ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

151 / 469
赤女の悲劇〈ルール把握用お試しシナリオ〉

 

 無事赤女の討伐は完遂された。

 

 俺たちは別室のモニターで探索を見守っていたのだが、やはり手慣れていたのは諸伏兄だった。

 

 真っ先に大量のオカルト雑誌の中から古びた手記を取り出し、その記述を確認。

 明治あたりの文語体で書かれたそれは非常に読みづらいものだった。

 

 にも関わらず諸伏兄はすらすらと読み解いて、そこから退散の原始魔術を手早く習得した。

 

 記述に従って迅速に儀式のための場を整える手腕も見事の一言。

 ニャル遊びに自主的に付き合っていただけはある、素晴らしい安定感を見せてくれた。

 

 大和警部は阿吽の呼吸で探索と儀式場作成の補助。

 敵襲撃の際は攻撃役になるらしい。

 射撃できるように奥の壁に背を預け、後衛態勢を整えた。

 

 世良さんは戦いやすいように場をせっせと整えていく。

 諸伏さんの動きを見てあちらは任せていいと判断したのだろう。

 儀式場での戦闘を見越して転けそうな障害物を取り除き、バリケードと細かなトラップを配置。

 奇襲できそうな窓の隙間等を砂利を混ぜた泥で埋めて察知しやすいように細工していく。

 

 おおむねよく動けていたと思う。

 俺が人間なら震えてタンスとかに隠れてただけだったと思うし。

 

 だが、失敗だったのは奇襲されての初手の行動だろう。

 

 宇宙からの色は、存外知恵が回った。

 一階の壁を能力で脆く赤く変質させ、そこを崩して一気に強襲してきたのだ。

 運悪く、そこが大和警部が背を預けた壁だったのも災いした。

 

 バランスを崩した大和警部を咄嗟に救ったのは世良さんだった。

 彼女は咄嗟に大和警部を突き飛ばし、代わりに物質化した宇宙からの色に捕えられたのだ。

 

 完全に絡め取られ、大和警部が銃撃しようにも世良さんを盾にするため動けず。

 

 そのまま宇宙からの色は発動条件を満たして再び特殊能力を使用。

 世良さんは下半身を赤い肉塊に変形させられる、などといった大事故が起きてしまった。

 

 これは死亡ではないためキーホルダーの蘇生基準を満たさない。

 

 が、流石に俺も悲鳴をあげてキーホルダーの蘇生権を遠隔発動した。

 普通にパニックでコナン君の視界を手で覆い、追加の魔術を多重行使。

 

 僅かコンマ1秒未満の苦痛で世良さんは元の姿に戻った。

 その上で、俺の位置情報操作魔術によりやや離れた諸伏兄の隣に移動させられたのだ。

 

 今をもって全身が震える惨事である。

 こうした事故を手を叩いて喜べるニャルは頭がおかしいと言わざるを得ない。

 

 その大惨事の間にも、冷静に諸伏兄は退散呪文を唱えきった。

 魔術「宇宙からの色の退散」は正しく発動。

 宇宙からの色は無事に地球外へと送り返され、この地に平和が戻ったのであった。

 

 

 

 しかし………今回は俺も酷い失敗だった。

 

 あの宇宙からの色は非常に弱い。

 本来ならあっという間に発動が可能な物質の変異も、奴は触れたまま十秒以上経たないと使えない。

 能力値を永久喪失させる生気吸収もしてこない。

 軽く死ぬレベルの放射能汚染能力も持たない。

 増えない。

 実体化しても雑魚。などなど。

 

 まったく初心者用の個体だと思ったのだ。

 初心者だったのに、世良さんには非常に申し訳ないことをした。

 

 帰ってきた世良さんは元気そうに振る舞っていたが、明らかにしょげかえっていた。

 そりゃ一瞬とはいえ下半身が肉塊に変えられたんだし。

 SAN値もガッツリ減るに決まってる。

 

 そのまま一足先に帰ると言って、彼女は顔面蒼白なままタクシーで家族が待つというホテルへと帰って行った。

 

 

 その後。

 俺たちの元に帰ってきた諸伏兄は「これはお返ししておきます」と言ってハートのついたキーホルダーを返してきた。

 俺がこっそり彼と大和警部のポケットの中に生成したアーティファクトだ。

 

 静かな瞳で諸伏兄は俺を見つめた。

 

「……彼女が生きていたのは、貴方の魔術のおかげですね?」

「まあ、そうだね。ちょっと無理をさせ過ぎたよ。本当に巻き込んでごめん」

「いえ。怪異案件としては、アレはほぼ遊園地のアトラクションのようなもの。さわりを体験するものとしては十分でしょう」

 

 剛のものっぽいコメントを貰ってしまった。

 

 退散方法が屋敷の棚の中にこれみよがしに置いてあって、ギミックはそれだけ、なんてたしかに普通は無いだろう。

 

 あの手記は本来沼でドロドロになっていたはずのものだが、俺が修復して屋敷の中に配置しておいたのだ。

 だってあれ無いと直接バトルしないといけなくなるし。危険だし。

 屋敷の中に退散道具が全て揃っていたのも俺の仕込み。

 

 ………というのはバレてないと思っていいのだろうか。

 これはバレてる?分からん。

 だが間違いなく不自然には感じていることだろう。

 

 ゲームじゃないんだし、動線も救済措置もないただのデストラップなんて怪異には山ほどある。

 そういう意味で今回は「丁寧に勝ちの目を作られた出来レース」と言えただろう。

 

 もごもごと言い淀む俺を尻目に、慌てて諸伏さんも諸伏兄へと声をかけた。

 

『兄さん!その、無事だった!?』

「景光。ああ、問題なく」

 

 あわわわわわ、と諸伏さんが動揺している。

 やっぱリアルクトゥルフ神話TRPGは心臓に悪過ぎる。

 

 後から大和警部もやってきて「おい高明、帰るぞ」と促していたので、ちょっと待ってもらって深々と頭を下げる。

 追加で「今回の正式なお詫びの品は後ほど」と言っておくこととする。

 

 世良さんが探索したいようだったから付き合わせてしまったが、やはり止めるべきだった。

 

 二人ともよく分かっていないような顔をしつつ、まあまあ、と俺の顔を上げさせたのだった。

 

 それと。

 返されそうだったハートのキーホルダーは、諸伏兄に押し返しておく。

 

「二人とも、それは渡しとく。今回危険に巻き込んじゃったし、受け取ってくれ」

「……いいんですか?これは、恐らくかなりの」

「いいっていいって。あるといざという時に命が助かるかもだしな」

 

 訝しげな顔の大和警部に、諸伏兄が静かに声をかけた。

 

「敢助君、そのポケットに入っているキーホルダーは肌身離さず持っておくべきです。君も一瞬見たでしょう。『ああ』なっても、場合によっては助かる可能性がある」

「………何だこれいつのまに、じゃなくて、おい、アレは俺の見間違いじゃなかったってことか!?」

「見たままです。もし彼女が庇ってなければ、ああなっていたのは君でしたよ」

 

 今更ゾッとしたらしく、大和警部のSAN値が目の前で減っていく。

 

 そういえばクリア報酬を払っていなかったな。

 俺の知識だと、クトゥルフ神話TRPGのシナリオクリアに際しSAN値回復は定番のものだ。

 

 そっと遠隔で世良さんも含めた三人のSAN値を回復し、癒しておく。

 

 これは人類史を織って人の心を鼓舞する讃美歌の類の魔術だ。

 意外と難しい、というか人間マニアじゃないと発動できない感じの魔術となっている。

 

 前に見せた時はニャルに羽虫オタクが熱演してるのを見たみたいな反応でキモがられた思い出である。

 そのドン引きみたいな反応やめろ。

 

 

 そうして、まったり一泊してから、俺たちは帰宅したのであった。

 

 今晩、静かに傷心してたコナン君は俺と同じベッドで寝たことを追記しておく。

 

 

 

 

 

 

 翌日早朝。

 家に帰るや否や、コナン君は道中で買ったパワースポット解説本を読み始めた。

 

 非常に真面目な顔をしている。

 帰ってきた諸伏さん達と会話してる時も一言も発さなかったし。

 怖がりが高じてオカルトに手を出し始めたらしい。

 

 そんなパワースポットとか全部集めたのより、コナン君の持つブレスレットの方が効果があるのに。

 

 俺はむっつりして、コナン君の手に別の効果を持つブレスレットをどしどしはめるなどした。

 じゃらり。じゃらり。じゃらり。

 

「何これ。じゃらじゃらはめないでよ」

「怖くなったから作った。少年探偵団と蘭ちゃんと園子ちゃん、あと世良さん、沖矢さんも明美さんも哀ちゃんも」

「ありったけ作るじゃん」

「コナン君用ほど強くないけど、気休めにね」

「なんで全部僕にはめるの」

「コナン君がとても強くなる」

 

 チベットスナギツネみたいな顔をされてしまった。

 まあ沢山あってもコナン君のブレスレットに比べれば微々たるものだ。

 

 これはあの赤女の件を受けて夜鍋して作った護身ブレスレットだ。

 

 自分のせいで起きた探索中の事故にショックを受けて泣いて作ったとも言う。

 仮作成のため、効果は軽い魔術・物理装甲のみだ。

 あの宇宙からの色の肉体変質ぐらいなら魔術装甲で防ぐことができるかな、程度。

 

 でも物量に満足したのか、コナン君は安心してパワースポット解説本を置いたようだった。

 

 茶を運んできた諸伏さんが「お、小学生で流行りって聞いたジャラジャラファッションだ」などと笑っている。

 そしてコナン君に「いつの流行り?」などと言われて大ダメージを受けていた。

 

 おじさんにそういうクリティカルな言葉を使うのはよくない。

 

 

 そうしてまったり過ごしていると、電話が来た。

 相手は公安信者さんだ。

 

 出てすぐに、丁寧に平伏すような声が耳を打った。

 

『お寛ぎのところを申し訳ございません。至急の話がございまして、今お時間をいただけますでしょうか』

「いいよいいよ、何かな?」

 

 毎回おっかなびっくりで掛けてくるので、俺も公安信者さんを安心させようと言葉もだんだん砕けてきている。

 公安信者さんは「神の寛大な御心に感謝を」と言い置いてから話し始める。

 

『黄色の印の兄弟団本部教主、レスター・キャンデムが、大いなる神への拝謁の栄誉をいただきたいと申し出ております』

「え、………用事とかって何か聞いてる?」

『神へ懺悔の機会をとのことでした。あまりに不遜な申し出、貴方様のお耳に入れるのも不愉快かと存じましたが…』

 

 彼女の声は若干しょんぼりしたような声に聞こえる。

 いや、これはしょんぼりというより…同情している感じか?

 

 なんだか怖いが、今まで俺の所在を分かってて接触してこなかったのだ。

 このタイミングで話があると言うことは、よほど重要な何かがあるのだろう。

 

 俺は了承の意思を伝えることにした。

 

「わかった。面会するから、日程を調整しよう」

『偉大なる貴方様に信仰を捧げます』

 

 

 そのように、信者さんは丁寧に言ったのだった。

 





・宇宙からの色退散シナリオ
本読んで儀式場作って適当に数ターン宇宙からの色の攻撃を躱して呪文で退散させるだけの赤ちゃん向けシナリオ。
死亡ダメージを受けてもキーホルダーが肩代わりしてくれるし、何なら頑張れば拳銃とジークンドーで倒せた。

★⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ x月x日 にゃるにゃるさん
あまりに虚無。
王宮で外神が盆踊りしてるの眺めてた方がまだ楽しめるレベル。
バグがないのは高印象です。
ポテンシャルはあると思うので次回作に期待してます。

なお、諸伏兄と大和警部に渡されるお詫びの品は現在ハスターが気合を入れて考え中。
なんか強くていい感じのやつを予定している。


・世良さん
冒涜的事象の洗礼をぶち当てられてトラウマ気味。
肉盾になるつもりではあったが、肉塊にされるとは思ってなかった。
遠隔SAN値回復を受けてちょっと回復した。
が、家でメアリーさんに顛末を相談してマジパンチを喰らった模様。
メアリーさんから「それでそのまま死ぬことすらできなかった奴がどれほどいるか!分かるか!」と説教されてさらにしょげた。

後日、助けられた大和警部が正式にお礼に来た。
「このキーホルダーは渡しておく。本来俺が失ってた残機なんだ。代わりに受け取ってくれ」
そう言って、大和警部は自身のキーホルダーを世良へと渡したようだ。


・簡易ブレスレット
近しい人への配布用。
工場生産を目指す公安配布分より上等な仕組み。
一つずつ丁寧に旧支配者ハスターの加護と魔術が組み込まれている。
知性ある怪異に掲げて見せると平伏するかも。
この紋所が目に入らぬか。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。