ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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緋色の弾丸〈ハスターリク〉

 

 名古屋国際空港病院にて、俺たちは簡易検査を受けている。

 

 

 真空超電導リニアに人が乗るのは世界初の試み。

 万全を期す、という意味で実施されているものだそうだ。

 

 視力聴力検査や血圧検査など、簡単な項目をいくつかこなしていく間に、アラン会長が話しかけてきた。

 政治家にしてはまだ少し若めの、若い頃は相当イケメンだったろう顔つきのおじさんだ。

 

 アラン会長は俺へと右手を差し出して、ニコリと笑って見せた。

 

「これはこれは。私はアラン。黄色の印の兄弟団の神よ。お会いできて光栄です」

「いえいえ。こちらこそ、アラン会長」

 

 爽やかな人だ。

 多忙なようで、ポケットからエナジードリンクの瓶の蓋がのぞいている。

 

 深入りすることなく挨拶だけしてそのまま去っていくあたりも、如才ない人のようだ。

 今日のところは慎重に顔繋ぎだけ、ということなのだろう。

 

 俺とコナン君は検査後普通に昼食を取り、少年探偵団の皆へのお土産を買って、試乗の時に備えた。

 コナン君は普通のお菓子詰め合わせ。

 俺はひつまぶしセットを購入した。

 

 なんか…うなぎ小僧が「これだッ!!!」って叫んでる幻聴がしてな……。

 

 

 さて。

 本当の問題は、新名古屋駅に着いてから発覚した。

 

 新名古屋駅はこのために建設されたリニア駅で、新しい構内はオシャレで洗練されている。

 そのホームには真空超電導リニアが発車の時を待っていて、その美しい姿がホームからでも確認できた。

 

 レッドカーペットにくす玉、たくさんのTVカメラ。

 その様子は生中継で映し出され、WSG東京開会式と同時に到着するのを今か今かと待っている。

 

 順番に乗客たちを案内していくスタッフの声を尻目に、俺は驚愕に立ち尽くしていた。

 

 というかあまりにもヤバい。

 

「ここここコナン君たたた大変だ!?!?」

「何何何、何があったの!?」

 

 俺の激しい動揺に釣られて、コナン君の挙動が一緒になる。

 だめだ。俺が冷静にならなければ。

 おち、おちつつつつつつ。

 

 俺は耐えきれず声を殺して叫んだ。

 

「リニアの中!旧支配者が来てる!部分顕現!やばい!やばすぎる!」

「ヒェア」

 

 そうなのだ。

 どこからどう見たって、この真空超電導リニアは「旧支配者に感染していた」。

 

 絞められた鶏みたいな声を出してコナン君が固まった。

 そして「降谷さんに電話ッッッ!」と絶叫。

 

 俺はびっくりしてこちらを見る乗客達を気にする余裕もなく、しどろもどろにスマホを取り出した。

 

 幸いにも電話はすぐに繋がった。

 おそらく、あちらの方でも俺の電話は優先度高めに出てくれているのだろう。

 ありがたいことだ。

 もしこれで出てくれなかったら片っ端から偉い人にかけるしかなかった。

 

 降谷さんはやや疲れた様子で俺の声に応じてくれた。

 

『どうした。今はリニアに乗る頃だろう』

「リニアが旧支配者に乗っ取られてる!感染する旧支配者『ハスターリク』に!絶対やばいコレ!!」

『………は?』

 

 いつぞかにも聞いた渾身の「は?」だ。

 俺も正直信じたくない気持ちでいっぱいである。

 

 旧支配者ハスターリク。

 

 彼は病原菌の姿をしていて、ウイルスや細菌までありとあらゆる微生物に寄生する。

 それは大抵激しく変化を引き起こし、時に致死的な病となって生物を襲うのだ。

 

 降谷さんが絶句して息を呑んでから、早口で聞き返してくる。

 

『つまりパンデミックが起きる可能性がある、ということか?』

「いや。今回は人への感染は気にしなくていい。というかたぶんハスターリクとしても初めての試みなんだと思う」

『試み?』

「つまり、病原菌じゃなくてプログラムに感染してみようって試みだよ」

 

 ハスターリク召喚の際の方式は、通常顕現の核になるものを捧げる方法となる。

 特定のウイルスや細菌が無いなら、召喚主の体の中にある適度な微生物等に寄生して増殖を始める。

 だから普通、召喚主は近いうちに死亡するのだ。

 

 今回の場合、その代わりに何らかのプログラムを捧げられたらしい。

 

 これを新しいウイルスの形として定義して捧げます、と魔術的にハスターリクへと伝える形での召喚だ。

 ハスターリクはそれを受け入れ、コンピューターウイルスとして新たな形での顕現へと踏み切った。

 

 コレが意外に気に入ったのだろう。

 

 遠目から見た感じ、結構居心地良さそうにしている。

 「案外ええ感じやな」「しっくりくる」「せやな」みたいな雰囲気だ。

 

 基本的にハスターリクは穏やかな性質の旧支配者だ。

 生物に興味を持たず、移住した先で微生物を変異させ、「いい感じの寝床」を作って寝るだけのものというべきか。

 

 だからこの侵食に他意はなく、生命を貶めようとする意図はない。

 

 まあ、大抵その寝床作りの過程で文明は滅び生物は絶滅するが。

 

 今回の場合であれば、短期的に見れば一番厄介である人への感染は心配しなくてもいいだろう。

 まだリニアも動くし、プログラムの改変もそこまで大変なことにはなっていない。

 

 だが、時とともにあらゆるプログラムが書き換えられ、社会インフラは完全に機能不全へと陥るだろう。

 

 ことの次第を理解したのか、降谷さんが絶句し慄いている。

 

『あの犯人宅で、一台パソコンを押収した。なぜかごちゃごちゃに物が詰められたトイレの蓋の上に置いてあったと聞いている』

「ウッソだろおい…本当にごめんトイレの中までは確認してなかった。それが召喚媒体だ。たぶん俺らが突入した頃には既に呼んであったんだ。ネットには繋いでないよな?」

『オフラインで中を確認しただけだが…中に怪しげなソフトウェアが入っていたから、そちらは解析に回してしまった』

「ひぃ。待って遠隔で見る」

 

 というかこんな繊細な術式、間違いなくあの素人魔術師の手では作れないと思うのだが。

 まさか受け継いだ術式を大した確認もせずに発動してみたのか!?

 

 「ハスターの瞳」で警視庁を見れば、感染はまだごく一部の部署にとどまっていた。

 感染データは全部吹っ飛ぶが、遠距離から条件付き「魂の撃滅」をぶちかませば今なら軽傷で済む。

 

 降谷さんは「今すぐ隔離するから少し待て!それとリニアの発進はストップさせる!」と電話の向こうで駆け出したようだった。

 

 慌ただしい雑音と怒号と足音がこちらまで響いてくる。

 

 その間に俺も感染地域の割り出しを済ませておいた。

 降谷さんに感染状況を一覧で見ることのできるアプリを送信。

 適当なUIを流用したから画面が見づらいが、時間もないしそこは我慢してもらうとしよう。

 

「今降谷さんのスマホにハスターリク感染媒体の所在地順を送った!リアルタイムで増えてるけど!」

『………そういえばハスターリクって君の親戚か?』

「気を確かに!牛とウミウシぐらい別人だよ!」

 

 降谷さんは震える声色で冗談なのか現実逃避なのか変なことを言い始めた。

 見ている間だけでもバララララ、とマシンガンの発射音でもしそうな速度で一覧が増えていっている。

 地図表示モードも搭載してあるから、こちらもじわっと全国、加えてサーバーのある海外拠点が感染していくのが視覚的に分かった。

 

『あまりのことに眩暈がして。この増殖速度なら、もう隔離とか言ってないで今のうちに君に全部吹っ飛ばしてもらう方が傷が浅いな』

「データは死ぬけどいいな!」

『根本的にはテロリストが全部悪いということで。あまりに感染速度が早すぎる。流石にこれ以上の被害は許容できない』

「オーケー。派手にぶっ飛ばします」

 

 というかこの感染速度、ネットだけで増えているとは思えない。

 もしかしたら魔術的にデータを転送しているのかもしれない。

 

 会場がざわめいている。

 

 どうやらリニア車内への案内が一時ストップしたらしく、客達が困惑して話し出しているようだ。

 おそらくスタッフに警察から連絡があったのだろう。

 

 コナン君が「大丈夫そう?」と俺を見上げた。

 俺は脳内で激しく術式を組み立てながら、力強く頷いてそれを返事とした。

 

 俺がこの星に蔓延るハスターリクに狙いを定めているのは向こうも感じ取ったのだろう。

 ハスターリクは己が狙われていることを理解し、怒りを露わにしたようだ。

 「何やねんワレ」「いてこましたろか」「やるっちゅーんかオイ」と言ったように文句を言っている。

 

 いや、これは本当にそのままこう言っているわけじゃなくて。

 旧支配者的な意思疎通を俺のフィルターに通した結果、もやしもんが混入しただけだ。

 間違ってもハスターリクさんがゆるキャラなわけではないことをここに明記しておく。

 

 とはいえ、ハスターリクは苛ついてはいるものの、勢いはかなり弱めだ。

 

 というのも、今回の召喚はかなり不完全で、ごく僅かしか顕現できていないからだ。

 ギリ怪異レベルまでミニマムサイズになったまま、ちょっとずつ漏れ出すように地球に侵食してきている。

 だから「ハスターの瞳」の網を潜り抜けたのだろう。

 

 うーん。

 もうハスターの瞳の網をもっと小さくするべきか?

 いや、今回網をくぐったハスターリクは単体だと本当に細かいし…。

 むしろ体を細分化して網を潜り抜けるタイプの対策をした方がいいかもしれない。

 

 なんにせ本来、この規模の神格を術者単体で呼ぼうとしたら、400年は必要だ。

 無理やり発動したそれは、当然のことながら指がギリ通るかぐらいの極小の穴しか開けられなかった

 

 今回はハスターリクが思ったより乗り気だったのが災いした。

 

 頭をズボッと細い穴に突っ込んで、無理やり召喚されてきたのだ。

 不完全にも程がある召喚で、とても弱っちい顕現とはなってしまっている。

 

 こちらにメンチ切ってくるハスターリクさんには申し訳ないがここは、地球は俺の縄張りだ。

 退去してもらうより他ないだろう。

 

 バレないように成層圏の先にアンカーを固定。

 結界とともに、俺は遥か上空へと完全顕現していく。

 

 現実をうねらせるほどの存在規模をゆらめかせ、触手を伸ばす。

 全ての触手を条件設定に割き、その魔術を丁寧に構築するのだ。

 間違っても人間や、怪異に封をする術式、その他生物にぶち当てるのは避けなければならない。

 

 自らを組み換え擬態する可能性も考慮して、緻密に緻密に魔術を織り込む。

 

 この星全土を覆うよう、組み立てるは魂への組成干渉。

 極小のプログラムからかの神格のみを対象として選出する、極大規模の魔術式。

 

 ゆらめいていた触手がわずか、動きを止める。

 

【効果範囲決定済み】

【対象限定。人類種除外。細則付与】

【全完了……発動】

 

 

【『魂の撃滅』、作動】

 

 

 





・ハスターリク召喚術式
元は「ハスターリクを通じてプログラムを無限回組み換え、魔術をプログラムで再現する技術を作ろう」という犯人の祖父の研究規格、その試作品。
ハスターリクは寝心地が良ければ特に拘らないので、意外と成功の芽はあった企画。
実はその視点で見れば板倉氏は時の運があったとはいえ、本当の大天才であった。

・ハスターリクさん
新素材のクッションがあるって聞いてはるばる地球までやってきたベッドマニア。
いい感じの寝床が作れそうだったのに地主が殴りに来たのであえなく退去。
「困る」「とても困る」「無念」

・ジンニキ近況
何となく探索者をやる気にならなくて組織の仕事をポツポツこなしてる黄昏のジンニキ。
裏切り者の処分も敵対組織との裏取引も全然身が入らない。
命張ってる感がないし、成し遂げた感もない。
見るからにめちゃくちゃ萎れてて、これにはウォッカも「大丈夫ですかい兄貴…?」と温かい缶コーヒーを渡した。

そこに、うっすらとせせら笑うようにバーボンが現れた。
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