ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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赤女の悲劇

 

「まさか本当に来てもらえるとは思ってなかったよ!ありがとな、黄衣さん!」

「ま、俺らも森林浴は楽しみだったし、気になることもあったしな」

 

 

 本日は世良さんと山奥にある貸別荘に来ている。

 

 メンツは俺、コナン君、最近ようやく休みが取れてヘロヘロの諸伏さんの三人だ。

 降谷さんは未だ警視庁に監禁状態で仕事に専念している。

 

 降谷さんは悟りを開き始めたらしく。

 「食事を取らなくてもいい、寝なくてもいいのは楽だな。仕事におけるロスが無い」などと遠い目で話していたのが記憶に新しい。

 半分以上俺のせいでもあるし、深く反省しておいた。

 

 なお、降谷さんはこの苦境をオープンに二人体制にすることで乗り切ることに決めたようだ。

 それに伴い、警視庁内でおかしな噂話を耳にすることが増えているらしい。

 

 「降谷さんを二階で見た後でエレベーターで上に昇ったらデスクに降谷さんがいた」とか。

 あと「どんな時間に来ても必ず降谷さんはデスクに居て押印してくれる」とか。

 

 おそらく部下対応用に必ずデスクに分身を配置しているのだろう。

 諸伏さんはその度に誤魔化しているようだが、降谷さん自身が雑なので最近ちょっと怪談じみてきてるらしい。

 

 あのニャル化身は本当に隠す気はあるのか。

 

 まあともあれ、今回は怪異案件だ。

 「気になることって?」と世良さんが聞いてくるので、特に気負わず正直に返答する。

 

「この辺り一帯で怪異の発生が確認されてるからな。念のため俺も確認しようと思ってさ」

「へぇ。怪異情報って警察が秘匿してるやつじゃないか。どこで手に入れたんだ?」

「ひみつ」

 

 俺は人差し指をピンと立てて微笑んでみせた。

 世良さんが面白くなさそうにむくれる。

 

 最近になって「怪異対策課が怪異の発生情報を秘匿している」という話がメディアに漏洩したからな。

 俺も情報管理は気を付けているのだ。

 

 前の漏洩の件もあって降谷さん達が詳しく調べると、どうやら内部に口の軽い奴がいたらしい。

 そいつの処遇はともかく、公安は現在メディア等にバシバシに叩かれている。

 

 まあ、怪異を犯罪に悪用する危険性なども加味した上で管理体制を整えてから発表したかったわけだが。

 「国民が危険に晒されているのに未だ変わらぬ公安の隠蔽体質!」とかって連日大賑わいである。

 基本は公開してどうにかなるもんじゃないが、心情的には当然だしな。

 

 古い水道管並に内部情報が漏れるここのところのありさまに、公安信者さんは大いに嘆いていた。

 

 世良さんはあーあ、と大袈裟に嘆息して俺に視線を寄越した。

 

「諸伏さんも僕と会ったことあるのを頑なに認めようとしないし、コナン君は素っ気ないし。みんなつれないなぁ」

『残念ながら会ったことないなぁ。うん。まるで心当たりがない』

「僕もー。世良の姉ちゃん変なカマかけてくるしー」

「そんなぁ」

 

 がっくりと世良さんは肩を落とした。

 仲良さそうで何よりである。

 

 加えて度々俺を疑うような向きもあるのだが、すぐに「この人はただのポヤッとした一般人だ」とマーク外になるという現象を繰り返している。

 「気を付けようとしてるのにどうしても視界から外れる。なんか魔術とか使ってる?」とのこと。

 俺そんな頼りなさそうに見える???

 

 しばらくそんなふうに雑談しながら森を進めば。

 玄関が真っ赤に塗られた奇妙な別荘が現れた。

 

 出迎えてくれたのは女性で、俺らを見るなり「本当に来た!!!」と素っ頓狂な声を上げた。

 

「え、本当に黄衣ハスタだ!有名人の!え、ファンです!サインください!」

「ははは。いいですよ。名前も入れましょうか?」

「あっ、峰岸珠美でお願いします!!できればみんなの分も!」

 

 パタパタと興奮した様子で別荘内に色紙を取りに行くのを眺める。

 コナン君が「黄衣さん、演技めちゃくちゃうまいもんね」と納得したように頷いている。

 

 推理力はともかく、コナン君も俺の演技の腕は認めてくれているようだ。

 世良さんが思い出すような空を見上げて言う。

 

「僕も見たよ、ドラマ。少し前の作品だけど、『探偵は窓より見下ろす』。あれ、結構トリックも凝ってたし、名作だよね」

「ッ!!世良の姉ちゃんも見たんだ!アレいいよね!黄衣さんが単体で探偵やってると思うと雑念入るんだけど、凄く丁寧に構成されてて、特に謎解きの動線とかさ!原作小説も良かったけど!最近の探偵ドラマじゃトップクラスの出来栄えだと思うんだ!」

「すげぇ早口じゃん」

 

 突如として熱く語り出したコナン君を尻目に、諸伏さんは「俺はもうすぐ放送予定のあぶない婦警物語のリメイクが楽しみ」とニコニコしている。

 あぶない婦警物語ってよく知らないが有名なやつだよな。

 

 コナン君がやや嫌そうな顔をしてモゴモゴとした。

 

「あー、新一兄ちゃんのお母さんが、昔主演やってたやつだよね」

『お色気シーン多めだったなぁ。俺としてはアレで刑事って職業を詳しく知った感じだけど』

「そうなのか。たしか昔一世を風靡してたらしいね。リメイク版、黄衣さんも出るんだっけ?」

「うん。サブの探偵役」

『めっちゃ主役級じゃないか。安室にも教えてやろ』

 

 わちゃわちゃと和やかに話していると、今回の依頼人である峰岸さんが他のメンバーを伴って別荘から出てくる。

 

 どうやら高校のアウトドア部の同窓会らしい。

 毎年ここに集まって、キャンプすることになっているようだ。

 一人ずつサインして詳しく話を聞いていく。

 「まさか本物の超有名探偵に話聞いてもらえるなんて思っても見なかったぜ」と皆若干落ち着かない様子だ。

 

 大丈夫、俺も落ち着かない。

 なんなら隣のコナン君も俺が変な失敗しないか不安で落ち着かないぐらい。

 

 しかしこの赤い玄関。

 

 俺が黙り込んだのを察して、コナン君がコソコソと話しかけてきた。

 

「ねえ、やっぱり怪異と関係あるの、この件」

「あるね。バリバリにある」

 

 ひっ、とコナン君が悲鳴を押し殺して俺の足に抱きついた。

 コアラさんなんじゃよなぁ。

 

 怯えるコナン君を抱き上げて思案する。

 

 彼らの依頼は、毎年ここにくるたびに起こる赤いものにまつわる怪現象を突き止めてほしい、ということ。

 具体的には買ってきた野菜が全部真っ赤になっていたり。

 お湯がでないから給湯器のタンクを見たら、赤いドロドロとしたペースト状の物質になっていたり。

 玄関に赤いペンキを塗られたのもそう。

 

 これら全て、「宇宙からの色」の劣化版の仕業である。

 

 知識のない素人が召喚したため、「宇宙からの色」のごく一部のみを切り取って出現させてしまったのだろう。

 「宇宙からの色」は不完全な体を補うべく召喚主へと取り憑き、夜な夜な徘徊しているというわけだ。

 

 まあ、この「宇宙からの色」はかなり不完全なのでただの狂った人間が徘徊してるのと大差ない。

 強烈な放射線を撒き散らすこともないし。

 人の生命力を食ったとして、犠牲者がほんのり疲労する程度。

 物質を赤く異常に変質させる力があるようなので、それがちょっと迷惑と言ったぐらいか。

 

 あらましを念話を通じて諸伏さんとコナン君に伝えれば、彼らは難しい顔をした。

 

『だとしたら、このコテージにだけ執着する理由は?』

『この近くに巣があるからじゃないか?取り憑いた召喚主を後生大事に抱えて使ってるみたいだし、遠くへ行けないのかも』

 

 いや───これは召喚主じゃないな。

 

 12年前に宿主を入れ替えてる。そして先週、また宿主を変えて。

 生きた宿主に取り憑いたんだ。

 本来こんな弱ったものが人間を乗っ取るのは不可能だが、宿主側が「宇宙からの色」を迎え入れた。

 

 そして強くなって、辺りを徘徊している。

 

『人を襲わないのは何故だ?』

『襲ってるとは思うよ。ちょっと疲れたなぐらいで気付いてないだけで。……でもよく見たらちょっと事情が───』

 

 世良さんがむすっとして俺らの間へと割り込んできた。

 

「なあなあ、やっぱり絶対なんかあるだろ。怪異を使って声を出さずにやり取りしてるとか!僕を仲間外れにするなんでずるいじゃないか!」

「うっ、すまんね世良さん。あんま考えすぎても始まらないか」

 

 全員のサインを書き終えて軽く話を聞いたら、皆で別荘の中へと入ることにする。

 ペタペタと怪異の名残が残る別荘はなんとも居心地の悪く、薄気味悪い気配がする。

 

 世良さんが「ひとまず僕らは森を一通り確認するとしようか」と言った。

 

「んー、ちょっと待って」

「どうしたんだ?」

「たぶんだけど、俺らはこの別荘を張ってたほうがいい」

 

 宇宙からの色彩は明らかにこの別荘を狙っている。

 去年は死人は出なかったが、もう今年はダメかもしれない。

 

 そのような危機感を込めて言葉を伝えれば、世良さんは俺をまっすぐに見つめたようだった。

 

「あのシンガポールの件もそうだけど。こういうの、ミュージアムマターって言うらしいな」

「え、そなの?俺は聞いたことない…」

「見るな触れるな聞かなかったことにしろって、知り合いには言われたよ」

 

 それは実に頭の良いやり方であると同時に。

 人類が常に己の弱さと向き合う選択でもある。

 

「世良さんはどうしたい?」と聞くと、「僕だったら確かめたいよ。何がいて、どうすれば良いのか知りたい」と元気よく答えてくれた。

 

「君もそうだろ、コナン君!」

「僕はちょっと……方向性は同意するけど…肝が追いついてこない…」

『バランスがな、難しいよな。突っ込めば即死するし、引き過ぎれば生存圏が脅かされるし』

 

 三者三様の答えのようだ。

 やっぱ俺が全部一括で排除したほうが良いのかな、でもまた面倒見すぎるとトラウマがな、とうううと唸るなど。

 

 俺は世良さんにそっと声をかけた。

 

「今回、俺は最低限しか出張らないから、解決してみな」

「え………」

「相手は弱い。弱いが、歴とした怪異だ。立ち向かって、肌感覚を掴むにはちょうど良い」

 

 世良さんが少しだけ息を呑んで、ゆっくりと頷いた。

 

『黄衣さん黄衣さん黄衣さんホントに大丈夫なの!?!?!?』

『お、おいその子死なないか!?』

『大丈夫。今回の個体弱くて、致死量の放射線ばら撒きもエグい生気奪取もしてこないから』

『不安しかない!!!』

 

 召喚手順を書いた手記も沼に落ちてるし。

 異常毒性も本来より大幅に弱い。

 非実体なので物理攻撃が効かないのは厄介だが、宿主を倒せば大幅弱体化した上で撤退してくれる親切仕様。

 クトゥルフ神話TRPGなら楽な部類と言えよう。

 

 やや不安そうなアウトドア部の住人たちとともに、本日はゆっくりと別荘にて過ごすのであった。

 





・探偵は窓より見下ろす
人気につき続編製作中。
病弱な安楽椅子探偵がさらりと事件を推理するが、病院から動けない探偵に代わりに現場へ向かうへっぽこ美人助手は頼りなく、いつも現場は大波乱、みたいな話。
お軽いノリの割に推理がめちゃくちゃしっかりしている、とはコナン君談。
原作の非現実的な超人探偵っぽさを、黄衣がうまく演じている、と原作ファンにも評判がいいらしい。

・世良さん探索者デビュー
赤ちゃん探索者用コースをこなして独り立ちを狙う。
手厚いサポートあり。
ジンニキが見たら思わず頬を涙が伝う親切さ。


・ジンニキの復活、最終章の兆し
諸伏兄、ジンニキ共に退院。
ジンニキは利き手にやや痺れが残った。拳銃技能が低下。ウォッカ号泣。
諸伏兄はニャルの加護消失。
手元にこっそり割れた黒い風の仮面を残していたが、大和警部と由衣さんに取られた。
二人はニャルラトホテプを独自に調査しているようで、諸伏兄は急いで二人の後を追った。

ジンニキはシンガポールに化け物出現の一報を受けてシンガポールへと飛び立った。
あの化け物はどこかあの時見た………

黄衣ハスタの、姿に似ている。
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