やはり更新…へへ…。
まだ日も昇らぬ丑三つ時。
カルコサ新党捕縛作戦がスタートしたのだ。
横浜の突き出た埋立地に佇む基地は静まり返っており、夜の静寂と同化して見えた。
俺は離れた位置から、警察官に警護された車内で見守る俺たちは新メンバー。
俺、銀髪マフィアとコナン君の三人だ。
銀髪マフィアが加わった名目は「危険な組織幹部を拘束しておくため」。
しかし実際は、明らかに俺が独断で変なことしないか銀髪マフィアに見張らせるためだろう。
それを降谷さんから頼まれた際、銀髪マフィアは冷静に非難の声を上げた。
「俺に命が10個あったとして、このレベルの怪物を止められるわけねぇんだが」
「大丈夫だ。それは比較的聞き分けがいいから怒鳴れば止まる」
「俺に死ねってか」
軽く無茶振りされ、銀髪マフィアは憤慨していたようだった。
ニャルじゃないんだから怒鳴られたぐらいでぶっ殺したりしないわい。
まあ、例のダンジョンは95階層からは順番に旧支配者を掠めるゲームだったらしいし。
アブホースをはじめ、五体ほど見て旧支配者の悍ましさをよく理解してはいるからこその意見だとは思うのだが。
というか、ダンジョンのせいで、うち一体が地球圏に興味を持って近付いてきたんだよな。
本当にニャルは迷惑極まりない。
俺が狂ったみたいに全力の「魂の撃滅」を連打したら、「怖…近寄らんとこ…」となって去っていったが。
おととい来やがれ。
まあともかく今はカルコサ新党の対象だ。
唯一の入り口である橋は洗脳された米兵で固められている。
そのため、入り口から見えないよう奥まった場所に警察の部隊は待機している。
降谷さんだけが上空に身体を浮かべ、敷地を睥睨していた。
バンの中に積んだ複数の小さめのモニターは、毎度恒例ハスターの瞳に連結してある。
上空の降谷さんの姿、あと基地全体像などを映している。
これは作戦本部のモニターにもつながっており、向こうでも同様の映像を見ることができるようになっている。
銀髪マフィアがフン、と鼻を鳴らして腕を組んだ。
「便利だな。ドローンでも同様の働きはできるが、隠密性が桁違いだ。撃墜される危険性がないのもいい」
「おうよ。映った人間の技能や能力の数値化、魔術式の可視化と発動予定効果の検出もできるぞ。暗闇や煙幕でも視界確保できるし」
「………ゲームか何かか?」
ちょっと便利過ぎたらしい。
銀髪は訝しげな顔になってしまった。
でも「あればいいな」の機能を詰め合わせるとどうしてもそうならざるを得ないと言うか。
便利ならそれでいいんだよ。うん。
「黄衣さん、動き出したみたい」とコナン君が声をかけてくる。
降谷さんの映る画面では、黒い風が舞い踊っていた。
彼は本性を露わにして、人型の嵐として顕現し直したらしい。
空には暗雲が立ち込め、今にも雨が降り出しそうな空模様となっている。
雨が降ると突入時に面倒になるからか、降谷さんが降らせずに留めたようだ。
そしてその彼が今、上空から急降下する。
基地上空50mほどで、風に光が散る。
基地に張られた結界に衝突したようだ。
二重の魔術が構築されているようで、術式は……吐き気の魔法円と、ナーク=ティトの障壁か。
右下のHUDにも同様の表記が浮かんでいる。
吐き気の魔法円は、侵入者に強烈な吐き気を与えるデバフ系魔術。
ナーク=ティトの障壁は純粋な物理・魔術障壁だ。
当然、三分身を止めた完全体降谷さんの前では障子よりも脆い物でしかない。
両結界をぶち破り、敷地内への侵入を果たす。
それでも一応鳴子ぐらいの役割にはなったのか、内部から幾人もの人員がわらわらと慌ただしく出てきた。
銀髪が眉間に皺を寄せて俺に質問を投げかけてきた。
「バーボンの野郎には鉛玉は効かねぇ。奴らはどうする気だ?」
「それは対策してるみたいだな。ほら、銃が薄く発光してるみたいに映ってるだろ?これは魔力が付与されてるのを視覚的にハスターの瞳が表してるんだ」
「魔力を付与する」は魔術的な道具を作成するときの常套手段だ。
「刀身を清める」なんかが一番典型的な付与魔術かな。
非実体の怪物に刃物で切りつけたいときの必須魔術である。
コナン君がチラチラと銀髪マフィアの顔を見上げている。
どうも銀髪マフィアが気になって仕方ないらしい。
お、洗脳された兵隊さんたちが発砲した。
銃弾にも魔力が込められているようだ。
油断して正面から受けた降谷さんが「っ!?」と少し驚いている。
痛みとしては全弾合わせて子猫に引っ掻かれたぐらいか。
今の降谷さんは、ヴルトゥームの種子とか、ちょこっと顕現ハスターリクとかその辺の規模だからな。
魔力を込めた銃弾程度、じゃれ合いにしかならない。
その辺は本能で察しているだろうが、念には念を入れることにしたらしい。
風を散らして目眩しとした。
そして同時に米兵を風で素早く拘束、酸欠を利用して意識を奪ったようだ。
次々現れる虚ろな顔の米兵たちは、マシンガンの一斉掃射やら、手榴弾の投擲で降谷さんを攻め立てる。
しかしその全てがいなされて、風の繭に包まれて無力化されていった。
「この戦力がいても苦戦するゲームだったんだ…」とコナン君がドン引きしたように声を漏らした。
銀髪マフィアが重々しく頷いた。
「リドル(謎解き)も多かったし、兎角変なゲームじみたギミックで殺しにくることも多かった。命を張ることを無視すりゃ、餓鬼向けだったかもな」
「へ、へぇ…」
思ったより普通に返されて、コナン君が引き攣った声を出した。
銀髪マフィアはコナン君のことを一ミリも覚えていないらしい。
話している間にも、制圧は進んでいく。
降谷さんがふわっとした風の腕を前に出して、広大な基地内全てを風で掌握。
真っ黒になった視界が一瞬塞がってしまう。
それもハスターの瞳の効果ですぐに調整し、クリアな景色が戻ってくる。
黒い風が晴れた頃には、もう敷地内に動くものの気配は無くなっていた。
しかし、それは敷地内だけだ。
外の海では、潜水艦がゆっくりと静かに沈んでいく。
それと同時に敷地全体の土とアスファルトとが眩く発光した。
超巨大な魔術陣が刻まれたそれは、紛れもなく彼らの切り札。
長い儀式と、正しい知識と、大量のMP。
それらが全て揃った、教団規模の魔術の発動。
「黒い風の退散」である。
これだけのMPをどこから…と思ったが、米兵から毟り取ったのだろう。
直撃すれば、流石の降谷さんも地球外に放り出されることは間違いない。
まずいかな、と思って遠くまで射出されないように地球上空へ防護ネットを敷いておく。
おそらく、ここまでの流れを見るに「対黒い風」を想定して徹底的にこれまで準備してきたのだろう。
米兵を盾に時間を稼ぎ、銃弾に魔力を付与しての攻撃。
風の届かない海の底に逃げる手腕。
敷地全てを使った退散魔術。
狂人の集いにしてはかなりクレバーな戦略だ。
トップがかなり頭が回る人なのかもしれない。
どうする、と俺が眉を顰めていると、画面の向こうで降谷さんがニヤリと笑った。
魔術が発動し、強い魔力光で満たされる。
光が消えたそこには。
何事もなかったように、降谷さんが立っていた。
その姿は風の形態をやめて人間型。
人の枠を超えた美を携えて、スーツ姿でくすくすと笑う姿すら息を呑むほど美しい。
すう、と愉悦に満ち満ちた陰惨な顔で。
降谷さんは敵の思惑を嘲笑した。
【嫌ですねぇ。せっかく僕が優しく捕らえてあげようと言っていたのに】
おっと?
俺は動揺して中腰に立ち上がりウロウロした。
これはニャルってないだろうか。
米軍の人が死ぬ前に一発殴って処すべきか?
というか「黒い風の退散」が効いてないってことは……。
そんな俺の様子を、銀髪マフィアが目だけで制した。
その顔には余裕の笑みが浮かべている。
信頼、と言い換えるべきだろう。
彼を見上げるコナン君の困惑が深くなる。
その幼い視線を気付くことなく、銀髪マフィアは堂々とこう宣言したのだった。
「まあ見とけ。奴も、あの地獄で多少は成長してるってこった」
・宇宙空間にて「魂の撃滅」連打
旧支配者ハスターがよくやる威嚇の類。
人間で言うなら、路地で充血した目のおじさんがデカい斧を振り回してFワード連発してる感じ。
因縁付けられたら困るので、大抵の神格はUターンする。
怖……近寄らんとこ…。
・コナン君
急に仲間入りした銀髪に動揺が隠しきれない。
別に自分が毒薬を飲まされたのは自分が間抜けだっただけだからいいけれど。
でも。
目の前で明美さんを殺したのは、こいつだったから。