ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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探偵達の夜想曲〈君、音楽好きか?〉

 

 ビル前で部下達に指示を出す目暮警部と合流。

 警部は「おお、黄衣君!来たか!」と手を振って俺たちを歓迎した。

 

「ついに事務所も事件現場になったか。いつかそうなるとは思っとったが、君の死神具合にも磨きがかかってきたな」

「俺のせいじゃないんで冤罪ですよ」

 

 目暮警部がはっはっはと笑うから、俺は最低限自分の無罪を言い募った。

 真犯人はここにいる小さくなった名探偵である。

 俺のじとっとした視線にコナン君は「僕も無罪だけど」と唇を尖らせた。

 

 罪をなすりつけ合う俺たちに、目暮警部が咳払いした。

 

「それで、何か心当たりはないかね、黄衣君」

「心当たりしか無いですね…」

 

 直前まで受けていた依頼が関係しているとしか思えないタイミングだからな。

 

 ひとまず警察の事情聴取に応じるため、黄衣探偵事務所を開けて警部達を中に案内することにする。

 

 鍵穴はメチャクチャに壊されていたが、事務所のドアは開けられなかったらしい。

 ただ壊されて修理費がのしかかる状況に、自然と重いため息が出る。

 借金はここのところのY◯TUBEの投げ銭収入で返済の目処が立ったが、手痛い出費なんて無い方がいいに決まっている。

 

 目暮警部が片眉を上げたところで、コナン君が口を開いた。

 

「僕たち、依頼人に呼ばれて直前にこの探偵事務所を出たんだ。でも最初に来たメールアドレスと違ってて…」

「依頼人とは違う何者かに、僕たちは探偵事務所の外へ誘導されたんじゃ無いかと考えているわけです」

『どうやら犯人はこの事務所に入りたかったみたいだし。おおかた事務所員になりかわろうとしてたんじゃないか?』

 

 つまり殺された男こそが本物の依頼人、樫塚圭。

 犯人は彼に成り変わり、俺たちを探偵事務所の外へと誘導。

 その隙に事務所員に成り代わって近づき、依頼人を殺害した、というわけである。

 

 弊探偵事務所の頭脳達が立て続けに繰り出す推理に、目暮警部が「なるほど…!」と納得した顔をしている。

 俺にそういういい感じのキレは実装されてないので、大人しく事務所前の防犯カメラからデータを吸い上げておく。

 悲しいがこれも役割分担ってやつだから。

 

「っと、これが監視カメラのデータだ。USBにも入れておいたのでどうぞ」

「すまないね黄衣君。では、拝見させてもらおうか」

 

 みんなでノートPCに繋いだ中型モニターを覗き込む。

 

 映った映像には、顔出しで堂々と事務所の鍵を壊そうとする女性が映っていた。

 雑に持ってきたドライバーで奮闘すること15分。

 何やら悪態をついて諦める。

 そしてエレベーターの脇に隠れ、拳銃を構えてさらに15分。

 

 依頼人である男がエレベーターから姿を現すと同時に、後ろから発砲。

 男の持っていたスマホを盗んだあたりでようやく防犯カメラに気付いたようだ。

 

 慌てふためいてカメラに手を伸ばすも高所ゆえ届かず、下階から声が聞こえて動転しながら足早に去っていった。

 

 降谷さんが困惑して首を傾げた。

 

「妙ですね。僕なら呼び出す事務所の鍵ぐらい事前に調査しますが。何かそうできない理由があったんでしょうか」

『カメラも気づいてなかったし、下見してなかったんだろうな。探偵事務所に近づけない…既に指名手配されていて、おいそれと外を歩けなかった?』

「それなら犯行場所を探偵事務所にすること自体リスクだよね。事務所前で殺すことに意味があった…逆恨みとか?」

 

 俺は眉間に深い谷を刻んで探偵達の相談に脳内でだけ反論した。

 

 いや、画面を見る限り何も考えてなさそうだぞ……。

 行き当たりばったり、圧倒的ライブ感の香りがする。

 まあええかの精神だ。

 

 高INT(知性)勢には分からんだろうが、こう言う精神状態の時だって人には存在するのだ。

 アッパラパーモードとも言う。

 

 目暮警部は迷走する探偵達の言葉にふうむと首を捻ったようだった。

 

「ともかく、我々は逃走した女の行方を追うことにする。協力ご苦労」

「警部もお気をつけて」

 

 全員で一礼して、警部を見送る。

 まだ納得し切れていないのか、探偵達は難しい顔をして話し合っている。

 俺が口を挟むのもなんだが、流石にこれ以上迷走しても可哀想なので一言言っておくこととしよう。

 

「あのさ。犯人の行動、そう難しい話じゃないと思うぞ」

「……どういうこと?」

 

 コナン君達の視線が俺に集まる。

 まだ外では現場検証が続いていて、鑑識さんが行き交っているのが見えた。

 

「ようは、犯人はどうなったっていいと思ってるだけだと思う。これが終わったら何が起ころうとかまわないってな」

「!!!」

 

 コナン君の顔が驚愕に歪む。

 ふむ、とどこか納得した様子の降谷さんに対して、諸伏さんは困惑した様子だった。

 

『それほどの決意があるのに捨て鉢な犯行をするのか?命を捨てるなら万全を期すだろうに』

 

 降谷さんが薄暗い表情で身じろぎして、「時間がなかったんじゃないか?」言った。

 

「もうすぐ致命的な事態が起こるから。そうなる前に犯行を済ませておきたかった」

『なるほど。ならその可能性もありうるか』

 

 降谷さんは薄っすら己と諸伏さん自身の過去に絡めて発言しているのだろう。

 自殺した諸伏さんの、当時の状況に。

 しかし諸伏さんは何も気づいていないようだ。

 そのせいでどんどん降谷さんだけ卑屈な顔になっていく。

 諸伏さん、罪な人…。

 

 コナン君は二人の悲しいコントを無視してどんどん推理を進めていく。

 

「………犯人はスマホを盗んでいった。まだ標的が残ってるのか?その連絡先は今日殺された男しか知らなかった…」

『んー、正直手詰まりな感も否めないな。拳銃の出どころから洗うか?』

「東都で拳銃はありふれた品だ。そっちから洗ったら日が暮れる」

 

 降谷さんが口をへの字に曲げてイライラし出した。

 現状に満足していないようだ。

 ロアナプラ米花町説が現実味を帯び出してきている。

 

 俺はほう、と息をついてソファに座り直した。

 

「治安維持上の失敗ってやつか。治安が悪い国ランキングで日本の順位年々上がってそう」

「そういうのをネットでは事実陳列罪と言うそうだな。逮捕してほしいのか?」

「マジトーンやめて。公安的逮捕術もやめて」

 

 降谷さんが極寒の笑みで取り出した結束バンドを弄んでいる。

 というか降谷さんSNSとか見るのか。

 いや見るに決まってるな、仕事だし。

 

 そこで不意にコナン君のスマホが鳴った。

 ポップな子供らしい音を奏で、二台のうち片方のスマホを取り出して「うげっ!」と顔を顰めた。

 渋々電話に出る顔はにがりきっている。

 

「……もしもし、世良の姉ちゃん?」

『コナン君、ニュース見たよ!僕も今探偵事務所に向かってるから!』

「何の用?」

『そんなの僕も探偵なんだから、事件を追うことに決まってるじゃないか。コナン君のことも心配だし。じゃ、待っててくれよな!』

 

 ぶちっと途切れて、コナン君がヘニャヘニャの顔をした。

 どうやら早くもこの殺人事件がニュースになっているらしい。

 たしかに、ビル前の野次馬の中にTV局のレポーターの姿もあったな。

 

 それにしても意外だ、と俺はコナン君を見つめた。

 あんなに凄い絡んでくる子なのに、電話番号を交換していたなんて。

 

 俺の視線に気づいたコナン君が憮然とした。

 

「蘭とよく一緒にいるから交換せざるを得なかったんだっつの。アイツの意見自体は探偵として確からしいし」

「へえ、君がそう言うなら結構な探偵じゃないか。何て名前だい?」

「世良真純。安室さんは聞いたことある?探偵で、帝丹高校で蘭の同級生だよ」

「ふぅん?いや、聞き覚えはないな」

 

 降谷さんはどこか面白そうに双眸を怪しく細めた。

 単純に興味があるだけだと思われるが、どうも悪の組織の黒幕みたいな表情の使い方をする人である。

 たぶん重度の職業病であろう。

 

 さて。

 俺はのそのそ鍵穴の具合を確かめて、大きく息をついた。

 外出の準備はバッチリ。

 車の鍵を取り出したあたりで、諸伏さんが首を傾げた。

 

『どこ行くんだ?』

「世良さんが来たら犯人を救出しにいこうと思って。ほら、犯人、俺の防犯魔術を踏んじゃってるっぽいから」

『……そうか、それ外周も対象範囲なのか』

 

 さあっと諸伏さんの顔が青ざめた。

 降谷さんもコナン君も同じように「ヤバい!」とでも言いたげな表情をしている。

 

 降谷さん達が探偵事務所で仕事をするにあたって、事務所にはかなり緻密に防犯魔術を仕掛けてある。

 撮影禁止、盗聴禁止の呪い、覗き見防止空間断層、GPS類無効化、書類複製検知魔術、エトセトラ。

 もちろん強盗や空き巣は生かして返さないし、持ち出しも許さない。

 

 扉には物理錠を突破しようとした場合の反応式攻性魔術が仕掛けられている。

 

 鍵が突破されていた場合はその場で侵入者は無力化される。

 突破されなかった場合は「後追いの魔」が犯人の後を追跡する。

 1日以内に自首しなかったなら、「後追いの魔」は犯人を強制的にひっ捕えて事務所まで連れてくるのだ。

 

「まあほっといても命に別状はないんだけどさ。不必要に怖い思いはしないほうがいいかと思って」

「結構徹底してるな。1日の猶予を設けた理由は何だ?」

「指示役がいた場合、接触してくれるかと思って」

「なるほど」

 

 降谷さんは大いに納得して満足そうだ。

 どうせ扉を突破できなかったなら危険性は低いし、釣り出して指示役まで捕えられる方が効率がいいと思ったのだ。

 

 ちなみに、「後追いの魔」はとりもちのようになっていて、指示や共犯等繋がりが深い場合、電話やメール、そのほかやり取りを通して感染する。

 物的証拠を押さえるため、やり取りした状況と内容も記録する。

 

 今回の犯人の場合は単独犯だろうし、特に意味はない機能なのだけれど。

 

 などと言ってる間に世良さんが到着したようだ。

 コナン君の電話に「着いたから入れてくれよ!」と連絡が入っている。

 どうやらビル入口の規制線で阻まれているようだ。

 

 きっと彼女も現場を見たいだろうし、コナン君が彼女を呼びにいくのをそのまま見送った。

 そういえば降谷さんと諸伏さんは初めて彼女に会うんだったか。

 

 チン、と軽いエレベーターのチャイムが聞こえた後。

 二人が事務所に入ってくる。

 

 世良さんが、諸伏さんを見て驚愕に顔を強張らせた。

 

 緊迫した空気。

 ピリッとした良くない感覚。

 降谷さんが僅かに目を細める。

 

 ニコリと笑って、諸伏さんは世良さんを歓迎した。

 俺もおずおずと所員を代表して世良さんへと声をかけた。

 

「久しぶりだな世良さん。こっちは所員の日色さんと安室さんだ」

『初めまして。俺は日色ヒカル。同じ探偵としてよろしく頼む』

 

 挑戦的に睨め上げて、世良さんがゆっくりと口を開いた。

 

「………初めましてじゃ、ないよな?四年前、アンタが僕に声をかけてきたんだ」

『そうだったか?ちなみに、何て?』

「『音楽は好きか』だったかな」

 

 諸伏さんは少し考える仕草をした後、困ったように首を傾げた。

 

『すまないが、覚えがないな。俺はカラオケをする程度で楽器には触れないし』

「……僕は音楽は好きか、とだけ言ったのに。どうして楽器が関係するとわかるんだ?」

 

 鋭い視線は穿つようで、俺なんかなら睨み据えられただけでひとたまりもない。

 だというのに諸伏さんは穏やかに笑ったままで、その胆力の違いが滲んでいる。

 

『はは。単に君に話しかけた男はライブか何かをやっていて、だからまだ小さい君に「音楽は好きか」なんて声をかけんだろうと推理しただけさ』

「………」

『その様子じゃ外れていたみたいだが。俺も探偵としてまだまだだな』

 

 なにか舌戦が繰り広げられているらしいのだが、俺にはよくわからない。

 

 居心地が悪くて、ポヤッとしたままとりあえずコナン君を抱き上げた。

 大変抱き心地が良く、時折足で不満げに蹴っ飛ばされるところ以外は言うことがない。

 

 世良さんに「あっ、僕も!」と言われたので大人しく渡しておく。

 コナン君は機嫌の悪い猫みたいな険しい顔をした。

 思う存分世良さんがもみくちゃにしていく。

 

 なるほど。猫は世界を救う。

 

 そのような気持ちで、リセットされた空気の中犯人の元へ向かったのだった。

 





・米国の動向
黄色の印の兄弟団は「米国は神にこうべを垂れ、慈悲を願うべし」としてロビー活動を進めている。
信者を集めて大規模集会を行い、神に祈りを捧げる取り組みも実施しているようだ。
この祈りは旧支配者ハスターにもきちんと届いており、夜な夜な「うーん、わかった、分かったから落ち着いて…うーん」と魘される旧支配者がいたとか何とか。
降谷さんと日本国がそっとテコ入れしている勢力。

神の力を手にする!と息巻く集団は主に政界・軍事界隈に見受けられる。
純粋に魔術や怪異を軍事転用しようとしていた勢力でもある。
ABC兵器(大量破壊兵器)の亜種として、怪異の齎すルールを利用する研究を行っていた。
とはいえ事故も多く研究は上手くいっておらず、今回の旧支配者ハスターの軍事的価値を前に復権を狙っている。
作中の現米大統領のスタンスでもある。

科学のみ、人の力のみでと息巻くのは人権派や純粋な基督教系の議員に多い。
怪異の知識も魔術の脅威にも疎く、旧支配者の存在に懐疑的である事も多々ある。
とはいえ知識不足なだけのことであり、その詳細を知った上で人の力を掲げる者は多くない。
ハスター主がこっそり応援してる勢力。


・探偵事務所の防犯設備
流石に死者は出さないよう配慮された作りだが、侵入者が無理やり逃げ出そうとすれば死ぬ事もあるかもしれない。
「後追いの魔」は魔術で編まれた仮想神話生物で、夢のクリスタライザーの守護者に似ている。
その長い触手で侵入者をひっ捕え、市中引き摺り回しのうえ探偵事務所に連れてくる。
もしそうなった場合非常に目立つ事に、黄衣は気付いていない。
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