ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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緋色の弾丸〈終わったように見せかけて〉

 

 さて、今日は魔術師にして真犯人、白鳩舞子の捕縛である。

 彼女は15年前の事件の犯人の娘だ。

 

 十五年前の事件は、一般的にはWSGの商業化に反対するテロとされている。

 

 しかし十五年前の犯人の正体は魔術師であり、当時は黄色の印の兄弟団を動員しての大捕物だったと聞いている。

 となると、単なるテロかどうかはかなり怪しいと言わざるを得ないだろう。

 

 ともかく、今日確実に捕獲しなくては、さらなる被害が出かねない。

 

 ただでさえ「魔術で操られた人間の犯罪をどう裁くか」で揉めているというのに。

 逃げられて暴れられたら大事だ。

 

 すでに白鳩舞子が自宅にいることは確認済みである。

 

 白鳩の自宅周囲は俺が軽い加護を授けた警察官で包囲。

 俺は離れたパトカーの車内で白鳩の様子を監視している。

 

 突入は降谷さん一人で行われる。

 魔術に暴露する可能性のある人をできる限り減らして、かつ最大戦力を投入した形だ。

 普通降谷さんぐらいの立場の人なんて、現場には出ずに後方で指揮に専念しているはずなんだが。

 

 まあワンピース海軍理論ということで一つ。

 強さこそが地位の高さなのだよ。

 流石に現場の警察官は困惑してたけど。残る安牌は公安信者さんぐらいだし、消去法でね。

 

 ハスターの瞳で現場であるマンションの4階を確認すれば、降谷さんが部屋の前に立っていた。

 そしてチャイムを鳴らせば、すこししてから犯人である女性が現れる。

 その姿に変わった様子は見受けられない。

 

「はい、どちら様でしょうか…?」

「警察の者です。少しお話を伺ってもよろしいでしょうか」

「あら、この近くで何か事件でもあったのかしら。どうぞ、上がってください」

 

 警察手帳は見せたものの特に名乗らなかったのは、名前をトリガーにした魔術や呪詛を警戒してのことか。

 あの手の魔術って強力になれば偽名でも効くからな。

 

 己のテリトリーに誘い込もうとする犯人を前に、降谷さんは臆せず踏み込んだようだった。

 

 中は一般的な女性の一人暮らしの部屋、のように見えた。

 そう見えるだけで、あちこちが原始魔術的に整えられ、儀式場として成立している。

 

 一番簡単なのは間違って蹴っ飛ばしたとかで事故を装って儀式場を壊すことだが。

 これにはかなり深く広範な知識が必要だ。

 今後、苦手ではあるものの俺の方でも原始魔術対策講習を開くべきか。

 

 お茶を出そうとした犯人を断り、降谷さんは率直に切り出した。

 

「あなたには人に対する魔術使用と誘拐の疑いがかかっています」

「………魔術使用?あの、ゲームの話とかですか?一体何のことだか」

「大人しく同行していただければ幸いです」

 

 一度はとぼけて見せた犯人だったが、降谷さんに問答するつもりがないことが分かったのだろう。

 

 瞬間、醜悪に顔を歪めて笑みを見せた。

 

 インテリアに見せかけた魔術要素にMPが流れ込み、白鳩は金切り声のような叫び声をあげた。

 ビリビリとした衝撃を伴う声に、降谷さんが身構える。

 

 発動するのは魔術「セイレーンの歌声」だ。

 

 これは相手への洗脳を試みるもので、成功した場合、対象は自ら望んで術者に隷属するようになる。

 ようは一般で言うところの魅了の魔術だな。

 警官を複数連れていたら大変なことになっていたことだろう。

 

「誰が無能な警察なんぞについていくかよォ!アタシが誰だかわかってるわけ!?」

「…ッ!」

「まあでも、アンタ顔が良いから特別に飼ってあげても良いわよ!」

 

 勝ち誇ったような犯人の笑みは、しかしだんだんと困惑に、驚愕へと成り変わってゆく。

 

 「セイレーンの歌声」はPOW対抗(精神力の競い合い)で成否が判定される。

 降谷さんは元々人間としての高い精神力を持っていたが、ニャルラトホテプの化身となったことで、極めて高いPOWへと至っている。

 

 つまり、この魔術を降谷さんに通すんならPOWの怪物にでもならない限り無理ということだ。

 

 当然魔術は不成立。

 弾かれて無駄に終わった魔術が空気中に霧散し、独特な臭気が漂う。

 失敗するとは思ってなかった犯人が「え、え?」と動揺に声を漏らしている。

 

 POW対抗なんだから当然場合によっては失敗して当然なんだがなぁ。

 魔術師としての経験が浅くて、弾かれると言う事例をよくわかっていなかったのだろう。

 

 降谷さんがゆるゆると立ち上がり、白鳩を見下ろした。

 甘い顔立ちでニコリと優しげに微笑んで、口角を釣り上げる。

 

 ニャルラトホテプの化身は自らをコケにした魔術師を誅すべく、その三眼を妖しく見開いたようだった。

 

 化身であることを差し引いても、降谷さん自身も大概プライドが高い。

 ここまで人間にバカにされるのは久しぶりだったろう。

 かなりお怒りの様子である。

 

「───良い度胸だ。野犬をペットにするつもりなら、噛みつかれる覚悟ぐらいできてるんだろう?」

「え……な、く、来るな!カスが私に近付くな!」

 

 机を踏み越えて近づく降谷さんに、犯人は挙動不審になった。

 というかニャル化身が野犬って、それは己を可愛く見積りすぎである。

 最近ニャルにまた「増築」されたようだし、規模は増す一方なのだし。

 

 犯人は敵に近づかれたと言うのに、咄嗟に反撃用の攻性魔術も打てないらしい。

 手近にあった灰皿を持って構えるなどしている。

 

 本当に素人に毛が生えたみたいな魔術師のようだ。

 マインドブラストぐらい撃てても損はしないはずなのに。

 というか灰皿ってお前。

 そんな火力でニャルの化身に挑むのは流石に一周回って英雄だろう。

 

 至近距離でゆっくりと体を解いた降谷さんは、人型の嵐の如きその姿を露わにした。

 

 黒い風の完全顕現である。

 このマンションを中心に空がにわかに黒々とした雲に覆われ、ざあざあと陰鬱な雨が降り出す。

 

 一応黒い雨でも病原性でもないようだ。

 地道に制御系を鍛えたのだろう。降谷さんも努力家なところあるよなと思うなど。

 

 降谷さんは蟲のざわめくようなキチキチとした声色で、犯人・白鳩舞子へと凄んだ。

 

【身の程を弁えろ、犯罪者風情が】

 

 吹き荒れる黒い風の中、外なる神の燃え上がる三眼がぼうと赤く灯っている。

 

 それはおそらく、人の矮小な魂に打撃を与えるのに十分な衝撃だった。

 

 女性は絶叫し、自らの頭を灰皿で殴打しようと腕を振り上げた。

 狂気に囚われた人間の典型的な動作だ。

 自死されては詳しい話が聞けなくなってしまうので、まぁここは制止するしかあるまいよ。

 

 狂気に囚われた犯人は素早く拘束され、そのまま気絶させられたのだった。

 

 

 元の姿に戻り、女性を俵抱きにして降谷さんが外へと出てくる。

 

 外はまだざあざあと雨模様だ。

 降谷さん単体で雨降らし要員でもあるんだよなぁ、と俺はぼんやりどうでも良いことを考えた。

 渇水時のダムに出張させれば良い仕事をしてくれそうだ。

 

 すかさず、近くで数人の警官と様子を見ていた風見さんが駆け寄ってきた。

 

「ご無事ですか降谷さん!?」

「ああ。僕は問題ないが…留置所での扱いが少し面倒だな。黄衣君に後でアドバイスを貰うべきだろう」

 

 迷惑そうに犯人の体をパトカーへと放り込み、降谷さんは犯人の手に手錠をはめた。

 魔術師であれば手錠をぶち切る手段なんていくらでもあるから、そりゃ面倒なことこの上ない。

 

 俺の話をしているようなので、俺もするっと車から降りて降谷さん達の元へと向かう。

 降谷さん達も俺の姿を見て、わずかに緊張の糸を緩めたようだった。

 

「よ、お疲れ様。よくあそこまでコケにされて我慢できたな降谷さん」

 

 もしこれがニャル本体だったら、きっと考えるのも悍ましい大惨事になっていたことだろう。

 見た感じ降谷さんも結構キレていたと思うのだが、その手段は穏当の一言だった。

 

 降谷さんはあっけらかんとため息をついて肩をすくめた。

 

「別に犯罪者が無駄に調子付いてるのはいつものことだしな。ちょっと前まで現場に出突っ張りだったし、こういうのは見飽きたよ」

「怖ぇ……ニャル化身にこんな口利くやつが沢山いると思うととんでもなく怖ぇ……」

「僕を貶しているのか犯罪者を貶しているのか微妙なラインの発言は控えてくれないか」

 

 降谷さんは嫌そうな顔をしてむすっとした。

 警察官の皆様におきましてはいつも業務お疲れ様です…。

 ぺこりと頭を下げたら、風見さんがペコペコと釣られるように頭を下げた。

 

 風見さんが首に下げたネックレスからは野太く青白い腕が6本生えている。

 「お、久しぶりだな!」とネックレスがカラカラ笑ったので、俺も「どもです。お元気そうで何よりです」と返しておいた。

 

 全然構わへんねやけど、誰も喋るこのゴツいネックレスに突っ込まんのか?

 

 みんな和やかにペンダントを点呼に入れてるけど。

 風見さんと揃ってB班らしい。

 B班は犯人マンションを調査するらしい。現場の品を勝手に分解しないようペンダントが注意を受けている。

 

 みんな疑問に思わないんだったら…それでいいですけどぉ……。

 

「そろそろ撤収しよう。黄衣君には車の中で聞きたいことがある」

「魔術師の拘束方法だろ。任せとけ」

 

 降谷さんの車の助手席に乗って、シートベルトを締める。

 撤収ということで、パトカーが次々と警視庁に向かって走り出す。

 

 しばらくしてなんとなく相談したいことを思い出し、俺は降谷さんに話しかけた。

「そういえば、俺今度リニアの試乗会があるんだよ」

「ああ、各界からお誘いがあったそうじゃないか。君もすっかり人気者になったな」

「俺は肩身が狭くて辛いことこの上ない」

 

 俺が病の治癒の加護を撒いたのが噂になっているらしく、病気の治癒を頼みに俺の事務所に来るものが出始めたり。

 俺としても難病とかステージ4ガンとか言われると命に関わるし可哀想だから断れないのだけど。

 これが雪だるま式に増えられるとかなり困った事態になりかねない。

 

 これについてはこの間知り合った外務大臣さんに相談。

 現在は厚生労働省に渡りをつけてくれた。

 

 先方も「無制限にあらゆる病を治癒する」ということで目を白黒させていたが、なんとか混乱の起きないようにまとめてもらえれば良いなと思う所存である。

 コナン君には「黄衣さんがとりあえずで奇蹟をばら撒き過ぎるのが悪い」とは言われたが。

 おっしゃる通りです……。

 

 なお、宮内庁がアップをしているらしいと噂を耳にした。

 何がどうアップしているのかは知らんが、そういうことらしい。

 分からん……俺権力関係は全然分からんよ……。

 

「ともかく、健康診断があるんだけど、どうしようかと思って。ほら、俺の体的に」

「あー。そういうことか」

 

 降谷さんは困ったように眉を下げた。

 

 俺は人型の怪物であり、この体もそれっぽく皮で覆った触手の塊である。

 指の爪の先っぽを人形に切って整えて指人形してる感じ、とでもいうべきか。

 

 それを血圧とか心電図とか言われても困るのである。

 血は実装してないし、心臓はもっと実装してない。

 血液検査が無い分楽だが、うーむ。

 

 降谷さんは眉間に皺を寄せて唸った。

 

「こっそり免除してもらえるよう、こちらからWBCジャパン本部に掛け合おうか」

「めっちゃ助かる。検査項目の実装もできなくはないけど大変でさ」

「いいさ。今回手伝ってもらったし、このぐらいは構わない」

 

 降谷さんがやや小首を傾げて、まったりと口を開く。

 

「健康といえば、君から貰ったエナドリ。あれかなり良いな。また融通してくれ」

「お。まじか。よかった。ニャル用に作ってある疲労回復薬だし。効いたようでなによりだよ」

「頭がスッキリして明確に疲れが取れる。あんなに効くエナドリは初めて飲んだ。部下に譲ってやれないのが残念だよ」

 

 本来疲れなんて知らないはずの外なる神用だからな。

 元はミゼーアの激怒を買ってへとへとになって逃げ回ったニャルを癒すために昔作ったやつだが。

 結構開発には手間がかかっているのだ。

 

「でもまた最近降谷さんニャルに弄られたろ?魂がまた拡張してるし。変なこと起きてないか?」

「…………今のところは」

 

 降谷さんは梅干しみたいな顔になってしまった。

 

 たぶん、ニャルとしては「最近小指の腱鞘炎がひどいからサポーター巻こう」ぐらいの気持ちだったのだと思われる。

 突如強襲されて魂をデブデブにされた降谷さんの恐怖は察して余りある。

 

 降谷さんは空元気を出したように乾いた笑いを漏らした。

 

「まあ、これで前のように可笑しな衝動が出なければそれで良いさ。あんな失敗はもう懲り懲りだ」

「……………」

「……飴って摂取量増やせば効能も増えるか?」

「そういうシステムじゃないですね」

 

 俺が黙りこくったことに全てを察して、降谷さんはすうっと顔面蒼白になった。

 

 おう。飴はデブデブ対応版を作っておく。

 そのように伝えて、震える降谷さんを宥めたのだった。

 





・最近の松田さん
風見さんと組んでいろんな業務を積極的にこなしている。
人目につきそうな場合はカバンに偽装して風見さんに背負ってもらったり。
風見さんがリュック偽装袋とか肩掛けバック偽装袋とか手作りしていて、意外と種類も豊富。ビジネスバッグとか。
今では二人は良き相棒となっている。
松田さんとしては「素直過ぎるのが玉に瑕だな。これじゃゼロに引き摺り回されてただろうに」とのこと。
爆弾解体の腕は流石の一言で、C-4が畑から取れる米花町ではかなりの戦力となっている。

・降谷さんの犯罪対応
実は割と対応に振れ幅がある。
基本犯罪者は期待値が低いので何しても「羽虫がなんか言ってるな」になるので、そんなに怒らない。
特に今は飴などの影響で人寄りかつ冷静で、デブデブの影響もまだ現時点では限定的。
あと一週間後だったなら殺さない程度に弄んでやってたかも。

・緋色の弾丸犯人
祖父より授けられた魔術によって選民思想を磨いてしまった。
報われぬ幼少時代を「周りが下等だから」と思い込み、中途半端な魔術で自らを全能と思い込んだ。
祖父と同様に銀の黄昏教団に入ろうと門を叩いたが、「凡愚に潜る門は無い」と一蹴されている。
ちなみに、銀の黄昏教団入団には最低限生身で古エイボン式魔術を発動できる力量が必要。
彼女が不幸だったのは、優秀な祖父が早逝したことだろう。
最後っ屁設置済み。
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