ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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新幹線爆破と黒の組織①

 

 翌日、俺たちは依頼人のいる大阪へ行くべく新幹線に乗っていた。

 

 タバコっぽい新幹線の車内はなんとなく時代を感じさせる。

 どうも時空がなだらかに混ぜ込められているらしく、禁煙席以外はほぼ自由に喫煙していい昭和仕様のようだ。

 

 その異様な状況に気付いた様子もなく、諸伏さんとコナン君は席についた。

 まあ、特に困らないから今のところ無視でいいかと俺もそれに続く。

 

 未成年のコナン君がいるのだから、今後は禁煙車を取っておくことにしよう、などと算段を立てつつ。

 

 今回予約した席は三席で、諸伏さんの席も予約してある。

 諸伏さんだけ自分の席がないのではゆっくりできないからな。

 諸伏さんは上手く自分の位置を座っているように見えるよう合わせて、「これならどう?少年?」「良い感じだよ」「よし」などと会話した。

 

 そうして席についた頃に、また滑らかに新幹線が走り出す。

 流れゆく車窓を眺めながら、コナン君がポツリと話しかけてきた。

 

「やっぱ俺、魔術の勉強がしたいんですけど」

 

 むっつりとした言葉は悩みに悩んだ苦悩に満ちている。

 俺は嘆息していつも通りそれを断った。

 

「だからおすすめしないって言ったろ。知識を得るだけで人体に相当なデメリットがあるし」

「いやでも推理のたびに『これ魔術のせいなのかな…』とか考えが過ぎるのかなりしんどいんですけど。割とマジに」

『まぁそれはそうだな。ここまで俺が何気なく見てきた魔術だけでも大変な脅威だ。悪用の方法がいくらでも思いつく』

 

 諸伏さんがうんうん頷いて、「俺が現役の時使えてたらなぁ」と感慨深そうにひとりごちた。

 コナン君が胡乱な顔をして諸伏さんをつつく。

 

「ソレ、悪いことに使う気だろ、オッサン」

『そんなまさか!スコッチお兄さんのことが信用できないのか?』

「できない」

 

 一刀両断に切り捨てられ、諸伏さんはガックリと肩を落とした。

 信じてもらえないことがショックなのかと思ったら、『俺、おじさんって歳だった…?』と年齢のことを気にしている様子。

 

 チラッ、と反応待ちの視線をコナン君に向けるが、コナン君は追撃することにしたらしい。

 「往生際悪いぞ、オッサン」とつれない返事であった。

 

『諸伏景光!享年26歳!!立派なお兄さんだ!!!』

「ふーん。っつーことは三年前に死んだって話だし、今は29歳か?」

『死んでからの歳をカウントするのは反則だろ!!』

 

 諸伏さんが吠えているが、コナン君はそれっきり興味を失ってしまったようで、俺へと向き直って「で、魔術の件!」と懇願のポーズをとった。

 どうしたものか。

 

「うーん、ともかく、コナン君は事件が魔術がらみかそうでないか知りたいんだろ?」

「はい。もう推理中その可能性が頭にちらついて推理に集中できなくて!」

「いつもだって俺が助言してるだろ?」

「犯人が黄衣さんより上手かもしれないじゃないですか!」

 

 そんな犯人はたぶんニャルラトホテプしかいないから考えても無駄だと思う。

 

 と、言いかけたが口には出さないでおく。

 魔術で俺の上をいくのがどんなに難しかろうと、可能性があるのは確かだからだ。

 

 しかし……これはあれだな。

 根本的には魔術の腕とかではなく、自分で推理できない範囲があるから不安なのだろう。

 優秀が故の悩みというか、自分でどうしようもない分野があると不安になるというか。

 

 俺は少しばかり唸ってから、答えを出すのを保留することにした。

 

「むむむ……ちょっと良い方法を考えておくから待っててくれ」

「頼みました、黄衣さん…!」

 

 隣で諸伏さんが「若いって良いことだ…おじさんにもこういう時代があったもんだ」とほっこりしている。

 しかし諸伏さんがオジサンだと俺も自動でオジサンになってしまうからやめて欲しいのだが。

 

 などと和気藹々としていた、その時である。

 

 席の横の通路を、二人組の黒づくめの男が通り過ぎた。

 片方は見覚えのある長い銀髪だ。

 

 ほぼ反射で張った魔術のせいか、こちらに気付いた様子はない。

 コナン君が一瞬目を見開いた後、「ッ!!!」と息を呑んで走り出そうとする。

 

 それを手で制したのは諸伏さんであった。

 諸伏さんは一等鋭い視線で黒づくめの男達を捉えた後、低い声でコナン君へと忠告する。

 

『ストップ』

「ッなんで…!」

『無策で突貫しても死ぬだけだ。ジンもテキーラも油断ならない。特に銀髪の方、ジンは異常なほど気配に敏感だ。別に自殺したいわけじゃないんなら待て』

「あいつらの…コードネーム…!」

『ひとまず俺が奴らの動向を探る。二人はここで待機しててくれ』

 

 ふわりと諸伏さんが席を立つ。

 鋭い瞳で黒づくめの男達を捉えたあと、その後をさりげない動きで追っていく。

 

 コナン君がしばらく黙り込んだ後、何かを考え込む様子で俺に話しかけてくる。

 

「諸伏さん、あいつらに恨みでもあるのか?」

「へ、なんで?」

「組織の男にしちゃ、奴らに向ける視線が……いや。もしかして諸伏さんの死因って、アイツらに殺されたとかなのか?」

 

 コナン君の言葉は半分以上独り言だった。

 実際、俺も諸伏さんの立場については詳しくは知らない。

 

 すっかりこのパーティに馴染んでいるものの、今でも一人で毎晩出掛けて何やら探っているぐらいだ。

 ゼロと呼んでいた金髪の探偵さんの顔でも見に行っていると思っていたが。

 もしかしたらそれ以上の思惑があるのかもしれない。

 

 何はともあれ、諸伏さんが黙っている以上俺からいうべきことではない。

 

「俺が知ってるのは、諸伏さんには諸伏さんなりの思いがあるってことと、俺らの敵じゃないってことぐらいだな」

「………」

 

 コナン君は困惑を僅かに瞳に混ぜ込んで、黙ったまま思考に没頭した。

 

 数分後。

 慌てた様子で戻ってきた諸伏さんが、血相を変えて叫んだ。

 

『大変だ、アイツら新幹線の車内に爆弾を仕掛けたらしい!』

「はぁ!?!?」

 

 うっかり叫んでしまったが、先ほど発動したままだった意識を逸らす魔術のおかげで変な目で見られることはなかった。

 いや新幹線を爆破?嘘でしょ歴史に残るテロリズムになっちまうよ!?

 

 流石に俺もこんな事態は看過できない。

 より詳しい情報を素早く共有するため、記憶を再生する魔術を全員の脳内に繋いで作動させる。

 

 ザザっというノイズとともに、見覚えのない視界が接続された。

 記憶の再生が始まったのだ。

 

『……まったく、アンタさんのやり方にはついていけまへんわ』

 

 視界には、黒い口髭を蓄えた関西弁の黒づくめが映っている。

 隣に座るのはお馴染み、銀髪のマフィアだ。

 

『フン。今更になって尻込みか、テキーラ』

『変な冗談やめといてくれへん?あの女がどうなろうと知ったこっちゃないわ。俺が言うとんのは、いくら何でも派手すぎるっちゅー話や』

 

 テキーラと呼ばれた男は大きなため息をついて首を振った。

 

『あのスーツケースの量の爆薬なら間違いなくこの新幹線は吹っ飛ぶやろ。どう考えても明日の新聞記事の一面は堅いわ』

『俺たちの仕業だとバレることはない。無能なサツどもがたどり着くことはないからな』

『今後の隠蔽の手間考えたら眩暈がしてくるんやけど。ウォッカにはいつも何も言われへんの?』

『アイツはテメェと違って物分かりが良いんでな』

『イエスマンも大概にせえっちゅうねん…!』

 

 思ったより常識人らしいテキーラなる男は、手で顔を覆って肩を落とした。

 どうやら流石に新幹線爆破ともなると内部で意見が分かれるようだ。

 しかし、銀髪の男の方が上役なのか逆らう様子は見られなかった。

 

 気分を切り替えたらしいテキーラが己の頬をはたいて明るい声を出した。

 

『ところで、そのウォッカは来週には退院なんやてな』

『ああ。……まだ黄色の服のガキは捕まえられねぇのか』

『一応所在は掴めとる。サツの動きが五月蝿くて実行はまだやけどな。なんでも探偵なんて始めたそうやで?』

『はっ、俺たちの尻尾を掴もうってんなら笑い草だ』

『評判も上々。仕事はバッチリこなしとるみたいやな。アンタさんの言うことを信じてへんわけやないが、本当にラリっとるんかいな』

『さてな。ヤク中の探偵といえば形としては十分だろうさ』

 

 俺、ヤク中だと思われていた件。何故。

 間違いなくこの話に出てくる黄色い服のガキとは俺のことだが、薬物乱用疑惑は普通に冤罪すぎる。

 

 その後は会話は今回の取引の話がいくらか。

 そしてそれも途切れ、その隙に諸伏さんが戻ってきたようだ。

 

 全ての会話を聞き終えて、まず第一声は諸伏さんの仰天したような声だった。

 

『え、めちゃくちゃ便利だな!?これ容疑者全員に使えば犯人のことも一発で……いや、少年嫌そうな顔過ぎるだろ』

「…………それは無しで。断固無しで」

 

 コナン君が苦虫を千匹ぐらい噛み潰した顔をして怨嗟の声を上げた。

 宗教上のタブーに触れてしまったらしい。

 

 流石の俺も魔術で人の秘密を暴き立てるのはどうかと思うので実行には移さないが。

 現代科学の観点から見て証拠にはならないし。

 

 俺は咳払いして口を開いた。

 

「一応これは緊急措置だから、秘密を暴くために人に使ったりしないから悪しからず。それで、爆弾の話に戻ろう」

 

 なんにせよ新幹線を吹っ飛ばすのに十分な量の爆弾がここにあることは間違いない。

 

 俺の言葉にコナン君と諸伏さんの瞳が怜悧に細められ、その緊迫した思考を伝えてきたのだった。

 

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