ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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命を賭けた恋愛中継〈永遠の孤独〉

 

 まもなく、諸伏さんから連絡があった。

 

『ッ先ほど、犯人の幽霊と接触できた!高木刑事の居場所も聞き出せた!』

 

 人目を忍んでいるのだろう。

 周囲を伺うようなやや途切れた声がこちらまで伝わってくる。

 おそらく事件現場から幽霊を連れ出してから、話を聞いたのだろうと思われる。

 

 降谷さんが目を見開いて問い返した。

 

『本当かヒロ!?それで、高木刑事は何処にいる!』

『北海道だ!東都工務店で工事依頼を出しているようだから、そこを調べれば詳しい住所も出る!』

『………北海道か』

 

 コナン君がスマホを見て、にがり切った顔で細く情報を出す。

 

『今日の北海道は晴れだけど、暖かい場所でも最低気温は氷点下を超えてるよ。高木刑事の格好は背広一枚。ちょっとまずいかも』

『ヒロ、犯人から住所を直接聞き出せないのか!?』

 

 諸伏さんはその言葉に、悔しそうに唇を噛んだようだった。

 

『犯人は俺に最低限のことを伝えてすぐに消えたよ。詳しく聞き出す暇もなかった』

『……あー、魂の強度自体が死亡時既にかなり弱ってたんだな。強烈な未練があったから幽霊になったけど、長持ちしなかったんだ』

 

 俺も一応、現象自体には心当たりがあったので口を挟んでおく。

 

 幽霊の末路としてはよくあるものだ。

 実のところ、幽霊になるってのは結構ガッツが必要で、執念以外にも魂的な強度がかなり必要だ。

 

 だから高齢者の幽霊は、魂の強度が足りず比較的成立しづらい。

 黄昏の館の幽霊は閉鎖空間での殺し合いという特殊な状況が魔術的に成立して、幽霊が非常に生まれやすくなっていただけ。

 

 諸伏さんは例外枠過ぎるので除外。

 普通の魂を持つ中であれば、消えかけで三年持った松田さんは相当ガッツがある方だろう。

 

 しかし、こうなると残された手は東都工務店を調べるしかない。

 降谷さんが舌打ちして声を上げた。

 

『俺は東都工務店を洗う!ヒロは犯人宅に張り付いて何か出ないか見張っていてくれ!』

『了解!頼んだゼロ!』

 

 話はまとまったようだ。

 降谷さんとコナン君が立ち上がって、部屋を足早に出て行こうとする。

 

 ただ、流石に撮影中の子供達の送迎役がいなくなるのはまずかろうよ。

 俺はまったり座ったまま、手の中に出現させた「降谷さんのRX-7の鍵」を降谷さんに放り渡した。

 

「俺はここに残って子供達を家へ送るよ。車は『二人で別々に乗ってきた』ことにしたから、降谷さん達は自車で東都工務店へ向かってくれ」

「っ!……すまないな、助かった。子供達は任せた、何かあったら呼ばせてもらう」

「おうよ。念話は繋ぎっぱなしにしとくから、声をかけてくれ。すぐ向かうよ」

 

 駆け出す二人の後ろ姿を見ながら、俺はだらっとパイプ椅子に背を預けた。

 

 一番現場に必要ないのは俺だ。

 推理や交渉はできないし、知名度が必要なら降谷さんが「黄衣探偵事務所の所員です」と言って名刺を見せれば良いだけ。

 魔術が必要なら「門の創造」で一瞬で向かえるし、子供達の送迎役にちょうどよかろう。

 

 暇だし、もう一個缶ジュースか何かを買おうかな、などと考えていると。

 ちょうど子供達から連絡がった。

 スマホにメッセージが来ていて、撮影が終わったから今どこにいる、との旨であった。

 

 隣の部屋に残っていた刑事さんに「会議室ありがとうございました!」と一言感謝を述べてから部屋を出る。

 

 一応、待ち合わせは一階ロビーで行うことにした。

 エレベーターで一階に向かうと、すぐに子供達も同じようにしてロビーに到着した。

 

 しかし皆、撮影会だったというのに若干浮かない顔をしている。

 

 元太君がへにゃりと眉を下げて俺を見上げた。

 

「やっぱよ、コナンがいねーとさぁ。元気出ねーよ」

「哀ちゃんも風邪でお休みだし。それに高木刑事大丈夫かなって思って、歩美…」

 

 どうにもしょんぼりしていて、みんな元気がない。

 自分だけパンフレットに映るのが心苦しくて悲しいのだろう。

 やっぱり優しい子達である。

 

 俺はニコリと笑って元太君を肩車した。

 ずしっと重いが、俺は見た目より遥かに筋力があるから問題ない。

 

 元太君が「おお!?」と目を白黒させた。

 

「高木刑事は悪い人に攫われてたみたいでな。今みんなで救助に向かってるとこ」

「えぇ!?大丈夫なんですか!?」

「こういう時こそ少年探偵団の出番だぞ!」

「待て待て。場所は北海道だし、何よりこういう時は佐藤刑事に華を持たせるもんだ」

 

 俺の言葉に子供達はハッとした。

 アイデアでクリティカル出したみたいな顔だ。

 

「恋人を颯爽と助け出す、ということですね!」

「そうそう。俺らは後ろでどっしり構えて見守ってれば良いんだよ」

「なるほど…」

 

 子供達の目に深く納得の色が見える。

 ついでに元太君の肩車に沸いた子供達が「歩美も!」「僕も!」と盛り上がってきたので、順番に肩車してやる。

 下ろされた元太君が「俺肩車してもらったの久しぶりかも!」と嬉しそうにしている。

 そりゃその体重を肩車は結構きついから仕方ないわな。

 

 子供達の顔にも明るい色が戻ってきている。

 良いことだ。

 

 

 そんなふうに子供達を一人ずつ自宅へ送り、待っていた保護者の皆様に一礼して引き渡していく。

 全て終わって探偵事務所に着いたころには、もう夕方になっていた。

 

 誰もいない探偵事務所の明かりをつけて、軽く喉を潤すために紅茶を入れる。

 

 その間にも、降谷さんとコナン君は東都工務店から詳しい情報を得るのに成功したらしく、裏で目まぐるしくやり取りをしていた。

 犯人が依頼した案件を特定し、その住所を割り出して警視庁に伝えたようだ。

 

 そうして。

 高木刑事はその一時間後、道警によって無事救助されたらしい。

 

 残念ながら佐藤刑事は救助された高木刑事を北海道に迎えにいっただけだが。

 それでも、熱い抱擁を交わしたことは想像に難くなかった。

 

 これにて一件落着。

 悲しいことの多い事件であったが、少しでも救いがあって何よりである。

 

 

 

 さて。

 疲れた体もまだ覚めやらぬ、明け方四時ごろ。

 

 俺はいつも通り起き出して、ごそごそと自室で服を着替えた。

 普段着の黄色いパーカーだ。

 事務所には簡易的な更衣室もあるので、朝食を食べた後ぐらいにはもう少しパリッとした服に着替える予定である。

 

 俺は本来、人間のように眠る必要がない。

 形だけは毎日同じ時間に寝ているが、その行動は単なる趣味の領域を出ない。

 

 だから忙しくなってからはこうして朝早くに起きて内緒で朝活に勤しみ始めたわけである。

 

 具体的には、趣味の魔術の整備であったり、カルコサに置いてきたビヤーキー達への生存報告であったりをおこなっている。

 特にビヤーキー達は放っておくと種族総出ですごい悲壮感を出し始めるからな。

 こうして定期的に連絡を入れるのを忘れてはならない。

 

 あともちろん、ニャルへの日参も欠かしていない。

 今日も30分ほどニャルの家に顔を出して帰ってきた帰りである。

 

 なお、出された茶菓子は死と腐敗、退廃の神トゥールスチャの炎が灯った冒涜的クッキーであった。

 

 一応ツッコミはした。

 燃えるクッキーって何とか。その炎取ってくる時怒られなかったかとか。

 これ流石に俺も死ぬのでは、とか。

 

 ニャルは俺のツッコミに、こだわりのポイントを聞かれた料理人の如く胸を張って答えてくれた。

 

「はい。料理はまず上質な炎から始まりますから。こういうの人間はフランベって言うんですよね?」

 

 何から突っ込んで良いかはわからなかった。

 とりあえず「フランベちょっと違うかな」と言って、俺は諦めてクッキーを味わうことにした。

 

 結果。

 俺の触手の先を変化させた人間体はぶくぶくに腐敗して溶け落ちた。

 本体まで腐敗が広がり出したが、そちらはなんとか魔術で押し留めて消化しきった。

 シンプルに命の危機だったが、クッキー本体は普通にクッキーの味がした。

 

 ゲル状になって床を這う俺の姿を見て、ニャルは「美味しいものってほっぺた落ちるんですよね!よし!」と言っていた。

 物理的に落ちるわけないんで勘弁してほしいです本当に。

 

 だが、まかり間違ってこの屋敷の外に持ち出されたら、その瞬間地球人口に大幅な変動があっただろう強烈なクッキーだ。

 ここで俺を腐敗させるだけで消費されきったのは不幸中の幸いと言えるだろう。

 

 

 とまあ、そんな感じの日課を済ませて、俺が軽い体操を行っていると。

 

 スマホに着信があった。

 降谷さんからの電話のようだ。

 

 静かな声で「今から事務所に来てほしい」とだけ言って切られたが、特におかしなものでもない。

 急な任務のこともあるから、こういう誘いは初めてではないからだ。

 

 寝ているコナン君達を起こさないように、そっと再びマンションの部屋を出る。

 

 歩いて向かうと、すでに探偵事務所には明かりがついていた。

 先に到着した降谷さんが明かりをつけていたようだ。

 

 エレベーターで三階へ上がり、中に入ると。

 背を向けてまだ暗い夜空を眺める降谷さんの姿があった。

 

 降谷さんがゆっくりと振り返る。

 

 感情のない瞳が俺を捉えた。

 

 どうも、穏やかでない様子だ。

 あえて声を出さず、俺は降谷さんの言葉を待った。

 

 降谷さんはしばらく沈黙した後、暗く光のない目で問いかけてくる。

 

「………何故、班長の蘇生を邪魔するんだ?」

 

 声は平らだった。

 自らの激情を可能な限り押し込めて外へ出すまいとする決死の努力を感じ取れた。

 

 おそらくニャルラトホテプが降谷さんを誑かした件のことだろう。

 奴は戯れに「親友を生き返らせてやる」などと嘯いていたからな。

 俺が魂の蘇生を禁止したことを、ニャルから聞いてしまったらしい。

 

 友を取り戻すすべを否定されたなら、怒り狂うのは当然のことだ。

 

 下手な誤魔化しや嘘は、彼との決定的な溝を生む。

 俺はできる限り真摯に、まっすぐに降谷さんを見つめ返した。

 

「残念だけど、人の魂を復活させるのは簡単なことじゃない。諦めた方がいい」

「奴は可能だと言った」

 

 降谷さんの声が震えている。食い気味の言葉が被さり、その激情の端々を映す。

 

 その背後にはまだ明るい月が見える。

 日の出は遠く、朝を待ち侘びてもその時は来ない。

 

 俺はゆっくりと息を吐いて、彼の想いに応えることにした。

 友を取り戻したいと言う願いは正当なものだ。

 俺だって幾度も試したのだから。

 

「例えば、過去を変えて友を蘇らせたとする」

「………」

「それに伴い、もちろん現在はすげ替わる。時間軸を超えて普遍である俺たち以外の人間は、ごっそりよく似た別人に入れ替わると考えた方がいい」

 

 ひゅっと息を降谷さんが息を呑んだ。

 どこまでが本人か、という哲学的問題は俺たちにとって実に身近なものである。

 

 

 だから次は並行世界から魂を持ってこようとした。

 もちろん、魂の引き抜きなんて強引なことをして、並行世界は丸ごと崩れて多くの命が消えていった。

 

 もっと入念に、世界が潰れないような高度な術式を編み出した。

 当然、並行世界はその人物を失って、理不尽な喪失の中を生きることになった。

 なんてことはない、俺以外の全てに喪失を押し付けただけだ。

 

 なら過去のデータをそのまま複製して友を甦らせれば良い。

 もちろんそうして複製人間が完成した。

 その人であってその人でない、よく似た手作りのお人形だ。

 救いようのない馬鹿なので、俺は幾度も同じ轍を踏むのだ。

 

 

 愕然と、降谷さんは立ち尽くしているようだった。

 唇が震えて、何が言いたいのか口が幾度か開いて。

 しかし言葉にならず閉じられる。

 

「ニャルラトホテプは人間じゃないから、その辺の機微が分かってなかっただけだと思う」

「………ッ」

「ただ複製するだけなら、俺でも簡単にできるよ」

 

 降谷さんが、それを望むなら。

 

 俺の言葉に、降谷さんは何も答えなかった。

 凍りついたように身動きもせず、ただ絶望の張り付いた顔のまま浅い息を繰り返している。

 

 

「………悪かった」

 

 か細く、消えいるような声で降谷さんが俯いた。

 

 降谷さんの気持ちは俺も痛いほどよく分かる。

 また会いたい、声が聞きたい。ほんの少しでいいから言葉を交わしたい。

 そう考えるのは自然なことだ。

 

 きっと、降谷さんもこれからそんなことがどんどん増えるだろう。

 何故なら俺たちは悠久の時を変わらず在り続ける外宇宙より来たるもの。

 人の命は、あまりに短すぎるのだから。

 

 降谷さんが視線を逸らし、後悔を滲ませながら口を開く。

 

「君はどうやって離別を乗り越えてきたんだ?」

「はは。別に今でも心の整理がついたわけじゃないさ」

 

 別れのたびに毎回泣いて泣いて縋って。

 よっぽど本人の意思を無視して魔術的に永続させようかと思い悩んで。

 でも心に引っかかった倫理感が邪魔をして、それすら出来ずに見送るしかなくて。

 

 俺は降谷さんの横を通り過ぎ、ヤカンを火にかけた。

 蛇口から水の流れる、生活感のある音が緊張を緩ませる。

 そしてゆったりと微笑んで見せる。

 

「でも、故人は人が覚えている間は死なないって理論があるだろ?俺は死なないから、つまり友は永遠ってことさ」

 

 色褪せない思い出の中で永劫共に生き続け、己の一部にするのである。

 心に立てた墓廟に花を備えて手を合わせて。

 

「そうやって、自分を慰めてる」

「そうか。それは……難しいな」

 

 降谷さんは目を伏せて、ゆるゆると頷いたのだった。

 

 俺はそこでガサゴソとおもむろにカップ麺を取り出した。

 

「暗い話過ぎるからカップ麺食べよう。二人分。すごい油とかこってりしたやつ」

「しんみりできないのか君は」

「あんまりしんみりし過ぎると魂の健康に良くないとする説がある」

「聞いたことないが」

 

 取り出したカップ麺は、とても悲しかったのでスーパーカップ1.5倍豚キムチである。

 

 しかしそれを見た降谷さんが「俺もそれがいい」と言ったので、豚キムチは降谷さんに譲ることとする。

 たぶん降谷さんはもっと悲しかっただろうから、美味いカップ麺を食べるべきだ。

 

 俺は代わりに濃厚豚骨を選んだ。

 

 カロリーは時に人の心を救う。

 ギトギトの油と塩分が魂にすーっと沁みるのだ。

 これはたぶん医学的に証明されたことでもある気がする。

 

 沸いたヤカンから湯を注ぎ、ずるずると二人でカップ麺を啜る日の出前。

 彼がこちらを向かなかったのは、流れる涙を隠す意図もあったのかもしれない。

 

「もし生き返らせることがあったとして。こんな現実に、アイツ一人を連れ戻したら恨まれそうだ」

 

 降谷さんは頑なにこちらを向かないまま、そのように苦笑したのだった。

 





・ハスターの神格界隈での評価
基本は「地球に近づくと殺気立って威嚇してくるやべー奴」扱い。

ヨグ=ソトースは何らかの理由でハスターを特別扱いしている。
ミゼーアは何らかの理由でハスターを特別扱いしているが、それはニャルラトホテプとは関係ない。
クトゥルフはハスターのことを良く知らない、ただの敵として認知している。
シュブ=ニグラスはハスターを息子とは扱わず、しかし歓迎している。

アザトースは、混沌の宮殿に来たハスターを見て「?」と思ったが、もう忘れた。
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