まもなく警察が到着し、現場検証が始まった。
毎度お馴染み捜査一課の目暮警部がやってきたのだが、俺を一目見て胡乱な顔になった。
その上「我々の先回りしてるのかね?」などと俺を責めてくる始末。
最近俺自身も目暮警部の追っかけしてる気もしてきたので、ちょっとばかり否定できなかったり。
ともかく、怪しいのは三人だ。
この番組の責任者である樽岡プロデューサー。
ADの降谷さん──同名なだけだ。
フードコーディネーターの春日さん。
この三人だけが、今日宝箱のある第三倉庫に入ったことが監視カメラで証明されている。
なんらかの理由で揉み合った際に被害者を殺してしまい、箱に詰めて隠蔽しようとしたのはこの三人というわけだ。
鍵を確認しながら、少し煮詰まった様子を見せたコナン君が俺を見上げてくる。
「黄衣さんは何か気づいたことある?」
「事件でか?んー」
コナン君がこうして俺に聞いてくるのはかなり珍しいことだ。
それだけとっかかりを探しているということでもある。
興味深そうな視線は世良さんからも放たれている。
俺は必死こいて考えた素人推理をコナン君達へと披露した。
「フードコーディネーターさんは『2個ある鍵のうち、片方はよく確認してなかった』って言ってただろ。だから、偽物の鍵を付けてた、とかは考えた」
宝箱には特注の鍵が二つかかっている。
片方はTV局側がかけた鍵。
もう片方はフードコーディネーターさんがかけた鍵だ。
よくある暗号の仕組みでやりとりされており、相互に鍵を持ち合うことで中身の無事が保証される仕組みだ。
でもTV局の鍵をきちんと確認していないとしたら、「それっぽく鍵をかけたふりをする」だけで騙せるはずだ。
世良さんは俺の意見に懐疑的に目を細めた。
「それだと樽岡さんか降谷さんが犯人ってことになるけど。犯人は倉庫から出てきた時に、使い終えた偽物の鍵を持って出てくる必要があるぞ。倉庫内に変なものは見つからなかったみたいだし」
「じゃあダメかー。難しいなやっぱ」
「………いや。全部、偽物である必要はない。錠前のほんの先だけが、偽物だったとしたら?」
「ッ!」
コナン君の言葉に世良さんが目を見開いた。
にやり、と挑戦的にコナン君が口角を吊り上げる。
「冴えてるよ、黄衣さん!」
「行こうコナン君!なら証拠は第三倉庫にあるはずだ!」
駆けていく二人の後ろ姿をぼんやりと見送る。
具体的なトリックはよく分からんが、先っぽだけが偽物ってなんやねんと思うなど。
置いていかれたので、俺は悲しく廊下をぷらぷらと彷徨った。
どうせ俺がいても意味ないし、どこか自販機の前で時間を潰そうか、などと思案する。
そうして休憩スペース近くまで来たあたりで、階段を登る水無さんとばったり遭遇した。
撮影終了後なのか、帰り支度のカバンを持ったまま水無さんは俺を見て瞬いた。
「あら、どうも黄衣さん。下に警察車両が集まってたみたいだけど、何かあったの?」
「ん。ちょっと殺人事件。『どちらのスイーツでSHOW』が飛んだかも」
「大事件じゃない。日売の目玉番組なのに」
水無さんはげんなりした様子でため息をついた。
これを受けて大幅な番組改編があれば、多忙な水無さんのスケジュールにも影響が出ることだろう。
「それで、解決はしそうなのかしら?」
「そっちは順調。聞いた感じ犯人の動機に番組内の不正が直結してるから、番組自体は終わりだけど」
「……はぁ。今のうちにゆとりを持って動こうかしら」
諸行無常ということだろう。
俺もプロが手間暇かけて作った美味しいスイーツを食べ損ねたし、良いことなしだ。
やはり俺に残されたのはニャルが手間暇かけて作った殺人スイーツのみということなのだろう。
「ところで、少し良いかしら」
水無さんが声を潜めて低く俺に問いかける。
空いている控え室を指し示したので、そっと人目を避けて中へと滑り込む。
暗いままの室内に、ブラインドの間から夕陽が差し込んでいる。
水無さんが静かに俺と視線を合わせた。
「大統領が貴方と会いたいという旨を側近に伝えているわ。承諾してくれるなら極秘で来日する用意もあるそうよ」
「ハリウッド映画でしか聞いたことない提案なんだけど。マジで?」
「マジよ」
断言されて、逃げ場がなくなってしまった。
背に脂汗をかく嫌な感覚にとらわれる。
大統領でほんまに?ほんまのほんまに?
隕石が降ってくる映画とかで教授がヘリで呼び出されるとかシーンしか思い出せんのやけど。
心の服部君が右往左往しているのを感じる。
やはり流石の服部君でも大統領相手では動揺してキレも悪いようだ。
水無さんが静かに沈みゆく夕陽に視線を向けて言葉を落とす。
「貴方は黄色の印の兄弟団が崇める神だと聞いてるわ。最大限礼を尽くせとも」
「………」
これは困ったことになった。
コナン君もいるし、俺は日本から動くつもりはない。
ひとまず「返事は待ってくれないか」と引き伸ばし作戦に打って出る。
高度に政治的な感じがするし、日本を出し抜こうとする様子も垣間見えるからだ。
俺一人で決断するのは荷が重い。
早急に降谷さん達と相談する必要がある。
俺の抵抗を聞いて、水無さんは素直に首肯してくれた。
「わかったわ。そう言うと思ってたし、結論が出たら教えてちょうだい」
「悪いな水無さん。結論はまた直接会って伝えるよ」
「ありがとう。同じことをFBIにも聞かれると思うけれど、できればこちらに先に返事をもらえれば嬉しいわ」
「ははは。了解」
軽く別れを告げて、俺は事件現場に舞い戻ることとする。
水無さんはそのまま階段を降りて行った。
偶然を装っては居たが、俺に会うためだけにこの階にやってきたのかもしれない。
さて、探偵達の様子を確認しよう。
撮影スタジオに戻る途中で、現場から撤収する目暮警部と鉢合わせした。
警部が犯人らしいADの降谷さんを連れて廊下を歩いている。
というか本当に同姓さんが犯人だったんかい。
目暮警部が上機嫌で笑って俺の肩を叩いた。
「ご苦労だったな黄衣君。弟子とか言っとったが、君の差金だろう?」
「はは。俺は野暮用がありまして。横着してすみません」
「構わんよ。君はそろそろ芸能界に転職しそうな勢いだしな」
「嫌だな、副業ですよ」
そんなふうにやりとりしてから警察の一団の横を通り過ぎる。
どうやら探偵達は俺抜きで話を進めていたようだ。
ちょっと仲間外れにされたみたいで悲しみに暮れるなど。
居なかった俺が悪いと言うのはその通りなのだが。
撮影スタジオに入ると、雑談するコナン君と世良さんとすぐに合流できた。
あと奥に絶望して青ざめながらADさんに檄を飛ばすプロデューサーさんの姿が見える。
このままだと休日午後8時のゴールデンタイムが、一時間船が進む風光明媚な映像になってしまうからな。
そりゃあ焦らないはずもないか。
おーい、とコナン君達に声をかければ、二人も手を振りかえしてくれた。
世良さんがにまっと悪戯げに笑った。
「どこ行ってたんだ?見つからなかったから先謎解いちゃったぞ」
「ごめんね黄衣さん」
「行方不明になってた俺が悪いけど悲しかったので帰りに美味しいパフェを食べに行きます。コナン君は付いてくること」
「うげ」
コナン君が嫌そうな顔をして不満をあらわにする。
すかさず「え、じゃあ僕も行くよ!」と世良さんがエントリー宣言をした。
仕方ないし代わりに事件を解いてもらったお礼も兼ねて俺が奢ることにしよう。
「奢りだ。パレスホテル米花でいいか?」と言えば世良さんが目を輝かせた。
「話題の桃パフェのとこだよな?蘭ちゃん達が話してるのを聞いたよ。いいのか?」
「おう。男に二言はない。三言はあるので今から電話して予約が一杯だったらこの場で解散になります」
「五分五分だな……」
真剣な顔で世良さんは顎に手を当てた。
桃パフェ、軽く6000円はするし当然か。
三人で撮影スタジオを後にしながら、コナン君が俺に話しかけてくる。
「ところで、黄衣さんどこに行ってたの?」
「あー。ちょっとトイレ的な」
表向きにはコナン君の常套手段を繰り出しつつ、念話で別途説明を行う。
『実はさ、アメリカの大統領が俺に会いにくるって言われて震え上がってる』
『は?……いやいやいや、黄衣さんに?』
『うん。さっき水無さんから連絡があった。早く降谷さんに相談しないとまずいと思って逃げてきたけど』
『安室さんは普通に大却下で追い払うだけでしょ』
『でも俺みたいなカルト宗教の主神が政界の権力者とお近づきになるのはマズいだろ』
『まぁ……』
これは正解はないタイプの議題だし、早いところ皆に相談して意見を募りたいものである。
黙り込む俺たちに、世良さんが訝しげな顔をしてこちらを睨んだ。
こんな話をしてはせっかくの桃パフェが味がしなくなってしまう。
問題はひとまず先送りして、ホテルへ電話をかけた。
結果、幸運にも空いていることが分かったので、俺たちはその日パレスホテル米花で高級パフェを堪能して帰ったので合った。
・米国
現閣僚の3割が黄色の印の兄弟団系。
今の政権は波乱もあり兄弟団が少し弱め。
大統領自身は神を手中におさめることを望んでいる。
とはいえ兄弟団は強固な支持層でもあるため、配慮する形で訪日を企画しているようだ。
・ジンニキ近況
派手な切り傷を負って意識のほとんどない諸伏を抱えて、ジンは山門を潜っている。
左腕が動かないため、俵抱きのような形になった。
「どうして俺を庇った」
「私の、方が。軽症で済むと…思った、ので」
酷い出血だ。
右目の死角から攻撃されてジンを突き飛ばして負った傷だった。
振り下ろされた爪が直前で止まったため、両断はされなかった。
だが所詮、即死ではなかったと言うだけの話である。
この山門で四つめ。五つ潜れば下山できる。
そのように諸伏は推理した。
歩みは亀の如し。その間にあの化け物に襲われたらおしまいだ。
「私は、歩けますの、で、降ろして良いですよ」
「抜かせ。それで歩けたらテメェはゾンビだ」
「ゾンビかも、しれませんね」
ドォン、という木がへし折れるもう聴き慣れてしまった異音が真後ろから響く。
ジ・エンド、ということらしい。
既に弾薬は二人分とも空。振り返ることもできない。
重い足音がゆっくりと近寄ってくる。
ジンがそれでも懸命に疲れ果て棒のような足を引きずって。
その時。
「『その健闘を讃えましょう』」
己の背で、奇妙に歪んだ諸伏の声がぐわんぐわんと鼓膜を揺らした。
強く風が吹き付ける。轟々と、何も聞こえなくなるぐらい強い風が取り巻いている。
「『そのまま歩いて、そこの山門へ』」
よろよろと声に従い、五つ目の山門をくぐる。
瞬間、ぐるりと景色が反転した。
気付けばジンと諸伏は山の中腹にいて、その隣にはおでん屋の屋台が侘しくぽつんと佇んでいた。
血だらけの諸伏の姿に、店主が泡を食って飛び出してくる。
ようやく振り返った諸伏は気絶していて、その顔には不気味な三眼の黒い仮面が被せられていた。
仮面を剥ぎ取って放り捨てる。
血だらけの諸伏の足には、血色にぼんやりと熱をもつ燃える三眼の印がゆらめいていた。
・降谷さんの評価:E-
(卒倒)
はっ……!
お、おでん屋店主が店を出す名目で病院まで瞬間移動で連れてってくれるようです!
黄衣君にも治療してもらう手筈は整えたし、よかった…!よかった…ッ!!!
ちなみにヒロのお兄さんの加護を通して憑依し、仮顕現をした影響で仮面が生成されました。
でも僕の力の核になっただけで害があるものではなく。ええ。問題ないですとも。はい。
………。
…………。
分かってたのに、またやめられなかった。
全身が震えるような甘美な悦楽が楽しくて愉しくて堪らなくて。
ひろにあやまらないと。