ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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命を賭けた恋愛中継〈後悔と無念〉

 

 軽く情報を佐藤刑事に共有した後。

 

 俺たちは対策会議が開かれている間10分ほど別室待機である。

 

 適当な会議室に通されて、ぶらぶらとパイプ椅子にて時間を潰す今現在。

 もう少ししたら俺たちにも詳しい事情聴取がある予定だ。

 俺、降谷さん、コナン君の三人で待っていると、向かいの部屋から怒号のようなものが漏れ聞こえてくる。

 

 なお、子供達は予定通り撮影の方に向かわせている。

 事件の方は俺たちで対応できるし、子供達は撮影会があった方が心も上向くだろう。

 

 まあ子供達は「ええ!?コナン君写真とらないの!?」「オメーがいねぇと探偵団って感じしねーよ!」と心配をあらわにしていたが。

 優しい子たちである。

 

 ちらり、と視線を横に這わす。

 隣に座る降谷さんは険しい顔で俯いているようだ。

 

 先ほど、明らかに佐藤刑事は降谷さんをガン見していた。

 

 少し迷った後、念話越しに聞いてみる事にした。

 万が一話している途中で刑事さんが来てもいいようにだ。

 既に諸伏さんとの念話グループが繋がってるし、これならちょうどいいだろう。

 

 少し間を置いてから、降谷さんにそっと声をかける。

 

『あのさ。さっき佐藤刑事が降谷さんを妙に熱心に見つめてたように見えたんだが、何か接点あったのか?』

『………まあ』

 

 降谷さんはバツが悪そうに視線を逸らした。

 同じく気になっているらしいコナン君も視線を向ける。

 

『……警察学校の卒業式で制服姿で出歩いていた時…様子を見に来てた大学生の彼女と会ったことがあるんだ。なんて言ったかまでは覚えていないが、会話した記憶もある』

『うおぉ』

 

 俺はつい間抜けな声を出してしまった。

 

 佐藤刑事がそれを思い出したら安室透=警察官の図式が即完成。

 人事情報を調べればすぐに安室透と言う名の警官がいない事はバレる。

 

 つまり、安室透という人物の圧倒的不審さが浮き彫りになるのは時間の問題というわけだ。

 

『バレたら終わりじゃん。ガバガバかな?』

『仕方ないだろ僕だって警察学校生として生きた過去がある以上、隠せないものぐらいある!』

 

 おや、と降谷さんの発言に俺は目を見張った。

 警察学校生として生きた過去、と降谷さんは言った。

 ガワの経歴がある、とか人間としての過去、ではなくだ。

 

 警察学校に強い思い入れがあるようだから、そのせいで警察学校時代の記憶は認識が強い可能性も無くはないが。

 前回の調整で少し人間性を取り戻した、ということも十分考えられる。

 

 そう言えばアレを聞いてなかったな、と思って確認する。

 

『なあ降谷さん、貴方の本名は?』

『……ニャルラトホテプだが。これ何度も聞かれているが意味あるのか?』

『だめかー』

 

 俺とコナン君は同時に肩を落とした。

 「何がだ」と胡乱な顔の降谷さんが口を曲げる。

 

 だが、このやりとりで降谷さんの魂を定点観測している魔術データも一定程度揃った。

 ちょうどいいし、少し手を入れるとするか。

 

 隣に座る降谷さんの胸に手を当て、ずいと魂を露出させる。

 前回のデータがあるので魂の干渉はすぐできる。

 そのまま肉体との繋がりを保ったまま、手元まで魂を引き摺り出した。

 

「!?!?!?」

 

 驚愕する降谷さんを放置。

 魂をぐるりと検分する。

 大部分をニャルラトホテプに侵食され、丸々と太った健康そうな魂が手元に来る。

 見たところ、前回の施術の予後も悪くなさそうだ。

 

 降谷さんが目を剥いて騒ぎ立てた。

 

『急に何してるんだ!?それ俺の魂だろう!?』

『ちょっと追加で治療しときたくて』

『もう後少ししたら佐藤刑事が来るんだが!』

『すぐ終わるから大丈夫』

 

 適当になだめて施術を開始する。

 

 魂の内部の一点を、少しだけ上へと縫合してバイパスを通す。

 人格部分まで横断するようにニャルに侵食されているが、そこを避けて上下を正しく接続する感じだ。

 人間としての自認を確かにする効果が期待できると思われる。

 

 すう、と魔術の補助を受けて魂が僅かに引き攣れる。

 たぶんその感覚が引き金だったのだろう。

 

「ッ、んんっ!」

 

 突如、降谷さんが夜の褥で出すような艶かしい声を出した。

 

 しばらくの静寂。

 

 次の瞬間。

 赫赫と燃える三眼を見開き、降谷さんが俺へとドス黒い怒りの眼光を向けた。

 本性剥き出し一歩手前、しかし顔は羞恥に真っ赤に染まっている。

 

 凄い圧だ。激怒しておられる。

 俺は命の危機を感じ、ひとまず自分の無実を主張することにした。

 

『治療上のことだしそんな怒る事ないだろ!真昼の庁舎で成人向けビデオみたいな声上げさせた俺にも非はあるけど』

『非しか無いが???』

 

 繋ぎっぱなしの念話の向こう側から諸伏さんが困惑した声を出した。

 

『えっ、そっちでゼロに何が起こってる?少年もいるけど見せていいこと?』

『急に俺の魂を黄衣君が弄んだんだ!俺は悪くない!』

 

 やはり大層お怒りのようだ。

 

 蛇足だが、この手のトラブルに俺は意外と耐性がある。

 なぜなら古代より俺こと触手神をフューチャーした成人向けコンテンツは数限りないからである。

 

 神の寵愛を受けた…という名目で始まる薄めの本とか。

 背教者が神より罰を受けて改心させられる…という触れ込みの小説とか。

 遣わされた神の使徒と愛を育み…という気合の入った同人魔術動画もあったか。

 

 その他バリエーション豊かに歴史の折々に、なんか変なものが作られているのである。

 

 たしかに俺は虚空より脈絡なく現れる非常に都合の良い触手ではあったし。

 そうなるのも運命といえばその通りなのだが。

 

 言葉にしきれないレベルで不敬なんじゃないかと最初は思ったが、神法に関してはそれを取り締まる条項は作らなかった。

 俺で成人向けコンテンツ作って神罰受ける国民が出るという現実と向き合いたくなかったので。

 

 俺はフリー素材だから…存分にお使いよ…。

 

 なお、ハイパーボリアの法学者界隈では定期的に「神はアレを罰しないが、我々はそれを許していいのか。神が罰しないと決めたのに、我々に裁く権利はあるのか」と議論が沸騰したことを追記しておく。

 ハイパーボリアは割と完璧な罪刑法定主義だったからね…。

 

 変な話はもう終わりにしよう。

 

 まだ降谷さんは俺をじっっっ…と睨んでいる。

 ごほんと咳払いして、真っ直ぐに降谷さんへともう一度尋ね直した。

 

『ところで、貴方の本名は?』

『だから何なんだその質問。降谷零だが。そろそろ俺の魂を返してくれないか』

 

 お!成功だ!!

 

 コナン君も「やったね!」と言ってくれたので、一緒にハイタッチする。

 降谷さんは何が何だかわからないのか困惑した様子だ。

 

 かなり良い感じに自己認識が降谷零に戻っている。

 

 追加で魂の強度を観察するため、フニフニと軽く魂を押してみる。

 くすぐったそうに降谷さんがみじろぎした。

 

 だが……少々これは柔らかすぎるな。

 普通は魂はここまで柔らかくならないのだが。

 なんらかのニャルの干渉か、それとも先ほどの施術の影響かもしれない。

 

 このままだと己の欲望に多少忠実になる、みたいな悪影響が出かねない。

 

 ひとまず薄い保護膜を張り巡らせて魂をコーティングし、そのまま降谷さんの体に戻す。

 手を離すと、逃げるようにぴゃっと魂が降谷さんの体に戻っていく。

 

 降谷さんははぁ、と大きなため息をついて己の胸を撫ぜた。

 

 

 

 

 そうこうしているうちに会議が終わったようだ。

 軽いノックの後、佐藤刑事が入室してくる。

 

 やはり降谷さんをじっと見つめてから、口を開く。

 

「待たせて悪かったわね。準備ができたからこちらに来てもらえるかしら」

 

 案内されたのは数人の刑事と目暮警部のいる、小さな会議室だ。

 俺たちのために会議場所を移動したようだ。

 

 松本管理官の姿もある。

 遠目から見ることはあったが、こんなふうに間近で会話することは今までなかった。

 

 松本管理官が覇気のある強い瞳で俺たちを見た。

 

「それで、高木を攫った犯人らしい男に所員を一人尾行させているのは本当か?」

「ええ。日色ヒカル、という弊探偵事務所の所員です。インカムで通話中のほか、GPSを持たせているので位置情報の確認が可能です」

 

 というフォロー設定である。

 本当はそんなもの無いのだが、それでは話が進まないので。

 

 一応、魔術をスマホ用アプリケーションに変換した特殊なプログラムは作ってある。

 魔術の素養のないものでもアプリ越しに諸伏さんに念話で話しかけることが可能なものだ。

 

 アプリの入ったスマホをスピーカーモードにして、プログラムー念話間の通話を確立させる。

 

「聞こえてるか、日色さん」

『!ああ。現在男の滞在するマンション前に来ている。杯戸区にある津志田ビレッジ409号室。男は部屋に入った後、出てきていない』

 

 スマホから聞こえる諸伏さんの声に、松本管理官が頷いた。

 

「男を重要参考人として押さえる。目暮と佐藤は至急、該当マンションへ急行!男の身元の特定を並行して進めろ!」

 

 「はいっ!」と目暮警部と佐藤刑事が敬礼して、部屋を足早に出て行った。

 反射なのか降谷さんと諸伏さんがピンと背筋を伸ばしている。

 

 白鳥警部がその後ろ姿を眺めながら、憂鬱そうに吐息を漏らした。

 

「あとは犯人の動機と、高木君の居場所ですね」

「上手く聞き出せればいいが。人質に取られると厄介だな」

 

 どうやら手がかりとしては、先日千葉刑事たちが見たという高木刑事の不審な様子があるだろう。

 

 手帳を見て涙をこぼしていた、とか。

 写真が貼られていたが、それは高木刑事の彼女ではない、と証言していたとか。

 

 誰も高木刑事が休暇をとってどこへ行ったか知らないようで。

 真剣な様子の高木刑事が何を目的としていたのか、謎は深まるばかりだったそうだ。

 

 刑事さんたちから事情を聞き、俺も首を傾げた。

 話を聞く限りコナン君も高木刑事の行動の謎は解けないようだった。

 

 ただ。

 そばに立つ降谷さんの表情が一瞬、ごっそりと抜け落ちたように見えた。

 

 そしてゆっくりと、苦悩するように声を絞り出す。

 

「………おそらく、ナタリー・来間さんの縁者の元に向かったのだと…思われます」

 

 降谷さんの陰鬱な顔色に気付かず、白鳥警部が困惑に眉を顰める。

 

「聞いたことのない名前だが」

「伊達航刑事の、恋人です。彼の使っていた手帳を高木刑事が受け継いだのは知っていましたから。その手帳に、伊達刑事の恋人の写真が貼ってある事も」

「!?待ってくれ、なぜ貴方がそんなことを知っている?」

 

 白鳥警部が驚愕に降谷さんを見つめている。

 松本管理官を含め、問い詰めるような視線が降谷さんに突き刺さる。

 

 本来この情報は言う必要がない、あるいは言ってはならない類のものであるはずだ。

 おそらく高木刑事の安否を優先したのだろうが……。

 

 降谷さんは貼り付けたような笑顔を浮かべた。

 

「単に、探偵として生前交流があっただけですよ。ナタリーさんとの惚気話を聞く機会も多かったですし。そうじゃないかな、とね」

「なるほど…そうだったんですか」

 

 恋人が後追い自殺したことまでは伝えないらしい。

 それ以上は単なる探偵が知っているには不自然すぎる、ということか。

 後ろ手に痛ましいほど握りしめられている拳は誰からも隠されていて、「瞳」越しに見ている俺以外に知るものはいないだろう。

 

 松本管理官が眉間に深い谷を作って唸った。

 

「だが、なぜその縁者が高木を攫う」

「たぶん伊達刑事と間違えてるんじゃない?」

 

 その疑問に答えたのはコナン君だ。

 静謐な瞳で松本管理官を見上げている。

 

「恋人なら、下の名前でワタルって呼んでても何も不思議じゃない。警視庁のワタルって名前の刑事だから、高木刑事を伊達刑事と勘違いしたのかも」

「ふむ。……千葉。ナタリーという人物について、関係人物を調べ上げろ。その中に、伊達に恨みを持っているものがいる可能性がある」

「承知しました!」

 

 そのあとは流れ作業だ。

 いくつか確認の質問があった後、ご苦労だった、と声がかけられ。

 俺たちは一旦解放されたのだった。

 

 子供達の撮影が終わるのを待つ間、俺たちは管理官の厚意で会議室の一つを待合室として使わせてもらえる事になった。

 自販機でコーヒーを買ってから、先ほどの小さな会議室へ戻ることとする。

 

 そこでパイプ椅子に腰掛けながら、俺は降谷さんへちらりと視線を向けた。

 降谷さんは俯いたまま、一言も発しない。

 

「……よかったのか、降谷さん」

「良くないに決まってるだろう。私情で立場を明かすなんて、どう言い訳しても叱責は免れない」

 

 あまりに暗い表情だ。

 もしかしたら、こんな事件が起こる前に何とかできなかった自分を恨んでいるのかもしれない。

 

「事件が終わったら、適当に整合性をとって関係者から記憶を削除するか?」

「…………頼む」

「あいよ」

 

 ブラックの缶コーヒーを上げたコナン君が、降谷さんを見ないままに静かに声をかける。

 

「ねえ。伊達刑事ってどんな人だったの?」

「…質実剛健を絵に描いたような、強い男だったよ」

 

 逮捕術の訓練では、僕相手に一本取るほど達人で。

 恋人のことも大切にしていて。

 面倒見も良くて。

 

 ポロポロと崩れ落ちるように言葉を紡いでいく姿は、例えようもなく孤独だった。

 

 その瞳はどこか遠く過去を見ていて、虚ろで。

 過ぎ去った時を降谷さんがどれほど大切にしていたか、質感を伴って伝わってくる。

 

 もう戻らないという確たる虚無感が去来する。

 そのような、孤独な懐古であった。

 

 

 

 

 一時間後。

 犯人が自殺したと、佐藤刑事から俺たちに連絡が来た。

 

 犯人はナタリーさんを孫のように可愛がっていた人物だったそうだ。

 両親が亡くなったナタリーさんの遺体を引き取ったのもその人らしい。

 

 伊達刑事を恨んでいた理由は、おそらくナタリーさんが恋人に捨てられたから自殺したのだと思い込んでいたから。

 実際には後追い自殺なのだが…それが救いになったかどうかは分からない。

 

 犯人は突入時、既に毒を呷っていて助けられなかったからだ。

 真実を知って、全て勘違いだと知って、そのまま死んでいく無念を想う。

 

 

 これで高木刑事がどこで縛られているかの手掛かりもなくなった。

 

 今はただ、ただ刻一刻と。

 高木刑事の命の刻限が迫っていた。

 





・降谷さん
愕然としている。
人間性を取り戻すタイミングを致命的に間違えた。
班長の、友の残したものが崩落していく光景を前に、絶望に打ちひしがれている。
そして事件解決後。
「やっぱりあの話は無しで!親友は蘇りませーんw」とニャルラトホテプから嗤い混じりに言われる定めにある。
たぶんシンプルに発狂する。


・ジンニキ進捗
ついに絵巻物の五つ目。
現場は古い神社にある池だ。
到着すると何故か口髭の男が先に池を覗き込んでいた。
「ああ、来ると思っていましたよ」
ジンが睨むと、口髭の男は肩をすくめた。
「貴方の現れた怪異の場所は全て、かつて同じ教団が建てたものです」
1つ目、古い家。教祖の住まい。
2つ目、坑道ナマズ。教団資金源。
3つ目、井戸。教団発祥の地。
4つ目、鉄道トンネル。教団の国家事業介入の痕跡。
5つ目、この神社。
これは全て、佐比売党と呼ばれる古い教団の足跡なのです。
「何故そんなことがわかる」
「……私も、個人的にこの組織を追っていまして。もっぱらは足で集めた情報ではありますが」
口髭の男が手を差し出した。
「私は諸伏高明。よければ今回も共闘しませんか?どうやら目指すところは同じようなので」
「…フン。黒澤陣と呼べ」
そのように、ジンは男の手を取った。


・降谷さんのコメント【休載のお知らせ】
今号のコメントはKP都合により休載します。
追伸:諸伏高明さんはシナリオの過度なネタバレを控えていただければ幸いです。
(涙の跡とともに、「班長」と消した形跡と、ジンは絶対八つ裂きにする、との呪詛がこびりついている)

・佐比売党
クトゥルフ神話TRPGより。
ただし、原作とはかなり異なった経歴を辿っている。
目的は「シュド=メルの降臨とその支配」。
旧支配者の脅威の少ない地球において、魔術の力を過信し神話生物を利用して覇権を握ろうとしている。
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