無理だし、避難できたとして凄まじい損害になる。

 

 しかし、日下部検事はすぐにこの拉致が公安の仕業だと直感したらしい。

 「これが、これが公安警察のやり方かァ!!」と絶叫していたそうだ。

 

 余計に拗れてしまったように思うが……ままならないものだ。

 

 NAZUがアクセス元を特定し次第、この監禁は解除される。

 その後は日下部検事は開放されると共に正式に、公安によって逮捕される予定である。

 そのように告げる降谷さんの声は無感動で冷え切っていた。

 

 日下部さんは爆破により警察官を何人も殺害している。

 死刑も考えられるし、羽場さんの生存ぐらいは教えてもいいんじゃないかと思う俺である。

 

 

 さて、あとは俺の方だが、こちらは凄まじい速さで準備が整った。

 

 NAZUはアメリカを拠点とする上、宇宙探索ということで黄色の印の兄弟団に半ば支配される形で運営されていたらしい。

 魔術師の統括する専門の部署もあるとのこと。

 

 公安を通じて黄色の印の兄弟団本部へ「NAZUが火星から持ち帰った試料の中に、恐るべき旧支配者の種子が紛れ込んでいる」と連絡すれば。

 なんと当日のうちにNAZU長官と電話会談する手筈が整った。

 

 まあ、俺は怖かったので黄色の印の兄弟団に説明を一任させてもらった。

 米大統領に話を通すとか色々あったみたいだし、そんな怖い空間に出ていくのは俺には無理だ。

 

 ただ、「黄色の印の兄弟団に神が戻った」というのはアメリカ権力者の中では共通の認識らしい。

 今までそっとしておいてくれてありがとう。そのまま無視し続けてくれ……。

 

 話し合いの結果、正規のルートで惑星探査機のカプセルを着水させたあと、その場でヴルトゥームを撃破する、という方向性で決着したとのこと。

 

 米国が国家機関として抱える腕利きの魔術師を揃えて、ヴルトゥームの対処に乗り出すと聞いている。

 万が一の場合は米軍も出動する準備が整っているとか。

 

 実にアメリカンな対応方法だなと思うなどする俺である。

 

 

 やってきた東都湾から海を眺めながら、俺はぼんやりと係船柱に座った。

 コナン君もその隣で足元の石をコロコロと転がしている。

 

 5月1日の午後九時ちょうど。

 上空に、一筋の光が見える。

 

 コナン君が夜の海に目をやって、俺に言葉をかけてくる。

 

「それで、魔術師の人たちで止められそうなの?」

「無理だね。いくらヴルトゥームが雑魚って言ったって、覚醒状態の種子が顕現したら捻り潰されるだけだ」

 

 星に着陸した衝撃でダメになるようなしおしおの種子だけど、生命力の不足分はその場に来た魔術師を喰えばいいだけだし。

 公安信者さんレベルが100人揃えば話は違うが、そうで無いなら地球到着歓迎パーティ食べ放題付きになるしかない。

 

 米軍も自衛隊も居たところで特に意味はない。

 物理現象を超えて広がる芳香が相手では、それがどうしたと言う話にならざるを得ない。

 単に全機Uターンして街を爆撃する駒になるだけだ。

 

 コナン君むすっとして不機嫌そうに声を上げる。

 

「なんで米国は黄衣さんの助力を願わなかったのかな」

「さあね。永く旧支配者の脅威から離れてたから甘く見積もってるのか、俺に助けを乞うのは恥だと思ったのか、神を侮ってるのか」

 

 黄色の印の兄弟団は、たぶん日本支部に神を取られて挽回の機会を掴もうと必死になってる、みたいなところはあるのだろう。

 ここで神に縋り付けば、いよいよ見捨てられてしまうかもしれないとか。

 そんなの気にしなくても大丈夫なのに。

 

 米国は純粋に甘く見積りすぎただけだろう。

 普段から国内の怪異を専門国家機関で対処しているらしく、それで過信してしまったのだと思われる。

 

「なんか公安信者さんが凄く説得したらしいんだけど、だめだったらしいよ」

「……そっか」

 

 失敗した時被害を受けるのは間違いなく日本だ。

 公安信者さんも頑張ったのだろうが、人間集団の複雑さには敵わなかった。

 

 俺がため息をつくと、コナン君は海を覗き込んでぼんやりしているようだった。

 

 諸伏さんは日下部検事の誘拐役実行犯で忙しい。

 指紋も抜け毛も検出されないステルス人間として活躍中だ。

 

 降谷さんは、ヴルトゥームが氾濫した場合に備えて公安として対応を進めている。

 俺が失敗するわけはないが、米国は俺の力を借りないつもりな以上、氾濫対策をしないのは不自然だ。

 

 夜の港は暗く、船の灯りと都市の光のみが遠く空を照らしている。

 月がぽっかりと穴のように浮かぶ。

 コナン君が体操座りして空を眺めた。

 

「じゃあ、これから黄衣さんはアメリカの了承を得ずこっそり手を出すわけだ」

「おうとも。流石に見てられないし、公安信者さんも凄い泣いて懇願して来たし」

「ならここに僕を連れて来た理由は?」

「たまにはコナン君にも俺のかっこいいとこ見せておきたいと思って」

「んー、その時点でもう格好良くはないかな」

 

 コナン君のバッサリとした言葉に俺は肩を落とした。

 そんな、ご無体な。

 

 

 などと言っている間にヴルトゥームの反応が地上へ降り立った。

 ぶわり、と危機感に鳥肌の立つ感覚。

 

 まず結界の展開。

 俺の体とヴルトゥームの入ったポッドを現実世界から隔離する、半径20kmほどの巨大な結界を構築する。

 中にはすでに魔術師の一団と研究者を乗せた船がいるようだ。

 隠蔽性も考えて作ったので、魔術師の一団は結界の存在に気付いていない。

 

 次に、無人の港に俺の本体、触手と半身を出現させる。

 魔術は俺本体で使ったほうが効果が高いのだが、こうして多重結界にでも包まないと周囲の人間に大変な悪影響が出てしまう。

 

 さて、魔術師達の健闘を観察しよう。

 

 ポッドの中は既にヴルトゥームの種子が目覚めている。

 甘く人の意思を溶かし落とす芳香が、完全密閉であるはずのカプセルから広がっていく。

 

 一応、魔術師達は防護はしているようだ。

 体と魂を守る基礎的な防護の結界。素早く飛来する物理打撃を与える魔術の装填。

 どれも原始魔術だ。古エイボン式を使える人間はいないらしい。

 人間基準だとまあまあな術者ではあるように思う。

 流石に公安信者さんの足もとにも及ばないが。

 

 芳香が船に到達した瞬間、魔術師は皆昏倒した。

 あの程度の防護魔術で旧支配者の力を防げるわけないんだよなぁ。

 10分後には体の支配権を完全に奪われ、殺し合いが始まるだろう。

 

 俺はんー、と呻いて口を尖らせた。

 コナン君が暇そうに足元に垂れている俺の触手をつつきながら話しかけてくる。

 

「どう?」

「やっぱダメだった。あのメンツで行かせた米国も悪い。特攻じゃないんだから」

「相手は黄衣さんレベルって話だし、仕方ないんじゃない?」

「俺とヴルトゥームを同列に語られるとちょっと納得いかないけど、まぁ、そうだね」

 

 あとコナン君や、あんまり触手で遊ばんでくれ。

 意外と乾燥しててスベスベしてる、じゃないんよ。

 吸盤を掴んで引っ張って取ろうとしない!

 取れないから!

 

 ともかく、魔術師たちの生命の保護が先だろう。

 遠隔で体内からヴルトゥームの芳香を丁寧に排出させる。

 溶けかけた魂も最低限治癒させて、魔術で仮組みして形を保護。

 こうして一週間は安静にしておかないと、魂がべちゃっと型崩れする可能性があるからな。

 

 そのまま結界で囲んで、遭難しないようボートの位置を仮想の錨で固定する。

 

 次はヴルトゥームの対策だ。

 

 ヴルトゥームは既に移動能力を獲得しており、ポッドそのものを取り込んで海底をゆっくりと這っていた。

 ので、ポッドごと持ち上げて不要部分を破壊。

 

 俺の干渉に気づいたヴルトゥームが文句を言ってくるが無視。

 お前後で囲ってボコるからな覚悟しろよ。

 

 割と本気の攻性魔術を装填。

 

 あまりの魔力密度が故に、魔術式が可視化して発光している。

 極大の魔術式がいくつも空に現れては消え、空に浮かぶ魔術式の光が反射して、まるで夜闇に浮かぶ大輪の花火のようだ。

 

 コナン君が「おお!」と歓声を上げて見入っている。

 

 俺が術式省略なしにちゃんと使う「魂の撃滅」は、魂へと直接働きかける超攻性魔術だ。

 実は威力を高めれば高めるほど射程が短くなる特性があり、その昔クトゥルフのアンチクショウと戦う時のメインウェポンでもあった。

 

 収束。そして展開。

 

 そのままポッドの中身に「魂の撃滅」へ回転を加えて圧縮していく。

 ヴルトゥームがひたすら痛いだとか俺のせいじゃないだとか悪態をついている。

 無視。

 

 種子は魂への打撃の嵐により、その意義を失って単なる肉の塊と化した。

 

 古い種子が沈黙したのを確認して、そのままポッドを海に戻す。

 「魂の撃滅」は肉体には全く影響を及ぼさないからこういうこともできるわけだ。

 

 あとは船の魔術師達を揺り起こすだけだ。

 軽くメモ用紙を残して、魔術師達の意識を目覚めさせる。

 

 メモは魔術師への伝言だ。

 魂にかかったままの術式は魂の崩落を防ぐ補助術式で、悪いものではないということ。

 一週間経ったら術は自然消滅すること。

 それまでは魔術の使用は控え、ゆっくり安らげる空間で過ごすこと。

 などである。

 

 ふと見ると、どうやら魔術師達の船には記録用の魔術のかかったカメラと各種センサー等が積載されているようだ。

 俺のやったことはすぐにバレてしまうだろう。

 まあ、この際しかたあるまい。

 

 全て終わって、ようやく俺は触手を亜空間に戻し始める。

 

 細い触手一本はコナン君に捻り回されて赤くなってしまっている。

 吸盤は引っ張っても取れないって言うとるやろがい。

 吸盤外周は揉みほぐされてへろへろになっちゃってるし。

 

「コナン君、これどうしてくれるんだよ。触手こんなになっちゃってさぁ」

「僕暗くてよく見えないや。あ、そろそろ帰ろっか!」

「大嘘吐きよってからに!!まったく!」

 

 てくてく歩いて近くのハイエースへと戻る。

 夜の散歩は風が冷たくて心地よい。

 

「あ、そうだ。どうだった俺のかっこいいとこ見て。見直した?」

「え……一人花火大会綺麗だったね……?」

「適切な評価のない悲しみ!!」

 

 やはり俺のことを評価してくれるのは魔術師さんだけなのね!

 いいんだ、俺の魔術のキレは知る人のみぞ知るって感じであれば!

 

 寂しさを感じながらの帰り道。

 コンビニに寄って、二人で夜食を食べたのであった。

 





・ハスター主催一人花火大会
魔術師が見れば絶句するような、美しくも悍ましい呪詛の嵐であったとか。
後日米国の専門機関の有識者が解析しようとして、「術式の概要を読み解くだけで子孫6代はかかる」と匙を投げた。
突入部隊の魔術師にかけられた魂の保護魔術も人智を超越した代物で、信者でない魔術師の間でも「神と呼ばれる超常存在の出現」という噂の信憑性が高まったとか。
 
 
・ジンニキ&諸伏警部進捗
 高明は事前にこの辺り一体の地図を入手し、聞き込み調査を行っていた。
「『電車が走る音を聞いた』という証言をまとめたものです。これによると、この鉄道は不可視の何かが今も一定のルートを走っていることになる」
 銀髪の男は先を促すようにジロリと高明を見た。
「つまり…今、電車は出払っていてこの先の駅には何もいない。調べ時だと言うことです」
「フン」
 銀髪の男と共に暗い鉄道トンネルを進んでいく。
 中は無音で、自分の話し声はおろか足音も聞こえない。
 辿り着いた作りかけの駅には、祠が一つ佇んでいた。
 ぴくり、りと高明は眉を釣り上げた。
 その瞬間、女の悲鳴にも似た強烈な金属音が響き渡った。

「っ、電車が『帰って来た』…まだ予定時刻は先のはず!」
「チッ、ずらかるぞ!」

 道中退避口があるのは見えていたので、二人で全力でそこへと走る。
 正面に明かりは見えない。ただ大きくなってくる列車の走行音だけが聞こえてくる。
 退避口に駆け込み、扉を閉める直前。
 後ろにいた銀髪の男が足首を掴まれ、引き摺り込まれそうになった。
 高明が力一杯男の腕を掴んで引けば、男は体を捻って無理やり脱出できたらしい。
 そのまま乱暴に扉を閉める。
 銀髪の男の足にはくっきりと血のように赤い手形がついていた。
 なぜか。高明の足にも、シカリと痛みを覚えた。
「この非常口は未完成で、どこにもつながっていないようですね」
「あの気色悪い列車が行った後出て行くしかねぇだろうな」

 外から電車の音と、ごうごうとした風の音が響いている。
 ごうごうと、ごうごうと。
 黒々とした風がドアの隙間から吹き込んでくる。


・降谷さん評価:-
現場到着。めちゃくちゃ慌てている。
ジン越しに諸伏兄まで呪詛を受けてしまっていてパニック気味。
あわわわおちつちつちちちち。

この怪異はトンネル建設時の多数の死者による亡霊によって成り立っている。
単なる亡霊塊だから作りも単純だが、規模が少々厄介だ。
僕としてはここでジンが永眠することを期待していたが…それどころではないなこれは。
早く黄衣君に解呪してもらわないと。
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