「どもどもーお邪魔してまーす!」
休日昼下がり。
本日のお客さんはルパン三世だ。
どかっと大胆にソファに腰を下ろし、ニヒヒと笑う姿は余裕。
凄い険しい顔で威嚇する降谷さんと、それをなんとか宥める諸伏さんのコントが愉快だ。
「ヒロ、アレは魂を引き抜いて逃げられなくしてから銭形警部に引き渡すのが正しい作法だ」
『妖怪ゼロじゃん』
「誰が妖怪だ誰が。ルパン三世の四肢を自由にしたら逃げられるだろうが」
対して、「ルパンじゃねーか!久しぶりだな!」と俺の隣で歓迎の様子を見せるコナン君である。
コナン君は彼らと共闘した仲、ということらしい。
ひとまずルパンに茶でも出して、俺は口を開いた。
「どうしたんだ?俺のこと警戒してただろうに」
「俺も個人的に調べてたってことよ。で、これなら相談するのにぴったりだってこともな」
「次元にはパスされちゃったけど」と参ったねのポーズ。
一人でこの事務所に来たのは他の仲間に拒否られたからもあるらしい。
ルパンは足を組んでニヤッと笑う。
「ヴェスパニア鉱石って石、知ってっか?」
そう言って取り出したのは、赤い宝石のついた控えめで美しい指輪だ。
見覚えのある石だ。
おそらくこの石は現在、ヴェスパニア鉱石と呼ばれているということなのだろう。
「これ、魔術で使えるシロモノって聞いたんだが、本当か?」
「へえ。今はそんな名前で呼ばれてるんだな。ああ、魔術的な意味を持つ宝石なのは間違い無いよ」
初期のハイパーボリアで俺が与えた神造宝石だ。
当時の名を「加護の光」という。
宝石そのものが魔術として成立しており、どれだけカットしてもその魔術的意味を失わない特徴を持つ。
また、見えぬもの、理解を超えるものを打ち払う効果がある。
人類を守る原初の防護としての役割を果たす、神造の加護のこもる物質だ。
とはいえ、ハイパーボリアもごく初期に使われなくなってしまったのだけどな。
なにせ「見えぬもの、理解を超えるもの」の全てを打ち払う力だ。
魔術どころか紫外線や赤外線、超音波、まで打ち消してしまって、色々使い所が難しすぎた。
特にハイパーボリアは高度な魔術社会。
魔術を打ち消す力とは相性が非常に悪い。
たぶん現在だと電波の遮断やら電子機器の無効化やらにもなってしまって、やっぱりろくに使い物にはならないだろう。
一応俺はルパンへと頷いて見せて、首を傾げた。
「俺も良く知ってる、古代からある宝石だ。でも危険なものじゃないぞ?見えないものを打ち払う、人が怪異と立ち向かうための宝石だし。しかも電波を遮断しちゃってちょっと使いづらいし」
「えー………」
ルパンの呆れたような声が突き刺さる。
そして「あのね、電波遮断、爆弾にして敵国の首都に落とせばね。わかる?」と優しく諭すように言われるなど。
え、つまり何?
この石の見えぬものを遮断する力を利用してテロリズムを働くってこと?
ちょっと考えもしなかった発想に、俺はびっくりしてドン引きしてしまった。
「怖……ウッソでしょ人類ちょっと発想邪悪すぎない…?」
「カミサマよぉ、ちったあしっかりしてくんね?」
「いやこれは想定外過ぎる使い方だよ!?俺の真心を返して!?」
俺の苦情に、コナン君まで「黄衣さん、戦犯かぁ」などと呟く始末。
降谷さん達もうんうん頷いて俺の不注意を責め立てる。
ドウシテ……ドウシテ……。
降谷さんがチラリと俺を見て口を開いた。
「けれど、魔術師が求めているというのは少し不可解だな。聞く限り、それは魔術を遮断するはずだ」
『確かに。何か他に効果があるのか?』
二人の質問に「あー、それは」と言いかけると、室内の視線が俺へと集中する。
言い辛い事この上ない。
「えっとだな、たぶん、宝石に付けた追加機能で俺の招来を狙ってるんじゃないかと思う」
「旧支配者の招来魔術の触媒になると?」
降谷さんが「なぜそんな危険なものを放置した」と咎めてくる。
でもこれは本来、どうしても怪異から逃げられなくなった人が最後の手段として俺を呼ぶ、と言うシーンを想定して付けたものだ。
110番とコンセプトは同じ。
断じて危険なシステムでは無い。
「俺以外にもイタクァ、ロイガーとツァール、ビヤーキーなんかが呼べるけど。工夫がいるから基本は俺を呼ぶ形になるかな」
「超危険物質じゃないか!!!」
いきりたった降谷さんに俺は小さく縮こまって言い訳を並べるなどした。
でもでもぉ、基本みんな地球は出禁かつ俺も招来術式は着拒だからぁ。
問題ないって思ったしぃ。
ちなみに、イタクァもロイガーとツァールも、俺の部下、眷属だ。
今はイタクァはどこかをほっつき歩いている。
ロイガーとツァールは真面目な性質だし、俺が出てくる時に代わりに黒きハリ湖の世話を任せてきた。
ルパンは俺たちのやりとりに目を丸くして瞬きしたようだった。
「オープン過ぎねぇ?ここ、人外同好会の事務所とかだったりする?」
『最近はややその傾向があるのは否めない』
諸伏さんが重々しく頷いた。
いつのまにかなぁなぁになったからな。
俺が隠し事下手すぎ露骨すぎ説もなくもない。
コナン君が「僕は人間だけど!?!?」と不服をあらわにするがまったり進行が続いている。
少数意見は黙殺されるのが世の常である。
「ともかく、もし火種になるようならヴェスパニア鉱石は俺の方で無効化しておくよ。それでいいか?」
「持ってる分だけ無効化しても意味はねぇよ。ヴェスパニアには鉱脈があるんだし、時間の問題だっつの」
「いやいや、『地球に埋蔵されてるヴェスパニア鉱石全部』の無効化だよ。未来永劫、地球にある全てのヴェスパニア鉱石がその効果を失うようにするというか」
「……!」
俺が与えたものなのだから、俺が責任を取らなばるまい。
少し寂しい気もするが、それが戦争の火種になるというのなら。
危険物を人から取り上げるのもまた、俺の責務となるだろう。
ルパンもしばし逡巡した後、頷いたようだった。
「鉱石に触れないことは、現在のヴェスパニア王国の意向だかんな。んじゃあ、頼んだ」
「オーケー」
パチン、と指を鳴らし、この星に散らばるヴェスパニア鉱石全てへと干渉。
次の瞬間には、それらはヴェスパニア鉱石たる力をすっかり失ったのだった。
呆気ないものだ。
コナン君達も、俺の行いに何も口を挟まなかった。
彼らもまた、ヴェスパニア鉱石の国際的な影響力の強さを懸念していたのだろう。
念のためもう一度ハスターの瞳で確認する。
そして俺は二度見して、ぐっと息を飲み込んだ。
思わず「やっべ」と声を出してしまう。
それを耳ざとく聞きつけた降谷さんが目を三角に吊り上げた。
「今、君何かしでかしただろう。何をした?正直に言った方が身のためだぞ」
「へへっ」
「オイ」
ドスの効いた声で凄まれてしまったので、慌てて白状する。
「………ヴェスパニア鉱石で封じてた怪異がちょろっとね……まぁへぼい奴だし押し込み直しておいたから大丈夫大丈夫」
『惨劇過ぎて草』
草じゃないが。いや俺が言えることでもないが。
ちょろっと出かけた怪異は俺が雑に押し込み直して封をしておいたから問題なかろう。
数が多いから一個ずつは見てないが、大体は大丈夫だったはずだ。
「日本じゃないだろうな?」と言われたので「大部分は日本以外だよ!」と答えておく。
瞬時にギロリと燃える三眼で睨みつけられた。
キレたニャルの化身を前に、俺は縮み上がって手で頭を隠すなどする。
降谷さんが巨大なため息を漏らした。
俺の証言を頼ることはやめたらしい。
「すまないがルパン、封印が緩んだらしい怪異の様子を見てきてくれないか。日本も事象範囲内みたいだし、放ってはおけない」
「……まあ、頼みをしたのは俺の方だからな。良いぜ。仕事ぐらいはきっちりしてやるよ」
「───期待していますよ、ルパン三世。面白い羽虫」
急に降谷さんの口調が変わった。
最近では珍しいことに、ニャル野郎が降谷さんの体を使ったようだ。
お気に入りのおもちゃの来日ということもあり、一目様子を見に来たということなのだろう。
一応俺も声をかけておくこととする。
「お前、近場に本体あるんだから降谷さんの体使うことないだろ?」
「でもせっかく貴方が作ってくれた巣から出たくなくて……」
きゅるんとニャルが少女漫画みたいに瞳を潤ませた。
残念ながら見た目は降谷さんなのでアレなのだが。
でも、そこまで俺があげた館を気に入ってくれたのなら嬉しい限りだ。
へへ、と照れ臭くて視線を彷徨わせてしまう。
と、そのあたりでコナン君が頭痛を堪えるように話を無理やり強制終了させる。
「ルパン、頑張って。僕も応援してるから」
「このしまらねー感じも社風ってやつ?」
「うん。やる気三割ぐだぐだ八割が黄衣探偵事務所の社訓だって聞いてる」
「一割多くね?」
コナン君の真面目なボケにルパンが仕方なくツッコミに回った。
ルパンは非常に不服そうだ。
ぶすぶすと文句を言いながら、しかし覚悟は決めたらしくルパンが快活に笑う。
「ま、俺様はルパン三世なので?今回もせいぜい鮮やかにこなしてやるさ」
ルパン三世が胸を張る。
にやっと笑って、ニャルの悪質な視線もなんのその。
本当に、見たことないほど強い人だ。
俺も先ほどのヴェスパニア鉱石無効化で逃げ出そうとした怪異一覧を印刷して、ルパンへと手渡す。
その拍子に、彼の手元にオーガナイザーが無いことに気づいて首を傾げた。
「そういえば全生活オーガナイザーはどうしたんだ?前は持ってたと思ったけど」
「あれはガキンチョに渡したよ。今はそこの三眼の兄ちゃんが保管してるんじゃねぇか?」
その言葉に、ニャル……じゃない、降谷さんが首肯する。
言うだけ言って奴は退去したらしい。
となると、オーガナイザー無しだと少しルパンの防御に不安が残る。
「なら代わりだ、受け取ってくれ」と言って、ルパンが持っていたヴェスパニア鉱石の指輪に干渉。
新しい術式を流し込んだ。
起動式の強い退散術式だ。
神話生物の地球外退去のみならず、通常怪異の消滅、呪詛の除去などを組み込んである。
「それ、掲げると怪異を祓う効果が期待できるから、ヤバくなったら使ってくれ。7回までだから、とっておきって感じかな」
「あんがとよ。なるべく使わずチャチャっと終わらせてくるさ」
そう言ってルパンはさらりと立ち上がって背を向ける。
ピラっと手を振って、そのまま来た時と同じように泰然と去っていったのだった。
その後ろ姿に「パパにもよろしくー!」とコナン君が別れを告げる。
うーんハードボイルド。
俺もかくありたいものであることよ。
・ヴェスパニア鉱石
古代、原初の人類が怪異から身を守るために用いた、神より授かりし秘宝。
悍ましきもの、恐ろしきものとは見えぬものなり。理解できぬものなり。
この度神よりその権威を取り上げられ、ただの石へと成り果てた。
・ルパン一味の大冒険
うっかりまろびでた古代に封じられた怪異の様子を見に行かされた大泥棒。
これ以降触れることはないが、謎の組織と切った張ったをしながらアニメスペシャルを7作ほど作って回り切った模様。
一応基本は再封印が掛けられているが、時折面倒臭いことが起きてるので生きて脱出して黄衣まで知らせれば勝利のゲーム。
時々ニャル(本体)のちょっかいがあるためかなりの高難易度。
結構ガチに死にかけた。
・ジンニキ
追跡者から全力で逃れ、雪の積もる山を下っている。
振り向かず拳銃で威嚇し逃げるチキンレースだ。
「追跡者ありでの掟の遵守、かなりの難関ですね」
諸伏が手鏡で後ろを確認して言った。
追ってきたのはクマ、のように見えたが。
「六足に、サイのような角。正直、拳銃では逃走の補助にしかなりませんね」
「チッ。もう二時間は下ってるはずだが」
「下山にはなんらかの条件を満たす必要があるのでしょうか」
先ほどから一定区間ごとに小さな道祖神の像が立っているのが見えた。
道なき道に苔むしたそれがポツリとあるのは、やはり不自然だ。
「それに、三つごとに見る双体道祖神が気になります」
「……肩を組んでいやがったな。ルールを無視して」
右手を肩より上に上げないルールに反している。
「ええ。抱肩。しかも右足を踏み出している。クマの怪物を引き離したら一度確認しましょう」
「ああ」
諸伏が軽く笑って拳銃を握り直す。
「それと、貴方の銃弾、残り少ないでしょう。次は私が対処します」
「死ぬなよ」
「勿論。どうせ一人やられれば共倒れですから」
降りれば降りるほど雪が詰もり、山は凍えるほどに気温が下がる。
そんな中、二人はお互いを鼓舞しあった。
・降谷さんのコメント
ジン如きがヒロのお兄さんに気安く話しかけ過ぎなんですけど(憤怒)。
クマの怪物は黄衣君の伝手で借りてきた神話生物「ノフ=ケー」です。
白熊のような姿で、氷の魔物とされています。
もちろんヒロのお兄さんには傷一つつけず、ジンの野郎のタマを確実に取るよう躾けてありますのでご安心を。
本来そこにいたショボイ旧神にはよく言って納得してもらいました。
ちょっと数の多いだけの山犬に追わせていては話になりませんからね。
ちなみに、ペナルティは一つ目は右目の視覚喪失。二つ目からは四肢の萎縮になります。
どうやらジンは右目が見えてないことも、左腕が動かないことも言わないつもりのようですね。
・ノフ=ケー
真面目に仕事中。
残念ながら獲物二匹の区別があまりついていない。
ひとまず二匹とも引き裂けばいいかの精神。
・諸伏兄
ジンがペナルティを受けたことを察している。
強がりな人だ。