ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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工藤夫妻、来襲

 

 大阪で一仕事終えて、俺たちは無事東都へと戻ってきていた。

 

 朝1番に帰ってきたので、まだ時刻は10時半だ。

 今はコナン君は書類作成にかかりきりで、それを諸伏さんがダブルチェックしているという状況である。

 

 報告書に関しては、事件詳細が分かっているコナン君が作るのが一番早いからな。

 形式を守りつつ万人に分かりやすく推理をまとめていく手腕は流石の一言。

 諸伏さんも「これで高校生とは末恐ろしいな」とコメントを残していた。

 ニヨニヨと照れるコナン君を添えて。

 

 対して、俺の方は今後のスケジュール確認とそのほか細々とした事務処理だ。

 クライアント対応は俺の方で全て済ませているので、時間はいくらあっても足りやしない。

 

 なお、経理については習得している人員がいないため外部に委託している。

 

 信者さんに「経理を頼めるような人材っていたりする?」と電話したところ、感極まって泣き出した上で音速で手配してくれた。

 紹介された経理代行さんは今のところ宗教色もなく、信用のおける仕事をしてくれている。

 

 と、この辺りで作業がひと段落ついた。

 喉が渇いて来たので、立ち上がりつつ作業中の二人に声をかけた。

 

「おーい、とりあえず紅茶を淹れるけどいる?」

「んー」

『あっ、俺の分砂糖とミルク入れて!』

 

 生返事のコナン君の隣で、諸伏さんがすかさず返事をする。

 早く紅茶を飲みたかった俺はこっそりヤカンに入った水を魔術で湯に変換。

 そのまま3人分の紅茶を淹れて、PCに向かったままのコナン君達のために机に置いた。

 

 ついでに事務所のTVをつけると、ちょうどチャンネルは中東の遺跡群で起こった大規模テロについて特集をしていた。

 

 そこは観光名所でもあったらしく、各国から来ていた観光客に被害が出たそうだ。

 大使館からは日本人の被害はなかったという旨の報道が出ていた。

 

『「黄色の印の兄弟団」関連組織、「カルコサ新党」の襲撃により、少なくとも153人の死者・負傷者が確認されています。

 カルコサ新党は「神が日本に降臨なされた。我々は降臨の聖地へ赴く」と動画投稿サイトを通じて声明を発表。

 現在政府は対応を協議しています』

 

 そこまで聞いてチャンネルを変えようとリモコンを取ったが、「そのままで」と口を挟んだコナン君によって止められてしまった。

 居心地の悪い沈黙が満ちる。

 

 コナン君が書類から目を離さないまま、静かに問いかけてきた。

 

「兄弟団から逃げてきたんですよね、黄衣さんは」

「………まあ、大体そうだね」

 

 地球に来るにあたり、黄色の印の兄弟団を頼るのが一番手っ取り早い方法だった。

 それをわざわざ逃げ隠れるように地球に顕現したのは、率直に言えばグロい儀式に巻き込まれたくなかったからだ。

 

 どう考えても非ユークリッド幾何学なR-18Gの宴───あちらとしては精一杯の歓迎の証だとする───とかに招待される可能性が高かったからな。

 

「カルコサ新党の言う『神』は黄衣さんのこと?」

「……うん……ソウダネ……」

 

 俺の同意にコナン君は眉間に皺を寄せた。

 

「公的機関に助けを求めることはできなかったんですか?」

「いや、あらゆる意味で無理だろ。相手は魔術師集団だし、俺は地球上探しても戸籍とか住民票とか無い不審人物だし」

「………そっか」

 

 長い沈黙の後、コナン君は悲痛そうに一言言葉を落とすのみだった。

 

 なんとなく申し訳なくなって、俺の方も返事に窮してしまう。

 コナン君のことだから色々俺の身の上を推理しているんだろうが、実態は触手の怪物が人間に化けてるだけだからなぁ。

 

 加えて、逃避行だって万が一追手に捕まったところで直接的武力行使に出るんだったら俺が自分で薙ぎ払える。

 公的機関に頼るより俺がちょいと力を使ったほうが100倍早いのだ。

 

 一人で静かに、一般人のように素朴に平和に暮らすならこれがベストとはいえ。

 騙しているようで罪悪感が胸をざらりと撫ぜている。

 

 コナン君が暗い空気を誤魔化すようにやや声のトーンを上げて口を開いた。

 

「けど、このカルコサ新党の報道からして、黄衣さんが日本にいるってバレたんですよね。何処から情報がバレたんだ…?」

『たしかに。黄衣がよっぽど上手くやって、日本への渡航履歴が今までバレてなかったってことか?』

 

 二人して首を傾げるので、びくり、と肩を跳ねさせてしまう。

 

 まず前提として、信者さんには「俺と会って話したことは他言無用で」と念を押している。

 あの様子なら、例え親や子供相手であってもハスターのハの字も漏らさないことだろう。

 

 とするなら、あとは絶対先日の旧支配者ハスター顕現未遂事件が原因だ。

 あんなに派手に身体を晒してしまったのだから、優秀な魔術師ならそれを察知できて不自然ではない。

 

 露骨に動揺した俺を、探偵二人は見落とさななかった。

 ジトっとした視線が集中する。

 

「………この間、新幹線でちょっと俺が失敗しただろ?」

「ああ、あの化け物。すぐ消えたので魔術で出した幻とかだと思いますけど。それがどう関係してくるんです?」

「あーー、んーー、やっぱノーコメントで」

 

 俺の本来の姿です、とはやっぱり口が裂けても言えなかった。

 

 今の姿は触手の先っぽの先っぽをほんのちょっとだけ出して、人の形に変化させているに過ぎない。

 ほぼパペット人形というべきか。

 

 俺の誤魔化しに二人が口を開こうとした、その時。

 コンコン、と事務所のドアが控えめにノックされた。

 

 どうやら来客のようだ。

 

 来客対応は基本俺が行っている。

 最近新調した黄色のワイシャツにグレーのスーツをパパッと手で払って整えてから、入り口に向かう。

 

 はてさて。

 開いたドアの先にいたのは、ピッシリとした格好をした、身なりの良いふくよかな女性であった。

 

「ようこそお越しくださいました、こちらへどうぞ。ご依頼でしょうか?」

「ええ。ほほほ。失礼いたしますわ」

 

 部屋の中央にある上質なソファとガラステーブルへと案内する。

 これはどちらも信者さんからの貢物で、値段は怖いので確認していない。

 ガチ金持ちの家庭に育ったコナン君が「うわぁ…!」とドン引いていたので、恐らくとんでもない超高級ブランドだろう。

 

 ソファに座った女性はほほほ、と上品に笑って名刺を俺へと差し出した。

 

「わたくし、江戸川文代と申します。そちらで預かっていただいているコナンちゃんの母親ですわ」

「おお、どうりで似ていらっしゃる」

 

 よく見れば魂の形質がそっくりだ。

 「ハスターの瞳」が数値化したAPP(見た目)もすごく高い。

 うん……?

 変だな、外見から予想されるAPPに比べて不自然に数値が高い。

 いや江戸川さんがブスだって言ってるわけじゃ無いけどさ。

 

 と、そこまで考えたところで、突然ゲシっとコナン君にふくらはぎを思い切り蹴っ飛ばされた。

 何故に!?

 

「いだっ!?何だよコナン君!?」

「江戸川コナンに!!!母親はいない!!!」

「………?…………!!!」

 

 コナン君の横で諸伏さんも高速でうんうん頷いて警戒をあらわにしている。

 そりゃそうだ。

 江戸川コナンは工藤新一が幼児化してる仮の姿なんだから、母親なんて出現するわけがない。

 

 俺たちが警戒しているのがわかったのか、ふくよかな女性はニヤリと笑って静かに口角を上げた。

 

「あら、やっぱり事情は全部聞いていて、その上で匿ってるのね」

「何が目的だ!」

 

 コナン君がドスの利いた鋭い声を出す。

 俺も半身を引いて警戒した。

 

 まさかニャル野郎か?

 いや、見た感じ人間っぽいが……。

 でもあの野郎人間に化けるの上手いからな、万が一野郎だったら一発本気でぶん殴ってから全力で逃げるしかない。

 

 そのように高速で思考を巡らせていると、女性がゆっくりと立ち上がる。

 

「そんなの決まってるじゃない───」

 

 女は俺たちを睥睨して、顔に手を翳した。

 

「息子が、心配で見にきたのよ!」

 

 瞬間、バリッと顔の皮を剥いで投げ捨てた!

 

 !?!?!?

 ウワーッ!!!皮膚の兄弟団の魔術!?!?

 と、思ったが魔術が発動した時特有の気配が無い。

 ペラペラの顔の皮のようなものが事務所の床に落ちる。

 いや、この人皮のようなものはよく見ればゴム製のマスクのようだ。

 え、何これ!?!?!?

 

 隣で目を剥いてる諸伏さんも「これはベルモットの…!」とかって漏らしている。

 

 そうして顕になった女の素顔を見て、コナン君が驚きの声を上げた。

 

「か、母さん!?」

「もー!新ちゃんったら連絡一つ寄越さないんだから!薄情すぎると思わない?変装の反応も無難でつまんなかったし!」

 

 長い亜麻色の髪の美人さんは、困ったように眉間に皺を寄せて背後にある入り口へと振り返る。

 それに応えるように、ドアが第三者によってゆっくりと開かれた。

 

 入ってきたのは、40歳前後の落ち着いた様子の男性だった。

 

「だから言っただろう、黄衣ハスタという人物は新一の事情を分かった上で匿ってる可能性が高いと」

「でもぉー」

 

 コナン君が歳をとったらこうなる、と言ったような姿は血筋をまざまざと感じさせる。

 とすると、この人たちこそが恐らく工藤有希子さんに、工藤優作さんのお二人なのだろう。

 先ほどAPPにズレを感じたのは、どうやらこの不可思議な変装で外見が変えられていたかららしい。

 

 俺は数秒考え、咳払いをしてからとりあえずコナン君に詰め寄った。

 

「ってか連絡入れてなかったのコナン君!?初日に親に連絡入れるって言ってたよね!!そのために一度帰ったよね!!」

「え、えへ…隣んちの博士に連絡したからいいかなって」

「良いわけあるか!?隣んちって他人じゃん!俺が未成年者略取になっちまうだろうが!!」

「僕小学生だから分かんない……」

 

 てへぺろ、とコナン君が明後日の方向を向く。

 

 俺はこの邪智暴虐な小学生を除かねばならぬと決意した。

 そりゃ親も事務所に乗り込んでくるはずだよ!

 俺も直接コナン君の親へ連絡するのを怠っていたのは明確な義務違反だけども!

 

 俺はコナン君と目の前のご両親を見た後、素早くガバリと頭を下げた。

 初手土下座しかねぇ!!!

 

「す、すみませんでした!!ご子息を預かっておきながら連絡もできず…申し訳ありません!!」

「いやいや、構わないとも。私たちに連絡をしなかったのは新一の判断だ。君も組織に狙われている身だ。そう軽々に私たちに連絡をするのも憚られたのもわかる」

 

「それに、新一の我儘を聞いて探偵事務所まで設立して、探偵役として矢面に立ってくれていたんだろう?」と優作さんか優しく微笑む。

 菩薩かよぉ…すまん……。

 

 実際にはなりゆき9割だし、深く考えての行動ではなかったけれども。

 しかし、俺を詰めるつもりでの来訪でなければ何のために来たんだ?

 息子の様子を見に来るだけなら、この探偵事務所を介さず外部でコナン君とだけ会った方が安全だろうし。

 

 俺の疑問を汲み取ったのか、優作さんが真っ直ぐに俺と視線を合わせた。

 

「今日は君に警告に来たんだ」

 

 優作さんはそっと囁くように言葉を落とす。

 誰にも聞かれないように、慎重に情報を伝えるかのような用心深さで。

 

「君たちの追っている組織が動き出した。ここ数日で、君の命が本格的に狙われるだろう」

「!」

「対抗するなら公安に手こずっている今しかない」

 

 優作さんは明言はしなかったものの、「今すぐ黄色の印の兄弟団の力を借りたほうがいい」と伝えたいのだと痛いほど伝わった。

 

「……ご忠告、ありがとうございます。ご子息の無事は必ず守ります」

「君も気をつけることだ。…それで、私たちはこのあたりで失礼するよ」

 

 そう言うと、有希子さんが「えー、もう帰るの?せっかく新ちゃんに会えたのに!」と頬を膨らませた。

 この短い間にコナン君をもみくちゃにしたらしく、コナン君がげっそりした顔でされるがままになっている。

 

 優作さんが眉を下げて微笑ましそうな顔をした。

 

「ここに長居すればお互い危険だろう。意味のない勘ぐりをされる可能性がある」

「はぁ……新ちゃん、寂しくなったら電話してね!」

 

 それだけ言って、二人は変装を直した後嵐のように去っていった。

 コナン君が何かいいたげに黙ったまま赤面している。

 いいご両親じゃないか。

 

 いつもならそんなコナン君を揶揄うだろう諸伏さんも、何か思うところがあるのか瞳を閉じて静かに思いを巡らせているようだった。

 諸伏さんの家庭事情は分からないが、立ち入るべきではないだろう。

 

 

 しかし、ここ数日か。

 俺の命を本格的に黒づくめの奴らが狙ってくるというなら、何か対応を講じねばならない。

 

 「どうします?」とコナン君が俺を心配そうに見上げてくる。

 その瞳には俺への気遣いと真摯さが溢れていて、やや恥ずかしさが先行してしまう。

 

「んー、とはいえ、目下の悩みはコナン君の方かな」

「俺?」

 

 コナン君はキョトンとした様子を見せた。

 いや旧支配者に死ぬとか言う概念はないから、実際このメンツで死ぬとしたら巻き添えくらったコナン君ぐらいのものなのだ。

 

「いや、諸伏さんはこれ以上死にようがないし、俺は魔術でどうとでもなるからな。命を狙われて一番困るのコナン君なんだよ」

『それはそうだな。俺はこの通り幽霊だし、少年が一番危険だ』

「うっ……どうすっかな。俺こんなナリじゃ博士のメカを使っても限界があるし」

 

 んー、と困ったように悩む姿に、俺は冷静に思考を巡らせた。

 

 コナン君の「組織を自分の力で追いたい」という希望と生存を両立するなら、兄弟団に頼るのが一番確実なのは間違いない。

 黄色の印の兄弟団は、あらゆる領域に根を張る巨大組織だ。

 こんなところでチマチマ探偵をやるより、コナン君も早く元の姿に戻れるし。

 

 多少は俺も拝まれるだろうが、そんなのいつものことだと割り切ればいい。

 

 と、そこまで考えたところでとすっ、と俺の足に軽い蹴りが入った。

 ふと見下ろせば、コナン君が真剣な顔で俺を睨んでいた。

 

「自分の身は自分で守る。黄衣さんは自分の心配だけしててくれ」

 

 真摯な心配だ。俺に辛い選択はさせまいとする気遣いに満ちている。

 

 俺はふっと笑って、袖机の中にしまってあった青いブレスレットを取り出してコナン君へと手渡した。

 ブレスレットはどこまでも続く夏の青空のような色合いで、吸い込まれそうな神秘的美しさを持っている。

 

「これ、持っててくれよな。肌身離さず、寝てる時も風呂入ってる時も。何があっても身につけてるんだ」

「……分かった」

 

 前からコツコツ設計して作っていたものだ。

 この若い名探偵を絶対に死なせはしない。

 

 そのように決意して、俺は「紅茶、冷めるからそろそろ飲もうか」と彼らに笑いかけたのだった。

 

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