シンガポールの強い日差しが肌を焼く!
まさに観光日和の晴天である!!
場所は現在シンガポール・チャンギ空港を出てすぐ。
観光客がひっきりなしに行き交い、森のような空港内はそれだけで一つの観光地としても成り立っている。
夏服にサングラス姿でヒャッホウと心をうわつかせれば、隣のキッドが窺うように俺に視線を向けた。
「なあ、俺の仕事手伝ってくれたりはさ…」
「?必要ないだろ、怪異とか関わりも薄く危険性の低い仕事だし、俺も直接悪いことするのはちょっとな」
そのように断ると、「うーん、でも紅子が結構心配してたし…」と難しい顔をした。
冤罪をかけられた殺人事件の調査に来たのも本当のことだが。
キッドとしてついでに大会の目玉であるビッグジュエル「紺青の拳」を狙いに来た面も大きいらしい。
俺の渡したパンドラ疑惑宝石一覧に載っていたし、これを機にということのようだ。
キッドは頭をポリポリとかいて、ぼんやりと木陰に移動した。
「ところでさ。写真では青い普通の宝石に見えたけど、アレがパンドラ疑いになる理由はなんだ?」
「アレは古代、海に沈んだハイパーボリアの宝物庫を閉じる鍵だからな。中のものを使えば肉体的不老不死はわけないぞ」
「!!」
数ある宝物殿の一つ、「ムー・トゥーラン魔術宝物殿」入口の鍵だ。
俺の作って下賜した雑多な趣味の魔術系品々が保管されている。
別名「神宝秘殿」。
魂はどうしようもないので真に不老不死になるのは難しいが……。
そこのものを使えば、永遠に朽ちぬ若々しい肉体ぐらいなら簡単に手に入るだろう。
というか、そんなもの全生活オーガナイザー一つあれば手に入るものだから、別に宝物殿に入る意味はないとも言える。
俺としては、ハイパーボリアの宝を入れた鍵であるアレを野に放ったままにしておくのはちょっと気が咎めたし。
その点キッドなら悪いようにはしないだろう、という確信もあったから盗みを勧めたわけである。
キッドが眉間に皺を寄せている。
「月に翳すと赤く光るってのは?」
「起動中は魔力を伴って赤く光ると思う」
「絶妙に遠いなぁー」
なんとなく微妙な顔をしてキッドが息をついた。
まあ、キッドとして重要なのは不老不死が手に入るかじゃなくて、父親の狙ってた宝石かどうかだもんな。
諦めてキッドが「じゃ、夜ホテルで会おう」と言ってどこへともなく去っていく。
足がつくと同室の俺まで逮捕されてしまうので、彼にはうまくやってもらいたいものである。
というか繁忙期で部屋がとれなかったからって俺と同室っていかがなものかと思うなど。
さて。
その後は俺は心ゆくまでセントーサ島を一人で回った。
ハリポタ体験施設で謎解きしてバタービール飲んだり。
美しい遊歩道を歩いたり。
等身大フィギュアを見て回ったり。
詰め込み気味だが目一杯楽しむことができた。
というかあったんだなこの世界にハリー・ポッター。
今度エクスペクトパトローナムって唱えたら守護霊が出る魔術でも作ってみようか。
ともあれ、金使い放題の一人旅行は俺が地球に来た頃からの夢だったので、俺は多分相当浮かれポンチになっていた。
写真もたくさん撮った。
嬉しかったので、ポラロイドカメラで撮った写真に魔術で周辺時間データを埋め込んでアーティファクト化もしてみた。
この写真を持って念じると中に入り込むことができて、観光を追体験できる仕組みだ。
コナン君はセントーサ島には行かないだろうし、後で渡しておこう。
そんな感じに遊び尽くして夜。
ホテルに帰ると、すっかり日が暮れてしまっていた。
キッドは部屋にはいないようだ。
買ってきた浮かれた帽子をクローゼットに押し込んで、軽くシャワーを浴びる。
上がった後はゆっくりTVを点けて寝ようと思うのだが……なんとなく暇だ。
キッドの様子でも見てみよう。
コナン君は今ごろ蘭ちゃんとイチャイチャしてるから様子を覗き見するのはマナー違反だし。
降谷さん達に繋いでもいつもの仕事風景が映るだけだ。
ちなみに、紳士協定でキッドが怪異案件の宝石を狙うときはコナン君は邪魔しないということになっているらしい。
それだとキッドとは事実上勝負できなくなってしまうと思ったのだが。
キッド曰く、「たまには名探偵と勝負したくなっちまうし、何より次郎吉相談役に誘われたら断るのも失礼だろう?」とのこと。
よく分からんが盗みは辞めない宣言だと思われる。
ハスターの瞳で覗き込むと、どこかの屋敷の庭が映った。
キッドは何故かそこで京極さんと1対1でガチバトルの最中である。
どうやら盗みには失敗したようで、その身に紺青の拳の反応は無い。
そして状況もかなり悪そうだ。
キッドは高い〈回避〉にてうまく攻撃を躱しているが、相手は〈空手〉96の正真正銘の武神。
あの距離で逃げるのは至難の業だろう。
うーーーむ。どうしたものか。
しばらく悩んだ上で決心する。
キッドが逮捕されるのはマジに困るし、ちょいと干渉するとしよう。
京極さんをハスターの瞳越しに視認する。
魔術構築。威力調整。影響度判定。
全完了。
極々軽く、「ニョグタのわしづかみ」を発動させる。
これは対象へダメージとともに麻痺を起こさせる攻性魔術である。
対象は心臓を鷲掴みにされたような感覚に襲われることになる。
今回は揉み合い中にキッドにスタンガンを当てられたように装うつもりだ。
威力は最低限に。行動不能時間を長めに設定してある。
すまない京極さん。後で詫びは必ずする。
間違っても強い負荷はかけないように、細心の注意を払って京極さんへ魔術が襲う。
京極さんは凍りつき、身体をこわばらせて一瞬立ち尽くした。
同時に手の甲にもスタンガンらしき二つの火傷の痕を追加しておく。
これで間違いなくスタンガンを使われたと判断することだろう。
キッドは動揺しながらも素早く距離をとった、
そしてなんかプロペラ付きの珍妙なハンググライダーを使って、夜の空へと離脱する。
彼が無事脱出できたのを確認して、俺はほっと一息ついた。
なんだか目が覚めてしまったし、ナイトプールの様子を見に行こうか。
マリーナベイサンズの屋上プールからの夜景は綺麗で人気らしいし。
昼なら人がゴミのようだごっこもできるかもしれない。
部屋を出て屋上へ行き、更衣室で水着に着替えて、プールへと向かう。
プールに入ってすぐ。
絶景を眺めながら、いい感じに二人で寄り添い合う工藤君と蘭ちゃんの姿があった。
「ねえ新一、すごく綺麗な夜景だね……」
「……ああ」
甘く囁き合う声、プールの中では手が絡み合い、そっとお互いの肌を感じ合う。
ということを入り口にいるだけの俺がわかるのは、ハスターの瞳が至近距離からの二人の様子をまじまじと観察しているからである。
つまり無意識の野次馬根性のせいということで。
俺のせいでは無いのである。うむ。
うーん、これは間違いなくお邪魔だったかもしれない。
いいもん見せてもらったので、軽く拝みながらすごすごと退散する。
若い二人の青春は万病に効くからな。
多分ガンにもいずれ効くようになる。
別にプールは広いし端っこの方に隠れればいいだけの話だが、無理する必要もない。
また明日でもよかろう。
そうして部屋に戻ると、ドボドボに疲れてベッドで伸びてる怪盗キッドがいた。
「あ゛ーーーーーー」と言語能力を失って呻いている。
「お疲れ。どうだった?」
「あんた魔術使っただろ。あの京極ってやべーヤツに対して」
「まあ。君が足ついたら俺まで逮捕されちゃうし」
「俺の心配はしてくれないのかよ!……アイツめっちゃ訝しがってたぞ」
「え、まじか」
流石に武神レベルだと、あの局面で自分がスタンガン掠らせたかどうかぐらいは判断が付くのだろうか。
でも周りはスタンガンだと決めつけるだろうし、多少のことは問題あるまい。
しかし酷くお疲れの様子だ。
せっかく同室なんだし、労りも込めて回復系魔術をさらっとかけておく。
肉体の疲労除去と未病の治療などだ。
マジシャンなだけあり、やや腱鞘炎になりかけていたのでそっちも軽く治療しておく。
キッドは「たすかる…」と言ってからガバリと起き上がった。
そして「スリー、ツー、ワン!」と言ってマントを翻した直後、いつもの姿にポンと戻った。
わあ!と俺も思わず拍手する。
どうやってるのか全然分からん。
魔術を使ってないことは分かるが、使ってない意味がわからない。
魔術でも使わんとそうはならへんやろお前。
キッドは一瞬のマジックショーのあと、とぼとぼとシャワー室へと向かっていった。
俺ももう寝よう。
明日はマッサージも予約してるし、ナイトサファリもある。
そのように、まったりと1日目は過ぎて行った。
ちなみに夜中にはきちんと京極さんの夢枕に立ち、丁寧な謝罪と肉体コンディション健全化の魔術を詫び配布しておいたのだった。
・ハリポタ
この世界に魔術が現実にあることを踏まえると、絶妙に意味深な児童小説。
今後ハスターによっ暫定的にエクスペクト・パトローナムとルーモスとアクシオが開発され、「ハスターの瞳」の公開アクセス領域の簡易発動呪文リストにしれっと加えられる。
ここに載せられた呪文は人間なら誰でもアクセスして、簡単に登録呪文の発動が可能。
そして全世界の魔術師の間で「神、ハリポタ見たらしい」「せやろか。因果が逆ってことは」「つまり作者化身説…!?」などと話題になる模様。
・ジンニキ近況
※療養中につきお休み
※ウォッカが泣きながらデカいメロン買ってきたジンニキ満足
※諸伏兄は死ぬほど大和警部に叱られて不機嫌
※諸伏兄の足跡調査するため大和警部と由衣さんが活動中
※最近ジンが閑職に回された件でピンガとアイリッシュが悪口で盛り上がっている