俺がスピーカー役となり、推理が披露されている今現在。
皆が俺を通して放たれるコナン君の推理に聞き入っている。
どうやら事前に機関車内に侵入して、入念に下準備した上での犯行のようだ。
絶妙なタイミングで仕込んだ仕掛けを作動させて、車掌さんの視線を操るトリック。
俺自身も正直よく分かっていない。
ともかく複雑にこの車両の乗客の行動を操っての犯行だ。
派手に動かした仕掛けは大きな鏡ぐらいのもので、後の仕込みは実に自然。
証拠にならなさそうなものばかりである。
俺なんかよりずっと頭いい感じのする犯人であることよ。
後ろに子供達も一緒なので若干ふわふわした絵面の推理場面だが、まあ仕方なかろう。
本来俺がここにいるはずじゃなかったのだし。
加えて、推理の途中で降谷さんがエントリーしてくるが、構わずコナン君は推理を続けた。
ベルモット側の計画が始まってしまったらしい。
コナン君と降谷さんの推理デュエットみたいになったが、問題は特に無い。
同じ所員だし、降谷さんも事前に8号車でスタンバイするにはこれが一番自然だしな。
念話に降谷さんからの業務連絡が流れてくる。
『ベルモットの方は工藤有希子さんが引き付けている。世良真澄は奴が回収済みだ』
『世良が?安室さん何か見られたの?』
『この場に居られると僕の仕込みを見破られる恐れがあったから、あのFBIに回収させたんだ』
『なるほど、了解。キッドの方は変装できそうか?』
『あたりめーだ。こんだけ時間があんなら誰でも変装してやるよ』
コナン君の質問にキッドは自信の滲む声を上げた。
台本もバッチリ覚えたみたいだし、これで心配いらなさそうだ。
降谷さんが「流石は変幻自在の大怪盗だな」と感想を呟く。
『だがキッド。鬼役である僕には盗聴器が付いている。肉声で下手な口は利くなよ。対応によっては銃口を向けなければならなくなる』
『怖……野生のマフィアじゃん……』
『きちんと飼育されたマフィアなんだよなぁ』
ついに我慢しきれず突っ込んできた諸伏さんのエントリーだ!
謎の第三者の声のみの登場にキッドがややしょっぱい顔をしている。
表では鮮やかな推理を披露しつつ、念話ではブッスリと不満タラタラな降谷さんが口を開く。
『おい、何でわざわざ口を出した』
『別にいいじゃないか協力者なんだから。どうも謎の幽霊です。キッドは俺とは会ったことあったよな?』
『ああ、あの物騒な幽霊。名探偵の周りヤバいのばっかで純粋に引く』
諸伏さんの軽口に、キッドはドン引きしたような様子を見せた。
コナン君が「俺のせいじゃねーし」とムッとした声を出している。
『というか、飼育されたマフィアに協力者ってワード、もしかして正体はワンちゃん……?』
キッドが恐る恐る聞くと、表で推理する降谷さんの表情が一段、ニタリと笑みが深まった。
獲物が罠に掛かったかのような、愉悦の滲んだ顔だ。
『それを知られたからにはタダでは帰せないなぁ』
『いやそっちからバラしたんじゃん!?俺悪くないのに!』
『そぉれ、逃がさないからな』
推理中の動作と見せかけて、降谷さんがキッド扮するD室乗客の背に軽く接触した。
機関車内の廊下はかなり狭いから、特に不自然な雰囲気もなかった。
「失礼」と降谷さんが軽く謝罪する。
接触の瞬間付与されたのは加護、というか呪詛の類だ。
「逃がさない」ぐらいの意思が接触点を通して怪盗キッドに流れ込んだのが見えた。
『な、なんか胸が苦しく、何したんだアンタ!』
『君に印をつけた。これで君は逃げられ……あれ』
おお!みるみるうちに呪詛が大きく減衰されていく!
どうやら小泉さんのかけた保護魔術に引っかかって弾かれたようだ。
やはり凄まじい腕の魔術師に違いない。
原始魔術で仮にも外神の呪詛をここまで減衰させるとは、素晴らしい腕だ。
降谷さんの声が困惑している。
『なんか少し押し戻されたな。まあいいか。ともかく、これからは君を常に見ている』
『怖い!怖い!怖いから俺に何してんだよ助けて紅子!』
キッドはついにちいかわみたいになってしまった。
小泉さんなら時間をかければ追跡の呪詛を消すこともできるだろうが、それはしないだろう。
なにせ消したら増える……は、インターネットの鉄則か。
でなくて、下手に消してニャルの注意を引いたら本人が来てしまう可能性もあるからな。
一応この呪詛自体に害はないし、俺なら放っておくことを選択するだろう。
あまりに見ていられなかったのか、哀れんでいるらしいコナン君が助け舟を出した。
『あのさ、キッドは見逃してやってくれねぇか?その……キッドは俺が捕まえるし、その、やっぱそういうのは可哀想だしさ』
『名探偵っっっ!!!』
キッドは涙声でコナン君を呼んだ。
たしかに、これは可哀想な人の子がニャルの化身に虐められてる図だからな。
これはコナン君に軍配が上がると言わざるを得ない。
ぐぬぬぬぬと唸ったあと、降谷さんは観念して人の子イジメを諦めたようだ。
「またの機会ということで」と言って燃える三眼の印をキッドから消したようだ。
ただ、呪詛の付与の際に多重付与された保護魔術が全てダメになってしまったようだ。
申し訳ないので代わりに俺が保護を掛け直しておく。
俺の方で、つらつらと掛かっていた魔術の残滓から構成を読み解いていく。
しかしこれはアレだな。
見事だが、構成上のアラも多いように見える。
単純な力押しに弱いのは組み方にも問題がありそうだ
途中でクッションになる層を挟んだ方が破られづらくなるし、MPタンクの役割も果たす。
加えて時流操作に脆弱性があるのもいただけない。
原始魔術特有の無駄も多いのでついでにブラッシュアップ。
保護層最奥に改良版の術式とコツ等をメモして完成である。
頑張りな若き魔術師さん。
健やかに生きて研鑽を積むのだよ。
なお、そのあたりでようやく推理が完結したようだ。
ターンは犯人の自白タイムに移っている。
人為的な火事によって妻を失った悲しみとか、犯人への復讐とかについて語っている。
やっぱ復讐犯多いんだよなぁこの世界。
そんだけ未解決事件が多いということでもあるのだが。
ちなみに、全国の復讐者さんが俺の探偵事務所に訪ねてくるのも当初からの悩みの種となっている。
コールドケース専門であるからこその弊害だ。
真犯人を伝えると音速で殺しに行く奴が多いこと多いこと。
それを防ぐため、警察と連携して仕事はしているのだが。
さて、犯人が泣き崩れたらついに降谷さんの計画の始動の時間だ。
突然、誰も居ないB室から煙が吹き出してくる。
降谷さんが「ん?煙…?少し見てきます!」と言って白々しく確認に行く。
扉を開けて、噴き出す煙に咽せながら「火事だ!」と叫ぶ。
火事に強い恐怖があるこの8号車の客たちは、血相を変えて逃げ出した。
俺と駅員さんも、不安そうな子供達を連れて慌てて避難を開始する。
俺の仕事はこれで終わりだ。
前の車両に足早に進んでいく。
もちろん志保ちゃんとも一緒だ。
ベルモットとやらに見られないよう、敵意のある人間に志保ちゃんは認識できないように細工をしておく。
志保ちゃんは青ざめた顔で俺の服の裾を必死に掴んでいる。
降谷さんとコナン君、そして怪盗キッド一味はついてくるふりをして、途中で離脱した。
俺はまったりと時間をおいて、安心させるように志保ちゃんの肩に手を置いた。
その怯えように、歩美ちゃんがそっと志保ちゃんの手を取った。
「哀ちゃん、大丈夫だよ」
「……ありがとう、心配かけてごめんなさい」
やや志保ちゃんの顔の緊張が取れる。
それからまもなく。
派手な爆弾の音が間を置いて二度、列車を揺らした。
「ぎゃあああああ!死ぬ!爆死する!!」という絶叫が念話内にこだまする。
別にその場に留まっても俺の魔術で無傷だったんだが、頑張って脱出してハンググライダーで飛んでいるようだ。
いや、考えてみればキッドは無事でもハンググライダーは消し炭になるか。
失敗失敗。
キッドもそれを悟って命からがら脱出したのかもしれない。
申し訳ないことをした。
コナン君が申し訳なさそうに沈んだ声を出す。
『キッド、悪かった……これは借りにしとく』
『いや、僕の方から正式に謝礼を贈っておこう。謎の幽霊、手配しておいてくれ』
『了解。あ、黄衣はこの後キッドの住所データ送っといてくれ』
『ホントに俺を労る気ある?』
可哀想な怪盗キッドが恨めしそうに文句を言った。
『謝礼には俺特製のペンダントも付けておくよ。きっとパンドラ取得に役立つから、受け取ってくれ』
『………名探偵、お前だけは俺の無事を祈っててくれよな』
『キッド……』
若い二人がしんみりとしている。
迷惑な大人に囲まれ、新たな友情が育まれているようだ。
そうして最寄りの駅に到着したら、あとは帰るのみである。
「災難だったわねー」とがっかりした様子の園子ちゃん達が遠く人波の向こう側に見える。
グデングデンに酔っ払って蘭ちゃんに肩で支えられてる毛利探偵も添えて。
なんとなくひと段落したなと思って、俺は肩から力を抜いたのだった。
・紅子さんの驚愕
防護魔術が破られた感覚に戦々恐々としてた。
そして帰ってきたキッドの体に旧支配者のガチガチ防護魔術がかかってて仰天した。
術式自体にメモ書きコーナーが作られ、そこに魔術の改善のコツが添えてあって宇宙猫。
そんな…プログラムじゃないんだからソースコードにコメント残すみたいな…。
・ハスターの術式
基本、リーダブルコードが心掛けられている。
簡潔なコメント、変数名はわかりやすく、ネストは浅く、ロジックは明確に。
実はハスターの瞳にも沢山のコメントなどが残されており、これらは古代ハイパーボリアで国民の意見を聞いて加えられた。
・ベルモットの動向
有希子さんが下手に動いてバーボンに殺されないよう個室に閉じ込めてた。
てっきり有希子に変装を依頼してるのかと思ったけど全然変装道具も無いし、なぜいるのか疑問に思ってた。
実はベルモットの動きを封じるためのデコイだったりする。
「え?透ちゃんは良い子よ?来日した時に時々ハスちゃんと一緒にいるから会うんだけど、すごく紳士的だし」
「冗談言わないでちょうだい有希子。アレの大根演技に騙されないで!」
「で、でも新ちゃんとも気が合うみたいでよく一緒にいるし、休日もどこかに遊びに行ってるみたいで。あ、蘭ちゃんも一緒に旅行にも連れてってくれたのよ?」
「(卒倒)」