ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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番外編:ジンニキと諸伏兄のクローズドシナリオ

 

 ジンの目覚めた四角い部屋はやや大きめで、埃っぽかった。

 

 壁のあちこちに何かに切り裂かれたような派手な傷がついている。

 天井がたわんでいて、外から風が吹き込んでぐらぐらと揺れている。

 

 己の寝る汚らしい黄ばんだベッドが角に釘で打ち付けて止められていて、気味が悪い。

 

 異臭のする布団を跳ね除けて、ジンは飛び起きた。

 

 部屋は薄暗かったが、ものを見るのに支障はない。

 素早く静かに視線を走らせる。

 

 反対側の壁に打ち付けてあるベッドに、諸伏高明は寝ていた。

 他には誰もいない。

 

 バラバラの白骨死体ならいくつも転がっているが、息のあるものは他にいないようだ。

 その他にはドアが三つだけ。

 

 近くに敵がいる可能性を考慮して、銃を構えながらそっと声をかける。

 

「おい、起きろ」

「………ッ!ここは」

 

 頭痛にうめくように眉間に皺を寄せて起き上がり、諸伏高明は小さく声を出した。

 

 ジンの手の中にある銃を少しだけ目に留めたが、聞くつもりはないらしい。

 そのまま立ち上がって服を払った。

 

「いいのか、聞かなくて」

「今直面しているこれが銃で解決できる問題なら聞くのもありかもしれませんが。どうも難しそうなので、議論する必要性を感じませんでした」

「フン、それもそうだな」

 

 この状況下で銃など、下手をしたら自殺用にしかならない。

 ジンはかすかに笑って銃を下ろした。

 

 声を静かに部屋の探索を行う。

 

 ジン達の寝ていたベッド以外には、床の魔法陣と粗末な机あるのみだった。

 机にはメモ帳と鉛筆が転がっている。

 一ページ目に「下」に見える字が書き込まれている。

 

 全てをパラパラとめくったが特に何か書かれている様子はない。

 諸伏が「裏表紙に何か書かれていませんか?」と言った。

 

 見ると、「鳥は日本語が通じる!」「最近来たらしい」と鉛筆で書き込みがあった。

 日付入りのサインも添えてある。

 日時は一週間ほど前のようだ。

 

 これはおそらく一週間前に行方不明になった被害者だろう。

 名前も一致している。

 

 白骨死体はどれも損傷が激しく、化け物に襲われて殺されたかのような割れた骨が残るのみだ。

 

 床の魔法陣を書き写しながら、諸伏が口を開く。

 

「そういえば、鉄道トンネルで負った呪いは問題ありませんか?」

「解呪した。そっちは」

「気付けば手形が消えて、妙な紋様が浮かんでいました」

 

 諸伏がスラックスをたくしあげると、右足には燃える三つ目のような不気味なアザが浮かび上がっていた。

 

 その模様にジンは見覚えがあった。

 古代ハイパーボリアで畏れられた邪神、ニャルラトホテプなるものの印だ。

 

 少しだけ逡巡してから、己の持つ青仏を渡す。

 

「これを持ってみろ」

「?ええ」

 

 アザに変化はない。

 ゆらゆらとアザは揺れて、何処か異次元を睥睨しているように見えた。

 青仏を返してもらう。内心舌打ちして、「なんでもない」とだけ言ってジンも探索を再開した。

 

 バーボンが何を企んでいるのかは知らないが。

 何かもっと強力な解呪手段を探す必要がありそうだ。

 

 

 あらかた調べ終わったら、次の部屋へと向かう。

 ドアは異様に近い幅で三つ並んでいた。

 黒くマークが付けられていて、右から順に本のマーク、イカのマーク、箸のマークとなっている。

 

 イカは見覚えがある。

 あの怪物が閉じ込められていた井戸に付けられていたのと同じマークだ。

 

 ジンは扉を睨みつけながら問いかけた。

 

「調べるとしたら何処からにする?」

「……ここはかつて佐比売党の信者の教育施設として使われていた可能性があります。個人的には本のマークの扉が気になります。貴方はどう考えますか?」

「どの扉も危険は感じねぇ。本に行くぞ」

 

 静かに耳をそばだてる。

 向こう側から物音のようなものは聞こえなかった。

 

 銃を構えてそっと扉を押し開ける。

 

 中は予想通り、書庫であった。

 狭い室内に図書館にあるような頑丈な本棚が五つ。

 一つは派手に切り裂かれていて、本も崩れて散らばってしまっている。

 他はどれもみっしりと本が詰め込まれて、全て読んでいたら日が暮れそうだ。

 

 どれも背表紙がなく、手綴りの本であるようだった。

 入ってすぐ横にある大きな棚に、背表紙に使うのだろう厚紙と本文用の薄い和紙が大量に積まれている。

 

 白骨化した死体はここにもあった。

 上から押しつぶされたように骨が粉々になった死体がいくつかある。

 

 諸伏高明が奥まで確認して、冷静に口を開いた。

 

「これは、少しばかり調査に時を要しそうですね。手分けして本を調べますか?」

「……いや。俺は別の部屋を調べる。テメェはこの本まみれの部屋を探しておけ」

「別行動は危険だと思いますが」

「もっともだが、ここに長居するのは避けたいんでな」

「なるほど。でしたらお願いします。私もできるだけ手早く済ませます」

 

 時間と共に何かに圧迫されるような強い危機感が競り上がってくる感覚がある。

 長居すれば致命的な結末が待っていることだろう。

 

 諸伏高明はジンの直感を察している節がある。

 素直に頷いて、何も聞かずに本の探索を開始した。

 

 ジンもこの場は諸伏に任せて先を急ぐこととする。

 

 次に開けたのは箸のマークの扉だ。

 慎重に音を確認してから開くと、中はキッチンとなっていた。

 

 カビだらけの古い食器棚とボロボロの不清潔なキッチンが備え付けられている。

 中には食器とフライパンなどの調理器具が入っている。

 

 棚の奥を確認すると、大きな段ボール箱が見つかった。

 開けると、袋に入った注射器が山ほど入っていた。

 ジンは舌打ちした。

 ヤク中でもいたのだろうか、と思考を回す。

 

 さらにその奥に粗末な木製の扉が二つある。

 

 片方は風呂とトイレだった。

 歪な間取りだ。

 

 もう片方に耳を澄ませると、ドアの隙間を風が吹き抜ける音に混じって、何かの鳴き声が聞こえた。

 

 拳銃を構えながら、扉を緩く開けて外の様子を確認する。

 

 まず目に入ったのは、数羽のニワトリであった。

 コッココッコと意外に元気そうに柵の周りを歩いている。

 地面には怪物の爪痕と、巨大な足跡のようなものがいくつも刻まれている。

 

 空は暗いが、曇り空のように薄ぼんやりと光がある。

 どこか陰鬱で籠ったような湿気た空気が漂う。

 少し向こうに石造りの都市が何処までも広がっているのが見えた。

 

 扉を閉めて、反対側にある馬小屋に視線を向けて。

 その瞬間、ジンは硬直した。

 

「………ッ!!!」

 

 そこにいたのは、馬の頭に鱗のある体、蝙蝠の羽を持つ異形の怪物だった。

 

 全身からどっと冷や汗吹き出す。

 吐き気のようなものが込み上げ、何か説明できない恐怖が心臓を侵食する。

 

 行動不能になるのを防ぐため咄嗟に自分の腕を拳銃で撃ち抜こうとして、直前で動きを止める。

 

 ここで大きな音を立てるのはまずい。

 

 カタカタと震える手を押さえ、うずくまって吐き気の波が治るのを待つ。

 目の前の怪物は非常におとなしく、目の前で無防備にうずくまるジンに対して何もしようとはしなかった。

 

 しばらく。

 ジンがゆっくりと立ち上がった。

 バケモノは窺うようにこちらを見ている。

 

 ギリギリとすりガラスを引っ掻くような不快な声で鳴いた。

 馬小屋はこの怪物には小さすぎるようで、どこか居心地悪そうに縮こまってもごもごも文句を言っている。

 

 その手には立派な鉤爪があるが、室内の派手な傷跡と比べると小さすぎるように見えた。

 このバケモノ以外に、特大の脅威がいるらしい。

 

 少し様子を窺うも、バケモノはやや鳴くだけで特に動こうとはしなかった。

 馬小屋にも何か隠されていたりしないようだ。

 

 銃で殺せる気もするが、わざわざ敵対する必要もない。

 ジンは諦めて中へと戻った。

 

 最後の部屋、イカのマークの部屋へと向かう。

 

 中にはやはり多くの傷跡と白骨死体があった。

 正面右側には祠があって、中には木彫り仏の一部と古文書が入っていた。

 古文書の内容は読めないので、帰ってから読解するしかないだろう。

 

 中央には粗末な布が敷いてある。

 その前には錆だらけの大きな銅像が鎮座している。

 銅像はかつて井戸の中で見たイカの怪物によく似ていた。

 

 部屋の端には妙な位置に蛇口と排水溝があり、その横に不潔なバケツが置きっぱなしになっていた。

 

 入ってすぐのドア横にはクマ用の檻と思しきものが置いてある。

 それ以外に目ぼしいものはななさそうだ。

 

 ジンは舌打ちして、諸伏のいる書庫の部屋に戻ることにした。

 要素は多いが情報が少ない。

 やはり鍵は諸伏のいる書庫にあるだろう。

 

 

「おい、進捗はどうだ」

「あらかた調べ終わりましたよ。興味深いことがわかりました」

 

 諸伏は考え込むように瞳を伏せ、書庫の中央で立ち尽くしていた。

 

「この部屋の本は大部分が同じ本です。正確には、多くの人物がここで同じ写本を作ったということですが」

 

 どうやらここに送り込まれた人間は、まず教団の教えの写本を作らされるようだ。

 教育施設というだけのことはある。

 

「もっとも、書きかけで終わっている本も多く見受けられました。中央の部屋を見るに、ここに居られるのは最長でも3日が限界なのでしょう」

「それを過ぎればバラバラ死体の仲間入り、か」

「ええ」

 

 「下」のように見えた文字は、書きかけの「正」だったらしい。

 背筋に冷たいものが走る。

 

 諸伏が目を開いてこちらへと振り返った。

 

「ですが教団もそれでは困るのでしょう。脱出の手引きも用意していました」

 

 比較的綺麗な字で書き写された写本を開き、ジンへと指し示した。

 

 信者の心得。

 

 一、神と相見えるべし。

 神の触媒に水を塗り重ね、これをもって封とせよ。

 祈り、神に魂を捧げよ。

 さすれば神は現る。

 

 二、神から子を授かるべし。

 祝詞を唱え続けよ。声が枯れるまで続けよ。

 神は子を遣わす。

 

 三、子を持って修行の門を潜れば、汝の信仰心は真に確かとなる。

 子を掲げ、人外なる血を門へと垂らせ。

 そのとき、門は開かれる。

 

「ここで重要なのは、脱出口となる門があること、そしてそれは人外の血によって開かれることです」

「………神が遣わす子とやらは使わないと?」

「こことは別の拠点で見た資料ではありますが」

 

 そう言い置いて、諸伏は本棚を撫ぜた。

 

「この教団が崇める神は大変危険なもので、目にするだけで人は狂乱するのだとか」

「はっ、狂人育成施設ってわけか。下らねぇな」

「それらしき警告をする本も見つかりました」

 

 もう一冊、諸伏が本を見せる。

 表紙には見覚えのある紋章が刻まれていた。

 

「!その表紙の印……」

「ええ、黄色の印の兄弟団の紋章ですね。兄弟団もまた謎の多い組織です」

 

 しばし、沈黙が落ちる。

 何か言いようもなく大きな陰謀が渦巻いているような不気味さ。

 

 諸伏は兄弟団の本を下ろし、淡々と告げた。

 

「ともかく今は脱出が先決でしょう」

「ああ、当てはあるのか」

「まず、門というものですが。中央の部屋にある妙な魔法陣のようなものが怪しいですね」

 

 どうも、地面に模様を描いて長距離を移動するすべを佐比売党は多用しているそうだ。

 それを門と形容していても、何もおかしくはない。

 

 ジンにもその仕掛けには覚えがあったため、素直に頷いた。

 

「そして、人外の血ですが。何か他の部屋に生き物が飼われていたりはしませんでしたか?」

「それなら鶏と、……キモい馬コウモリがいたな」

「馬コウモリ?いえ、あまり詳細に聞くのも問題が生じますね。貴方に探索を任せてしまって申し訳ありません」

「フン。こんな場所で役立たずになってもらっちゃ困るからな。俺がそいつから血を取ってくる」

 

 諸伏は険しく眉間に皺を寄せて警告した。

 

「銃や刃物で傷つければ危険が生じませんか?」

「別の部屋に注射器があった。それを使う」

「わかりました。ではその間、私は有用そうな書物を探して持ち帰れるか試してみます」

「ああ」

 

 ジンが注射器を二つほど持って庭へと出ると、まだ馬コウモリは馬小屋におさまったままだった。

 

 馬コウモリはいかにも困った顔をしてジンを見た。

 

 鳥は日本語が通じる、と中央の部屋のメモ帳には書いてあった。

 このバケモノとは日本語が通じるかもしれない。

 

 鶏に日本語が通じるという意味かもしれないが、やってみる価値はあるだろう。

 

「おい、俺の言葉はわかるか」

 

 ヒィーー、と妙な声で鳴いてバケモノは首肯した。

 やっぱり至極困っているように見える。

 眉間に皺が寄っている、情けない雰囲気だ。

 

「今からテメェの血をいただく。抵抗するな」

【キィィ…】

 

 馬コウモリは動くのをやめて、のそりと片羽を差し出した。

 非常に従順だ。

 

 少し手間取って5回ほど刺し直したが、無事血液を採取することができた。

 馬コウモリはますますしょげ返って元気がなくなった。

 血は取れたのでよしとしよう。

 

 中央の部屋に戻ると、諸伏は何冊か本を抱えていた。

 

「持ち帰れなくとも内容は覚えましたので、戻ったら共有します」

「俺も部屋を調べた結果を伝える。池は爆破するが構わねぇな」

「助かります」

 

 血を垂らせば、瞬間。

 

 ふわりと床が一面の光を放ち、意識がホワイトアウトしたのだった。

 





・降谷さんの評価:S
こ、こんなストレートにクリアされるのは想定外でした。
いえ、ヒロのお兄さんがいるし当然ではありますけど。

解説しますと、ここは佐比売党の教育施設です。
信者は数人ずつここへと送り込まれ、1日以内に教本を複写して旧支配者シュド=メルからクトーニアンの子を掠め取り、戻って子を教団に引き渡すということを強要されます。
当然、大抵の場合信者は死にます。
旧支配者から子を掠め取ろうというのですから当然ですね。
そのため教育施設として放棄されたのですが。
今も生きて人を攫っていた、というわけです。

実はこの教育施設は実態としてはドリームランドの地下世界に存在します。
石造りの都市は神話生物「ガク」の棲家です。
信者の入室とともに1日だけ結界が覆ってガクを遠ざけてくれますが、解除後は一定確率でガクの襲撃があります。
可哀想に、事情を知らない人は大抵このガクに殺されていたようです。

脱出方法に関しては三通り。
神を呼び出して子を授かり、クトーニアンの子の血によって脱出する正規ルート。
僕が遣わしたシャンタク鳥から血を採取して脱出する安全ルート。
死んで脱出するドリームランド的帰還ルート。

三つ目での死んで脱出ですが、ガクに殺された場合魂が霧散して帰還できないことが多いようです。
拳銃自殺が安牌でしょうか。

ん?シャンタク鳥をなぜ遣わしたか?
そうしないとヒロのお兄さんがシュド=メル直視で発狂不可避ですからね。
先週急いで適当なシャンタク鳥を捕まえて馬小屋に押し込みました。
もちろん軽率に銃を向ければ牙を剥きます。
これで池も無くなりますし、いい仕事をしたシャンタク鳥には餌をやって解放しましょうかね。

そんなところでしょうか。
では、次回もお楽しみに。


・ニャルラトホテプの燃える三眼の加護
「ヒロのお兄さんは俺が守る!」という強いやる気が込められている。
悪いものではないので青仏が反応しなかった。
この加護を破壊するには相当な努力が必要。


・困ったシャンタク鳥
いくら信仰する神でもアポ無しで仕事入れられるのは困ります…という信仰心浅めの鳥。
しかもめっちゃ注射針刺されるし。
現在傷心中。美味げな高級飼料を手土産にしょんぼり帰宅した。
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