黄色の印の兄弟団本部の教主と対談の日である。
やってきたのは黄色の印の兄弟団日本支部。
前に来たこともあるあの神殿風の大ホールの中央玉座にて、俺は腰を落ち着けている。
俺は再び古エイボン式の魔術を張り巡らせて結界を構築後、本性を露わにした。
大きく太い触手は配置も絵になるようバランスに気をつかい。
天井から見つめる瞳も位置と個数を微調整。
それっぽく触手を蠢かせれば完成である。
ちなみに、なんだか怖かったので今回もコナン君に一緒に来てもらった。
コナン君はブスくれたまま俺の腕の中で大人しくしてくれている。
今日は高級中華の気分らしく、ミシュランにも選ばれた有名シェフのおまかせコースを献上することで手を打ってもらった。
予約は怪盗キッドの写真と引き換えに園子ちゃんにちょちょいと融通してもらった。
財閥令嬢ってすごい。俺は素直にそう思った。
そういえば前の時もそうだったが、信者たちの間ではコナン君は神子として噂になっているらしい。
驚くべきことに、ハイパーボリアの伝承の一部として「神に召し上げられた子供」の話が残っていたとのことで。
流石に同一人物とは思ってないようだが、神の寵愛を受けた神聖な子としてコナン君は注目の的になっているようだ。
これを話してくれたのは前も会った日本支部の一番偉いお爺さんだ。
正式には「黄色の印の兄弟団日本支部、ウズルダオルム君1位階」という地位とのこと。
これから来る米国本部のすごいお爺さんは世界でも随一の魔術師で、由緒ある貴族の出身。
御歳600歳とちょっとの伝説の権力者なのだとか。
600ってそんなに魂持たんやろ、と思いつつ。
実際生きてるんだし余程魂が強固な人だったのかなと思うなど。
地位は「黄色の印の兄弟団本部 コモリオム君1位階 兼 エイボン君3位階」ということらしい。
長過ぎてよく分からん。
でも肩書きって長くなりがちだよね、と俺は訳知り顔で頷くにとどめた。
俺自身変な肩書き死ぬほどついてた時あったし。
玉座に座ったまましばらく待っていると、入り口の扉がゆっくりと開かれた。
内側から信者さんによって開けられた扉の向こう側から、白いローブの一団がゆらゆらと歩いてくる。
おそらく一番の権力者は、服装から見て前後を信者に挟まれた中央のお爺さんだろう。
凄まじい魔術の束で身体を覆っているが、これは攻性のものではない。
詳しく見て、俺は一瞬びっくりして二度見してしまった。
このお爺さんてばとんでもないな!
なんと、一定期間ごとに過去から己自身を汲み上げて、置き代わっているようなのだ。
つまり過去の自分で今を上書き。
100歳のおじいちゃんになったら、過去から20歳の自分を連れて来ればいいでしょ理論だ。
古くなった己からは、記憶だけを抽出して過去の自分に託してポイ。
期間は10年。
10年ごとに死んで別人になってるに等しい所業だ。
御歳600歳ってか実質普通の70歳だよコレ。
あまりの捨て身戦法に静かに戦慄していると、目の前の使者に動きがあった。
何やら桶のようなものを四人の信者で運んで、俺の前まで来て跪いた。
猛烈に嫌な予感がする。
が、ここまで来て逃げることはできない。
代表であるお爺さん…たしかレスター・キャンデムとかだったか?は、頭を床に打ち付けんばかりの様子で五体投地した。
そしてそのまま何も言わないから、これはいつものあれかな、と思って声をかけてみる。
つまり「面を上げよ。口を開くことを赦す」というやつだ。
やっぱそれだったらしく、ガバリとお爺さんは顔を上げた。
「神よ!いと高きに跨る偉大なる人の守護神よ!矮小なる我らに拝謁の機会を賜わられたその深き御慈悲に感謝いたします!」
前置きが長い。怖いからはよ進めてくれ。
とは言わず、雰囲気たっぷりにうっすらと微笑んで見せる。
俺の体に顔を埋めたコナン君が若干笑ってる気配がする。
うるせえぞ時代劇って言いたいんだろ!俺も思ってます!
お爺さんはますます盛り上がって声を張り上げた。
「これをご覧ください!我々はあの恐るべき背教者を討ち果たし、そのあまりに重い罪を濯がんと努力を重ねました!」
「─────ッ」
桶の蓋が開かれる。
その中に入っていたものに、俺は思わず目を背けそうになった。
人の首が、入っている。
知らぬ顔ではない。
わずかだが言葉も交わしたし、過激ではあったが根本的に悪い人でもなかった。
そんな人物の物言わぬ生首が、桶の中で青白い肌を晒している。
「加えて我ら一同、首を捧げます。神よ、どうか、どうか信徒達をお赦しください…!救いようもなく愚かだったのは我々のみと、寛大なる御慈悲を……ッ!」
「首はいらぬ」
咄嗟に放った言葉は、思ったよりずっと平坦で突き放したような声色になってしまった。
瞬時に、お爺さんの顔が恐怖と絶望に塗りつぶされた。
ひっ、と信徒───おそらく本国ではかなり地位の高い人なのだろう───が悲鳴を押し殺せず引き攣った声を出した。
しまった、これじゃ誤解を招く表現だ。
表は泰然と、裏では慌てて言葉を紡ぐ。
「もとより、俺はお前達の愚かさを知っている」
既知のことで咎める気はない。
弱く、愚かで無力なものよ。
お前達を俺は愛そう。
そのようにゆったりと言葉をかけながら、彼らに加護をかけてやる。
中身のない、ただ赦しを与えたことの証明を意味するだけの加護だ。
それでも、米国信者達の反応は激烈だった。
「お、……おお……神よ…ッ!!!」
「くれぐれも、安寧は不断の努力の先にあると心せよ」
俺の言葉に彼らはだばだばに泣いて、頭を床に擦り付けた。
というかこれ以上わけわからん理由で死人を増やすわけにはいかないからな。
生首とか貰ってもマジで困るだけなんじゃよ。
憂鬱なため息を飲み込んで、俺は無心でコナン君を撫ぜた。
別に止めるつもりこそなかったけど。
俺のために殺す必要なんて欠片もなかったのに。
コナン君はじっとして、俺の服の裾を掴んだ。
所詮は言い訳だ。
俺は神なのだから、殺さないでほしいならきちんと止めるべきだった。
うじうじとしている間に、米国からの使者達は退出していった。
高らかに俺を讃える言葉を繰り返し唱えた上で、代わりの献上品を持ってくると言っていた。
別に献上品なんていらないのだが、俺に会いたいならそのぐらいは許してやろう。
完全に退出した後、脇で公安信者さんと共に五体投地してた日本支部の偉いお爺さんが進み出てきた。
やっぱり長い長い前口上の後、日本支部のお偉いさんが平伏したまま思わずと言ったように涙を流している。
さっきのに泣く要素あったか……?
「神よ、偉大なる神のどこまでも深い愛に我々は感涙しております!!」ということらしい。
凄い感動秘話を聞いたような反応で公安信者さんも号泣している。
まあ、あれだ。
このぐらいで愛想尽かすぐらいなら、ハイパーボリア成立以前のあれそれでとっくに見限っているだろう。
特にアレ。
死にそうになってた人間の一団を保護したら、騙し討ち。
俺が面倒見てた孤児5人を攫われたあげく、殺されてバラされて。
近隣の庇護してた村々が死体を買って川に投げ込んでた時とかな。
攫ったのは純粋に金銭目的。
買った方は知っててそそのかしてた。
なんか寵愛を受けし子を川に捧げれば今後増水は起きないとか何とか。
一部を祠に置いとけば豊作になるとか何とか。
それ以外にも、定期的にその手の裏切りは起きている。
流石に孤児の件はマジ切れしたが。
そもそも俺がきちんと人々を幸福にしてれば起きない悲劇だった。
そういう反省もあって、俺はハイパーボリアを建てる決意を決めたわけだ。
まあ、現代社会でそこまでの野蛮なことは起こるまい。
腕の中のコナン君を大事に大事に撫ぜながら。
俺はつい口をついて出そうになるバカデカため息をもう一度飲み込み直したのであった。
・人の神ハスター
裏切られても裏切られても人間ラブ…
というより、愚かさも含めて愛そうと決めたタイプの旧支配者。
いっぱい酷いことされてきた。
洞窟で殺人犯にコナン君が撃たれた時キレてたのは、孤児の件の影響がかなり大きい。
逆に本人は何されても基本怒らない。
実は五人の孤児のうち一人は救助が間に合って生きてた。
その子供は「もうおうち帰る!」状態になった号泣ハスターを必死に説得。
「俺がみんな幸せに暮らせる場所を作るから!」と言って神を地球に引き留めた。
それが後の古代ハイパーボリアであり、その王家の始祖である。
「俺が王様になったら、一緒にいい国を作ろう」と言ってくれたので。
子々孫々、ハスターは彼らを見守った。
全てが平等な国で唯一、王族という特別を作って、彼の理想を守るべく奮闘した。
結局、全て海の藻屑となったが。
ハイパーボリア崩壊後のハスターはほぼ発狂状態で引きこもってたら3億年近く経ってた、というのが正しい感じ。
旧神達が迷惑そうに退去願い出してたというのも間違いではないけど。
・ニャルラトホテプ
相棒の羽虫趣味が極まり過ぎて定期的に真顔。
ハイパーボリア崩壊後は何度黒きハリ湖を尋ねてもハスターはぼんやりしてるだけで、流石のニャルも真面目に心配してた。
やっぱあんな害虫は夫くんのためにならない!羽虫なんて滅ぼさなきゃ…(決意)
ここ五千年ほどでようやく元気出てきたようで安心してる模様。
・黄色の印の兄弟弾の階級
主に階級は二つ。
魔術の実力を示す「エイボン君」と、教団内権力を示す「都市君」。
その中でも「都市君」はさらに二種類ある。
米国本部の階級でありハイパーボリアの首都を意味する「コモリオム君」。
その他支部の階級で移転後新首都を意味する「ウズルダオルム君」である。
ややこしいため、都市君は現当主を1位階としている。
多分二度と出てこない設定。
今回の米国本部からの使者は全てコモリオム君3位階以上で構成されるお偉いさんの群れだったり。