ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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コナン君の常識破壊

 

 昼。

 一月の寒さが高く上る太陽によってやや緩和されてくる天気のいい日だ。

 

 一旦マンションに帰ってきて俺を迎えたのは、まず顔の前面に困惑を貼り付けたコナン君の尋問だった。

 

「まず聞きたいんですけど。黄衣さんって不法入国とかしてませんよね」

「ししししてないよ!????おおお俺は純粋な日本人だよ!?!?」

「驚くぐらいわかりやすい反応だ……ほぼ自白じゃないですか」

 

 うるせえ正直なのは良いことだろ!!!

 コナン君は探偵としての鋭さを映す瞳で、推理を滔々と披露した。

 

「言い回し的に、あの信者さん…君永都さんは黄色の印の兄弟団本体の所属の人ってことでしょう。そこで祀られてたってことは、教団の本部のあるアメリカ在住である可能性が高い。

だから…」

「いや俺アメリカは普通に行ったことないわ」

「違うのかよ!?」

 

 ずてっとコナン君がすっこけた。

 実際、黄色の印の兄弟団のあるアメリカには幾度もお呼ばれしている。

 しかしろくな結果にならないだろうし、俺が立ち入ったことは一度もない。

 

 唇を尖らせて、ひとまずコナン君が机の前に座った。

 俺もそれに合わせてアイスコーヒーを机に置く。

 彼の要望で帰り道にスーパーに寄って買ってきたものだ。

 冬にアイスコーヒーは子供の体が冷えないか心配だが、コナン君の強い希望だし仕方ないか。

 

 俺もヤカンを火にかけて紅茶を入れる準備を始める。

 諸伏さんは真面目な顔をして部屋の中を完璧な姿勢のクロールで泳いでいるようだ。

 どうもかなり暇らしい。

 

 コナン君が半分ほど一気にアイスコーヒーを飲み干してから、むっつりとしたまま口を開く。

 

「ところで、君永さんが言っていた『亡霊』ってなんなんですか」

「……あー、その。うーん」

 

 彼の疑問はもっともだ。

 恐らくはなんかの教団用語だと思って聞いてきているのだろう。

 いい機会だし、諸伏さんが一人会話に混ざれなくて可哀想だし、この辺で交流させてあげるのが吉か、と俺は思案した。

 焦れてコナン君で遊び出すとも限らないし。

 

 俺は姿勢を正してコナン君と向き合った。

 彼の怜悧な視線と交差する。

 

「冷静に聞いてくれ。なんだ、つまり、この部屋には幽霊が一人彷徨ってるんだが」

「……教義的な隠語か何かですか?」

「いや、言葉の通りの意味で」

 

 コナン君は眉間に皺を寄せて嫌そうに唸った。

 俺が冗談を言っていると思ったらしい。

 

「俺、幽霊とかそういうのは信じないタイプなんですけど」

「幼児化が良くて幽霊の何がダメなんだよ!」

「だから今の俺の姿は黒づくめの奴らの薬のせいで…」

「薬で幼児化なんてファンタジー以外のなんだって言うんだ!」

 

 流石に返す言葉がなかったのか、コナン君は押し黙った。

 真面目に考えて薬で幼児化は無しだろう。

 魔術ならともかく、科学だとしたら幼児化の時無くなった体積はどこに行ったんだよ。

 いや、旧支配者が科学を語るなんてちゃんちゃらおかしいとは思うけれども。

 

 それでも納得していないコナン君が俺を無言で睨め付けてくるので、俺の方も論より証拠モードに突入した。

 

 パチンと指を鳴らすと同時に魔術を無言で展開。

 

 速やかに魔術は起動し、空中に寝そべってダラダラしている諸伏さんを只人の目にも映るように書き換えた。

 

 突如天井付近に現れた浮遊する知らんオッサンの姿に、コナン君が悲鳴をあげた。

 

「う、うわぁあ!?!?誰だ!?」

『………?…………!?!?俺のこと見えてる!?』

 

 諸伏さんは慌てて起き上がり、俺へと詰め寄って叫んだ。

 

『こういうことは事前に言ってくれないと困る!』

「いや話の流れから分かるかなと思って」

『聞いてなかったことぐらい見て分かるだろ!』

 

 プンスカ怒ってから、素早く服の乱れを直して何事もなかったかのように狼狽えるコナン君の前へと降り立つ。

 実にキリッとしているが、先ほどまでダラダラと部屋中を浮遊していたのはコナン君にも見られているのを留意されたし。

 

『よう、初めましてだな少年。まぁ、俺の方はずっと見ていたがな』

「……な、何か手品で、それとも立体映像…」

「そんな精巧な立体映像の技術があったら各業界が狂喜乱舞だろ。普通に幽霊だよ。な、諸伏さん」

『おうよ。俺の名は諸伏景光。よろしくな、高校生探偵君』

「っ、その名前…!あの時黄衣さんが言っていた…!」

 

 コナン君が驚きと警戒に体を硬くした。

 諸伏さんが悪戯げに笑い、コナン君へと手を伸ばす。

 それを警戒全開で半歩後ろに下がるが、諸伏さんは迷うことなくコナン君の胸の辺りを捉えて手を伸ばし続けた。

 

 そして。

 そのまま、霊体たる手は体を素通りして通り抜けた。

 

 驚愕に目を見開き、コナン君が絶句する。

 

「な、………ッ!?!?」

『この通り、幽霊の身だがよろしく頼む、少年』

 

 なぜかそこでうっそりと含みを持たせた怪しげな笑みに切り替えて、諸伏さんは目を細めた。

 よく分からんが悪人っぽい。

 シリアスな空気が立ち込めているので、俺はひとまず体操座りでことの次第を見守った。

 

『それと、君に対してなら、もっと通りのいい名前があるから、自己紹介するならそちらも使おうかな』

「なにを………」

『俺のコードネームはスコッチ、主に狙撃を用いた暗殺を生業にしてる』

「ッ!!!」

 

 おお、狙撃とかしてたんだ。怖いマフィアだ、と俺はぼんやり紅茶を啜りながら「おー」と声を漏らした。

 彼の正体が潜入捜査官だということは話さないようだ。

 どういう意図があるかは知らないが、今の俺よりINT(知性)が高い諸伏さんの判断だし、俺が口出しすることではないか。

 

 コナン君は毛を逆立てた猫のように全身で警戒をあらわにしながら諸伏さんを睨みつけた。

 

「っ、……俺に正体を自ら話すなんて、どういうつもりだ」

『自己紹介だよ。互いのことを知るのは重要なことだろう?』

「正直に話す気は無いってことか」

『知りたいなら自分で暴くんだな、高校生探偵。それとも、間抜けにも殺されかけた素人探偵には無理かな?』

「ッ……上等!あんたのこと、隅から隅まで暴いてやるよ!」

 

 啖呵を切るコナン君は実にメイン主人公探偵っぽく、俺は拍手でそれを喝采した。

 強いぞかっこいいぞー!

 

 ぐるんとこっちを向いたコナン君が「そこ!さっきからうるさいんですけど!?!?」と怒鳴ってきた。

 静かに観劇しているつもりだったがダメだったらしい。

 

 これまでのシリアスな空気を霧散させたスコッチさんが、ぽやっとした顔で畳んだ布団の上に腰掛けた。

 

『なんにせよ、どうせ俺はもう死んでるわけだから過去の話だ。仲良くしよう、少年!』

「え、この空気感で俺はこれから過ごさなきゃならないの?組織の男の幽霊と?嘘だろ?」

『ほら握手、仲直りの印』

「あんた面白がってんだろ!!タチ悪ィぞ!!!」

 

 コナン君は怒鳴り散らしながらも諸伏さんの手を取ろうとして、それがすり抜けてしまうのを思い出したのか諸伏さんの手に合わせて空中に固定するように己の手を添えた。

 それは諸伏さんを慮ってできる限り握手するように合わせた動きだった。

 

 諸伏さんがわずかに息を呑んでコナン君を見る。

 

『意外だな、君なら悪人と仲良くできないとか言い出すと思ったが』

「……死者に罪を問う法は無ぇだろ。死んでまで苦しんでる人に追い討ちをかける趣味はねーよ」

『苦しんでるって?俺が?』

「そんな顔してるだろ」

 

 コナン君のそれは断言に近しいトーンだった。

 なんとも言えない表情で諸伏さんが黙り込む。

 俺からはそんなふうには見えないが、彼が探偵として培ってきた独自の感性が、諸伏さんの隠した苦しみを見抜いたのかもしれない。

 

 妙な空気になってしまったので、俺は飲み終わった紅茶のカップを片付けて二人に話しかける。

 

「とにかく、必要な情報共有も終わったし、昼飯にしよう。今のところカップ麺以外この家には食材がないし、今回は外食にしよう」

『あ、俺今日は焼肉食べ放題がいい』

「食べる気かよ!?あんた幽霊なんだよな!?」

『幽霊だって腹は減るんだよ』

 

 諸伏さんが苦悩の滲む顔で深く頷いた。

 コナン君が「本当に大丈夫かこれから…」と心配そうに呟いた。

 そして頭を整理してその情報量にだんだん腹が立ってきたのか、頭を掻きむしって呻き出す。

 

「まったく、この2日で俺の中の常識がボロボロですよ!幼児化に幽霊に!推理に支障が出そうなんですけど!」

 

 その様子に俺はニヤリと笑って茶々を入れる。

 

「そこに魔術を一掴み、と」

「……まさかとは思いますが、あの場で言ってた魔術って単語、言葉通りの意味じゃないですよね?」

「…………」

『うーん、言葉通りの意味なんだよなぁ』

「嘘ですよね?魔術とか無いですよね?何かのトリックの隠語ですよね???」

『ちなみにだが少年!俺は幽霊だが魔術との合わせ技で殺人事件の犯人にもなれるから推理の参考にしてくれ!』

「論理的思考に巨大なノイズ入れてくんなよ!?!?」

 

 完璧に面白がって笑う諸伏さんに、コナン君が吠えついた。

 

 

 そんなわけで。

 凸凹ではあるものの、俺たちの探偵生活はまったりと幕を開けたのであった。

 

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