赤井さん&明美さんとまったりお酒を飲みながら工藤邸で雑談なり。
いい酒が入ったから一緒に飲もう、と珍しくお誘いがあったのだ。
何やら古いウイスキーとのことで。
これ一本で小さめの豪邸が建つ逸品らしい。
流石にそんなの貰えないと遠慮したが、それを赤井さんは一笑に伏した。
「どうせジェイムズを通じてステイツから下げ渡されたタダ酒だ。楽しんで飲まないと損だぞ?」とのこと。
交渉用の香りがプンプンとするが、交渉人が赤井さんであるためただの酒盛りになってしまっているらしい。
人選を間違っている感が拭いきれない俺である。
でも偉いお爺さんとかと酒盛りは俺も味がろくに分からなくなって嫌なので、これはこれでアリではあるのだろう。
せめてと作ってきたハイパーボリアの伝統おつまみを手土産に工藤邸へと向かう。
俺を迎えてくれた赤井さんは「珍しいつまみだな」と興味ありげな顔をした。
甘エビと昆布を魚醤で和えて魔術で発酵させた、ハイパーボリアの家庭の味だ。
明美さんも入れて二人に味見してもらうと、非常に好評だった。
ハイパーボリアでは魔術での安全な瞬間発酵が可能だから、ご家庭でも発酵食品が盛んに作られていたんだよな。
オリジナル変な発酵食品が結構外食店でも出てたし。
工藤邸の居間で、まったりとグラスに酒を注いでいく。
いい酒とは聞いているが、俺には酔うという機能はないし酒の無駄遣い感は否定しきれない。
甘エビを口に放り込んだ赤井さんが、上機嫌で酒のグラスを揺らしながら口を開いた。
「詳しくは知らんが、何かステイツが派手にやらかしたらしいな。CIAが今阿鼻叫喚だと聞いている」
「あー、まあ俺は気にしてないよ。この手のことって割とよくあるし」
「君は本当に気が長いな。一発ぶち込んでもバチは当たらんだろうに」
「赤井さん、赤井さん今米国側ポジだということを忘れずに」
揶揄うように言われ、俺もモゴモゴと文句を漏らすしかない。
仕方ないので視線をうろうろと彷徨わせれば、腕に俺の作ったブレスレットをつけているのが見えた。
コナン君を通じて受け取ってくれたのだろう。
嬉しい限りである。
まったりと最近の禁煙状況やら哀ちゃんからの嫌われ具合だとかを話していると。
ドアが控えめにノックされた。
外から「秀ちゃん達、お昼ご飯作ったから食べる?」と声ががかった。
どうやら有希子さんが帰国する日と被っていたらしい。
俺もありがたくご相伴預からしてもらうこととする。
笑顔満面の有希子さんが持ってきたのは、美味しそうな豚ヒレ角煮丼だった。
ほろほろの柔らかそうな角煮が胃を誘惑してきて、思わず唾液が滲み出る。
有希子さんに感謝を述べて頭を下げ、やはり角煮もいいな、などと俺は思案した。
「それにしても、ハスちゃんもすっかり美人さんになっちゃって。ドラマ、私も見たわよ!ちょっと嫉妬するぐらいいい出来だったわ!」
「有希子さんのご指導のおかげですよ」
「まあ、ハスちゃんったら!」
嬉しそうにしてくれるが、嘘偽りなく指導の影響は大きかった。
表情筋の使い方とか教えてくれて、割とガチでAPPが上がったからな。
有希子さんは「いつか優作が二人で話したいって言ってたから、その時はよろしくね!」と言って部屋を後にしていった。
優作さん、これまたINTの鬼なので俺としてはちょっと肩身が狭いんだよな。
はふはふと美味しい豚ヒレ角煮を味わい、俺たちはしばし美味に集中した。
赤井さんは甘エビをハイペースで消費していて、かなり気に入ってくれたようだ。
明美さんも「コレとっても美味しいわね!作り方とか教えてもらえたりするかしら」と聞いてきてくれた。
俺はせっかくなのでレシピのメモとともに、醗酵魔術を込めた菜箸をプレゼントしておいた。
材料を入れた容器を菜箸で軽く叩くだけで発動。
次の瞬間には美味しい発酵甘エビが出来上がるという寸法である。
赤井さんがブレスレットをやや撫でながら、もごもごと豚角煮を飲み込んで声をかけてくる。
「そういえば、もしよければこれを追加でいくつか見繕ってもらえないか?できればで構わないんだが」
「いいけど、誰か渡したい相手がいるのか?一応ジョディさんには渡してあるけど」
「家族だ。弟と妹と、母が居てね。弟はちょうど今、それだ」
後ろにある大画面のテレビを指し示す。
つけっぱなしのニュースは、先ほどまで逃走した麻薬密輸犯の話題から切り替わり、「あの太閤名人が防衛戦に挑む!」と大見出しが出ていた。
「あ、羽田名人だ。俺も知り合いだけど」
「高校卒業ごろに羽田家に引き取られた俺の弟だ。旧姓は世良という」
「羽田名人ってば赤井さんの弟かよ!?というか赤井ですらない!」
「赤井は父の苗字でね。妹はしばらく会ってないが、最近日本で見たな。女子高生探偵をやってるらしい」
「気付けば周囲を赤井家で包囲されてる現象なに。というか一家揃って頭良すぎか?」
道理でなんか見覚えがあると思ったよ。よく見たら目元がそっくりだ。
というか家族揃って高INTすぎないか。
加えて。
つい最近俺はその妹さんの下半身を肉塊に変えてしまったわけだが。
「………」
「どうした?」
俺は黙って追加の甘エビを投入し、赤井さんの方へと静かに差し出した。
二人のブレスレットに加護を増設して注入しておくのも忘れない。
多分卑屈な顔になってたと思うが、赤井さんは突っ込まずひとまず酒を楽しむことに専念したようだった。
無くなった豚角煮を名残惜しそうに見つめて、甘エビと酒を流し込むことに没頭している。
というか飲み過ぎである。
もう半分近く高級酒が赤井さんの胃の中に消えている。
ついに明美さんに「大君、禁酒」と一言言われて赤井さんは酒を取り上げられた。
赤井さんは露骨に覇気が無くなった。
そしてもそもそと甘エビを食べながら、眉を下げて俺を見た。
「そういえば今朝早く、FBIの方でカルコサ新党の日本の拠点らしき場所を見つけんだ」
「マジか!降谷さん達があんなに頑張っても見つけられなかったのに!」
カルコサ新党は警官が直接狙われた事件でもあり、公安が心血を注いでその行方を追っていた。
にも関わらず、今まで長期に渡りずっと影も形も見つけられていなかった。
出国した形跡はなかった、と降谷さんは言っていたはずだ。
公安信者さんが探索魔術を使っても───本人曰く補助系魔術は苦手らしいが───見つけられなかったのだし、一体どこに隠れていたのやら。
「黄色の印の兄弟団米国本部の関係者が匿っていたらしくてな。なんでもドリームランド?とかいう場所に居を構えていたと聞いている」
「うおぉ……」
どうやら答えは「夢の世界に隠れていた」ということらしい。
肉体は置いていくしかないと思うのだが、その本国の関係者とやらが肉体のみ魔術的に保管していたのだろう。
でもこれでまた兄弟団本部のお偉いお爺さんが土下座しに来るのかと思うと気が重い。
ともかく、降谷さんにはすぐに伝えておかねばなるまい。
内容をメールにして送信しておく。
その後はしばらく取り留めもない雑談をした後、赤井さんと明美さんに別れを告げた。
別れ際に赤井さんのスマホにめちゃくちゃ鬼電されていたから、たぶん死ぬほど不快になった降谷さんが電話をかけていたのだろう。
降谷さんも赤井さんが絡むと急に小物になる癖直せばいいのに。
急に下町のチンピラになるからな。
見ている分には面白いのだけれど。
そのようにして帰宅すると。
事務所では、コナン君と、見知らぬ小柄な白髪のおじさんがソファに座っていた。
学校から帰ったコナン君が来客対応してくれていたらしい。
湯気の立つ暖かいお茶が出ていて、まだこの客が来たばかりだということを示していた。
白髪のおじさんは帰ってきた俺を一目見た、その瞬間。
ダバダバと涙を流して崩れ落ちた。
「えっ!?!?どちら様ですか!?というか国民の人!?」
「────永く、永くこの日を待ち侘びておりました……!」
白髪おじさんが腕にしているのは全生活オーガナイザーに間違いない。
ハイパーボリア崩壊後のハスターの瞳再建に合わせて大幅に作り替えられており、殆どの機能が当時のまま生きているようだ。
型式はハイパーボリア滅亡直前のものに見える。
本人が作り直したのなら、かなりのエンジニアだということが察せられる。
「……所詮、祖国崩壊後の原野を這っていた猿どもの戯言と思い、今まで信じておりませんでした。まさか御身が本当にお戻りになられていたなんて、ああ、ああ……!」
「あー、あー、とりあえず座ろう。話聞くから、ね、ね?」
しとどに泣く白髪おじさんをなんとか落ち着かせて、俺は詳しい話を聞くことにした。
この白髪のおじさんはハワード・ロックウッドという名前の資産家らしい。
本人曰く「祖国ではマモーと呼ばれておりました。そうお呼びください」とのこと。
まだ泣いていて、ハンカチで顔を拭ってはいるがだばだばだ。
コナン君は所在なさげにソファの端っこに座ったまま黙っている。
ハスターの瞳の古い国民登録領域を見てみれば、マモーという名前で登録されたのは3億年ほど前だった。
やはり滅亡期と一致している。
ということは、素直に考えたら三億年前のハイパーボリア滅亡時の生き残り、ということになるのだろうが……。
普通、人間はそんなに生きられない。
魔術的に過去の自分を持ってくるなどもしているようには見えないし。
多少魂と肉体の寿命を伸ばす血液を用いているようだが、その程度で3億年近い時は乗り越えられない。
どういうこっちゃねん、と俺は首を傾げたのだった。
・マモーさん
「ルパン三世 ルパンVS複製人間」のラスボスさん。
純粋なハイパーボリア人にして、世界の富の三分の一を支配する富豪。
偉大なる神の存在を忘れ原野を野蛮に駆け回ってた猿達を基本見下してる。
黄色の印の兄弟団は「やや弁えた猿」ぐらい。
クローン技術で自分を作り直しながら生きていた。
記憶や性格は引き継がれるが、魂は新しいものとなる。
ハイパーボリアの感性では「それは別人」判定であるし、本人もそれを深く気にしている。
・ジンニキ進捗
ネクロノミコンに記された、各地の遺跡を巡っている。
滅亡した古代王国から逃げ延びた民が作った、とされる遺跡が多い。
どの遺跡を巡っても等しく最奥の間は天井が開けられ、空が眺められるようになっている。
「空を見よ。そこに神はある」
「我々は見捨てられていない」
そう執拗に柱一面に刻まれた遺跡をくまなく探索していく。
燃え上がる三眼を持つ邪神が、壁画でケタケタと笑っている。
壁画の文字を写し取り、ジンはひとまずその場を後にした。