ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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緋色の弾丸〈大安売りお近づき〉

 

 オリンピックの季節がやってきた!

 

 正確にはWSG(ワールドスポーツゲームス)か。

 四年に一度世界で開催されるスポーツの祭典で、ほぼオリンピックと考えて間違いない。

 この世界での呼び名に慣れなくて、既に5回ほどオリンピックと呼んで周囲に訝しげな顔をされている俺である。

 

 一応「ハイパーボリアのスポーツ大会に慣れてて呼び間違えた」と誤魔化してはいるが。

 でも絶対東京オリンピックなんだよなぁ。輪っかのマークとか特に。

 

 本日は、WSG東京協賛企業壮行会にやってきている。

 俺たちはマモーさんの伝手でこの会場へと入った。

 

 日本に引っ越してきて早々、俺の探偵事務所に日参していたマモーさんだったが。

 WSG東京の特集を見ていた俺の「時速500kmで走るリニアだって、凄いね!」という言葉に音速で反応。

 リニアの試乗チケットと壮行会招待枠をその場で献上して来たのである。

 

 ちなみに、後日壮行会に誘おうとやってきた園子ちゃんはびっくりしていたらしい。

 「誰に誘われたのよ!?私の出来るお嬢様ポジションが奪われかけてる!」と憤慨しておられた。

 園子ちゃん的に譲れないポイントだったようだ。

 

 そしてその相手がマモーことハワード・ロックウッド氏だと聞くと撃沈。

 「か、勝てない…!」としおしおになってソファに突っ伏してしまった。

 

 蘭ちゃんが「しっかりして園子!気を確かに!」とか介抱しているのを含めて完全にコントであった。

 相変わらず面白いお嬢様であることよ。

 

 

 さて、当日。

 

 リニアの説明と偉い人の挨拶が行われるのを俺たちはぼんやり見ていた。

 マモー氏による参加者は俺、コナン君、諸伏さんの三人だ。

 

 マモー氏本人は不参加。

 引き継ぎが思ったより難航しているらしい。

 というか東京のWSGなのに協賛企業に入っているのはなぜ…。

 

 ちなみに、諸伏さんのことを見るなり、マモーさんは「短命な猿も優秀だと死後神の側仕えを許されるのですね…」としんみりしていた。

 割と失礼なハイパーボリア人である。

 あと君いつメンみたいな顔して事務所に入り浸るじゃんけ。

 

 俺たちはちょっと小洒落たフォーマルな姿に身を包み───全員マモー氏コーディネートである───、舞台上で行われる解説に耳を傾ける。

 

 今回の代表は国際WSG協会会長のアラン・マッケンジーであった。

 現米国司法長官で、大統領顧問団のうちの一人だ。

 

 赤井さんによると、マッケンジー氏は次期大統領とも目されていたが。

 最近になって黄色の印の兄弟団系である副大統領(繰り上がりで現大統領)が躍進。

 次の大統領選は大荒れになると予想されているのだとか。

 

 マッケンジー氏の挨拶と共に、今回の目玉であるリニアの説明が行われている。

 時速千キロで走る真空超伝導リニアは、今後の名古屋─東京間を繋ぐ大動脈になると予想されている。

 

 園子ちゃんに誘われて来た少年探偵団の子供達は、その説明に盛り上がって園子ちゃんに追い払われている。

 

「うわーっすっげー!俺たちも乗ろうぜ!」

「園子お姉さん!!歩美乗りたい!」

「良いですねぇー!」

「そんな簡単に手に入ったら苦労しないわよ。散った散った!」

 

 なお、俺とコナン君は財界政界エトセトラから券を献上されかけて飽和状態だ。

 

 意外にもそうした品は黄色の印の兄弟団からは献上されてこない。

 どうも彼らは「こうした世俗の場に神を招くのは無礼」と考えているらしい。

 

 俺イベントごと好きなのに。

 いやこれ以上イベント増えたら流石の俺も忙しすぎて爆死するけども。

 

 ともあれ、そろそろ食事の時間だ。

 

 ホテルの豪華なビュッフェが並び、俺はワクワクで皿を取った。

 一品ずつ運ばれてくる高級料理も美味しいには違いないが。

 こういう、ずらりと並んだ美味しいものから好きなだけ取って食べることでしか味わえない喜びってあるよね。

 

 お、うなぎの蒲焼がある。

 元太君をちょいちょいと手で呼び寄せよう…

と思う前にすっ飛んできて真剣な表情で盛り始めた。

 INTが急に5ぐらい上がった顔だ。

 俺がうなぎ名店に連れてった時もそうだったが、真剣すぎて笑うんだよな。

 

 今回俺の護衛として参加した諸伏さんは、ややげっそりした様子ながら真剣に会場へと警戒を張っている。

 俺が諸伏さんの分の料理を取ると、やや笑って受け取ってくれた。

 

『もうまともな飯いつ以来だろう…ちょっと楽になったかな、と思った瞬間また激務がやってくる…』

「お疲れ諸伏さん。あんま無理すんなよ」

『この激務の理由は黄衣だってゼロに聞いた』

「落ち着け俺は無実だ。というか告げ口とかあのニャル化身卑怯なり!」

 

 などとまったりしていたら、背後から話しかけられた。

 

「これはこれは。いつも娘がお世話になっております」

「!鈴木会長、お久しぶりです。こちらこそ、娘さんにはいつも良くしていただいております」

 

 鈴木財閥会長である鈴木史郎さんだ。

 一度キッド案件の会場で少し話したことがあるが、穏やかな良い人だ。

 

 鈴木会長は複数の大企業の偉い人と思しき方達と共にやって来て、俺たちのグループに合流した。

 少し他のグループからは恐れられているようで、遠巻きに見られている。

 クラスの一軍的な奇妙な雰囲気だ。

 

 え、企業壮行会なのにそんな権力関係出るものなんだ…とちょっと怖くなるなど。

 

 しかし、鈴木会長以外の一軍メンバーは、どうにも俺に対して少しばかり恐縮しがちであるらしい。

 ペコペコとやや距離をとってむにゃむにゃと何事か唱えて手を合わせている。

 

 最近これやられること増えたんだがどういう流行だ…?

 

 と思いつつ、形だけでも祈られたわけだし、いつも通りいい感じの返礼を授けておく。

 治療だけだと何が何だか分からんと思うし、軽い光と音も追加しておく。

 

 こういうのは演出が大事だって昔神官さんに聞いた気がするので。

 

「お初にお目にかかります。探偵の黄衣ハスタです。お近づきに病気平癒と健康長寿をどうぞ」

「こ、これはこれは…ご厚意誠にありがとうございます…!」

 

 具体的な病名は個人情報だと思うので伏せておく。

 しかし全員高齢で慢性疾患もあったようだ。

 治療してから、できる限り体の各部位を正常な状態に近づけておく。

 

 一人は肘の腱を痛めていたので、そちらも治癒。

 たぶんゴルフが好きっぽいので、再発しないよう腱を補強しておいた。

 

 もう一人は血圧めちゃ高だった。

 そちらは治療後こっそり「治療してありますので急ぎ病院へかかってください。降圧剤は飲まないように」と注意しておく。

 念のため誤って服薬しても問題ないように軽い仕掛けもしておいて。

 

 最後の一人はまだ大きくない肺がん治療中だった。

 というか原因はタバコだろう。がんを抜いたとして、肺はすでに真っ黒でボロボロだった。

 転移はしていないようなので、肺ごと軽くサラッと治療して、こちらも注意を添えておく。

 

 皆訳が分からないらしく、目を白黒させてさせていた。

 

 これらは皆ハイパーボリアでは一瞬で治ったはずの苦しみだ。

 それがこうして人を蝕んでいるのは、俺としても前々から若干気になっていた。

 

 有名総合商社の社長さんらしい人が、右腕を奇妙な動作で数度折り曲げて、歓声を上げた。

 

「お、おお!本当に肘が痛くない!いやぁ、ここのところコレのせいでゴルフができなくて困っておったんですよ!」

「念のため腱を補強しておきましたが、お大事になさってくださいね」

「いやはや、政府からは聞いておりましたが、神通力がここまでとは!半信半疑でしたが…あなたがいらっしゃれば日本も安泰ですなぁ!」

「聞いていた?」

 

 聞き返すと、肺がんのヘビースモーカーさん──半導体関連企業CEOだ───が頷いた。

 

「貴方の正体が人ならざるものだという話ですよ。強大な神…怪異であると、そう聞き及んでおります」

「間違っては、いないですね。そんな凄いかどうかは置いておいて」

「ははは。人の病をたちどころに治すとしたら、それはもはや聖書に謳われる神の子そのものでしょう。プラシーボ効果だとして、肺が妙に軽いですし」

「う、うーん」

 

 なんでも、政財界向けに公安から怪異の研修で軽い説明があったらしい。

で軽い説明があったらしい。

 俺即ち黄衣ハスタがシンガポールの怪異の正体であること。

 そして扱いには最大の注意を払うことが、だ。

 

 これはまったく困ったことだ。

 だから俺にナムナムする人が多かったのか。

 

 俺としてはお近づきを兼ねて祈られた返礼をしている以外の意味はないが。

 遠巻きにコナン君が俺のことを心配そうに見ている。

 また俺がトチらないかハラハラしているようだ。

 

 信用のないことであるが、それもまたやむなし的な俺のやらかし具合だからな……。

 

 なお、元太君は「すべての生命に感謝」みたいな顔でうなぎの蒲焼を無心に食べて歩美ちゃんと光彦君に不思議がられている。

 また美味しい鰻屋に連れてってやろうと思うなど。

 

 そしてその間にも俺の周りではすごく俺を持ち上げてくれるお偉い様3名。

 明らかに困ってる俺を見かねて、鈴木会長が「まあまあ。黄衣さんも困っておられることですし」ととりなしてくれた。

 

 うーむ、前途多難なことよ。

 

 

 さて。その瞬間のことだ。

 

 会場の照明がバチリと唐突に消え去ったのは。

 





・病気治癒のお三方
その後すぐに病院で検査してもらって、治癒が間違いなく本当だと知ることに。
特に肺がん治療中のCEOは有名病院の先生に「なんか僕に黙って肺を入れ替えたりした?」とか言われた模様。
高血圧ニキは数値が良くなったので元気に塩分過多丼を食べ出し、家内に叱られたらしい。
ゴルフ肘さんは当日夕方にニコニコして爽やかに打ちっぱなしに行った。
人の業である。
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