ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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飴シリーズ展開中

 

 夜。

 様子のおかしい降谷さんが搬送されてきた。

 

 やってきた諸伏さんは扉を乱暴に開けて、苛立たしげに口を噤んだ。

 そして一拍置いて、かなり怖い顔で「反省してくれ」と言って事務所によろよろの降谷さんを乱暴に放り込んだ。

 

 呆然とする降谷さんを置いて、そのまま諸伏さんは事務所を出て行った。

 

 夕方に何故か突然重症の諸伏兄の治癒を任されたし。

 最近「強くて格好良くて頭のいい怪異は何かいるか?」と相談を受けて降谷さんに真面目な神話生物を案内したりはしたが。

 

 なんとなく嫌な予感がして、俺は恐る恐る降谷さんに近づいた。

 

 放り込まれた降谷さんはスーツ姿だった。

 いつも公安にいる分身なのだろう。上等だがやや草臥れた背広は落ち着いたグレーの色をしている。

 

 降谷さんは真っ青な顔のままただ立ち尽くして僅かに震えていた。

 

 コナン君は先にマンションに帰ったし、ここももうすぐ閉じて俺もマンションに帰るつもりだ。

 事務所に居座られると困るのだが。

 

 ひとまず「降谷さん、座ったらどうだ。紅茶を出すぞ」と声をかけた。

 しかし降谷さんは凍りついたように動かない。

 動けないのかもしれない。

 

 あの温厚な諸伏さんをあそこまで怒らせたのだから、これも仕方ないだろう。

 とはいえショックなのは分かるが、入り口につっ立ってても仕方ない。

 

 降谷さんの手を引いて無理やり来客用ソファに座らせて、温かい紅茶を入れてやる。

 

 手がカタカタと小刻みに震えて、降谷さんは焦点の合わない瞳でぼうとティーカップを見つめている。

 マジでダメそうだ。

 【飲め】と俺本来の眼で見つめて命じれば、ようやく俺の声が耳に入ったらしい。

 

 降谷さんはびくりと肩を揺らし、ゆっくりと紅茶を飲み出した。

 そして長い沈黙を挟んで、ぽつりとポツリと話し出す。

 

「………俺の、お遊びで。ヒロのお兄さんが重傷を負った」

「あー、それでガチで縁切られそうになってるってわけか」

「………」

 

 顔面蒼白で降谷さんは視線を落とした。

 

 ようは、ニャルの羽虫遊びに降谷さんもハマった。

 それが行きすぎて、諸伏さんの兄が大怪我。

 諸伏さんは当然激怒し、降谷さんはここに連れてこられたということである。

 

 まあ。

 正直にいえば、いつかそうなるとは思っていた。

 

 どれほどの強固な意志を持とうと、人の魂でニャルラトホテプの衝動をコントロールできるはずがない。

 

 これは魂がニャルラトホテプ部分と人間部分に分かれているから生じる問題でもある。

 構造上どうしようもない、ともいうべきか。

 

 今まで諸伏兄を殺さないよう場を整えて遊ぶことができただけ、降谷さんは素晴らしい意志と理性を持っていると言えよう。

 

 とはいえ。

 ニャルラトホテプの仕打ちに慣れきっているから俺はそう言えるだけだ。

 一般的には絶交されても仕方のない所業と言えるだろう。

 

 ふむ、と俺は唸った。

 

 理性にあたる部分を増設するのが一番早いのだが、それでは完全に改造人間だ。

 しかもたぶん理性的になりすぎて彼本来の感情が薄くなってしまうだろうし。

 

 いや、そうか。

 一時的な外付けをできればそれでいいから、その方向で行くか。

 

 俺は降谷さんにそっと確認のための声をかけた。

 

「正味の話、これに懲りて今後のお遊びの中止ってできそう?」

「………」

「オーケー。かなり深刻。ちょっと待ってて」

 

 ここまで絶望しても即答できないあたり、衝動は病的に強そうだ。

 ならば処方するのに否やはない。

 

 軽く両手をあげて、MPを五指に込める。

 

 魔術を幾重にも積層させて、物質として定着。

 その分子構造そのものを魔術式として作成していく。

 

 効果は魂に一時的に迂回路を作成し、そこに仮想の理性を増設すること。

 ニャルラトホテプとしての衝動と欲望をコントロールできるだけの神造の理性だ。

 必要に応じて使うことで人としての感情の抑制を最低限に抑え、ヤバそうな時だけ飴を舐めることで効果を発動する。

 

 詳細は違うが、根本は禁煙飴と同じだ。

 

 出来上がった飴を個別包装し、大きなパッケージに入れる。

 味はやっぱりパイン味。

 とりあえず真っ黄色の包装にして、表に「黄衣 薬用理性パイン飴 厳選魔術を使用〜特殊製法〜ニャル衝動にすっと効く(ノンシュガー)」とポップな字体で印字しておく。

 

 その場で降谷さんに渡せば、降谷さんは唐突な謎飴に静かに宇宙猫になった。

 

「これは……?」

「ヤバいかな、と思った時に舐めると冷静な判断ができるようになる飴。間違いを犯しそうになったときにどうぞ」

「………ありがとう」

 

 その場で封を開けて、降谷さんはなんの警戒もすることなく口に放り込んだ。

 なんか信頼されているようで嬉しい気がする。

 

 効果が出てきたのか、降谷さんの様子が落ち着いてきた。

 表情がやや平坦だがいつも通りの冷静さを取り戻したように見える。

 強い絶望でストップしていた思考が回りだしたのだろう。

 

 改めて己の所業を振り返り、頭が痛そうに眉間に深い谷を刻んだ。

 

「……ヒロの寛大さに感謝だな。僕をここに放り込んで対処を依頼して、その上で許そうとしている」

「俺はいつものニャル仕草だから慣れてるけど、マジで諸伏さんには後で平謝りしといたほうがいいぞ」

「ああ。明日朝イチでもう一度謝りに行く。それとこの飴を一箱欲しい」

「お、おお」

 

 段ボールを具現化して軽く50袋詰めて、表面に「黄衣 薬用理性パイン飴 50袋入り」と印刷しておく。

 

 降谷さんは納得した様子でそれを膝の上に置いた。

 常用するものではないのでゆっくり消費してほしいところである。

 

 降谷さんはそれで用事も済んだのか、飴の箱をのっしと抱えて立ち上がった。

 「この礼は後ほど必ず」と言って、軽くスーツの皺を直す。

 多分この後も仕事なのだろう。本当に忙しそうな人である。

 

 降谷さんは深く一礼してからばたん、と扉が閉めた。

 

 誰もいなくなった事務所内で、俺は静かに口を開く。

 

「ニャルラトホテプ。お前、わざとだろ?」

 

 空間を揺らすような、心底愉快そうな嗤い声が響いたのだった。

 

『さて。なんのことです?』

 

 

 

 

 

 

 翌日、昼下がりのこと。

 

 諸伏さんと降谷さんは仲直りをしたらしい。

 どうも降谷さんは諸伏さんから強烈な一撃を喰らったらしい。

 降谷さんの腫らした頬に「反省しろ!!!」という念のこもった呪詛が張り付いている。

 

 地味にすげぇ威力の呪詛だ。

 たぶん降谷さんがまた同じことをしたら頬に相当強烈な遠隔パンチが決まると思う。

 

 懐に飴を抱えつつ、無くなるたびにぱかりと口に運んで降谷さんがソファにのっそりと腰を下ろす。

 常用するもんじゃないっつってんのに。

 身体に悪い影響は出ないからいいけど。

 

「悪かった、黄衣君。昨日は迷惑をかけた。飴代は言い値を振り込んでおく」

『俺も悪かった。それにありがとう』

「いいっていいって。飴代も気にすんな。もしそんな気になるなら、一つ相談に乗ってくれないか?」

 

 別に迷惑でもなんでもなかったし、心苦しそうにされるほうが俺も辛い。

 

 諸伏さんが入れてくれた紅茶を啜りながらそう言うと、「相談?」と降谷さんが首を傾げた。

 

「ああ。最近、米国の大統領から会いたいって連絡を受けたんだ。水無さんを通して。できるだけ穏便に済ませたいんだが、どう思う?」

『えっなんだそれ。劇場版黄衣ハスタの導入部分?』

「うん、たぶんOP前5分あたり」

 

 俺も頷けば、降谷さんが「変なコントをしないでくれ」と苦言を呈した。

 だが降谷さんの方も自体の難しさに眉間に皺を寄せているようだ。

 

「……現在の政界ではまだ怪異の存在は浸透していない。正式に黄衣君が日本での地位を整えるのは時間がかかる」

『だからそこで米大統領と黄衣が面会、となると日本が軽んじられるようで体裁が悪い…か』

「日本の兄弟団も動揺するだろうし……しばらく面会を引き延ばすことはできそうか?」

 

 降谷さんの質問に、俺は首肯した。

 

「たぶん。どうする気だ?」

「その間に無理やりなんらかのポストに就いてもらう。ひとまず日本側ということを示せればそれでいい」

「うう…政治には関わりたくないんだけどな…そうも言ってられないか」

 

 つまり、現時点で大統領に面会するのは、俺の引き抜きみたいに見えてちょっと都合が悪い。

 日本が旧支配者ハスターを軽んじているみたいな絵面もまずい。

 

 だから俺をいい感じの役職に着けてから、大統領へと会わせればいいということだ。

 

 たぶん名誉ポジションが適当に作成されるのだろうが。

 式典の時に前に立って中身のない話をするとかの仕事は増えそうだ。

 

 嫌でござる…もうまつりごとはこりごりでござる……。

 俺の沈んだ顔を気にせず、降谷さんは事務的に話を進めた。

 

「詳細は君永課長を通して黄色の印の教団を都度調整する。君はキールへの返事をできるだけ引き延ばしておいてくれ」

「了解」

 

 

 と、そのあたりで着信があった。

 コナン君からのようだ。

 

 電話に出ると、コナン君の焦ったような声が耳に響いた。

 

『黄衣さん、今事務所にいる!?』

「ああ。降谷さん達も一緒だけど」

『僕らの住むマンションで殺人が起きた可能性がある!すぐにマンションに戻って!18階の伊丹という人の部屋!』

「まじか!せっかくの高級マンションなのに!」

 

 ついに俺らのマンションまで死神の餌食に!

 

 降谷さん達も頷き合い、ひとまず俺たちはマンションへと急ぐことにしたのであった。

 





・黄衣 薬用理性パイン飴 厳選魔術を使用〜特殊製法〜ニャル衝動にすっと効く(ノンシュガー)
魂に理性を増設する超高度魔術飴。
職場では課長机の袖机の上に飴段ボールが鎮座。
降谷さんはマジで片時も欠かさず飴を舐めるため、課長机周辺は甘酸っぱいパインの香りに支配された。
そして部下達に「鬼のパイン課長」と陰口を叩かれるなどする。
ちなみに、降谷さん以外が食べてもただの美味しいパイン飴である。

・ニャルラトホテプの答え合わせ
我が親友、なかなか気付きませんでしたね♡
まず化身に荷重をかけて、お遊び中毒にします。
思考誘導でそれっぽい危険な案件を用意させます。
そこに別枠でそれとなく誘導していた親しい羽虫を合流させます。
ノフ=ケーの思考を操作するなどして事故を装って殺します。
少し回りくどい催しでしたが、随分楽しめましたよ♡

・旧支配者ハスターの結論
出禁。地球外退去。時空異常修正概算で1ヶ月。
今すぐな。

・ニャルラトホテプの号泣
そんな!!!!
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