ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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密室にいるコナン〈テニスするハスター〉

 

 本日は優雅に伊豆高原でテニス合宿なり。

 

 この間ベルツリー急行の帰りに園子ちゃんたちと合流したのだが。

 そこで園子ちゃんに「テニスの特訓相手に悩んでいる」と相談があったのだ。

 

 彼女は恋人である京極真と近いうちにテニストレーニングをするつもりらしい。

 トレーニングというかデート。

 テニスしながらイチャイチャするのだ。

 

 しかしテニス部の園子ちゃんとしても、最低限見栄を張りたい様子。

 

 たしかにあの武神さんの能力値だと、生半可な腕では一捻りされてしまいそうだ。

 故にこそ骨のある練習相手を探している、というわけだ。

 

 それに快諾したのは降谷さんであった。

 降谷さんは昔テニスのジュニア大会で優勝したこともあるようで、今も肉体維持のために時折ラケットを手に取っているようだ。

 

 とはいえ、この話があった当時はそんな暇欠片も無さそうなのに…と疑問に思ったものだ、

 

 実際には分身することを当初から視野に入れて、分身体の軽い準備運動に使おうとしていたようだ。

 強かな人である。

 

 今回、伊豆高原にきたメンツは俺とコナン君の他に降谷さん、諸伏さんのフルメンバーだ。

 

 ハイエースに荷物を乗せてやってきた俺たちは、別荘の駐車場に車を停めてもそもそと準備を開始する。

 まだ別荘には入れないため、皆で車内で着替えをするのだ。

 

 俺が腕をスポーツウェアに袖を通していると、隣のコナン君から声がかかった。

 

「黄衣さん、毛先の触手が服の外に出てる」

「うお、サンキューなコナン君。んー、やっぱ上手くいかないな。大丈夫かなこれ…」

「帽子でも被ったらどうだい?」

 

 降谷さんが持っていたベースボールキャップを被せてくれたので、中にごそごそと髪と触手を仕舞い込む。

 

 俺は人間化が不完全で毛先が触手になってしまっているからな。

 最近ではバレないよう触手を細ーく髪の毛に紛れ込ませているからよっぽどよく見ない限り分からないが。

 やはり落ち着かない気持ちである。

 

 TVに映る時は念のため追加で三つ編みにして触手感を隠している。

 初めに化けた時の失敗がそのまま残っているだけなので、そろそろニャルに相談してなんとかすべきなのだが。

 微妙に面倒臭くてそのままにしてしまっている。

 

 ニャルにプークスクスされるのも億劫だし。

 

 着替えが終わったら外に出て、すでに予約してあったコートへとみんなで向かう。

 二面予約してあるので、割とゆったりプレイできる予定だ。

 

 終日で借りているから時間を気にする必要はない。

 歩いて3分ほどで辿り着き、俺はマイラケットを構えて意気揚々とコートに立った。

 

 仁義なきグーとパーによるグループ分けの結果、俺の相棒は諸伏さんとなった。

 諸伏さんは非常に不安そうにコートの向かい側に立つ。

 

 俺、テニスはマジで完全に初めてだからな。

 なんなら繊細な球技をするのが顕現して初めてでもあるし。

 

「よし、いつでも来い!」

『もう全部が不安なんだよなぁ…』

 

 隣で和やかにテニスするコナン君と降谷さんを羨ましそうに諸伏さんが見つめている。

 そんな地雷に見えるかな俺。

 

 これは気合を入れて名誉挽回せねばなるまい。

 

 諸伏さんは俺に気を遣ってから、軽く放るようなボールを寄越した。

 

 こうして見るとボールがあまりにも小さい。早い。ラケットの面の調整が大変。

 気分的には、この一瞬で米粒に曼荼羅模様を書き入れなきゃいけない気持ちである。

 

 ひとまずそれっぽい感じにブンと振っておく。

 

 ラケットは宙を切って、ボールはそばをコロコロと転がっていった。

 

「………も、もう一回!!」

『本気は出さなくていいからな。もう一度言うけど本気は出さなくていいからな』

 

 何か言ってる諸伏さんに拾ったボールを渡して、俺は悶々と考えた。

 

 まず「ハスターの瞳」で空間把握をするだろ。

 ボールの到達予想地点が分かるから、それを元に身体操作補助魔術を構築。

 理想的な返球の軌跡から逆算して、ラケット面を調整する。

 

 ばばばと魔術式を展開し、俺はラケットを構えた。

 

「よし、来い!!!」

『俺の言ったこと聞いてた?』

 

 諸伏さんは立派なチベットスナギツネになってしまっているが、俺としてはこの悔しい思いをなんとか昇華させたい。

 意気込みを表すようにブンブンとラケットを振る。

 すぐさま「静まりたまえ」と言われてしまった。

 別に荒ぶってねーし。

 

 再びボールが俺の元に緩い軌跡を描いてやってくる。

 

 魔術が作動する。

 急拵えの身体操作魔術により、カサカサと細かく動いた俺の体がボールの前まで突撃した。

 入りと抜きを欠いたパントマイムみたいな動きでボールを打ち返す。

 ボールは計算通り理想的な軌跡を描き、諸伏さんの手元へと跳ね返る。

 

 二、三度、ラリーを続けてから諸伏さんがボールを受け取って沈鬱そうに俯いた。

 

『キモいから。二足歩行のゴキブリがテニスしてるんじゃないんだから、俺に視覚攻撃してこないでくれるか?』

「申し訳ない。もう後少しデータが入ったらいい感じになるから待って」

 

 現在時間軸を遡り、あらゆるテニスの動きを収集、俺の現在の身体に合わせて最適化を進めているところだ。

 いい具合にプログラムの腕前を調節して。

 よし。

 

 三球目がゆったりと俺の前に放たれる。

 

 作動した魔術が俺の体を動かし、滑らかにボールを打ち返した。

 諸伏さんが目を見張ってラケットを構え直す。

 経験者さながらの動きに、諸伏さんが目を見開いた。

 

 ゆったりとしたらラリーが、だんだんと一般的なそれへと変化していく。

 

 体を動かすって、実に楽しいものだ。

 俺はなんとなく人間体の表面から汗っぽいようなものを分泌させ、それをタオルで拭うなどした。

 

 途中からこちらを見ていたらしい降谷さんがジトっと俺を睨め付けている。

 

「それは流石に不正行為じゃないか?」

「そんな気もするけど、俺がラリー中に力加減間違えたら大事だからこれでいいんだ」

「なるほど確かに」

 

 うっかり力を入れすぎでラケットが爆散するぐらいなら別にいい。

 必死こいてボールを見つめすぎてボール周辺の時空が歪むとかあっては困るので。

 これが最適解なのである。

 テニスがド下手だという現実を直視したくないわけではない。

 

 コナン君がスポドリ取りにコート端へと駆けていく。

 ブレスレットに汗が絡んで不愉快なのか、「一旦外すね」と言い置いてからポケットへとしまった。

 

 うむ。汗対策も今後検討に入れるべきだろう。

 

 そうこうしているうちに、蘭ちゃん、園子ちゃん、毛利探偵の三人が到着したようだ。

 

 丁寧な園子ちゃんが「今日はありがとうございます安室さん!」と挨拶した。

 降谷さんも軽く笑って応じている。

 

 最初は降谷さんを警戒していた園子ちゃんも、最近ではすっかり打ち解けているようだ。

 諸伏さん共々「観賞用イケメン」として接触を楽しんでいるように見受けられる。

 

 なお俺はネタ枠扱いである。

 イケメンというには性格が三枚目過ぎるらしい。

 蘭ちゃんは「面白くて優しい人よ?」とフォローしてくれるんだが、面白いってなんやねんと思うなど。

 別に面白く振る舞ってるつもりはないやねんて。

 

 女子高生組の後ろにいた毛利探偵が、俺の姿を見て眉間に皺を寄せた。

 

「なんだ、オメーもいたのか黄衣。いいのか、とんでもない数の依頼が舞い込んできてるってひーひー言ってたじゃねぇか」

「大半は所謂気のせい…事件性無しですから。本物の怪異はごく少数。問題ありませんよ」

「ほーん。にしても、バケモノや幽霊が実在するなんざ、いまいち信じられねぇっつーか」

 

 毛利探偵は怪異の存在に懐疑的なようだ。

 困ったように頭をかいている。

 

 元捜査一課で多くの事件に接しているだろうし、同時に人の執念を目にしていることだろう。

 それでいまさら「妖怪も実在してます!」と言われてもピンとこないのは仕方あるまい。

 

 俺は軽く笑って「たしかに急に言われても、みたいなところはありますよね」と相槌を打った。

 

 毛利探偵はため息をついて、俺の肩をポンと優しく叩いた。

 

「オメーも、あんまヤバいヤマに関わるんじゃねーぞ。まだ若いんだし、無理してっと碌なことにならねぇからな」

「え……はい」

 

 それだけ言ってくるりの背を向け、毛利探偵の後ろ姿が離れていく。

 

 俺は心配された、のだろうか。

 人間に。

 危険なことはするなと、俺は気遣ってもらったのだ。

 

 嬉しくて気恥ずかしくて、俺は身を小さくした。

 

 

 

 さて、事件の始まりはこのタイミングであった。

 

 ごっ、という音がして。

 隣のテニスコートに居たコナン君に、飛んできたラケットがぶち当たった。

 

 ブレスレットを外していたため、そのラケットはストレートにコナン君の頭に衝撃を与えた。

 頭を押さえて昏倒するコナン君。騒然とする場。

 

 ラケットの持ち主らしき女性が慌てて駆け寄ってくるのが見える。

 事故では俺が責めすぎるのもお門違いだ。

 

 素早く確認したコナン君の容体は単純な脳震盪だけのように見えた。

 たんこぶはできるだろうが、脳に問題はなさそうだ。

 

 油断も隙もない。

 ブレスレット以外の保護手段も併用すべきか、と俺は思考を巡らせたのだった。

 





・テニス魔術
無駄に高度な魔術。急拵え。
君もこれで超一流プロテニスプレイヤーだ!
なお途中で飽きて、黄衣は自分でラケットを振り始める定めにある。

・毛利探偵
黄衣とは時々飲みに行く仲。
「真面目すぎて色々抱え込みやすいタチだろうからな。そんな性分の奴だよ、アイツは」とは毛利探偵の言である。
少しでも楽に生きられるように、悪いことを覚えさせるべく麻雀や競馬に連れてったりしている。
娘にも請われて毎月無償でペンダントをどっさり贈っているようだ。
「世間に言われるような名探偵でもねえのに、周りに担ぎ上げられて、律儀にそう振る舞ってる。ったく、見てらんねーよ」

・黄衣氏のコメント
トゥンク……。
やだ、イケメン……。加護渡そ……。
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