Nintendo Switch2が手に入ったから…。
改めて、俺たちはガラス製の机を挟んで話し合う姿勢を作った。
マモーさんが用意した茶葉で入れた茶が香り高く鼻をくすぐる。
ティーカップも滑るように上品で、なんだかワンランク上の会議のように思わせる。
降谷さんが紅茶を一口含み、静かに声を発した。
「急だが、カルコサ新党への拠点に乗り込むのは明日朝となった。場所は横浜だ午前三時には全ての配置を終えたい」
「うおお…本当に急だった。どうしたんだ?」
「米軍と少し調整で揉めた。基地内部が魔術によって完全に支配・洗脳されているということでな。話をすり合わせるのに手間取ったんだ」
「えらいことになってる件」
そりゃ日本警察がいくら調べても見つからないわけだ。
FBIが見つけられたのは、彼ら自身軍とは密接な関係があったからだろう。
しかし、そうなると相手は銃火器で武装している可能性が非常に高い。
鍛え上げられた多数の軍人が支配下に入っているということは、かなりの危険が予想される。
公安だけでの対処は難しいと言わざるを得ない。
俺の心配を読み取った降谷さんが顔を上げた。
「リニアテロの一件で、上は僕を有用な武力と認識した。銃火器を含めた物理的影響を全く受けず、ステルス性に優れた、………極めて危険な兵器だと」
「おい、それは」
「事実だ」
硬質な言葉は感情の色を含まず、ただ事実のみを口に出したという印象を深めた。
とはいえ、リニアテロで魔術師を単騎制圧したぐらいでそんな印象になるとは思えない。
おそらくこれまでのカルコサ新党への対応なども含めて、話があったのだろう。
このタイミングで危険視されたのは、警察組織外にも連携を要した過程で降谷さんの力が外部に漏れてしまったからか。
チッ、と大和警部が不機嫌そうに舌打ちした。
「胸糞悪ぃな。何とかならねえのかよ」と吐き捨てる。
しかし、降谷さんはその心配を挑戦的な笑みで打ち払った。
「問題ない。だから僕は警察組織内で足場を固めたんだ」
副総監、君永都は次なる警察庁長官を担うとされる権力の主。
その唯一無二の手駒にして後継を、排斥しようとする者は警察内部にはいないのさ。
そのように降谷さんは笑って宣言した。
銀髪マフィアがニヤニヤと揶揄うような様子を見せる。
「バーボン。やっぱりテメェ、サツどもを手中に収めようとしてたんじゃねえか」
「語弊がある。それに僕は正義とこの国の未来のために行動しているに過ぎない」
「降谷君。それは流石に黒幕のセリフ過ぎますよ」
「ドラマに出てくる思想犯みたいよね」
諸伏兄と上原さんにも追加攻撃されて、降谷さんはしおっと萎れてしまった。
そして諸伏さんに慰められている。
あと、その君永さんは現在進行形で降谷さんが放り投げた仕事の山に圧殺されているのだが。
まあいいか。
今の降谷さんなら多少攻性魔術の直撃を受けたって死にはしないだろうし。
「まあそんなわけで、僕が単騎で落とすことになったから心配いらない」
「そりゃ近代兵器群と木端魔術師の組み合わせなら、黒い風を当てておけば全部蹴散らせるだろうけど。雑じゃないか、計画?」
「きちんと僕が制圧したあと、捕縛のため人員が投入される予定だから問題ない」
なんとも開き直った作戦だ。
効率的だし一番被害が出る可能性が少ない方法だし、問題ないと言えば問題ないか。
降谷さんは咳払いした。
「次はこの間のシンガポールへの旧支配者降臨の件だ」
「うぐっ」
「これはようやくひと段落ついた。と言っても、日本は『関与していない、関係ない』の一点張りを通しただけだが」
これは米国とタッグを組んで行ったらしい。
怪異とは予測のつかない人間の管理外にあるものであり、日本国は本件に関与していない。
噂の出どころである米国もこれを認めて仲裁に入り、事態は有耶無耶になったと。
そういうことらしい。
俺は首を捻って要約してみた。
「んー、つまり米国とタッグを組んで隠蔽?」
「ははは、まさか。とはいえ、米国もすぐに納得はしてくれたよ。『神の実在を知るのは我々だけでいい』と」
ニタリ、と降谷さんはニャル笑顔で言い切った。
同じことを思ったのか、「殺しは控えろよ!」「飴足りてる?」などと周囲から野次が飛んだ。
可哀想な化身はまたぺしょりと萎びて諸伏さんに縋り付いた
「ヒロ……俺はもうダメかもしれない……」
『よしよし。俺はゼロのそういう物騒なところも込みで親友やってるからな』
「ありがと……ヒロが死にそうな時は言ってくれ……瓶詰めにするから……」
『やっぱ前言撤回していいか?』
べしってチョップを受けた降谷さんがクスクスと笑った。
前に比べて降谷さんもどこか精神的に余裕があるように見える。
自分の在り方を絡めた冗談も言えるようになったのだろう。
いい傾向だ。
諸伏さんも穏やかに笑って、安心しているように見えた。
「ともあれそうした取引もあって、黄衣ハスタ誘拐を試みた件に関しても、二国間で決着はついた」
「なるほど。よくそれで黄色の印の兄弟団が納得したな」
「あくまで国としての話だ。民間組織がどう動くかはまた別の話。米国が国内でどんなに苦境に立たされようと、それはこちらの知るところではないさ」
肩をすくめて降谷さんは言った。
とすると、公安も意外と仕事は片付いているのかもしれない。
あと何があったか。
カルコサ新党は明日だし、後は……。
「あ、ハスターリクは今」
「それはまだ」
食い気味に話を終わらせられてしまった。
降谷さんペカペカの笑顔で俺を黙殺しにかかっている。
今でこそ社会的なインフラは復旧して来ているが、まだ物流にはダメージが色濃く残っている。
電子マネーは全然使えないし、ニュースでも一部クレカのデータがおかしなことになって訴訟問題に発展したと伝えていた。
株価が荒ぶってアメリカでは大規模な市場縮小が起きた。
この経済的混乱を「サイバー・ショック」とか呼ぶ向きもあるらしい。
現場判断で踏み切ったには大き過ぎるダメージだ。
あの場ではああするしか他に道はなかったが、降谷さんは会議で針の筵だったかもしれない。
降谷さんは話を早めに打ち切って次の話題に移った。
「それはともかく。真面目な話は次で最後だ。こいつ、ジンの話だが」
むっつりと降谷さんが言うと同時に、コナン君が全力でこちらへと聞き耳を立てる気配が伝わって来た。
無関心に本を読むふりをしているが、子猫みたいな警戒の仕方だ。
「司法取引を予定している。例の組織の壊滅に向けて……というのは建前だが」
「建前?」
俺はきょとんと首を傾げた。
この銀髪マフィアは組織の幹部だ。
司法取引としては十分過ぎる情報源になると思うのだが。
銀髪マフィアがフン、と鼻で笑って足を組んだ。
「バーボンが取れる情報を差し引いちまえば、実働部隊の俺に降りてくる情報はたかが知れてんだよ」
「あー、そっか。降谷さん、組織でもニャルニャルしてるから意外と情報握ってるのか」
「その動詞なんなんだ。いや、とてもよくわかるが。よく分かる自分が嫌だが」
降谷さんがくしゃくしゃな顔をしてため息をついた。
となると、目的は銀髪マフィア自体か。
超一流の探索者だし、牢屋に入れとくのは勿体なさ過ぎる人材だしな。
「君の想像している通りだ。怪異対応に送り込んだり、ノウハウを纏めさせたり。コイツの使い道は山ほどある」
「チッ。テメェの指図を受けるわけじゃねぇよ」
「ほう、跳ねっ返りは教育しておかなければ組織の統率が乱れるな」
「テメェのナイーブなそよ風程度じゃ髪も乾かねぇんだが」
「まだその話をするか!ドライヤーが壊れたからって、そんな都合よく良い具合の温風が出るわけないだろ!」
降谷さんは憤慨して銀髪マフィアに噛み付いた。
黒い風はダンジョンでも意外と便利に使われていたらしい。
多分降谷さんも努力はしたのだろう。
ふわっとしたゆるーい黒い風で頑張って皆の髪を乾かそうとした哀れな姿が目に浮かぶ。
降谷さんはブスブスと文句を漏らしながら口をへの字に曲げた。
「あとこれはついでだが、そこの拾い犬の前の飼い主は僕らだ」
「本当か!」
「ああ。ダンジョンで飼われていて、脱出の時一緒に連れて来ていたんだが。転移で見失ってしまっていたんだ」
なるほど、犬はやっぱりニャル関連犬だったらしい。
だからゴールデン君も飼い主との再会にこんなに喜んでいるのだろう。
ここまで長い話だったが、ゴールデン君はみんな揃っているのに構ってくれないとご立腹だった。
ぴいぴいと鳴いて肘を鼻でつついてくるので、仕方なく黒服さんに遊んでもらっていた。
黒服さんは無表情で私物らしい骨型のロープをちらつかせて犬を釣っていた。
「でもそうか、コイツの飼い主が降谷さん達だったのか。うーん、そうだな。誰が引き取る?」
「一番ジンに懐いているし、コイツの方で一緒に暮らしてもらおうと思っている」
「オーケー。ならゴールデン君もその方が喜ぶだろうし、すぐお渡しするよ。もし良ければ新しいものを買うまでの繋ぎ用に犬用品も一緒に持ってくか?」
「……悪いな。それより、コイツは普通の犬なのか?」
ジンがお腹を見せて転がっているゴールデン君へとチラリと視線を向けた。
あんな空間で出会ったのだから当然の疑問だろう。
「体はゴールデンレトリバーだけど、たぶん本当はミニチュアダックスフントじゃないかな」
「!?」
「ダックスの子犬の魂を、大きな犬の体に入れたんだ」
「子犬が人気って聞いた」ぐらいの感覚でその辺にあった若くして亡くなったミニチュアダックスの魂をひょいと捕まえて。
「犬ってこんな感じの生き物だった気がする」ぐらいの適当なイメージでゴールデンレトリバーの格好にした。
そんなニャルの思考がトレースできてしまう自分が悔しい。
ニャルはそういう雑なところあるあるからな。
「ああ、道理で変な感じだと思った」と降谷さんが頷いている。
降谷さんは魂が見えるのだし、中にミニチュアダックスフントの魂が入ってたらそりゃなんか違和感は覚えるはすだ。
まあ、詳しい説明は順次していくとしよう。
ゴールデン君はついに飼い主さんとの再会を果たした。
めでたいことだ。
あとは明日に控えるのみ。
基本は降谷さんに任せておけば問題なく、加えて不測の事態を無くすため俺も後ろで見張るのだ。
ともあれ。
俺もしっかりと気合を入れねばなるまいよ。
・ドライヤー事件
コテージにあるドライヤーが突然動かなくなって、風呂上がりのジンが濡れ鼠になってしまった事件。
比較的髪長い勢の集まりだったため、皆大いに困った。
そこで降谷さんが自分の風をドライヤー代わりにしようと奮闘したのだが、出るのは首が折れそうな暴風と扇風機(弱)のみだった。
ジンはタオルを巻いて一晩を過ごし、翌日爆発したままダンジョン攻略に挑んだ。
帰ってくると、ドライヤーは元通り治っていた。
・降谷零の苦闘、抜粋版
声がする。
夜毎に脳の底を撫ぜ上げるような。
甘い甘い、誘惑の声が聞こえてくる。
【ねぇ、そこの男の首を持って来て地下に飾りませんか?きっと楽しいですよ】
断る。
そんなことできるはずかがない。
【想像して。裏切られて驚愕と苦痛に彩られた顔を。いたぶって、誰も気づいてないぞと耳元で囁くんです】
断る。
断る断る断る断る断る断る断る断る断る断る断る断る断ることわることわることわ。
飴がもうない。1ヶ月経った。
耳を塞いで目を閉じても、声は夜毎に聞こえてくる。
【とーっても、愉しいですよ?】
ことわる。
チロチロと脳の底を舐められるような、抗いがたい悦楽に思わず熱い吐息が漏れる。
だんだんと強く確かに脳を侵す愉悦を、布団を被ってただただ耐える。
そのうち。
今背を押したら彼は死ぬだろうと、そんな思考が頭をよぎることが増えた。
でもそんなことではつまらない。もっとたのしく。違う。ことわる。
【強がらないで。ほら、貴方の真の姿を自覚するんです】
悪夢はもう1ヶ月続いた。
降谷の奇行を皆が心配し出した。
頭がおかしくなって現実と夢想の区別がつかなくなっても、ただただ耐えた。
でもある朝ついに気付いてしまったので。
降谷はぱったりと悪夢を見なくなった。
【やっと気付いてくれましたか】
「………はい。僕はニャルラトホテプの化身、黒い風ですから。主人の、御心のままに」
降谷は恍惚と笑った。
朝日がカーテンの隙間から漏れている。
くるりと己が裏返った感覚が蕩けるほど心地よくて、とろんと瞳を宙に彷徨わせる。
ああ。
大いなるものの一部になって本能のまま動くことの、なんと甘美で幸福なことか。
【ではまず、あの男の首を取って、ダンジョンの柱の上に飾りましょう。軽いインテリアですね】
「仰せの通りに。ふふ」
神から使命を与えられた喜びに、くすくすと笑い声を漏らす。
羽虫がどんな顔をするか、考えただけで愉しくなった。
・ニャル谷さん打倒までの道のり
「成りたて」の降谷さんは特に陰謀を巡らせることなく直裁的に殺しにきます。
頭脳戦の必要はないので狙い目です。
全員で〈説得〉ロールを7回ほど成功させましょう。
降谷さんは半分正気に戻ってバグり出します。
それまで致死性の風の攻撃を躱し続ける必要がありますが、ニャル谷は嬲るつもりなので人間も避けられます。
その後、バグり散らかし大暴れするので、3ターン凌ぎます。
また、3ターン経過せずとも途中で一人死ねば正気に戻ります。
……そんなわけで諸伏兄をの心臓を抜き手で貫いた降谷さんです。
その光景がビル屋上で見た幼馴染の姿に被り、正気に戻ると同時に絶叫。
桟橋から身を投げようとしたのです。