ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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降谷零の燻る憎しみ

 

 転移は、思ったより不可思議な感覚が伴った。

 

 輝くトラペゾヘドロンによる移動とも違う、引き絞られるような奇妙な引力を感じた。

 この感覚が降谷は嫌いではない。

 肌が粟立つような、わずかな全能感がくすぐられる。

 

 降谷の持ち物はシンプルだ。

 持ちっぱなしの警察手帳、ペンと印鑑、飴の袋が3つ、そして未開封のミネラルウォーター1つ。

 

 長期間脱出できない可能性を考慮して、飴は重要な時のみの摂取に控えなければならない。

 心許ない気持ちもあるが、人員を救出して早めに脱出すればいいだけだ。

 

 正直ジンを救出など気が乗らないにもほどがあるが、そんなことを言っていられる場合でもないのは重々承知。

 

 その場で軽く装備を整えてから、降谷はいつでも行けると示すように頷いて見せた。

 

「お願いします、降谷君」

「………ええ、必ず」

 

 皆を助け出して見せます。

 ヒロのお兄さんの言葉が重くのしかかる。

 

 

 そうして、降谷はゲームの舞台に降り立つことになったのだ。

 

 

 

 現れたその場所は、地下鉄の通路のように見えた。

 

 切れかけの明滅する蛍光灯。

 文字化けする出鱈目な案内掲示。

 張り出されているポスターにはおどろおどろしい化け物が緻密に描かれている。

 

 そして、目の前には驚愕に目を見開く、長野県警の面子の姿がある。

 

 降谷も知らぬ仲ではない。幾度か事件であったこともある。

 降谷は改まって強く宣言した。

 

「救助のため駆けつけました!無事ですか?怪我などはありませんか!」

「どの面下げて来やがったテメェ!!」

「ッ!?」

 

 出し抜けに大和警部に怒鳴られ、降谷は思わず困惑に瞬いた。

 

 しかしすぐに起こったであろう事態を把握し、誤解を解こうと口を開く。

 

「違います!それは僕では…」

「こんな所に私たちを閉じ込めて!何が目的なの!」

「逃がさねぇぞ、ふんじばってやるから覚悟、」

「止めろテメェら!そいつに手を出すなッ!」

 

 ヒートアップしそうになった場は、一番奥にいたジンの叫びで掻き消された。

 長野県警の二人はすぐさま降谷から距離をとった。

 恐れを露わに、重心を下げて降谷へと警戒を示している。

 

 胸が痛みに似た切なさのようなもので撫ぜ上げられた気がした。

 

 降谷は現在の己の在り方に概ね満足している。

 寿命の楔から解き放たれ、日本を未来永劫守ることができるようになった。

 不条理に対して応じられる武力と能力とも手に入れられた。

 願ってもないことだ。

 

 それでも。

 同じ警察官という同胞からこのような目を向けられるのは、やはり何度経験しても堪えるものだった。

 

 ジンが冷静に首を振り、長野県警の二人を諌めた。

 

「それは俺たちをゲームに巻き込んだバーボンじゃねぇ」

「でも、見た目は全く同一に見えるけど…」

「『敵意』だ」

 

 ジンはジロリと降谷へと視線を向けた。

 

「俺たちをここへ放り込んだバーボンには、俺への『敵意』が無かった」

「おいおい、そんなモン分かるのかよ?」

「俺にとっちゃこんな明確なモンが分からねぇ事の方が信じられねぇがな」

 

 恐らくは、彼らはここに放り込まれる際に降谷に化けたニャルラトホテプと接触したのだろう。

 

 それなら、そのバーボンとやらに敵意がないのも当然だ。

 外なる神が羽虫一匹に敵意なんぞ抱くはずもない。

 

 同時に、降谷が念入りに隠したはずの敵意を見抜かれていること。

 そのような鋭敏な感覚をジンが持ち得て、それがNOCの炙り出しに一役買っていたことを示している。

 

 降谷はそれが不愉快でならなかった。

 

「ええ。アレと僕は別の意志を持つ存在です。少なくとも、僕は貴方がたの救出のために来ました」

「来たって、そのガシャポンからか?」

「…………」

 

 大和警部からの質問に、思わず降谷は黙り込んだ。

 

 振り返ると、壁の端に並べるように見慣れたカプセルトイの機械が置かれている。

 「ニャルトイ 仲間を集めて脱出しよう!対象年齢20歳以上」などとポップなキャッチコピーが踊っている。

 

 自分、ここから出て来たのか…………。

 

 ちょっとガッカリ感が強い。

 いや、黄衣はアクセスできる箇所を探し出すのに苦労したと言っていたから、降谷がこうして侵入できただけでも喜ぶべきなのだが。

 こう、ね。

 絵面があまりにもダサいというか、幼児向けアニメのそれというか。

 

 降谷はしばし眉間の谷を揉み込んでから、気を取り直して彼らと向かい合った。

 上原刑事の瞳が不安に揺れている。

 

「なら、貴方はこの穴に蔓延るような怪物ではないってことよね」

「………それは」

 

 ここのことを降谷は何も知らない。

 

 知っているのはここが閉ざされた時間に囲まれた本体の遊び場で、きっと多くの化け物が潜んでいるだろうことだけだ。

 その中には人に化けるもの、幻覚を見せるもの、悪辣に人を食うものも居たことだろう。

 

 改めて、大和警部をよく見れば。

 その左腕がまったく動いていないことに気づくことができた。

 人の腕のように見えるが、恐らくは義手、なのだと思われる。

 

 上原刑事も顔の右から首にかけて痛々しい傷跡が刻まれている。

 

 どれほどの危険を潜り抜けて来たか、たったそれだけでもありありとこちらまで伝わって来た。

 静かに瞳を伏せて沈黙する。

 

 隠していたとしてすぐバレることだ。

 降谷は正直に打ち明けると決めて、顔を上げた。

 

「いいえ。僕はアレと同様、怪物の類です」

「!!」

 

 恐怖と困惑に身を強張らせる二人に、降谷は目の前でゆるゆると半ばまで体を黒い風へと変換した。

 

 閉ざされた空間に風が満ちる。

 降谷の体たる災厄に満ちた黒い風だ。

 その存在規模は三分の一となったとして、軽く両手を広げるだけでアジア一帯を覆い尽くすことだろう。

 

 半身が渦巻く風になった降谷に、咄嗟に大和警部は銃を向けようとした。

 しかし瞬時にジンの言葉を思い出したように手が止まり、重心を低く保ったまま目を細める。

 

【このように。僕は災いの黒い風。人ではありません】

「なら……どうしてテメェは俺たちを助けようとする?」

【諸伏高明の依頼です。僕はその救助要請に従ってここにいる】

「ッ高明のやつ!」

 

 大和警部が非難の声を上げた。

 ジンが降谷へと慎重に窺うような視線を向けている。

 

「奴の要請で動いていると言ったな」

【ええ、そうですよ】

「奴はテメェに何を対価として支払った」

 

 その言葉に、大和警部と上原刑事が息を呑んだ。

 

 嫌なことを聞くものだ。

 バーボンとしてのキャラクターならば、当然

莫大な対価を要求する場面だろう。

 ジンもそれを前提として聞いている。

 捧げられたものによっては、ジンが代替案を提示して取り返してやろうと思案しているのだ。

 

 俺と同じ薄汚い犯罪者のくせに。

 ヒロのお兄さんのことを助けようというのか。

 ヒロは組織のせいで死んだのに。

 あまりに醜い感情だ。もう飴が恋しくなってきた。

 

【貰っていませんよ、何も】

「何?」

【彼の言うことは優先的に聞くことにしています。彼は────】

 

 自分のせいで命を落としてしまった親友の、たった一人の家族だから。

 そう言葉にできない思いを飲み込んで、降谷は吐息だけを漏らした。

 

 ああ、お前の所属する組織のせいで、諸伏高明は弟を失ったんだぞ。

 燻っていたかつての激情と憎しみと逆怨みが、わずかに火の粉を舞わせている。

 

 たくさんの人があの組織のせいで大切な人を失った。

 絶望を山ほど見た。

 ジンが爆破を指示したビルの中から、家族を失った子供だけが助け出されたことだってある。

 

 当然、自分だって、そう。

 殺した標的には家族がいたし、毎年その墓前に花を供えて泣く婚約者もいたのだ。

 

 せめて多くの人を救うモノとなれ。

 でなければここで死ね。

 

【詮の無い話です。それでは、クリアのために動きましょう。僕は傭兵として指示に従います。上手く指揮してください】

 

 人の身体に戻り、そう淡々と言葉を紡ぐ。

 

 いずれ日本を楽園の再来としよう。

 神が在らずとも、それに限りなく近い苦しみなき安住の地と成せば。

 己の犯した罪のほんの一部ぐらいは償えることだろう。

 

 

 降谷が差し出した手を取るものはいなかった。

 しかし、その先にまだ50階もの苦難が待ち受けていることだけは、紛れもない事実であった。

 

 

 

 

 

 無事送り込み成功!

 

 時間の流れが違うからタイミングを合わせるのに苦労したが。

 なんとかなった良かった良かった。

 

 一応、すぐにニャルからは連絡が来た。

 

 俺のハッキングを逆探知して怒鳴り込みに来たのだ。

 念話が繋がるやいなや、「聞いてませんよこんなの!!」と言って不満を露わにした。

 

『ちょっと!酷いじゃないですか!!チートツール使ってゲームバランスを崩壊させるのは荒らし行為ですよ!』

「ニャル。約束破って俺の身近な人でゲームやったな」

『…………え、えーっと。僕よく分かんないです』

 

 ニャル野郎は思い当たる節があったらしい。

 「あれかな…いやでも気のせいだと思ったし」などとしらばっくれている。

 

 よろしい。ならば戦争だ。

 

「お前は今後八つに裂いて1ヶ月ほど月の裏側に埋めます。封印もかけるので、一人寂しく反省しててください」

『えっえっえっ、嘘ですよね、そんな酷いこと僕にしませんよね?』

「地球だけ時間凍結して抱えて夜逃げしても良い。10万年ぐらい」

『ごめんなさい埋まります。反省してます』

「よろしい」

 

 夜逃げのワードを聞いて反省したニャルが萎れる気配がする。

 ホンマに地球抱えてヨグ=ソトースのいい感じのところに隠れてもええんやで。

 

 ニャルは愛想笑いして揉み手などし出した。

 

 でもニャルって基本口だけだから一瞬で忘れるしな。

 疑わしげにじろっと念話越しに睨め付けた。

 

「で、解放はしてくれるのか?」

『あと三十分ほどでクリアだと思われるので、そっちを待った方が正式クリアで心身にかかる負荷が少ないと思います。それにクリア特典付き』

「クリア特典はいらない」

『何故に……?』

 

 心底疑問みたいな顔をしているが、ニャル特典は大抵罠だからな。

 

 とりあえず、俺はニャルを埋める用意をせねば。

 今度という今度は絶対に許さぬ。

 穴も掘っとこ。出れないように頑丈に魔術かけてやる。

 大和警部たちの負傷具合によっては追加制裁も考えねば。

 

 

 そのように息巻いて、俺はソワソワドキドキとその時を待ったのであった。

 





・月の裏側に埋められるニャル
おそらくほんのちょっと反省する。
一週間経ったあたりで飽きて出ようとしてハスターにポカって殴られて埋め直される。
10日目ぐらいにニャルの一部が脱走しかけ、羽交締めにされて埋め戻される。
11日目以降、怒ったハスターが常駐して這い出てこないか監視を始める。
15日目までに28回の脱走。
17日目、モグラに適応したニャルが地下を改造して遊び始め、やむなく全部掘り出して縛って往復ビンタして黄昏の館に放り込む。
以後、ニャルは文句言いながらだらだらとネトフリ等を見ながら屋敷で暮らす。

・中での降谷さんとジン
ジンが割とマジに丸くなってるのに宇宙猫になりつつ、光堕ちするんならさっさと腹括れでなければ死ね!と蹴っ飛ばす役割を担う降谷さんです。
降谷さんは新飴によって人にギリギリまで近い感性になるとこんな思考になる。
実はデブる前の旧飴と仕組みが違うのでさらに人寄りになってた。、
でもジンはあの方に拾われた恩がとか言ってたが、残り50階層かけてジャンプ漫画みたいな激動がありつつ吹っ切れた。
友情・努力・勝利。
途中で諸伏兄もハスタに頼み込んでいい感じのタイミングで現地へ向かった模様。

文章にすると非常に長くなるので、改心し終えたジンニキがこちらです(三分クッキング次回へ続く)。
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