ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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探偵たちの夜想曲〈雑談〉

 

「米国の動きが不穏?」

 

 俺の言葉に、降谷さんは「ああ」とだけ言って頷いた。

 

 ヴルトゥームの件から一週間。

 普段通りの動きを取り戻した探偵事務所は、まったりと依頼をこなす日々が続いている。

 

 そんななかやってきた降谷さんと諸伏さんは、探偵事務所の仕事を少々こなしながらややリラックスした様子で過ごしている。

 どうもこの事務所での仕事を息抜きとして使っているようだ。

 なお、俺は現在事務所の掃除中である。

 はたきで棚の上など高所の埃を落としているなり。

 

 開け放たれた窓から新鮮な空気が吹き込んでくる。

 

 降谷さんがPCになにがしかを打ち込みつつ、あくびを噛み殺した。

 

「今、米国は君への態度を決めかねている。勢力としては主に三つ」

 

 『強大な神を米国の物としよう』という勢力。

 『米国は神の意思に従順であるべきだ』とする勢力。

 『神より独り立ちし、人の力のみで世を運営すべきだ』とする勢力。

 

 それらは水面下で激しく相争い、意見が割れているらしい。

 

 俺は思わずしょっぱい顔を作って、部屋の埃取りを強く握りしめてしまった。

 

「いやその、俺…困るんですけど……」

「上手くいけば日本にとって非常に強い外交カードになる。やってくれるな、黄衣君」

「困るって言ってんじゃん!諸伏さん!公安の回し者が虐めてくる!!」

 

 降谷さんが良い笑顔をするので、俺は諸伏さんに泣きついた。

 だが諸伏さんはいつだって降谷さんに甘いので、「ゼロも大変なんだ、ちょっとだけ、な?」と俺を諭しにくる始末。

 

 俺はわざとらしくごっそりと降谷さん頭上の棚の埃を落とし始めた。

 「うわ煙たっ!?紅茶に埃が入るだろ!!」と非難の声が上がった。

 

 降谷さんが肩についた埃を払いながら、迷惑そうに顔を顰めて言う。

 

「そもそも、君があのセンサーを積んだ回収船をどうにかしないからこんなことになったんだぞ」

「え、なんだっけ」

「あの船が記録したデータから、君の魔術の威力が数字として弾き出された。具体的には、術式を抜きにしたとして北米大陸を丸ごと更地にできるレベルの高エネルギーだ」

 

 俺はぐっと渋い顔をして言葉を飲み込んだ。

 

 間違いじゃ…ないですけどぉ。

 おそらく術式が読み解けなかったから、含まれる魔力量のみを測って威力の概算を出したのだと思われる。

 

 しかし優秀な魔術師だ。

 あの程度のデータから意外と正確な威力を割り出せるなんて。

 そう言う術者がヴルトゥームの種子討伐に加われば話は違ってきたんじゃなかろうかと思うなど。

 

 いや、違うか。

 優秀だからこそ、旧支配者討伐なんて難題を死ぬ気で拒否したのだ。

 

 ヴルトゥームは俺の兄弟としては信じられないほど弱っちいが、それでも旧支配者だ。

 数十億年前に置いてった種子のくずだけでも人類を捻り潰すぐらいわけない……。

 

 うーん。

 冷静に考えたら開幕目覚めかけの種子へ最大火力核兵器投入で潰すことはできたな。

 ああ、ヴルトゥーム。

 どうしてこんな虚弱に育ってしまったのか。それが分からない俺である。

 

 降谷さんがコナン君ににゅっと顔を出して問いかける。

 

「で、実際に魔術を見たコナン君としてはどう思う?」

「綺麗な花火大会だったよ」

「やっぱその感想遺憾の意なんだけど」

 

 降谷さんは生ぬるい顔をしている。

 通常不可視のはずの魔術陣が花火大会に見えるレベルの魔力を纏って空いっぱいに広がっていたら、まあ普通は死あるのみだからな。

 

 TVはお昼のニュースを映している。

 昨日銀行強盗があったらしく、行員が一人撃たれて死亡したようだ。

 というか銀行強盗多すぎ。

 俺が顕現してからもう東都だけで5件目である。

 治安かなりマジにやべーよ。

 

 諸伏さんが完成した書類を封筒に入れて封しながら、ぼんやりと小首を傾げて言った。

 

『ところで、今日は何の依頼があるんだ?昼過ぎに依頼人が来ることになってるんだろ?』

「ああ、それなら親族の遺品の鍵がどこの鍵か調べてくれって内容だな。しょぼい内容だけど、怪しい依頼だからどこにも回せなくて」

 

 ネットを通じて依頼があったもので、依頼人は樫塚圭さん。

 

 兄の遺品の中にコインロッカーの鍵があったんだが、それがどこかわからない。

 遺品だし回収したい、と言う内容だ。

 

 それだけなら毛利さんなんかに依頼をおろしてやってもらうんだが、その依頼料が30万ととてつもなく高額なのだ。

 怪しい。

 特にこの東都でそれは犯罪に加担させられそう。

 

 というわけで、念のため俺たちで樫塚圭さんに会って話を聞いてみようとしたわけである。

 

 諸伏さんは「なるほど」と少し考える仕草をして身を乗り出した。

 

『せっかくだし俺も話を聞いていこうかな。ゼロはどうする?』

「そうだな。俺も参加しよう。コナン君が絡んできな臭い時は大抵碌でもない事件だからな」

「僕のせいじゃなくない?」

 

 コナン君はひどく不服そうな顔をした。

 確かに因果関係は立証できないんだが、こう、間違いなくコナン君のせい的なところは確実にある。

 

 俺が「コナン君、程々にね」と静かに言ったら足元をゲジゲジと蹴られた。

 痛っ、意外と強…痛っ!俺が悪かったです!

 

 さて。

 問題の20分ほど前になると、業務用のアドレスにメールが届いた。

 俺は本文をサラッと読み、つい梅干しみたいな顔になりながら口を開いた。

 

「ん、皆レストランコロンボに集合場所変更だって」

『直前になって何があったんだ?』

「依頼人の都合ってあるけど、なんか…メアドが最初の依頼の時と違うんだよね…」

「どんどんきな臭くなるな」

 

 降谷さんは一周回ってワクワクしてきたらしい。

 「本文を見せてくれ」と言ってきたので、ついでにコナン君と諸伏さんにもメールを転送しておいた。

 

「……これだけじゃまだ何とも言えないな。外出先だから別のメールアドレスを使っただけとも取れる」

「ともかくコロンボに行こっか、お昼ご飯にもしたいし」

 

 戸締りをした後、皆でハイエースに乗ってレストランコロンボへと向かう。

 

 黄衣探偵事務所の入っているビルは小さめの商業ビルの3階にある。

 マンションに比べてセキュリティがやや弱いので、追加で扉にはディンプルシリンダー二つと指紋認証を取り付けてある。

 監視カメラも複数台添えて。

 

 まあ、本当のセキュリティは魔術によるものだが、額面だけでもかさ増しする意味はあるだろう。

 

 徒歩でぷらぷら、コロンボに到着。

 

 俺は席に座って、依頼人から話を聞き終えたら何を食べようか思いを馳せた。

 コナン君が実に不服そうに子供用椅子に座る。

 諸伏さんがニコニコしてコナン君へと問いかけた。

 

『ところで、少年は蘭ちゃんとどこまで行ったんだ?』

「で、デートとかはしてる。手、繋いだり。き、ききき、キスとか、ほっぺに」

 

 コナン君は真っ赤になった。

 青春していてとても良い。何が心に良いものがすーっと効いてくる感じがある。

 たぶんSAN値も回復しただろう。

 

 降谷さんが何とも言えぬしょぼしょぼした表情で頬杖を突いた。

 

「…こういうのが本当の青春なんだな。俺の学生時代は一体なんだったんだ?どう思う、ヒロ」

『説明しよう!』

 

 急にキリッとなった諸伏さんが涙を堪えるように眉間に皺を寄せた。

 

『ご存知の通りの地雷男だが、有名なあまり意外とその私生活は清く正しかった…顔が良いだけのキモ男と判断して、女性が寄ってこないのである…!』

「おい表出ろよ」

 

 屋上へ行こうぜ…久しぶりに切れちまったよ…。

 降谷さんは青筋を立ててそのようにいいたげな顔をしたが、内容自体の否定はしなかった。

 悲しいことだ。

 

 あまりにも悲しくて話題を続けるのが辛いので、さっさと話をコナン君に戻すとしよう。

 

「コナン君、婚約指輪とかどうするんだ?蘭ちゃんに渡すんだろ?」

「………うん。どこか灰原の作った薬で元に戻ったタイミングで一緒に選びに行って。渡すのはロンドンかな。毛利のおっちゃんのところにも挨拶にいかねーとな。で、俺の両親含めて食事会もしたい。並行して式場探しも始めて」

「めちゃくちゃしっかりしておられた」

 

 己のライフプランに対して非常に真摯である。

 俺は自らを顧みて陰鬱な気持ちに駆られた。

 その場その場で適当に億年の歳月を過ごしてきたから…こう…計画を立てた若者が眩しすぎて目に痛い。

 

 諸伏さんは優しい笑顔。

 降谷さんはうおっ眩しっ!と言わんばかりに両腕で顔を覆っている。

 降谷さんはこれで多少浄化された方が世のためだろう。

 

 そうやって雑談すること一時間ほど。

 依頼人はちっとも現れない。

 

 流石にそろそろ事務所に戻っても良い頃合いか。

 嫌な予感を拭えないまま、俺たちが事務所に戻ると。

 

 

 事務所のあるビルは警察によって封鎖されていた。

 黄衣探偵事務所前で、死体が発見された。

 

 

 捜査一課の言葉に、俺たちは重い息をつくのであった。

 





・ジンニキが呪い解除の手がかりを得る話
足の手形が消えない。小さな不幸も続いている。
これはどうやら『足を引っ張る呪い』のようだ。
小さくとも確かに、ジンを殺しにくる。
そんなある日、駅地下で占い師の女に声をかけられた。
「あんた、呪われてるね?」
くだらない客引きを聞く義理はないので無視する。
「右足に手形がべっとり。このままじゃあんた、遠からず足を引かれて死ぬよ」
「……!」
女は若く美しかったが、どこか生気のない青白い顔をしていた。
この界隈では『占い師のミヨ』として通る女で、金持ち相手に相談に乗って大金を稼いでいる凄腕占い師らしい。
そんな女がなぜ、こんな薄汚れた場所で占い屋台を出しているのか。
「あんたがここを通るって分かったからね。私ではこんな呪いどうしようもないけど、アドバイスぐらいはできる」
女は紙に妙な模様を描き、渡してきた。
「それは何だ、女」
「さあね。あたしは見えたものを書いてるだけさ。でもこれを追っていけば、その酷い呪いも何とかできる未来が見える」
女は病弱そうに息を上げながら弱々しく微笑んだ。
「お代はいらないよ。あたしはあたしの見えるもので人を救うのが趣味なだけだからね」
「………チッ」
この女の命はあと僅かに見えた。
財布から札を出して押し付けると、「沢山持ってるし、いらないよ」と答えた。
ジンはもう一度舌打ちして、模様の描かれた紙を受け取った。


・酷い話
黄色の印を草花で囲ったような紋様が、降谷の目の前にある。
ジンの見た模様を可能な限り詳細に複製したものだ。
「この紋様に覚えはあるか?」
黄衣に聞くと、「んー、あ、青来寺!」と答えた。
どうやら青来寺という有名な仏閣にある打敷の紋様らしい。
「あそこはエメラルド・ラマの『モノを直す』加護を代々受け継いでるんだ。たぶん持ってる青仏を完全な形に戻そうとしてるんじゃないか?」
うんうんと頷いて黄衣は「あの青仏さえ効果を発揮すればあの薄い呪いなんてすぐ取れるし」と言った。
降谷は薄ら寒い心地になった。
「では、あの占い師は本物ということか」
「本物というか……酷いことを考える人もいたもんだ」
黄衣は憂いのある顔で俯いた。
「魔術でハスターの瞳とつながるとするだろ。そのまま、『子を儲ける』んだ。代々代々」
「……」
「そうしていずれ、魔術を使わなくとも『繋がりっぱなし』の子が生まれる」
「それは、大丈夫なのか?」

「大丈夫なもんか。可哀想に、永くないよ。その人も、その人の子も、その孫も」
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