「どちらのスイーツでSHOW!」という番組へ出演することになったなり。
日売TVの人気番組で、毎週ゴールデンタイムに放送され知名度も高い。
今回俺に参加のお誘いが来たのは、審査員の降板があってのことらしい。
なんでも、殺人事件の犯人として審査員の一人が逮捕されてしまったらしく。
その後釜として入れ替わりで俺が参加することになったのである。
殺人事件についてはすでに解決済み。
本当に治安が悪くて仕方がない東都だことよ。
何はともあれ俺に「どちらのスイーツでSHOW!」の審査員依頼が来たのは嬉しい限りだ。
美味しいスイーツを食べることができて嬉しいし。
お給料も貰えてさらに嬉しい。
八方よしである。
事前打ち合わせで流れを再確認しながら、目の前のプロデューサーさんが愛想笑いをした。
「それにしても、事務所の方は本当にデビューされないのですか?」
「ええ。あまり目立つと本業に支障がでますので。すみません」
「残念です……きっと引く手数多でしょうに」
樽丘プロデューサーが眉を下げて諦めきれないこのような顔をした。
降谷さんと諸伏さんはどちらもかなりのイケメンだからな。
TV界のお誘いはひっきりなしに来るのだ。
特に降谷さんなんかは元々ホスト顔負けの整った顔立ちだ。
さらにこの頃はニャルの影響でAPP19を突破している。
人の枠を超えた美は圧巻の一言。
一挙一動が麗しく、TV関係者の視線をひいてやまない。
この間なんて「次作の仮面ヤイバーの席あるよ」なんて誘われ方してたぐらいだ。
注目度はかなり高いと言えるだろう。
もっとも、本人は「無闇矢鱈と人目を引いて面倒臭い」とご不満の様子だったが。
ちなみに、俺は冷静沈着な切れ者探偵系俳優ですっかり定着した。
凄いINT高い役というか。
探偵に始まりカリスマ医師、弁護士、警察キャリアまで色々だ。
時々ホームズ系変人もあり。
プロデューサーさんにも「イメージと違って付き合いやすい方ですね」などと言われたりして、偏見も甚だしい感じと化してしまっている。
なお、この「どちらのスイーツでSHOW!」で求められている方向性も探偵のそれである。
つまり舌で正確にスイーツを評価せよ、ということだ。
ええんやけど、美味しさなんて主観なんだからそんな正確性を求められても困るやで。
やるからには全人類で仮想統計とって全力で評価するけども。
さて。
最終打ち合わせが終われば、あとは本番のスタートである。
先ほどのリハーサル通りにやればいいわけで、そこまで難しい内容ではない。
が、少しばかりトラブル発生。
審査員の一人がいつまで経っても現場に現れないのだ。
それどころか今日局に来てもいないらしい。
腕時計を見ながら「困ったなぁ、次の収録もあるしもう時間がないぞ…」と樽岡プロデューサーが苛立っている。
この番組に非常にこだわりの強い審査員さんだと聞いているので、収録をすっぽかすのは変だ。
俺も気になって「ハスターの瞳」でちらりと行方不明の審査員さんを探す。
「………!!」
「どうかされました、黄衣さん?」
「ハスターの瞳」に映る光景に思わず息を呑み、共演予定の沖野ヨーコさんに心配そうに声をかけられてしまった。
慌てて「すみません、武木さんのことが少し心配になってしまって」と言い訳する。
その方は既に亡くなっていて、この番組で使う宝箱の中に詰められているようだ。
うーん、この番組流石に爆散したかもしれん。
俺は思考を回して呻いた。
宝箱は番組の都合上厳密に封がされていて、番組が始まるまで決して開けられないようになっている。
だから俺が番組が始まる前に中身を検めることはできない。
そしてこのままだとたくさんの番組ギャラリーの前で、本番収録のカメラが回る中箱入り死体がご開帳されてしまう。
目の前で痺れを切らしたプロデューサーが「始めるぞ!」とGOサインを出した。
ああ、もうだめだ……。
俺は諦めて爆散確定の番組収録に挑んだ。
席に座ってカメラが回り出す。
審査員は別室での撮影なので調理場の様子はわからない。
俺は肌が青白すぎるため毎回メイクも行ってもらっているのだが、なんとなく脂汗で崩れてきた気すらする。
カメラ前でいつも通り優しげかつ理知的に見えるよう挨拶した。
しかしその直後に異常が起きた。
調理場での進行がストップしたらしく、ADさん達が慌てて行き来している。
おそらく番組冒頭の宝箱を開けるシーンで死体がお披露目されてしまったのだろう。
遅れて、若いADさんの一人が慌ててバタバタと駆け込んで来た。
「すみませんっ!黄衣さん来てください!死体が、死体が箱から出てきて…!」
「っ、すぐ現場に向かいます。案内してください!」
「はい!」
ADさんの言葉に番組出演者の全員が凍りついた。
スタッフさん達も皆顔を青ざめさせている。
俺へと集中する視線を背に、現場に走る。
現場では山ほどのりんごに埋もれて、死体がデロンと箱から飛び出ていた。
コナン君と世良さんが箱の周りをうろちょろしている。
それを見たスタッフさんが止めようか困っているようだ。
スタッフさんに駆け寄って「彼らは俺の連れだから問題ないよ」とフォローしておく。
探偵を邪魔するものではないからな。
観客達にも不安が広がっているようで、ADさん達の動きも鈍い。
あまり良くない雰囲気だ。
俺の姿を見つけた樽岡プロデューサーが転けそうになりながら駆け寄ってきた。
先ほどのADさんはプロデューサーが俺を呼ぶために向かわせたものらしい。
「来てくれたか!」と怯えた様子で視線を彷徨わせた。
「警察には連絡しましたか?」
「え、ええ。あの子らに言われて…」
既に世良さん達が警察を呼ぶよう指示したということは、やはり事件性ありということなのだろう。
まあ、どう見ても誰かが死体を箱に詰めない限りこの状況は成立し得ないから当然か。
時々…でなくて割と頻繁にアクロバティック自殺な時もあるから一概には言えないけれど。
なら事件現場は彼女らに任せて、俺は観客達を落ち着かせるべきだろう。
動揺するプロデューサーさんに声をかける。
「俺がギャラリーを落ち着かせるので、スタッフさんに別室を用意させてください。あまり死体のある部屋と一緒に居させるわけにはいきませんから」
「そ、そうですね。お願いします」
青白い顔をしたプロデューサーさんが部屋を取りおわったを確認してから、俺も声色に魔術を絡める。
「ご安心ください!間もなく警察が到着します!皆様はスタッフの案内に従いゆっくりと別室へ移動してください!」
俺はこの手の知名度も実績もある。
俺の声かけにギャラリーの不安がある程度払拭されたようで、観客達の誘導もゆるゆるとではあるが進み出した。
あとは、警察の到着を待つのみだろう。
コナン君達の様子を見に行けば、二人は考え込んでいたようだった。
死体の前で考え込む世良さんに声をかける。
「よう、推理は順調か?」
「アンタか。見ての通り、死体を箱に入れた謎を解き明かしてる最中だよ」
ふむ、と二人の顔は険しい。
意外と苦戦しているようだ。
一応俺も毎度恒例の怪異チェックをして、コナン君に結果を告げる。
「怪異なし魔術なし。オールクリアでーす」
「ありがと」
コナン君の感謝を聞いて、世良さんはため息をついてから俺を睨め上げた。
「ったく、本当に怪異なんてあるんだな。僕も正直まだ信じられないんだけど」
「それだけ平和だったってことだよ。良いことじゃないか」
世良さんは納得できない様子で腕を組んだ。
彼女も警視庁からの発表をTVで見たらしい。
連日特集まで組まれていたし、話題性はピカイチだったからそれも当然か。
世良さんは誰かのモノマネを交えつつ、唇を尖らせて難しい顔をした。
「知り合い、が。……随分怒ってたよ。『寝ているライオンを起こすなという諺を知らんのか』ってさ」
「まあ、リスクがあるのは確かだけどな」
俺も同意して世良さんの言葉に頷く。
怪異は知ることをトリガーに感染、増殖、変異する性質を持つものも多い。
俺たちもギリギリまで世間に公表するかは議論を重ねたものだ。
怪異対策用の部署は作るがふわっとした名前の部署にして、その行動は秘匿するとかの案もかなり真剣に考えた。
だが、やはり人が正しい知識で未知を対処するのは必要な工程だ。
俺も定期的に国内の怪異情報を更新するし、知識による変異増殖には俺の方で対処する。
そうして、俺の協力を前提として公開に踏み切ったのだ。
もちろん将来的には全て人の手で処理できるようロードマップも組んである。
未来で人が自らの力で怪異を踏み越えられるように、僅かばかりの希望を託した形である。
とは言えそれは日本での話。
一般的には「見るな聞くな関わるな」が一番死傷者を出さない手段であるのは間違いない。
他国では報道のされ方もまちまちだが、一般には米国の例に倣ったと捉えられてはいるようだ。
なんにせよ今は目の前の事件に集中しよう。
そのように、俺は世良さんへと肩をすくめて見せるに留めたのだった。
・ハスター
皆が望むように振る舞う、天性の俳優。
世間ではイメージが儚げ探偵で固定されがちだが、役柄でガラッと雰囲気が変わるタイプ。
今は昔からの人気刑事系連ドラにて、今シーズンのラスボス知能犯を演じている。
ネットでは闇堕ち名探偵とか本気出したら黒幕だったとか散々擦られているらしい。
なので、実は降谷さんのこと言えないぐらい忙しい。
こっそり時間を折りたたんで同時間複数回行動もしてたりする。
ハスターは時間を超えて同一なため、時間理論で屁理屈こねて純粋に分裂しただけとも言う。
・人気刑事系連ドラ
相棒みのある骨太の刑事ドラマ。
映画化もされており、トリックも凝っていて原作小説人気も高い社会派。
黄衣が演じる今期ラスボスは穏やかで優しげな評判の良い心療内科医である。
しかしその裏では患者やその親族にそっと囁きかけるだけで殺人を犯させる、最悪の知能犯だった───。
主人公である切れ者刑事をも翻弄する知略と、穏やかだが迫力あるキャラ性が話題になっている。
なお、ドラマのファンであるコナン君は「演技は良いんだけど演者の性格が頭をよぎって集中できない」などと苦言を呈した。
黄色の印の兄弟団では「神を悪役に据えるのはいかがなものか」「悪として振る舞う事で我々に善き行いを示そうとしている神の慈悲深さに感涙」「それはそれとして神の演技めっちゃ良い」と評判だったようだ。