ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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探偵達のノクターン〈ミュージアムマター〉

 

 車で向かうは、都内にあるさびれたマンションである。

 

 道中「なぁ、どこへ向かってるんだ?」と世良さんに尋ねられたが「着けばわかるよ」とだけ答えるに留めた。

 マンション前に車を停め、ゾロゾロと階段を上がる。

 

 対象のいる部屋にたどり着いたら、チャイムを一押し。

 

 ピンポーン、と量産式の良く聞くチャイムが響く。

 犯人はここにいるはずなのに出てこない。

 

 もう一度押して返事を待った後、「大家さんからマスターキーを預かってますから、入りますね」と声をかけた。

 それっぽい形の偽の鍵を差し込む、ジャラリとした金属音。

 

 犯人は慌てて扉を開けた。

 同時にコナン君が目を見開く。

 

 犯人の女性が恥ずかしそうに笑うふりをした。

 前髪を上げており、どうやら髪型を変えて少しでも変装をしていたらしい。

 

「すみません、寝ていて出てくるのが遅くなってしまって」

「いえいえ。ところで貴方、探偵事務所の防犯カメラに映っていた殺人犯の方ですよね?」

 

 女性が愕然と表情を凍らせる。

 狼狽えながら、なんとか舌をもつれさせつつ言葉を紡ぐ。

 

「な、んの、ことですか?私は昨日からずっとこの自室にいて」

「へえ。ここ、あなたのお宅なんですか?一人暮らし?」

 

 降谷さんがニコニコと安室透めいて薄っぺらく笑って口を出した。

 

「……ええ。ここは私の一人暮らしです」

「それにしては男物の靴しかありませんね」

「こ、これはよく兄が訪ねてくるので」

「なるほどなるほど。男物のサイズ違いで二種類。片方はお兄さんだとして、もう片方は?」

 

 きっと女性は降谷さんを睨み付けて語気を荒くした。

 

「貴方には関係ないじゃないですか!何のようなんですか貴方達!帰ってください!」

「僕達は昼間探偵事務所の前で殺人を犯した犯人を追ってまして。捜査協力してくださいますよね?」

「私は関係ないって言ってます!」

「………お姉さん」

 

 コナン君が犯人の女性を見上げて、悲しそうに眉を下げた。

 

「奥から、変な匂いがするね」

「ッ!!!」

「警察ももうじき来るよ。その前に、少しだけでいいから僕達にも話を聞かせて」

「………」

 

 犯人は諦めたのか、それとも思惑があるのか。

 俺たちを「……入って」と言って静かに室内へと案内した。

 

 奥に通されるとようやく俺も「変な匂い」に気付いた。

 放置した生ゴミの匂いだ。

 

 諸伏さんも降谷さんも世良さんも、かなり表情が鋭い。

 

 そしてパーティの名残ような散らかった机の前に通されて、大人しく座る。

 世良さんはすぐに構えられるよう膝立ちだ。

 

 まあそういう意味では降谷さんも諸伏さんも立つ意味のない存在だし、構えは必要ないのだろう。

 降谷さんは足元を風にして動き出せば体勢なんぞ無視できるし。

 諸伏さんは幽霊パワーで胡座をかいたまま宙に浮かぶことができる。

 

 ………ふむ。

 急なブッダモードで犯人を拘束する諸伏さんか。

 絵面がシュールになりすぎるな。

 

 などとよそごとを考えながら俺も会話に加わる。

 

「じゃあ単刀直入に聞きたいんだけどさ。今日探偵事務所に侵入しようとして、依頼人を銃で撃ったのは貴方だよな?」

「……ええ。そうよ」

 

 彼女の独白は非常に明確かつ簡略だった。

 

 恋人が先日の強盗犯に殺されたこと。

 その復讐のため、三人の強盗犯を殺して回っていること。

 残り一人が見つからないこと。

 

『じゃあこの家主は件の銀行強盗犯か』

「言い逃れできないと悟って拳銃を向けてきたから、返り討ちにしてやったわ」

 

 想像を超える剛の者であった。

 そして拳銃を奪って二人目を釣り出し、殺害。

 しかし警戒した三人目が捕まらず、ここで悩んでいた、というわけだ。

 

 銀行強盗は昨日の事件だというのに凄まじい行動力だ。

 今後どうなってもいいと思って捨て鉢にも関わらず顔も名前も知らない相手をわずか1日で二キル。

 多分前世は名の知れた暗殺者に違いあるまい。

 

 俺が静かに戦慄していると、横で世良さんが目を細めて言った。

 

「なら、残りの謎は三人目はどこにいるか、かな。ちょっと家の中を見せてもらっていいか?」

「…え、ええ。でも何で…」

「別にいいだろ?どうせアンタも僕達を脅してそれを解かせて、殺しに行こうと拳銃を隠し持ってたんだから」

「………分かってて、部屋に入ってきたのね」

 

 世良さんが立ち上がると同時に、諸伏さん、降谷さん、コナン君も家探しを始める。

 これはもう探偵ってやつの習性なのだろう。

 

 謎があるなら解かねばならない。

 事件があるなら真っ先にそこへ集まり、秘密を白日の元に晒していく。

 

 隠されたものはそのままにしておけ、な思考の魔術師とは正反対のあり方だ。

 

 一応俺は犯人の見張りとして残ることにした。

 既に犯人の背に「後追いの魔」の姿はない。

 俺の前で犯行を自白したことで解除条件を達成して消滅したのだ。

 

 五分もしないうちに探偵三名は残りの一人の住所を割り出した。

 部屋にあったPCのパスワードを突破してログインし、メールを漁って引越しのお知らせを探り当てたらしい。

 

 ほぼピラニアの群れである。

 リアル脱出ゲームに行ったら荒らし扱いされそうだ。

 

「この住所は警察に届けましょう。死体のことと、彼女のことも」

『だな。流石に野放しにするのは危険すぎるし。拳銃もまだ持ってるっぽいし』

 

 任務終了感を出す二人をよそに、世良さんが俺へと意味ありげな視線を送る。

 まだ謎は残っているぞ、とでも言いたげだ。

 

 しかし行動を起こしたのは、犯人の女性の方が先だった。

 

 ジャキリ、と。重い金属音。

 拳銃をコナン君へと突き付けようとしたその瞬間───。

 

 世良さんが鋭いハイキックで犯人の手を蹴り上げた。

 主を失った拳銃が部屋の角へと落下し、それを諸伏さんが拾い上げる。

 

「分かってたんだから、警戒ぐらいするさ。だろ、コナン君?」

「ありがと、世良の姉ちゃん」

 

 世良さんは非常に満足そうに満面の笑顔を浮かべている。

 コナン君に感謝されて嬉しいらしい。

 

 持っていた結束バンドで犯人を拘束すると、降谷さんがスマホをとった。

 あっ、あれは俺が軽口を叩いた時俺の拘束に使おうとしていた結束バンド!

 まるで表情の無い業務的な動作でスマホを操作し、目暮警部へと電話をかける。

 

「ええ。目暮警部。現在犯人と共にいまして、現在地はメールでお送りした通り……いやいや!そんな。はい。申し訳ありません…以後気をつけますので…はい」

 

 おっと。

 電話越しにかなりの怒鳴り声が聞こえる。

 めっちゃ怒られているらしい。

 そりゃ拳銃持った犯人に民間人が突撃して行ったら怒られるわな。

 俺がかけなくてよかった、と安堵していたら降谷さんに睨みつけられた。

 怖や怖や。

 

 

 そうして犯人は逮捕、銀行強盗犯も時を同じくして同様に逮捕されていった。

 

 帰りの車を運転するのは俺だ。

 今日も一日目一杯使ってしまったから、依頼が山のように溜まっている。

 これは帰ってからコナン君をフル稼働させねば期限に間に合うまい。

 

 PCを開いて何やら操作しながら降谷さんが口を開いた。

 

「ついでだし僕達も一泊しよう。やりたいこともある」

『そうだな。少年を徹夜させるのも酷だしな』

「ハハ…ごめん日色さん」

 

 公安組二人の言葉にコナン君が申し訳なさそうな顔をした。

 

 公安組はこうして黄衣探偵事務所を仮宿にすることも多く、仮眠用のベッドも奥に置いてあったりする。

 深夜に事務所でカップ麺啜った後寝るとかもあるようだ。

 事務所の中は魔術によって守られ、施錠してあれば絶対安全だから、そういう意味でもありがたいのかもしれない。

 

 コナン君の隣に座る世良さんが、バックミラー越しに俺をじっと見つめた。

 

「ところでさ。何で犯人の居場所がわかったんだ?」

 

 残されてたのは監視カメラの映像のみ。

 警察だって検問を張って犯人を捕まえようとしてたぐらいだったのに。

 

 世良さんはそのように言って、狩人のように目を細めた。

 俺は少し考えてから、正直にいうこととする。

 

「不思議な力だよ。俺の魔術で犯人の位置を割り出しただけ。タネも仕掛けもない」

「………もしかして僕を揶揄ってる?」

「いやかなり本気。広義で言えば俺は探偵じゃなくて魔術師だし」

「ふぅん」

 

 全然信じてない顔で世良さんはそっぽを向いてしまった。

 本当なのに。

 俺は趣味で魔術をやってる者です。

 

「コナン君はどう思う?魔術ってあると思うか?」

「あるよ」

 

 冗談で聞いただろう世良さんに、コナン君は素早く断言した。

 真剣に、真摯に、恐怖を湛えながら。

 

 俺の言葉を肯定したのだった。

 

「あるから、世良の姉ちゃんも気をつけて」

「…………わかった。君が、そう言うなら」

 

 世良真純は、息を呑んで頷くに留めた。

 

 

 

 

 

 滞在するホテルに戻り、世良真純は部屋のシャワーを浴びた。

 

「………」

 

 水滴がタイルを打つ音が耳に響く。

 このホテルの浴槽は小さいが、海外暮らしも長い世良には特に不満もない。

 

 正直なところ疑問が残る事件だった。

 この間の幽霊ホテルの件もそうだ。

 

 高木渉巡査部長はどんなに聞いてもホテルの別館で何が起こったのか話そうとはしなかった。

 あの時は推理に不可欠なピースが揃っていたから見逃したが。

 今回、あの探偵事務所の行動は不自然にすぎる。

 

 考えが纏まらないまま風呂を出て、タオルで髪を乾かしながら部屋へ戻る。

 ベッドに腰掛け、世良の母、メアリーはニュースへとじっと見入っていた。

 幼い姿はとても母には見えないが、相当の事情があることを世良は知っている。

 それはきっと、江戸川コナンの身に起こったことでもあろうことも。

 

 ニュースが変わった。

 黄衣探偵事務所の前で死人が出た件だ。

 

 ちらり、とメアリーが世良へと視線を送る。

 

「真純。それで、探偵事務所はどうだった」

「分からないことだらけだよ。結局、魔術がどうとかって誤魔化されちゃったし。何か裏にあるのはわかるんだけど」

「魔術、か」

 

 思ったより深刻そうな相槌だ。

 視線を落としてしばらく考えた後、メアリーは手元の新聞にボールペンで奇妙な紋様を描いていく。

 

 歪んだハテナマークが連なったような、少々不気味な紋様だ。

 

「所員にこんな妙なマークをつけた人間は居なかったか?」

「……それなら、探偵事務所の棚の隅に小さく描いてあったかも」

 

 あと部屋の四隅、か。

 小さく黒い塗料でスタンプのように押されていた。

 ロゴマークにしては位置がおかしいから気になってはいたのだ。

 

 メアリーは紋様を描いた部分だけを千切り、灰皿で火をつけた。

 すぐに紋様は灰となり燃え尽きた。

 

「真純。今後一切、あの事務所に関わるな」

「ええっ!?何でだよ!コナン君もいるのに!」

 

 メアリーが鷹のように眼光を鋭く世良を睨んだので、世良はしおしおと小さくなった。

 

「あの少年がどうであれ、関わるのは危険過ぎる。アレは『博物館案件』だ」

「博物館…案件?」

「聞こえないふりをしろ。見えていないことにしろ。絶対に関わるな。いいな、真純」

 

 ミュージアムマター。

 初めて聞いた単語だ。それが何を示すのかもよく分からない。

 母の剣幕もまた、常にない厳しさがある。

 

 江戸川コナンの言葉を思い出す。

 「世良の姉ちゃんも、気をつけて」。

 

 それが危険であることは疑いようもない事なのだろう。

 関わるだけで、見聞きするだけで命の危険すら及ぶ領域。

 

 世良はペロリと唇を舐めて、嬉しそうにした。

 

 

 好奇心は猫を殺すというが。

 死んでからが、一人前の探偵であるのだ。

 





・世良さん
探索者適性のあるタイプの探偵。
跳ねっ返りだがポテンシャルは高い。
好奇心こそが原初の道標、探索者の歩む深い闇に光を照らすものだ。

・メアリーさん
博物館案件の鉄則はMI6にもしっかり教育されている。
見るな。触れるな。然るべき場所に通報した後、忘れた事にしてしばらく休暇を取れ。
その休暇が、人生最後の日になることも少なくないのだから。

・ジンニキ進捗
青来寺に到着した。
とりあえず通常通り参拝した後、小さなお堂の周辺を回る。
小さな寺だ。参拝場所の横にボロボロの手書きの貼り紙で「修理のご祈祷やってます──¥1000」と書いてある。
寺務所を覗いたら人がいたので「おい、祈祷をやっているとあったが」と声をかける。
耳の遠い老僧が「あー。やっとるよー。今からやるかいね?」と返事した。
千円払って、ひとまず持っていた青仏を手渡す。
特に壊れているようには見えないが、これぐらいしか渡せるものがない。
老僧は「んー」と唸って持っていたくしゃくしゃの布の上に青仏を置き、何やら念仏を唱え出した。
短い念仏の後、「はい、終わり。まいど」と言って青仏を返してきた。
特に変わったところは見えない。
が、受け取った瞬間、右足がふっと軽くなった。
よたよたと老僧が寺務所に帰っていく。
「あんたさんね、気をつけなね。それ、長くは助けてくれないからね」と振り返って言うと、またよたよたと扉を閉めた。

なんともまあ、呆気ないものだった。


・降谷さんのコメント
老僧に助けられましたね。
念仏が原始魔術として機能している稀有な例です。
しばらくの間、物を元あった状態に戻す魔術、とでも言えばいいのでしょうか。
非常に簡易かつ効果は絶大。
在野の天才によって作られたのでしょう。素晴らしい出来栄えです。
現在青来寺は後継がいないようですが、この魔術の失伝が懸念されます。

次回からは少し難易度に調整を入れましたので、もう少し安定感が出ると思います。
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