ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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紺青の拳〈大立ち回り〉

 

 2日目は市内巡りだ。

 

 ゆったりマーライオンパーク、ガーデンズバイザベイを回った後、クラークキーで夕食。

 ナイトサファリにしけ込むという流れになっている。

 

 今朝早くからキッドは姿を消していたので、朝食は一人静かに取った。

 その後マーライオンパークに向かい、マーライオンの写真撮影会だ。

 

 最近赤い水が噴き出す事件があったからか、少しだけ人通りは少ない。

 魔術の気配は感じないし、記念写真だけ撮ってさっさとガーデンズ・バイ・ザ・ベイへ向かうこととする。

 

 道中でマーライオンのキーホルダーが売っていたので購入。

 後で魔術で実際に水が噴き出るように改造しようと企むなど。

 

 ガーデンズ・バイ・ザ・ベイは大きな植物園だ。

 大きな温室に世界のさまざまな植物が植えられていて、特に巨大な滝を模して作られたコーナーは圧巻の一言だ。

 

 俺も昔は滞在してた星で植木を育てていたので、それを思い出す規模感である。

 

 なお3回ほど訪ねてきたニャルにめちゃくちゃにされてやめたという経緯もある。

 奴は動物すら大切にできないからな。植物を大切にできるわけなかったんや…。

 

 特に挑戦2回目はザイクロトルの植物を大きく育てることに心血を注いでいたっけか。

 

 長らく育てていたため、高さ120キロ級の大きくて立派な個体だった。

 季節になると咲く真っ赤な花も実に綺麗だった。

 同時に星を覆い尽くすほどの花粉を飛ばしてくるのでちょっと迷惑ではあった。

 

 あの盆栽は俺によく懐いていて、俺が近づくとよく蔓で巻き付いて触手を引き千切ろうしてきたものだ。

 

 ニャルが星に着地する時のクッション材にしてしまったため、種子ごと燃えて無くなってしまったが。

 

 しんみりしつつも植物園の景色を堪能していると、うっかり。昼ごはんを食べるのを忘れたことに気がつく。

 まあ、昼夜兼用で夜ご飯を多めに食べればよかろうよ。

 

 植物園を出て向かうはクラークキーだ。

 

 シンガポール川沿いのレストランが並ぶ地区で、目移りしそうなほど様々な店が所狭しと並んでいる。

 早めの夕食を物色するため、ブラブラと通りを眺める。

 夕日に街並みが紅へと染まっていく。

 

 ふと見ると、園子ちゃんと京極さんが二人で店のテラス席で談笑しているのが見えた。

 

 京極さんには昨日迷惑をかけたし、いい感じのところ悪いが少し話しかけさせてもらうとしよう。

 軽く近づいて、遠目から声をかける。

 

「どうも、奇遇ですね京極さん、園子ちゃん」

「えっ!?黄衣さんシンガポールに来てたんですか!?嘘!」

 

 園子ちゃんが目を白黒させている。

 そりゃ近所人と偶然シンガポールで鉢合わせ、なんて考えもしないことだろうからな。

 やや様子を窺うように京極さんが鋭い目で間に入った。

 

 俺にとっては園子ちゃんから何回も話を聞いているが。

 京極さんからしてみれば一回旅館の事件で会っただけの人間だ。

 しかも、昨日謎の夢に出てきた怪しい相手。

 

 警戒も仕方ないというものか。

 

「失礼します。貴方は伊豆でお会いした…」

「ああ。改めまして。俺は黄衣ハスタ。ちょっと依頼人の頼みでシンガポールに来てたんだ。それで見覚えのある顔を見たからね」

 

 にっこりと笑って京極さんに頭を下げる。

 

 加えて「勿論だが園子ちゃんに変な気を向けるつもりはないよ。俺にはもう恋人がいるしね」と言い置いておく。

 園子ちゃんに近付く不届きものと思われては堪らないし。

 

 園子ちゃんの目が瞬時に輝いた。

 

「うそうそうそうそうそ!!えっ、黄衣さん恋人いたの!?!?」

「想像の数倍食いついてくるね…うん。写真あるよ」

「見る!!!」

 

 園子ちゃんの勢いに京極さんが押されて困っておられる。

 彼氏がタジタジになってるぞ、きみ。

 

 なお、写真は最近撮った料理中のニャルのキメ顔のものである。

 

 完成した品は相変わらず、料理なのに俺を食おうと襲いかかってくる出来だった。

 ミートソーススパゲッティのはずだったのだが、パスタをくねらせて浮遊。

 人を洗脳して脳に成り代わろうとするなどの奇行を見せた。

 

 危険なため、その邪悪なスパゲッティモンスターは俺が討伐して全部食ったのだった。

 

 そして、その時のニャル自身の非常に満足そうに屈託ない自然な笑顔が俺のスマホに収められている。

 園子ちゃんがきらきらしい瞳で歓声を上げた。

 

「うっわ、すっっごい美人…!」

「イタズラ好きだからもし会っても油断しないようにな」

「ええー黄衣さん凄い!せっかくだし蘭も含めて女子会したい!!絶対!」

「ははは……」

 

 それはちょっと致死的すぎるから遠慮させてもらうとしよう。

 盛り上がったニャルがどんなヤバいことをするか分からんので。

 ついでに京極さんと連絡先交換しておく。

 少し話したいことがある、と言っておけば神妙な顔で彼も応じてくれた。

 

 神話的事象の話なんて、こんな彼女のいる場でやるものではないし。

 帰国後にでも時間を取ればよかろうよ。

 

 さて、そろそろ彼女たちは食べ終わり、席を立つようだ。

 俺も軽く挨拶を交わした後、入れ替わりで食事に入ろうとする。

 

 その時である。

 突然、ふらりとわざとらしく食事をもった男が、園子ちゃんにぶつかってきた。

 

 男の持っていたご飯のトレイが床に転がる。

 すかさず男が大袈裟に頭を抱えた。

 二人組で、「こりゃひでぇ!」「どう落とし前つけてくれるんだァ?」とくだらない小芝居をしている。

 初めから園子ちゃんにいちゃもん付けるのが目的だったようだ。

 

 隣を見ると、京極さんが手を出されたら応戦しようと静かに覇気を滾らせている。

 

 こりゃまずい。

 大会中に大暴れなんぞ、下手したら大会参加資格を剥奪されかねない。

 

 慌てて間に入って思考を回す。

 

 まず言語は男達側の思考を読み取って、男達に一番馴染みのあり侮られにくい言葉───即ち同じ言語を選択。

 中国語やマレー語などが混じった特徴的な英語を用いることとする。

 

 正直人を煽るなんてやったことないから、何を言えばいいか分からない。 

 仕方なく、俺は男達の思考をそのまま借りて言葉を放つことにした。

 

 「俺の連れに何か用ですか」とぐらいの意味合いの言葉にするつもりで変換。

 出てきた言葉は「んだテメェは?文句あんのか?」ぐらいのニュアンスになってしまった。

 治安悪ィなオイ。

 

 男はニヤニヤ指を鳴らした。

 

「おいおいおい、被害を受けたのは俺らだぜ?」

「フラフラとラリってんならこんな場所に来んなよカス。迷惑だとわからねぇのか?」

「………おい、このもやし野郎囲むぞ」

 

 園子ちゃん達に言葉がわからないのをいいことに、思いっきり煽ってやれば、男達が秒で食いついてきてくれた。

 キレた男達が俺へとヘイトを向ける。

 どうやら向かいに座るヌンチャク男も仲間のようだ。

 俺に敵意を向けながら立ち上がった。

 

 奴らはなんだか妙に園子ちゃんを気にしている。

 乱戦になればそれに乗じて園子ちゃん狙いに行きかねない。

 

 もちろん武神が守ってるんだから傷一つつけられはしないと思うが。

 むしろ京極さんを動かすことが狙いな可能性も否定できない。

 

 さて、注意はひとまず俺に集まった。

 すっかり客達は俺たちの言い争いに怯えて逃げてしまっている。

 観光客の皆様にはすっごい申し訳ないが、それもこれも全部このチンピラが悪いのだ。

 

 俺の知り合いに手を出した悪人には神罰を。

 具体的にはSAN値チェックの刑を下すのでお覚悟願おう。

 

 俺は三人のチンピラに視線を合わせ、微笑むように権能を作動させた。

 

【黄衣の王の凝視】

 

「今日のところは逃げてくれ。できる限り遠くにな」

「────ッ!?!?!?」

 

 恐怖を駆り立てる旧支配者の邪視がチンピラ達に突き刺さる。

 加えて、少し思考へと荷重をかけて、その結果の発狂が逃走であるように仕向けた。

 

 結果、男達は顔面蒼白になりながら、悲鳴をあげて逃げ出すこととなった。

 

 もし警察に事情聴取されても「なんか急に逃げ出したので幻覚でも見てたんじゃないですかね」と言える塩梅だ。

 よしよし。世は全てこともなし。

 

 一息付くと、園子ちゃんが「黄衣さん!?大丈夫!!」と駆け寄ってきた。

 沈んだ顔をした京極さんも後から追いかけてくる。

 

「大丈夫。なんか京極さんの見せ場を取っちゃった形になってごめんな。今乱闘なんてしたら大会に響くと思って」

「いえ……すみません。助かりました」

 

 京極さんは深くお辞儀をして礼を口にした。

 実に律儀な人だ。

 園子ちゃんが首を傾げて、男たちが去った方角を見ながら眉間に皺を寄せている。

 

「なんだったのかしらあいつら。急に逃げ出して」

「分からんなぁー。あ、俺そろそろナイトサファリあるからご飯食べないと!」

「ならお礼も兼ねてあたしが奢るわ!恋人のことも詳しく聞きたいし」

「うっ……惚気ネタそんなにあったかな…初デートは水族館とか?」

「詳しく!!!」

 

 元気を取り戻してきたらしい園子ちゃんに、自然と京極さんの笑顔も戻って来る。

 

 良いことだ。

 この世全てのカップルに幸あれ。

 

 そんなふうに、俺はその日をまったりと終えたのだった。

 





・ザイクロトル盆栽
綺麗に切り揃えられた億年モノの盆栽。
ハスターの趣味だったもの。
樹形が美しく深みのある幹肌、枝配りもリズムがあり非常に美しい。
隙あらばハスターを喰おうとしていたが全然出来ずにちょっと鬱屈としていた模様。
ニャルに潰されて燃やされてお亡くなりになった。
ニャルは8万年ほど出禁になった。

・恋人の話(黄衣談)
イタズラ好きで甘えん坊。
料理好きでよく黄衣に手料理を振る舞ってくれる。
好奇心旺盛で、いつも新しい楽しみを探している活動的な人。
でも寂しがりで、よく自宅に押しかけて来ることがある。
園子「へぇ、随分可愛い人なのね!」
黄衣「ソウダヨ……」(最大限オブラートに包んだ表現)
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