ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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善なる光の前に立つ

 

 東都湾の倉庫街をくまなく調べれば、ニャル野郎の痕跡がほんのわずかに発見できた。

 

 その間に仕事を抜けてきた降谷さんと諸伏さんも合流した。

 二人ともひどく不安そうな顔をしている。

 というか降谷さん、スーツ姿だけどあの修羅場で仕事抜けられたんだな。

 

 諸伏兄は現場を見て静かに思案している。

 

「それで、彼らは一体どこに?」

「ここにいた事は確かだが、そこから転移した先が厄介だ」

 

 ニャルは念には念を入れ、世界の狭間に向けて「門の創造」を発動したようなのだ。

 

 世界の狭間は、ヨグ=ソトースのうねりでできたわずかな隙間。

 俺がそう呼んでいるだけだが、実質ヨグ=ソトースの範囲外を指す。

 

 そこでは通常の時の流れが確認できず、それが故に中がどうなっているのかの確認も非常に難しい。

 

 少し触った感じ、ニャルはそこに緩やかな時間流を設定したようだ。

 おおよその倍率は100倍ほど。

 救出が遅れれば中の彼らは老人どころか白骨死体になりかねない。

 

 おまけにヨグ=ソトース範囲外だから、俺の秘技・父上おねだり「ニャル野郎を引っ捕らえてくれ!」が使えない。

 

 ニャルがあまりに暴れた時などに使っていた手法だ。

 ヨグ=ソトースが気が向けば中確率ぐらいでニャルを引っ捕まえてポイって渡してきてくれる。

 無論ニャルはめちゃくちゃブーブー文句を言うが、まあ気にする必要はない。

 

 この宇宙になったあたりからはそれが気に食わないのか、悪さをするときはこうしてヨグ=ソトースの隙間などに隠れるようになった。

 小癪な奴め……。

 

「かなり厳しいが、向こうへアクセスする手がかりは掴めた。タイミングを見計らって降谷さん、もしくは諸伏さんに乗り込んでもらおう」

「どういうことだ?そのまま救助はできないのか」

 

 降谷さんが訝しげな顔をするが、こればっかりは仕方ない。

 緩く息を吐いて俺は首を横に振って見せた。

 

「直接強く干渉するには隙間が脆すぎるんだ。空間が崩落したら全員死ぬしかない」

『………乗り込んだとして、俺たちはどうすればいい?』

「向こうのルールに則って、正規クリアを目指してもらう。諸伏さんも降谷さんも通常の人間より強いから、クリアの助けになるはずだ」

『……ッ、ならゼロの方が適任か』

 

 自分が助けに行きたいだろうに、激情を飲み込んで諸伏さんが震えそうになる息を堪えている。

 

 ニャルラトホテプは、そもそもこの隙間の地にシステムの一種として、「援軍」を認めている。

 たぶんガチャに似せて導入したんだろな感のある仕組みだ。

 

 その確率をハッキングして外側からいじるぐらいなら、ここからでもできる。

 

 多分後からチート垢はBAN対象ですが!?とネチネチ言われるんだろうが。

 今の降谷さんは三分の一だし丁度良かろう。

 先に約束を破ったのはあちらであるからして、文句を言われる筋合いはないのだ。

 

 というかまじ許さんあのニャル野郎。

 

 四つに裂いて館の水族館スペースに沈めて展示してやる。

 多分四体とも口々に俺を非難してくるだろうし、それを肴に俺は一週間ぐらい良い酒を飲むのだ。

 

 術式調整。ターゲットを指定して接続準備。

 空間の掌握率観測。

 

「こちらは一瞬だが、向こうに行けば長丁場になる。気をつけてくれよ」

 

 俺の言葉に、降谷さんは深く頷いた。

 

 こちらでは万分の一秒だろう、その時を静かに待つ。

 

 

 

 

 

 

 大和敢助がそれを知ったのは、幼馴染であり同僚の諸伏高明の足跡を追う途中のことだった。

 

 頻繁に黙って姿を消す奴のことを半ば黙認する空気ができていたのは、それが「怪異案件」であると皆薄々理解していたからだ。

 地方警察にも多少なりとも降りてきたその情報は誰もがゾッとするほど悍ましく、避けようのない悲劇に満ちていた。

 

 だからそれに自ら突っ込む諸伏高明のことを、どこか遠巻きに──否。煙たがっていたのだ。

 

 大和と上原が調べるのも良い顔はされなかった。

 だが、それが大きな組織犯罪に繋がっていたとなれば話は別だ。

 

 どうやら諸伏高明と一緒にいたという長い銀髪の男は、複数の放火、殺人、爆破テロに関係のある人物である可能性が高い。

 その背後にある組織規模は巨大。

 

 そんな組織の男と、あの高明が夜な夜な密会している。

 情報漏洩などということは断じてないだろうが、高明には一言言ってやらねば気が済まない。

 

 そのように意気込んだは良いものの。

 

 些か、踏み込み過ぎてしまったらしい。

 

 

 

 

 現在、この腐ったゲームの開始から82日目。

 

 「コテージ」にあるメモ帳に書いた正の字は、途中で皆の日記に変化した。

 書いても書いても、無限に補給されるメモは便利だが不気味だ。

 

 個室を出ると、すでに上原が三人分の朝食を作っていた。

 「コンビニ」で買える品を炒めたり温めたりしただけのものだが、やはり温かいものを食べると活力が違う。

 

 できたてのハムエッグを運ぶ上原に声をかける。

 

「おい、黒澤はどうした?」

「彼ならまたゴールデンちゃんのところじゃないかしら。隠してるみたいだけど、彼、絶対犬好きじゃない?」

「あー、なら呼びに行くのは野暮か」

 

 「穴」の横にある犬小屋に、一匹のゴールデンレトリバーがいるのだ。

 あれは大層人懐っこく、大和たちはゴールデンと読んで可愛がっている。

 

 しばらく食事をしていると、黒澤が帰ってきた。

 足元が毛まみれだ。

 犬のついでに昨日の収穫を換金したらしく、封筒を持っている。

 

「今日の『質屋』は碌なものがなかった。これは生活費分だ」

「悪いな。……飯を食ったら今日も潜るとするか」

 

 「ええ」と上原が陰鬱に頷いた。

 これが後どれほど続くのか。いつまで死なないでいられるのか。死んだらどうなってしまうのか。

 あまりに濃く深い絶望が、胸の底を満たしていた。

 

 

 

 

 あのバーボンとやらは、随分とフェアなゲームに拘ってるようだった。

 

 最上階であるこの浮き島の上は、人間が生活するには十分な設備が整っていた。

 

 小さな「コテージ」と「コンビニ」があって。

 「コテージ」には現金のみの自動チェックイン機・自動精算機が備え付けてあった。

 支払えずとも忍び込むことは可能そうであったが、何が起こるか不明だったためその場合は外で寝ている。

 

 「コンビニ」も一般的な品揃えだ。

 こちらも自動精算機付きで、

 

 「コンビニ」の隣に古い妙な荒屋のようなものは「質屋」で、地下で手に入れた妙な品々を買い取ってくれた。

 販売もしているようだが、呪物じみたものばかりだ。

 

 「コインランドリー」もある。

 これはどんな汚れて破れて原型を留めない服だろうと、放り込んで一定時間経てば元に戻る。

 こんな場所で身なりを小綺麗にする意味もないが。

 

 白い大きな建物は「病院」だ。

 動くマネキンが治療のほか、人体改造も行ってくれるようだ。

 これがなくては、2日目に手酷い爪傷を負った大和は、4日目には感染症で命を落としていただろう。

 

 人体改造には恐ろしくて手を出していない。

 今後使用しなくては現実世界に戻れないとでもならない限り、使う気はなかった。

 

 あとは「穴」。

 地上へ続く、底なし沼である。

 いつからかエレベーターが備え付けられ、戻るのが楽になった。

 

 

 今日もまた、いつも通りに装備を整えて「穴」の前に立つ。

 

 とは言っても、装備なんて質屋で買った銃弾用の弾薬や懐中電灯、スマホ程度のものだ。

 スマホは幸いにもコテージで充電できたから、予備の懐中電灯兼カメラ、電卓ぐらいの役割だが。

 

 穴の前ではゴールデンがいつも通り可愛らしく大和達を歓迎してくれた。

 撫でてくれと体全体で訴えている。

 

 黒澤がそっけない顔をして、自費で買ったコンビニの犬用おやつをあげている。

 犬は大喜びで舞い上がって黒澤のズボンを毛だらけにした。

 

 大和が黒々とした穴を覗き、ついひとりごちた。

 

「今日は36階か。楽な階だと良いんだが」

「………フン。俺をまた庇って死にかけるのは止めるんだな」

「そいつは出来ねぇ相談だ」

「チッ。サツが頭狂ってんのか」

「なんとでも言え」

「もう敢ちゃんも!突入前に喧嘩しないの!」

 

 このチームにおいて、一番の鍵になるのは黒澤の存在である。

 

 磨き抜かれた直感というべきか。

 危険感知能力が尋常ではない。

 加えて頭も回り、警戒心が高く、抜け目なく、銃の腕前も凄まじい。

 ここまでの道のりで、黒澤が居なければ死んでいた場面は数知れない。

 

 そう。

 大和も黒澤も上原も、まだ一度も死んでいない。

 

 アレは蘇生すると簡単に言ったが、そんな口約束が護られるとは思っていない。

 なによりアレの考える蘇生を、大和は信用していない。

 

 とするなら、この穴蔵を踏破するにあたり最も優先すべきは黒澤である。

 たとえ自分が死んでも、黒澤ならば上原をきっと地上まで連れて行ってくれる。

 自分がこの穴蔵に蠢く可笑しなものに成り果ててしまっても、無事に現実世界へと戻ってくれる。

 

 なにより、自分は警察官である。

 

 ならば民間人を守るのは当然だ。

 護送中の犯罪者だって、命を狙われていたなら身を挺して庇うものだ。

 黒澤がいかなる凶悪犯であろうと、そこは揺らぐことのない事実である。

 

 まあ、上記と同様の理論で上原も黒澤を守ろうとしているのは頭の痛い問題だが。

 

 黒澤はギロリと大和を睨みつけた。

 

「後悔するぞ」

「誰がだよ。つか高明こそ同じパターンの行動を事前通告なしで連打してくる奴だろうが」

「……奴のことはもう少しテメェの方でなんとかできなかったのか」

「高明はあれがデフォだ。なんとかなるんなら所轄送りにはならねぇ」

「そうか」

 

 若干諦めたような黒澤の声の向こう側に。

 どこか切ないような、耐え難いような。

 

 

 不可思議な情動の煌めきが見えた気がしたのだった。

 





・ニャルを四つに裂いて水族館に展示
ハスターだけがとても酷いと思っている制裁方法。
ちょっと人間基準の酷いこと過ぎた。
当然だが外なる神が四つに裂かれたからといって何かあるわけでもない。


・ニャルニャルQ&A
Q、あのエレベーターなんです?ローグライクじゃなかったんですか?
A、なんか勝手にプレイヤーが人体改造しない縛りプレイを始めたので…仕方なく方針転換しました。使えば強くなるのに。腕6本になったり。

Q、人体改造した場合、地上に戻るとどうなりますか?
A、強いままです。便利ですね!

Q、ガチャがあるって聞きました。本当ですか?
A、50層に設置してあります!援軍を呼べます!援軍に選ばれた人はこちらで迎えに行きますのでご安心を!

Q、「穴」の隣にいる犬はなんですか?
A、かわいいです。ハスターがいつか飼いたいって言ってたから追加しました。
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