ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

142 / 469
紺青の拳〈終幕の神の顕現〉

 

 なんと、巨大タンカーがシンガポールに突っ込んでくるらしい!

 

 

 事態は目まぐるしく変化していた。

 

 名探偵の推理ショーは無事開催したらしく、昼にはレオン・ローが緊急逮捕された………かに思えたが。

 その直前に、第三者により狙撃事件が発生。

 レオン・ローは胸を撃ち抜かれて死亡した。

 

 第三者の名はリシ・ラマナサン。

 彼は宝石を奪って逃走して、警察と銃撃戦となった。

 

 リシ・ラマナサンも何を考えているのかはわからない。

 だが、もし復讐なら生かしておいた方がレオンも苦しんだだろうに。

 勿体無いことをする人物である。

 

 あげく、直後に近海のタンカーが海賊によって乗っ取られたことが判明。

 向かうはこのシンガポールの街だということで、現在軍と警察を出動して緊急態勢が敷かれているのである。

 

 京極さんが何か話をしたそうにしていたが、街中に避難指示が出たためそれも叶わず。

 急いで搬送された園子ちゃんに付いて、彼は別の病院へと移動していった。

 

 そして夕方。

 

 凄い数の海賊が、タンカーとそれを取り巻く小舟に乗ってここに向かってきているのが見える。

 

 映画コマンドーみたいな世界観の武器──ロケットランチャーっていうんだっけ──を抱えている海賊の姿もある。

 海上でも軍と激しく戦闘したらしい。

 タンカーはおそらくマリーナ湾を通ってこの地に突っ込むのだろうと思われた。

 

 混乱に乗じて海賊達は街を略奪。

 リシ・ラマナサンは宝石を渡して逃亡という算段だろう。

 

 俺と工藤君は港にてぽつりと佇み、暮れゆく海を眺めている。

 

 付近は軍が封鎖してるから、こっそりここまできた形だ。

 バレたらしこたま怒られることは間違いない。

 

 工藤君がにがり切った顔で吐き捨てた。

 

「なんでシンガポール軍の攻撃で撤退しないんだ?シンガポールは軍事大国で、海軍も強ぇんだぞ」

 

 俺がここに急に呼び出されたのはさっきのことだ。

 どうやら工藤君の予想に反して海賊が強すぎたためらしい。

 

 俺もよくよく海賊達を観察すると、その強すぎる理由が見えてきた。

 

「んー、なんか……魔術的アーティファクトを使ってるくさいな」

「は?」

 

 ハスターの瞳でまじまじと見る。

 魔術的アーティファクトっていうか。見覚えがある……見覚えしかない形をしているではないか!

 なんであれがこんなところに!

 

 ごくり、と生唾を飲んで俺は戦慄した。

 

 たしか、俺が昔作ったお遊びアイテムだ。

 ふざけて名前もつけてあって、「権威の王笏」ってちょっとかっこいい感じにした記憶がある。

 

 効果は三つある。

 一つ目は物理・魔術防護たる「ナーク=ティトの障壁」をコストを無視して自動展開する機能。

 二つ目は持ち主のAPPと交渉技能を上げる「ラーの声」。

 三つ目は「天候を変える」魔術。

 

 それぞれ「王の守り」「王の智慧」「王の権威」を示す……ぐらいの設定だ。

 

 

 ───もともとは。

 ハイパーボリアの何代目かの王の子供にプレゼントしたものだ。

 

 当時はこの程度、ほんの子供のおもちゃでしかなかったから。

 子煩悩な当代の王のために戯れに作って、遊び道具の一つとして渡してやったのだ。

 

 そのまま代々王の子供の遊び道具として受け継がれて行き、いつしか王の心得を学ぶための教材となった。

 

 そしてあのクトゥルフの襲来に伴い、海へと消えたはずの、単なるおもちゃである。

 

 それを、奴らは侵略の道具にしているらしい。

 

「…………はぁ」

 

 大きな大きなため息が口から漏れ出てしまう。

 言いようのない憤りが胸を支配する。

 工藤君は困ったように口を開いた。

 

「リシ・ラマナサンの行方は今キッドが探してるけど。なるべくあのタンカーは上陸させたくない」

「そうだな。これは流石に不敬すぎるし、俺が直々に出ていい奴だろ」

 

 ほら、地球にハスター顕現は既に有識者の間では有名な話だし。

 魔術でSAN値減少さえ無くしてしまえば、顕現してしまってもいいだろ。

 この場所には軍人しかいないって聞いたし。

 古代ハイパーボリアの王の宝を悪いことに使うから神が神罰を下すとか、ストーリーとして全然あると思う。

 

 なんて、脳内で言い訳を並べ立てるなど。

 

 個人的には目も当てられないぐらい酷い目に遭わせてやりたいが。

 神が神罰を下す以上、それは常に公平であらねばならない。

 

 膝を抱えて座り込み、おれは「あーーー」と母音を漏らした。

 

 瞬間、軍が撃ったと思われる地対艦ミサイルが駆け抜け、タンカー直前で魔術障壁にぶち当たって爆風を撒き散らす

 爆撃音と閃光が海を荒立たせるのがここからでも見える。

 

「あれ、昔俺の知り合いの子供にあげた奴なんだ」

「………」

「可愛くってさ、俺の触手を抱えてもちもち走るんだ。大人になったら俺ぐらい大っきくてたくさん触手のある大人になるんだって」

「無理だろ」

「ははは。うん。……探したくなくてそのままにしてたんだけど。こんなところにあったんだな」

 

 探して集めたらもっと悲しくなるので、海で朽ちるままならそれでいいかと。

 投げやりに放っておいた俺が悪い。

 

 あーーーー。

 

 つい私情に走ってしまいたくなる自分をなんとか抑え込んで、また母音を長く漏らす。

 

 というか、この事態は全部俺が悪いまである。

 放っておいたら悪人に使われる可能性なんて十分に考えられたのに。

 管理者である俺のせいだ。

 

「工藤君、後で慰めてくれ……」

「いいけど、やり過ぎんなよ」

「善処する……」

 

 ついに日が沈み切った。

 晴れた夜空が、地対艦ミサイルの爆撃に揺れている。

 

 右手だけ伸ばして、タンカー船の一帯のみを取り囲むように多重に結界を展開する。

 1132層の結界が9つ。

 流石の俺も一瞬では構築できないので、時流を歪めて詠唱時間を誤魔化した。

 

 目撃者があってもSAN値チェックが起こらないように、外に影響が出ないようにと限界まで強固に組み上げた形だ。

 

 それでも、おそらく今後変な夢を見たりなんか受信する人は出てくるだろうが。

 

 次は顕現である。

 夜空を侵食するように、俺の体をずるり、ずるりと亜空間から現出させていく。

 

 旧支配者の完全顕現により、内側の時空がぐにゃりと歪んだ。

 権能が漏出し、環境が書き換わり、俺の瞳が空からギョロリと地上を睥睨する。

 

 夜空から滴り落ちるように現れた、見上げんばかりの巨体。

 巨木の如き触手が幾重にも垂れ下がり、ゆらりと蠢き、その本体はブレたように定まらない。

 

 イカと見るものも、タコと見るものも、トカゲと見るものもいるらしい。

 そもそもこの肉の体は本質ではないので、見るものによって異なるのは当然である。

 

 工藤君が眉間に皺を寄せてぼんやり呟いた。

 

「デカ。ダイオウイカか?干物にしたらいいダシ取れそう」

「俺の本体見てその感想って肝太いを通り越してガバガバなんよ」

 

 みるみるうちに空模様が悪化して、こちらまで暴風が吹き荒れ始める。

 

 しかし結界内とこちらは空間的に切り分けられているから、これだけで済んでいるともいえる。

 本来なら地表の文明なんて根こそぎ吹っ飛ばす暴風になるからな。

 

 念のため、追加で家々を風から守る結界を展開。

 家の屋根が飛ばされるとかそういう悲しい事故が起きないように配慮する。

 

 工藤君はやや訝しげに己の体を見た。

 こんなに風が吹き荒れているのに、自分の身が風にさらわれないのが疑問らしい。

 まあ、腕輪の効果の一部ってやつだ。

 飛びたいなら別だが、そうでもないのに風に攫われたら危険だし。

 

 さて。

 タンカー船の方に視線を戻そう。

 

 もちろんのこと、結界内は遠慮なく時速2300kmほどの風が吹き荒れている。

 

 海の飛沫ごと紙屑のように舞い上がった船が結界にぶち当たり、なんなら船体が俺本体にもめりこむ。

 ゴフッ。意外と痛い。

 自爆は悲しいので、改めて気合いで暴風を地球の台風レベルに押さえ込む。

 

 船がふっと風による揚力を失い、海へと落下した。

 

 中の海賊達はミンチになる前に俺が結界で守っているから大丈夫だろう。

 そのままタンカーを触手で巻いて、元のように姿勢を戻す。

 

 あとは、首魁であり髭の男を細い触手で引き摺り出すだけだ。

 

 結界ごと船からずるりと取り出した男…ユージーンとやらは泡を吹いてガクガクと痙攣していた。

 まあ、俺を直視したんだから当然か。

 SAN値も残ってなさそうだがもう知らん。

 

 一思いにその場でプチッとやってもいいのだが、工藤君が俺を見ている。

 

 仕方なくありったけの死なない呪詛を叩きつけて、ぺいっと甲板に放り投げた。

 今日はこの辺にしといてやる!命拾いしたな!

 

 などと捨て台詞を吐きつつごそごそと撤退。

 来た時と同じように、夜の空へと身を溶かしたのであった。

 

 一部始終を見ていた工藤君が大変な渋面を作った。

 

「これどうすんだよ。最近マジ黄衣さんやり過ぎだろ」

「段々感覚が麻痺してきたのはそう。あとバレてきたからやけになってるのもそう。仲間達に囲まれて己の感情に素直になってるのもそう」

「最悪か。どう収拾つけるんだよこれ」

「宝石の取引なんて取引相手がいなくなっちまえばこっちのもんよ!」

「雑!!いや、街は守られたけどもっとやり方あったろ」

「それだと俺の心が守られなかった。あとこれ、王笏取り返した」

 

 ひょい、と手の中から奴が簒奪していた王笏を取り出すと、工藤君が目を剥いた。

 

「バッカそれ証拠品じゃねーか!いいのかよ!?」

「これを政府に押収されることの方が不安じゃん?軍事的価値が目の前にあるし」

「………まぁ、たしかに」

「とりあえずキッドに言って帰ろう。どうせリシ・ラマナサンに逃げ場はもうないんだし、紺青の拳は警察に任せた方がいいだろ」

「そうだな」

 

 工藤君は大きなため息をついてから、まじまじと俺を見て感想を漏らした。

 なんか値踏みするような視線だ。

 

「黄衣さんってやっぱ本体デケーな。タコ?ゴジラ?」

「あえて言うならイカっぽいゴジラ。強いぞ。頑張れば熱線も吐ける」

「宇宙怪獣じゃねーか」

「おおむねそう。最近はルックスが強くなさそうなのを気にしてる」

「怖げではあるから気にすんな。ウルトラマンに退治されそうな見た目だけど」

「許さぬ。絶対近いうちにキングギドラ的イケメンになってやる」

 

 そのように軽口を叩きながら、俺たちは門の創造にて蘭ちゃん達の待つ避難場所へと転移した。

 

 なおキッドはしれっと紺青の拳をゲットしたらしく。

 へへっと得意げに笑いながら合流したのだった。

 





・公安組
卒倒。
何から手をつけていいのか分からないが、ひとまず米国からの問い合わせに揉み手で誤魔化しながら黄衣を取調室にぶち込むなどする。

・黄色の印の兄弟団
WOOOOOOOHOOOOOO!!!
YEAAAAAAAAAAAAH!!!!!!!
もちろん記念日作る。聖地巡礼もする。
団体でシンガポール旅行して鈴木財閥株買ってローブ姿で港で五体投地する企画がもう半ばまで出来上がってる。
ニュース映像の切り抜きで神のブロマイドとかも作る。
神棚に入れたり神殿に飾ったりする用の高級な仕上げを予定。

・旧支配者ハスター
今冷静になって震えてる。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。