深夜。
みんなでソファに座り、観戦態勢に入っているなり。
大画面のTVモニターにハスターの瞳からの映像と音声を送っているのだ。
映すのは寂れた鉄道トンネルの様子である。
今回の参加者は俺、諸伏さん、コナン君の三人だ。
コナン君は非常に眠そうにしていたが、ジンが関わってるならと無理やり参加した形である。
彼はジンに殺されかけた間柄だし、そりゃ気になるに決まってるか。
降谷さんは諸伏兄に憑依した状態で、鉄道トンネル内の駅でまったりしている。
精一杯ラスボス感を演出しているのだろう。
祠の上の若干高めの場所で足を組んで、暇そうにスマホを見ている。
ちなみに、あの祠は超自然的に出現させたものではなく、降谷さんの手作りだ。
一つずつホームセンターで材料を買ってDIYしたものを全国に配置したのだとか。
クソほど忙しいのに凄まじい努力と細やかさだ。
デザインもきちんと一枚ずつ違い、その場所の怪異をモチーフに細かく装飾されているらしい。
アートワークも残っていて、事務所の棚に「ジン殺害計画」という名前の青ファイルに綴じてあった。
凄いけど事務所を家宅捜索されたら言い逃れできないから早く処分しようね。
諸伏さんは不安そうに画面に見入っている。
『大丈夫かな兄さん。ああは言ったけど、ジンに殺されないかな…裏切りは死あるのみとか言って…』
「ジンと仲が良いんじゃなかったの?」
コナン君が首を傾げると、諸伏さんはブンブンと首を横に振った。
『いや、少年はジンの冷徹非道さを知らないからそう言えるんだ。アイツはマジでやばい。本気でちょっとしたことで下っ端をバンバン殺すし。幹部はもっと殺す』
「え……仲間なんじゃ……」
『比較的ウォッカには甘いけどな。でもジンと仕事ってなったら、みんなまず自分の身の安全を守るための計画を立てることから始めるぐらいだ』
「俺も初回の任務で退路を潰されて死ぬかと思った。というか八割死んでた」と諸伏さんが眉を顰めている。
よっぽど悪名高い人らしい。
降谷さんの口ぶりからはそこまで悪性は感じなかったが…公私は分けると言うことなのだろうか。
『兄さんに近付いて何を考えてるのか知らないが、早く引き離さないと兄さんが危ない』
「……そっか」
コナン君はやっぱりやや納得できない顔をしている。
記憶を消す、ということがやはり倫理的に引っかかっているのだろう。
『っ!始まったぞ!』
諸伏さんの声で画面に視線を戻す。
何やら偉そうな感じにふんぞり帰る降谷さんが、高飛車にジンを見下ろしていた。
『本当に来たんですか、あなた?僕に異論って、もしかして死にたいんです?』
『………バーボン、その男を返せ』
『返せって、これは元から僕のものですよ。自分のものをどう使おうが勝手だと思いますけど…?』
心底分からないみたいな声色で降谷さんが惚けている。
素晴らしいニャルラトホテプムーヴだ。
奴はそういうこと言うし。うん。再現度高い。
後方腕組み彼氏面してたら、コナン君に「納得してる場合じゃないよ」などと突っ込まれた。
すまぬ。
『で、丸腰で来たんですか?それならもう捻り潰しちゃいますけど』
『───その祠がテメーの仕掛けたものだとは知っていた。古ぼけたように加工されてはいたが、周囲と錆や風化具合が異なっていたからな』
『……それが?』
眉を顰める降谷さん相手に、にたり、とジンが笑う。
『テメーがかつて教えてくれたんだぜ。ネクロノミコン、魔術書の存在を。あらかじめクソ面倒な魔術を対象にかけておくという方法を!』
『ッな、!?』
突如、取り巻く霧の如きものが降谷さんの四肢を拘束した。
「エイボンの霧の車輪」を改造して、ニャルラトホテプの動きを止めるためだけに生み出された呪文だろう。
俺の古い友、アブドゥル・アルハザードの得意技だ。
また、対象の創造物を触媒にして遠隔で魔術をかける「親─子の呪」が使われているようだ。
降谷さんの凝り性が完璧に裏目に出ている。
コストとして相当な量の人の血液を要求されるが、どこかで調達したのだと思われる。
加えて二つ合わせて3時間ほどの儀式が必要だ。
MPとSAN値の消費もバカにならない。
遠隔で退散魔術をかけなかったのは、退散の方は減衰がひどくて通らないと思ったからだろう。
彼が見たのが「ネクロノミコン」なら、なるべく近距離で発動しなければならない、と繰り返し記述があったと思うし。
降谷さんは焦ったように体を捻った。
己の体から風を散らすことができないらしい。
さすがニャルラトホテプ用。
短時間しか効果はないとはいえ、三分の一黒い風を捕縛するには充分だったようだ。
「おお、ゼロがやり込められてる!」と諸伏さんがびっくりした顔をしている。
この、仕込み全部が裏目に出る感じ、凄くニャルラトホテプって感じで芸術点が高いな。
俺はうんうんと頷いた。
降谷さんの前で木彫り仏を取り出し、ジンが詠唱の態勢に入った。
仮面の裏で降谷さんの表情がストンと落ちる。
『僕を動けなくした程度で粋がるなよ、羽虫風情が』
瞬間、トンネル内の風が収束した。
細い竜巻状のそれが杭のように幾本も出現し、モルタルで固められた土台を削り取りながら悍ましい威力で迫り来る。
本気3割演技7割で降谷さんが、激怒を露わにジンを殺しにかかったようだ。
置きっぱしの朽ち果てたベンチなどを盾に、ジンがなんとか猛攻を躱していく。
拳銃を取り出さないあたり、やはり諸伏さんを気にかけているようだ。
ジンをピンポイントで風で包んで窒息させてしまえばいいのに、降谷さんは敢えて武器状にして射出している。
殺さない努力をしているのか、それともそれを言い訳に隙あらば殺してやろうとしてはいるのか。
微妙なラインだ。
少しづつ詠唱を進めていくジンに、降谷さんが焦りを強める。
このままでは完封で探索者に爆殺されるのだから焦りもするか。
カッコつけてた割にめちゃくちゃダサい最後になっちゃうし。
風を一段強めて、トンネルから巨大な蛇の如き渦巻く風を走らせる。
降谷さんがギリ、と歯軋りして吐き捨てた。
『小賢しい羽虫が……とっとと死んでくださいよ!』
『ッ、!?』
トンネル入り口から押し寄せた竜巻の牙が、背後から土煙を上げてジンの左肩を派手に貫く。
結構な大怪我だ。風のせいで血が吹き出し、竜巻の蛇は邪悪に赤く染まっていく。
ジンは痛みすら構わず詠唱を続けるが、時間が足りない。
ちょっと本来の筋書きを忘れているのか、降谷さんがニタリと悪辣に笑みを見せた。
その時である。
降谷さんの意図とは離れて、諸伏さんの体が動き出した。
「え、え?」と困惑する降谷さんを置いて、ギシギシと無理に動かすように諸伏兄が仮面を剥ぎ取ろうとする。
脆く風でできた仮面が割れて、半分諸伏兄の素顔が出てきた。
諸伏兄が、息も絶え絶えに声を出す。
『今、です、……早くッ』
「───ッ!」
ジンが悲鳴を飲み込んで死に物狂いで詠唱を続ける。
気付けば俺たちは固唾を飲んで行方を見守っていた。
降谷さんが捨て台詞じみた言葉を吐いてため息をつく。
『僕を退去させたとて、どうにもなりませんよ。世界は怪異に満ちていて、人はその中で無力だ』
『────』
ジンは構わず詠唱を続ける。
降谷さんが不満そうに息を漏らしたのが聞こえた気がした
呪文が完成する。
光が立ち上がり、黒い風を地球外に放り出そうと引力が強まっていく。
『はぁ、仕方ないですね。なら手ぶらもなんですし、少しばかり土産でも貰って帰りましょうか』
『っ……』
『悪く思わないでくださいよ。せっかく、貴方の勧めで帰宅することにしたんですから』
とろりと蕩ける三日月の如き声色で、降谷さんは退散魔術へと身を委ねた。
美しい光が、トンネルを突き抜けて空へ空へと打ち上がる。
遠くから見ればそれは地上の星、光の塔のようにすら見えたことだろう。
瞬時にニャルラトホテプの気配はかき消える。
仮面がするりと風に解けて消え、諸伏兄がその場に崩れ落ちた。
『おい!しっかりしろ、おい!!!』
ジンが慌てて駆け寄り、諸伏兄に声をかける。
その声があまりにも必死だったからか、諸伏さんは困惑したようだった。
出血過多で立っているのもやっとだと言うのに、諸伏兄を背負った。
そしてよろよろとトンネルを出ようとしている。
仲がいい、と言うのは嘘偽りのないことのようだ。
そもそも、他人のためにニャルラトホテプの化身と一対一でやり合おうなんて正気の沙汰ではない。
諸伏さんが考え込んでいる。
コナン君が「鬼の目にも涙って本当のことなんだね」と複雑そうな表情でコメントを残す。
おおよそ死亡確定の毒薬飲まされたんだもんな、君は。
そこで降谷さんが念話で話しかけて来た。
『無事退散術式の途中で離脱。あと一時間ほどで帰宅する。ヒロのお兄さんの記憶を曇らせておいてくれ』
『……それなんだが、ちょっと待ってくれ』
『ヒロ?』
諸伏さんは難しい顔で黙り込んだ。
かなり悩ましいようで、沈黙が長く続く。
そうして「……考えさせてくれ」とだけ言って、諸伏さんは視線を落としたのだった。
・退散術式
実はうっかり成層圏近くまで打ち上げられてた降谷さんである。
かなり強力な原始魔術だが、MPもSAN値もガッツリ持ってかれる。
・今後の展開
諸伏さんの結論により2パターンに分かれます。
─「兄さんの記憶は消さないでおいてくれ」
黒い風に憑依されている時、一瞬だけ黒い風の記憶が流入した。
そこには、黄衣ハスタの姿があったのだ。
黒い風の言っていた「土産」の意味とは?
(不発だったフラグの名残)
黄衣ハスタの正体とは?
より強固になったバディ関係で挑むラストバトル!
『ハスター、あるいはハストゥール』ルート。
─「なんでもない。兄さんの記憶はやっぱり消してくれ」
歯抜けになった記憶の隙間に、長い銀髪の男が見えた気がする。
己の足跡を追うにつれて明らかになる真実。
「化身は撤退しちゃったんですか。じゃあ代わりに僕が相手してあげますね」
ニャルラトホテプとはいかなる神なのか。
見知らぬ銀髪の男と共に、神の遊戯に立ち向かい、己の記憶を取り戻す!
『外なる神ニャルラトホテプ』ルート
ジンニキルート文化はどっちがいい?
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記憶継続、ハスタールート
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諸伏兄の記憶喪失、ニャルラトホテプルート