ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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鉄道トンネルの裏側

 

 これは昨晩のことである。

 

 降谷が駆けつけたのは、夜涼山と地元で呼ばれている山にある、鉄道トンネルであった。

 

 ここでは昔崩落事故があり、そのせいで崩れた亡霊が列車の形となって地域を脅かしている。

 とはいえ悪霊達の本拠地であるこの鉄道トンネルに入らなければ、今まで基本的には害はなかった。

 

 しかし、近年この辺りは観光地として再開発が進み、人の増加に伴い亡霊達が活性化してきている。

 死者が出るのも時間の問題。

 となれば、このあたりで亡霊達を始末しておく必要があるだろう。

 

 そんなわけで降谷は趣味と実益を兼ねてジンを送り込んだのである。

 

 しかし。

 

 ヒロのお兄さんがいた!

 しかもあの危険人物、ジンと共に!

 

 気付いた時はざっと全身が総毛立ったような心地であった。

 

 まずいまずいまずいまずい!!

 あまりの恐ろしさに全身から脂汗が吹き出す。

 無意識にヒロへの言い訳だけを考えそうになる己を叱責して、唇の端を強く噛む。

 

 ヒロが悲しむから、というだけで助けようとするのは人の心を解さない化け物だ。

 己は違う。

 諸伏高明にも人生があり、周囲との関わりがあり、日本国民として尊重されるべきなのだ。

 

 身体を風に変え、上空へと身を翻す。

 

 降谷はジンを監視するため、最近少しばかり小技を利かせられるようになっている。

 風を知覚として遠隔地の出来事を感じ取る、粗雑な遠見の技である。

 

 とはいえ人間の視覚聴覚以上の機能は持たせられなかったし、同時に見られる箇所は一箇所。

 風の塊を直接現地に送り込むため、見ようと思ってから現地に風が到着するまでタイムラグがある。

 

 この鉄道トンネルが初の実戦投入であった。

 

 そして幸か不幸か、その実戦投入初日で視界に諸伏高明の姿を見たのである。

 

 最早車も公共交通機関も使っている暇はない。

 風の化身としてトップスピードで上空を駆け抜け、可能な限り最高速度で夜涼山まで向かう。

 

 地上に影響が出ないよう極力上空を飛んでいるが、400キロは出ているだろうし、少々気流に乱れも出たかもわからない。

 音速を超え、轟音と衝撃波が発生するがそれも降谷の身体のうち。

 風を操作して地上に届かないようかき消していく。

 

 現場に到着したのは深夜4時。

 駆け込んだ鉄道トンネル内には甲高い車両の軋む音が入り口まで鳴り響いている。

 

 本性を露わにしたまま、トンネルの奥へと進んでいく。

 列車は中腹ほどにいた。

 車体から無数に伸びた白い腕を退避口に張り付かせ、ドンドンと激しくドアを叩いている。

 

 内側から開かないように鍵をかけて押さえているようだ。

 しかし、その激しさを見るに突破されるのも時間の問題だろう。

 

 思考を巡らせたのは数瞬。

 降谷は疫病の風を解放し、列車をトンネル内から引き摺り出した。

 

 重量は概念的に嵩増しされ、列車そのものと同じだけあった。

 とはいえ所詮列車程度。

 軽々と上空へ持ち上げ、そのまま風の力で圧縮と同時に侵食。

 

 黒い風は疫病であると同時に厄災でもある。

 強烈な呪詛を含んだ黒い風により、列車の形をした亡霊はみるみるうちに液状化していく。

 

 しばらくして。

 ふっと電車の形が解かれ、残ったのはただ肥え太った黒い風のみであった。

 

 まるでバターだけ食べたような油っぽさだ。

 降谷は顔を顰めた。

 

 と、その時である。

 

 視線を感じて振り返ると、退避口の扉を開けてジンと諸伏高明がこちらを伺っていた。

 

 予想より出てくるのが早い。見られたようだ。

 今の降谷の姿は黒い風そのもの。

 声も工夫すれば「降谷零」のものとは遠ざけられる。

 覚悟を決めて、降谷は口を開いた。

 

【ジン。あなたには失望しました。まさかこの程度の仕事でヘマをするとは】

「ッ!………テメェ、バーボンか」

 

 蟲のざわめくような声に、ジンが拳銃を構えながら退避口から出てくる。

 

【貴方の働きを僕は高く評価しています。貴方の存在でもって、組織の存在を許そうと思う程度には】

「………」

【ですが、このような失態が続くのなら、あの方を含めた組織も、ゴミ箱に捨てねばなりませんね?】

「テメェ…!」

 

 今、己は九割アドリブで話している。

 降谷は内心天を仰いだ。

 

 失態続きなのは己の方だし、純粋にあの方の居場所を見つけられてないから潰せないだけだし。

 自分の語り口はアニメの悪役そのものだし。

 

 絶対ジンの野郎は何処かで嵌め殺す…!

 

 不条理な怒りに包まれながら、降谷はできるだけ泰然と見えるように背を向けた。

 背を向けてから、別に風の塊なんだからどっちが背かなんてわからないじゃないかと気付いた。

 

 理不尽な怒りが加速する。

 ただで死なせはせんぞジン……。

 逆恨みである。

 

 去り際、ふと目にした二人の足に同じような呪詛が付着しているのに気がつく。

 

 どうやらあの列車幽霊の呪詛のようだ。

 見たところ軽い呪いなのですぐに大事には至らなさそうに見える。

 

 だが、降谷では呪うことはできても解呪は不可能だ。

 

 そのまま空へと身を踊らせ、降谷は帰路についた。

 どうやら共闘していたようだし、ジンも特に任務でもない命の恩人である諸伏高明を殺したりはしないだろう。

 

 そうして、降谷は帰って早々。

 ヴルトゥーム対策を主導する緊急任務についたのであった。

 

 

 

 

「───というわけなんだが、何か不明な点はあるかい?」

「安室さんの自業自得じゃない?」

「致死ダメージをぶち込んでこいとは言ってない」

 

 コナン君のツッコミに、降谷さんは力なくソファに倒れ込んだ。

 「逆恨みはカッコ悪いよ」とコナン君が死体蹴りしている。

 降谷さんが苦悶の声を上げた。

 

 ヴルトゥームの件も一息つき、事態は一件落着。

 NAZUの解析結果も出たようで、日下部検事も既に逮捕されているとのこと。

 

 降谷さんは忙しい合間を抜け出してきたのか、草臥れたスーツ姿でため息をついた。

 なお、この場に諸伏さんはいない。いないタイミングを見計らってきた感じもある。

 

「とにかく。問題はヒロのお兄さんの呪詛の件だ。僕では手が出せなくてな。早急に君の方で診てもらいたい」

「了解。じゃあちょっと失礼して」

 

 「ハスターの瞳」を起動して遠隔地より諸伏兄に焦点を合わせる。

 

 見ると、確かに右足に何かに掴まれたような形のアザがあった。

 呪詛の染み込んだアザだ。

 

 降谷さんが心配そうにこちらを伺っている。

 

「どうだ?」

「んー、力は弱いけど致死的。階段で転んで打ちどころが悪くて死ぬとか全然ある感じ」

「!!!」

 

 息を呑んでショックを受けたように降谷さんが硬直した。

 本人的には弱い呪詛だと思っていたのだろう。

 実際、黒い風の呪詛に比べたらアリと象。人間とキングギドラぐらいの差がある。

 

 だが人間を殺すのに案外強い力は必要ない。

 ほんの少し背中を押すだけ。

 それだけで、人は死に至るのだ。

 

「とりあえず解呪して、代わりに、あー」

 

 少し迷ってから、所在なさげに瞳を揺らす降谷さんを見て頷く。

 

「ニャルラトホテプのマークを刻んどくから、あとは頼んだぞ」

「どういう意味だ!?!?」

「そろそろ降谷さんも加護の与え方を勉強しておこうって話だよ」

 

 俺が黄色の印から各種加護を与えているように、降谷さんもニャルラトホテプの化身としていろいろできるはずである。

 この際少しでも小技を利かせられるようになれば、降谷さん自身助けられることがあるはずだ。

 

「……そんなことを言われてもやり方がわからない。本体に聞いたら変なこと企まれそうだし」

「加護は直感だよ。ハァーッ!て感じ」

「一ミリも伝わってこない」

 

 俺が両手を前に出して力むポーズをしたら、降谷さんはチベットスナギツネみたいな冷めた目で返事をした。

 本当のことなのに。

 魔術と違って加護は直感。思う気持ち、あるいは「これは俺の!」というマーキングである。

 

 仕方ないなぁのび太君は。

 俺はニャルラトホテプのマーク、燃える三眼をまっさらなノートへ刻んで渡した。

 

「はい、これの中に自分の恥ずかしい過去を書いて」

「嫌だが???」

「練習だよ。実際俺が見たりしないから、早く」

「…………」

 

 降谷さんが渋々ノートに何かを書き込んでいく。

 それを覗き込もうとニマニマした顔のコナン君が後ろに回り込んだので、降谷さんがノートを隠しながら逃げ回った。

 

「コナン君!君その表情!ネタにする気満々じゃないか!」

「そんなことないよぉ。ね、僕たちの仲なんだし見せてよ」

「断る!」

 

 なんとか書き終わり、降谷さんがノートを閉じる。

 絶対に開くもんかという意地を感じる。

 

「じゃあ、ここに書かれてるマークがニャルラトホテプの燃える三眼なのはわかるな?」

「ああ。俺と関わりが深い印なんだとわかるというか、不思議な感覚がある」

「ならオーケー。この印とノート全体に念じて、『これは俺のノート!誰にも渡さない!』と強く意識を込めてくれ」

 

 降谷さんが無言で目を閉じた。

 燃える三眼がゆるりと揺らめき、その瞳に権能の光が灯ったのを感じる。

 

「うん、完成。降谷さんも加護の与え方は分かったな?」

「………妙な感覚だ。俺の体の一部?延長線上にノートがあるような」

「これでこのノートは誰にも見られない。加護の方向性は込めた想いに左右されるから、諸伏警部相手だったら『護りたい!』とかがいいかも」

「なるほど。助かった、黄衣君」

 

 「あっ、試しに僕もノートみせて!」とコナン君が言ったので、降谷さんが渡す前に念のため口を挟んでおく。

 

「今の降谷さんの加護の強度だとコナン君に普通に突破されてノートの中身見られるよ」

「油断も隙もないな君は!!!」

 

 コナン君が「えー」と言って降谷さんに弾き返される。

 唇を尖らせてブーブーと文句を言うが、降谷さんは取り合わないようだ。

 

 諦めたのか、静かな瞳のコナン君が降谷さんをまっすぐに見上げた。

 心配と、純粋な思う気持ちがそこには込められている。

 

 降谷さんが僅かに息を止めた。

 

「でも、書いただけじゃ降谷さん、忘れちゃうかもしれないし」

「………」

「僕ぐらい、覚えておいてもいいんじゃない?」

 

 コナン君も、降谷さんの異変に気がついていないわけじゃない。

 付き合いはまだ短いが、それでも彼が取り落としていく人間性を心苦しく思っていたのだ。

 

 降谷さんは少しだけ視線を左右に落としたあと。

 僅かに霞むような笑顔を作った。

 そして「ありがとう」と優しく声を落とす。

 

 

「でも、きちんと僕が忘れないようにするから。……良いんだ」

 





・燃える三眼
諸伏高明に突如刻まれた奇妙なアザ。神紋。
現在は非活性。
ここからどうやって諸伏警部に気付かれず加護を授けるかが難問。

・諸伏警部
突然手形が消え、その代わりに出現した紋様に諸伏高明は調査を進めているようだ。
ジンとは「現場でまた会おう」的に別れて連絡先を交換していない。
お互いその方が良いだろうという判断と、戦友的な同志の念を察したが故のこと。
「バーボン」と呼ばれた怪異のことは気になるが、それはジンに任せるべきとノータッチで行くことにしたようだ。
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