ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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新幹線大爆破と黒の組織②

 

「ひとまず、俺は万が一爆発しても被害が出ないよう魔術の準備をしておく。調査は二人に任せた!」

「わかりました!俺たちはなんとかして爆弾を処理しておきます!」

『あんまりヤバそうなら一人でも新幹線を降りろよ!』

 

 そう言って、コナン君と諸伏さんが去っていく後ろ姿をぼんやりと眺める。

 爆弾の特定は二人に任せておけば問題なかろう。

 

 さて。

 本題はどうやって魔術で爆弾を止めるかだ。

 

 万が一爆弾の場所の特定に至らない場合でも、被害を出さないことが最重要。

 ならそれを実行に移せる魔術を組み上げるとして。

 

「うーむ。よいしょ、と」

 

 席に座ったまま小さく指先をぐるりと回して魔術を展開。

 魔術の基準となるのは俺…旧支配者ハスターと結びつけられる要素である「風」だ。

 大気と定義づけられたものと接触する範囲を対象に、風の触覚を伸ばしていく。

 

 ひとまずこの新幹線に乗っている人間の情報を取得しよう。

 

 その辿ってきた歴史、分子構成、魂の組成。

 それらを一つ一つ精緻に精密に記録していく。

 

 コンマ数秒後、俺は魔術を切ってデータを己の脳内で整理した。

 これであらかたの情報は取得できた。

 

 一番楽なのは、爆破された後、この新幹線を丸ごと再構成することだが。

 それはあまりに非人道的だし、被害を出さないと言った手前不恰好に過ぎる。

 

 となると、やはりカウンター型の魔術が一番堅いだろう。

 

「るーるるるー…」

 

 なんとなく鼻歌を歌いながら思考を巡らしていく。

 こういう地味な作業は嫌いじゃないんだよな。

 魔術は地球がまだ影も形もなかった頃からの俺の趣味だ。

 地道な積み重ねでできることが増えるあたり、学問としてとても優秀だと思う。

 

 とと、思考が傍にそれた。

 

 将来起こる「負傷」「死亡」などをトリガーにして、未来測定にて発動する魔術として定義する。

 

 単純な防壁でもいいが、それではバラバラになった新幹線の中で無傷の乗客が放り出される怪奇現象が起きてしまう。

 しかも持っていた荷物の無事は保証できないときた。

 高価な仕事用のPCが大破するのは悲しいものだから、なるべく避けるのが吉だろう。

 

 とするなら、やはり「偶然爆発が起きても乗客と荷物は無事だった」という方向に運命を収束させるのが良いか。

 

 車両から放り出されて多少あちこちぶつけるだろうが、運命論的な方式で青あざ以上の怪我はないように魔術式を編んでいく。

 

 それと決めたら話は早い。

 全253層、運命操作も含めた超多層魔術式を3秒で組み上げてから……ちょっとばかし気になるところを直してから展開。

 まだ微妙に美しくないが、急拵えなんだから別にいいか。

 

「ほいっとな」

 

 ソレらを一度に解放して、ざあっと大気に含まれる魔力が細かく振動するのを確認する。

 満足満足……うん?

 

 新幹線の7両目までを覆ったところで、魔術式が異常を俺に知らせてきた。

 

 同時にパリン、という可聴域にない奇妙な音とともに魔術がレジストされた感覚が伝わってくる。

 

 どうやら魔術にある程度造詣の深い人が乗っていたららしい。

 俺の展開した魔術を弾いたようだ。

 

 俺は座席に体重を預け、思わず眉間に皺を寄せた。

 

 まあ、弾かれたことに関しては不自然ではない。

 攻性の魔術じゃないし、抵抗されることは想定してなかったからな。

 一般的なPOW(精神力)がある魔術師が抵抗しようと思えば普通に抵抗できるだろう。

 

 うーん。

 急いでいたとはいえ、勝手に魔術をかけるなんて結構なマナー違反だ。

 もしかしたらかなり警戒させてしまったかもしれない。

 

 どうしたものかと悩んでいると、不自然に乗客達の私語が消えた。

 どうやら周囲を眠りに誘う類の魔術が展開されたらしい。

 皆一様に眠りこんでいる。

 

 その中を堂々と前の車両からやってきたのは、一人の女の子であった。

 

 歳の頃は女子高生ぐらいだろうか。

 黄金の蛇をモチーフにしたアクセサリーと露出度の高い黒いローブ。

 トンチキエジプト魔女みたいな格好をした黒髪の美人さんが、青白い顔でこちらをひたと睨み据えていた。

 

 流石に想定外すぎる格好に、俺は思わず絶句した。

 いやいやいやいや、魔法少女モノに出てくる悪の魔女じゃないんだから、え、今時の魔術師ってみんなこうなの???

 

 無言で仰天した俺の様子に気づくことなく、魔女さんは俺を詰問した。

 

「どういう、つもりなのかしら」

 

 その声は妙に震えていて、よく見れば足元も小鹿のよう。

 顔色も青ざめている。一体なんなんだ?

 

 まあ格好はともかく、やはり俺の魔術を警戒して問い詰めにきたようだ。

 俺はパタパタと手を振って素直に頭を下げた。

 

「ああ、サーヘロンの人だったのか。勝手に魔術をかけて悪いな。言い訳になるかもしれないが、別に危害を加えようとしてたわけじゃ無いんだ」

「なら目的を答えなさい!」

 

 魔女さんはエジプト調の模様の鎌をこちらへ向けたまま、足をガクガク言わせながら気丈に振る舞っている。

 めちゃくちゃに緊張しているようだ。息も荒い。

 

 ちなみに、サーヘロンとは魔女ぐらいの意味合いの言葉である。

 昔の俺の友達が使っていたから覚えていたのだが、何語かは忘れてしまった。

 

 ん………?

 

 というか、俺を見ているのではなく、魔女さんは俺の背後の空間を見ていることに遅れて気がつく。

 

 まさか折り畳んである俺の身体が見えてるのか?

 いや見えてるなこれ。

 中ギッチギチで結構中身漏れてるし。

 

 ごほん、と咳払いして視線を逸らす。

 裸を見られたみたいで恥ずかしいが、今更隠したら余計に怪しまれるかもしれないし。

 一応俺の特製空間越しに見るだけならSAN値減少も無いはずだし、この丸出し状態のままでいこう。

 

 露出狂ってこんな気持ちなのかな…などと恥ずかしさで赤面しながら口を開く。

 

「いや、普通に犯罪者が新幹線内に爆弾を設置したらしくて。乗客が死なないよう保護魔術をかけてたんだよ、俺」

「…………は?」

「あんたも、もしかしたら自分の身は自分で守れるのかもしれないけど。他の乗客を守るためだ。目を瞑ってくれないか」

 

 できるだけ誠実に、頭を深々と下げでお願いする。

 これは新幹線内に他の魔術師がいると考えなかった俺のミスだ。

 諸伏さん達が必死で爆弾を対処しているのに、俺がこんなミスで後詰を誤ったなんで恥ずかしくて合わせる顔がない。

 

「俺は黄衣ハスタ。サーヘロンさん、どうか爆弾の対処に協力してくれ」

 

 そう魔女さんに語り掛ければ、彼女はやや肩の力を抜いて息をついた。

 未だ警戒したままだが、少しはこちらを信用してくれる気になったらしい。

 

「……本当に貴方なの?ルシュファー様が言っていた極大の災いは」

「ルシュファー?」

 

 知らない名前だ。名前にある程度の力が感じられるあたり、旧神の一柱とかだろうか。

 瞳に困惑を写した魔女さんが慎重に口を開く。

 

 ん?この流れ、若干嫌な予感がするぞ?

 

「先ほどの人智を超えた魔術に、先日のルシュファー様のお告げ……貴方が長き眠りより復活した古の脅威」

「あっ、待て!俺の名前は呼ばな…」

「あなたが魔術の神、星間宇宙の帝王、旧支配者ハスター…?」

 

 瞬間。

 パリン、とガラスの割れたような軽い音。

 

 神名を言い当てられた影響で、ぱつんぱつんに張っていた拡張空間が硬質な音を立てて剥がれ落ちた。

 まずいまずいまずい!

 

 俺の変化は俺が「黄衣の王である」という概念によって封をされている、割とシンプルな作りである。

 だから俺があまりに黄衣の王から離れすぎると機能しなくなる脆さも同時に抱えている。

 

 例えば俺が「黄衣」を含まない名乗りを上げるとか、黄色っぽい服以外を着るとか。

 その程度でも術式が破れてしまう。

 

 そして今。

 俺が黄衣の王ではなく旧支配者ハスターだと言い当てられたことにより、術式は致命的な破綻を迎えた。

 

 連鎖的に折りたたんでいた空間が崩落し、押し出されるように俺本来の身体が通常空間に放り出される。

 

 空間がうねり、神体がゆっくりと顕現していく。

 

 距離感すら定かでは無い巨体。

 見る人間によってタコの怪物とも、巨大なトカゲとも証言するだろう不定形。

 風の王。

 邪悪の皇太子とも呼び称される旧支配者が一柱の肉体が富士山付近、山梨の上空に露わになった。

 

「おあああああーーー!?!?!?待て待て待て!!なんたること!?」

 

 しかしいくら俺の体が巨大とて、新幹線の速度で進めば置いていかれることに違いはない。

 咄嗟に触手を新幹線に絡めて、振り落とされないように踏ん張る。

 

 これ新幹線を襲う化け物の構図だな…と気の遠くなる気持ちで思う。

 

 ふと、ボンっという何かが爆発したような音が多く響いた。

 どうも触手の先がチリっと痛んだ感覚だ。

 気のせいか?いやまあそれはいい。

 

 ひどいことになる前に、なんとか視線を逸らすタイプの魔術で誤魔化さねば。

 

 瞬時に意識を逸らす魔術を広域展開。

 俺の姿が見える範囲の目視、監視カメラ等映像機器に干渉して俺の存在を視覚から削除する。

 

 とはいえ、俺レベルの旧支配者が唐突に地球上に顕現したのだ。

 周囲の天候が急速に悪化し、台風でも来たように強い風に樹木が激しく揺れている。

 風と強く結びつけられた俺の顕現によって、大気が激しくかき混ぜられているのだ。

 

 本来ならビルなんて根こそぎ引っ剥がしてしまうほどの強風だが。

 それは流石に大災害すぎるので、気合いだけで内側に封じていく。

 オエップ。吐き気が酷い。

 自分の手足を腹の中に納めるようなものだからな。これも仕方あるまい。

 

 なにはともあれ!

 星の地表で完全顕現なんてしてたまるか!

 

 新幹線の車窓から見える幾重もの触手を、なんとか崩れかけの魔術的空間内に押し込めていく。

 

「はっ………はー、は……!」

 

 ガクガクと恐怖に震える女子高生魔術師さんが、目を見開いて硬直している。

 

「いや早く目をつぶれ!SAN値がどうなっても知らないからな!!」

「ひっ!……ひ、ふ……はー……」

「ああもう!」

 

 仕方ないので空間ごと一旦凍結。

 父なる神ヨグ=ソトースの管轄外へと取り除いて、その間に急いで俺の肉体を丁寧かつ迅速に亜空間にしまう。

 

 おっとここでニャルラトホテプのアンチクショウからの速達が届いた。

 

 時間の凍りついた空間もなんのその、手紙という古式ゆかしい形で出現したメッセージを広げてみる。

 

 なになに?「正体見破られただけで裸でまろび出る旧支配者クソワロタ」?

 うっせぇわ!!!お前と違って俺は千変万化の神体を持たないんだよ!!人間に化けるのも一苦労なんだっつの!

 

 なお、裏面には「顔真っ赤で草」の追伸あり。

 ヤロウぶっころしてやる!

 

 しかし奴の言うことに同意するのは癪だが、確かに神名を言い当てられただけで術が崩落するほど脆いのは考えものだ。

 とはいえ俺の変化の仕様上、これ以上の強固化は望むべくもないし。

 どちらにせよこの件に関しては今後の課題となってくるだろう。

 

 全ての体を元通り幾重にも折り畳んだ後、俺はようやく一息ついて手で顔を覆った。

 

 はあ。

 やって……しまったな………。

 

 だが、落ち込んでもいられない。

 そのあと、神体の顕現を直で感じ取ってしまったSAN値直葬がちの女子高生魔術師さんの様子を確認する。

 どうも盛大に削られてしまったようで、涙目で硬直しているようだ。

 

 仕方ないので、ニャルラトホテプにも真似できない秘儀「人の精神を正常性に寄せる魔術」を発動。

 ようはSAN値回復魔術だ。

 本来相反する魔術とSAN値を両立させるため、俺をして完成まで億年の歳月をかけた秘儀中の秘儀。

 

 そしてこれ、本気で地味に高難易度なんだよな。

 人間の魂と常識に深い理解がないと発動の手がかりすら掴めない。

 その上、人間が実行するには代償が重すぎると来た。

 本気で俺専用の魔術である。

 

 そうして魔女さんのSAN値も回復して、全ての工程が完了。

 空間をそっと元いた通りの時空の流れに戻す。

 

 はっと、正気に戻った魔女さんが周囲を見ても怪物がいないことを必死で確認して、荒い息をついた。

 まるで悪い夢でも見たかのような反応だ。

 

 いや、まあ夢ではないんだけど。

 

「ひとまず降参。俺は人に仇為す旧支配者じゃ無いから、本当に落ち着いてくれ」

「なにを……」

「ともかく、今は爆弾の対処だ。この魔術式を維持しておいてくれ。発動直前で凍結してあるから、君でも特に問題なく発動できるはずだ」

 

 そうやって言い置いてから、少し考えて魔術式を一部組み替える。

 

 ちょっと人間が発動するには難しすぎるかもしれないからな。

 あの人外の魔術適性のあったエイボンとかならともかく、この魔術を人間が普通に運用するのは困難を極める。

 魔術の発動を補佐するガイディング機能も取り付けてから、手の中で展開した魔術式を魔女さんへと放り投げる。

 

「古エイボン式の数え方で3-50層の外側から3番目、そこを起動させればガイドが出るから参考にしてくれ」

「え、ええ」

 

 俺一人でも魔術の発動ぐらい問題ないのだが、ニャルが妨害してくるかもしれないし。

 魔術発動は魔女さんに任せ、俺は対ニャルに備えた方が確実だ。

 

 そうして、無事魔女さんの手の中で魔術が作動したのを確認してから、俺はようやっと一息ついた。

 

 と、それと同時に爆弾を探りに行っていたはずのコナン君と諸伏さんが血相を変えて戻ってきた。

 二人とも顔色が真っ青だ。

 

『おい!さっき窓の外にとんでもないバケモンが!!』

「黄衣さんも見た!?」

「あ、それは俺がミスっただけだから気にしなくていいやつだよ」

『気にしなくていい触手の化け物なんてある???』

 

 しまった、さっき人の目を逸らす魔術を展開したのだが、いつもの癖で二人を効果範囲外に指定していたようだ。

 一応前にかけたSAN値の保護の魔術が防護壁になって、魂の致命的損壊には至らなかったらしい。

 防壁の方は粉々になったようだが、二人は無事だ。

 

 まあ、こういう時のための保護魔術だし。セーフセーフ。

 ジト目のコナン君が立ったままだった魔女さんを見て俺に問いかけてくる。

 

「で、その隣の人は?」

「たまたま新幹線に乗ってた魔術師。魔術発動に際して協力を依頼した感じだよ、ね?」

「は、はぁ……。赤魔術の継承者、小泉紅子よ」

 

 その言葉に、諸伏さんもコナン君も一瞬宇宙猫と化した。

 「魔術師…?」「黄衣さんだけかと思ってた…」など顔を見合わせてコソコソ話している。

 そりゃ魔術師ぐらいいるだろうに。

 

「それはともかく、爆弾はなんとかなったんだよな?」

「ええ。後ちょっとで爆発する状態だったから、蹴っ飛ばして突然出現した触手に当てたんですよ」

「あ!だからさっきチクッとしたのか!」

「チクッとした?」

「いや、こっちの話」

 

 まさか爆弾がぶち当たっていたとは。

 道理で痛いはずだよ。

 

 内側で爆破された箇所をさすりながら俺が眉間に皺を寄せていると、魔女さん──小泉紅子さんがくるりと背を向けた。

 

「……もう爆弾も片付いたようだし、私はお暇するわ」

「おお、悪かったな。その魔術式は謝礼に渡しておくよ」

「…………、…………そう」

 

 それ自体は新幹線の爆破防止に特化しているので他に使えるものではないが、分解すれば未来視や防護魔術として非常に優秀な術式が抽出できるだろう。

 

 ひどい疲れの滲んだ顔で、よろよろと小泉さんが後ろの車両の自席へと戻っていく。

 

 昔は魔術師は結構見かけたものだが、今もいるんだなぁ、などと考えながら。

 俺はやり遂げた満足感にホッと一息ついたのであった。

 

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