警官達が帰った後は、軽く当時のことを降谷さんに説明を受けた。
現在、諸伏さんは暗号の答えと思われる場所へ向かっているらしい。
罠であることを想定し、面が割れてるからと非実体となった状態で偵察するとのこと。
降谷さんはソファで6本腕ペンダントを羽交締めにしながら、ギリギリと暴れるペンダントを押さえつけている。
「君が最近術式を改良してくれたおかげだな。潜伏・追跡に恐ろしく長ける霊魂状態と、実体を己の意思で使い分けられるのはかなりの利点だ」
「喜んでくれてるようで嬉しいよ…というかもう松田さん許してやれよ」
「断る」
『このっ!公安ゴリラ!無駄に怪力しやがって童顔ゴリラ野郎!いだだだだだ!?』
無言で降谷さんは関節を逆に締め上げている。
怯えて部屋の隅に隠れる風見さんを添えて。
ちなみに、諸伏さんの「実体・非実体を切り替える術式」は最近実装したものだ。
仕組みとしては比較的単純。
しかし、緊急の時でも自在かつ瞬時に切り替えられるように各所を工夫してある。
魂の本能的部分と結びつけて、己の手を動かすように自然に、直感的になるようにデザインしたのだ。
これなら鉄火場での運用も支障あるまい。
コナン君が自分用の事務スペースに座り、頬杖を突いて問いかける。
「けどどうするの?目暮警部達には探偵事務所にいることがバレちゃったけど」
「あらゆる面で黄衣探偵事務所の立場を捨てることはできない。今後彼らには口を噤んでもらうしかないだろう。ふむ。後腐れなく地方に飛ばすか?」
『どうしてテメェはいちいち外道働きしかできねぇんだよ。何かの病気か?』
「外道働きって言うな。このまま腕毟るぞ」
降谷さんがブスくれながら、ようやく松田さんを解放した。
普通に外道働きなので言い訳できなかったのだろう。
6本腕のペンダントはしゅんっと逃げて風見さんの頭上へ乗った。
イシツブテを頭に乗せてる人みたいな絵面である。
風見さんはますます縮こまって、蚊の鳴くみたいな声で「勘弁してください…!」と悲鳴をあげた。
哀れすぎる。
半笑いのコナン君が一言。
「前から思ってたけど…安室さんってさ…」
「やめてくれ!そんな目で俺を見ないでくれ!」
コナン君の半分見下したような顔に、頭を抱えて蹲ってしまった。
無垢な子供の姿で呆れられられるとこう、心にクるものがあるのは間違いない。
ともかく今は降谷さんで遊んでいる場合ではない。
コナン君が再度確認するように俺を見た。
「怪異系の案件じゃないんだよね?」
「うん。完璧に人間の仕業だよ。現時点で魔術の気配もなし」
「ならいい。僕とヒロは面が割れている。黄衣君は待機として、風見には動いてもらう機会が多くなる」
「はいっ!」
「封印されし俺」
「黄衣君はくれぐれも変なことをしないように」
めちゃくちゃ念を押されてしまった。
「本当は地下シェルターに封印しておきたかったんだが」とか言われてますます不服。
俺が何をしたって言うんや、オォン!?
ふと地下、のワードで思い出したことがあったので皆に連絡しておく。
「事務連絡だけど、本日正午にニャルが刑期を終えて解き放たれました。各自注意してください」
「!?!?!?!?」
降谷さんがガバッと立ち上がって魂の叫びを上げた。
「馬鹿な!?なぜもうちょっと封印しておけなかった!!」
「無茶言うなよ。ゲームとサブスクと娯楽全部駆使してもこれが限界だよ。でも毎晩ちゃんと屋敷に帰るって約束させた」
「実質放流じゃないか!!!」
降谷さんはあまりのことに絶叫しておられるようだ。
動揺のまま懐の飴をさがして手を彷徨わせ、机上にあることに気づいて無心で貪り出す。
トラウマは深いらしい。
でも、毎晩屋敷に帰ると約束させたのは本気で快挙なんだがなぁ。
正確には、「日が暮れてからは家にいること」だが。
実質一日の半分もの間、ニャルの位置を限定したに等しい約束だ。
夫婦とはそう言うもんだで納得させたからこそできた約束だが。
俺も時間的に折りたたんで分身、夜はニャルと過ごすようにした分身や化身の行動は制御していないことはご留意ください。
松田さんが「あん?ニャル?あー、ゼロに寄生した激ヤバ怪異だっけか」と首を捻って…否、腕を捻って聞いて来る。
おおよそ合ってるから補足説明はしなくていいか。
俺は雑に頷いてそれを肯定した。
「ともかくニャルは注意するのと、俺は出禁、暗号解読済み、多分罠、諸伏さん待ち。あとなんかあったっけ」
「……俺としては、3年前の例のペストマスクが爆弾犯の留置所逃走を手引きしたのではないかと思っている」
『へぇ?』
松田さんが面白そうに風見さんの上で腕を組んだ。
「押収した爆弾は公安での調査中に爆発し、死傷者が出た。あの被害者の男が誰なのか、なぜ監禁されていたのか、ペストマスクが誰なのか。分かっていない事は多い」
『わかるのなんざロシア語話してた程度だもんな』
「!!それなら野次馬の中にロシア語話してた人いたよ!」
「ッ本当か!?」
降谷さんが目を見開いた。
俺も現場にいたのに全然気づかなかったのに、流石コナン君。
怪しい人を見逃さない死神の目だ。
……などと考えているのがバレたのか、コナン君にジトッと睨まれてしまった。
風見さんも同様に「流石だな…!」と感嘆をあらわにしている。
コナン君は頷いて、その時聞いた話を説明してくれた。
「女性の人だった。泣きながら『必ず仇は討つ』って。そう言ってた」
「………犯人を見つけてみせる、じゃなくて仇は取る、か犯人に心当たりがあるということか?」
「コナン君、その人物は何処へ?」
風見さんに問われたものの、コナン君は首を振って「野次馬に隠れてよくわからなかったよ」と言うのみだった。
難しいことだ。
なんにせよ、あとはハロウィンを警戒しつつ諸伏さんの帰りを待つのみである。
その頃。
ニャルラトホテプはマンネリに悩まされていた。
羽虫に紛れてぶらぶらと雑踏を歩いてみるものの、イマイチいい思い付きが得られない。
暇だ。それに新鮮味に欠ける。
加えて結婚式に向けてまだ出し物が決まらず、期限が迫ってイライラしている。
いつもの女性型で街を歩いたのも悪かった。
寄ってきた羽虫が神の許可も得ずに無断で声をかけててくるし。
TVメディア関係者だとか抜かす羽虫がしきりに喚き立てる。
ニャルはもう手当たり次第に羽虫をプチプチしようかとも思ったが。
それもつまらないと自らの発想を罵倒した。
そんなんではダメだ。
そんな凡庸な発想で、神の生ですら一生に一度の超ビッグイベントをこなす資格はない!
己を叱責し、ニャルラトホテプはひたすら悩んだ。
思い返せば。
100層ダンジョンは涙あり笑いありでかなり楽しかった。
自身の手先と化した化身も「素晴らしい催し物ですね!」と笑顔で褒め称えていたし。
まあまあ、羽虫遊びの完成形だったのではないかと今では思っている。
すると問題になるのは、今後どのような遊びを行うかだ。
安易な発想では片手落ちの二番煎じ。
奇をてらいすぎればただの色物。
非常に難しい、あまりにも難しい問題だ。
ゲームもドラマもそろそろ飽きた。
現実にないご都合主義も美味しいものだが、やはり物語は生に限る。
そのように心を決めて、面白そうなイメージを求めて街を彷徨う現在である。
そこでふと。
こそこそと地下貯水槽へと降りていく羽虫達の姿を見つけた。
羽虫はあまり光の入らない地下は好まない。
好き好んでこう言うことをする奴らは大抵面白そうな何かをしているものだ。
気まぐれについていくと、その先には羽虫の一団が潜んでいた。
何やら陰険そうな気配を漂わせ、話し込んでいる。
どうやら誰かを探し出して殺そうとしているらしい。
これだ!とニャルは目を輝かせた。
大都会探し人スペシャル!
見つけ出して殺さねば街まるごと死あるのみのドキドキ大規模作戦!
その手のwebコミックを読んだことがあるニャルは、天啓にニンマリと笑った。
見事殺した人には豪華プレゼントとか。
一定時間ごとにビル壁面のデジタルサイネージでヒントを出してもいい。
来たる死を回避するため隣人すら疑う民衆達。
疑心暗鬼に殺し合う人々の中、息を潜めて生存の根を探る鬼役。
チープでありきたりではあるが、いい催しになるかもしれない。
流石に自分が街を破壊したらハスターに怒られるが。
街を破壊するのは自分でなければいい。
例えば、犯人が自爆するとか、その辺でも何も問題ないわけだ。
好都合なことに、この羽虫達の仇は街を吹っ飛ばすに足る大量の爆薬を抱えている。
まるでゲームの為に誂えたかのような人材だ。
実に素晴らしい。
ニャルは自画自賛して細かいルールを練り始めた。
流石に結婚式に使うには規模が大きすぎるが、インスピレーションを膨らませるには十分だ。
ハロウィンまであと一週間。
イベントは合わさるべきだ。その方がより楽しい。
そのようにして、ニャルラトホテプはクスクスと邪悪な笑い声を漏らしたのだった。
・旧支配者ハスターのコメント
離婚届の用紙ってどこで手に入りますか?
結婚式のために渋谷でデスゲーム開催されるとは思っても見ない人。
実は結婚式は来月を予定してる。家族枠として、ヨグ=ソトースから一抱えほど収穫した虹色に湧き立つ泡などを飾る予定。
魔術で加工してSAN値チェックが起こらないようにして、ただの展示物に装う予定。
新婦側の家族は収穫中に2度ほどニャルが消し飛ばされたため諦めた。
アザトースはちょっとな…難しかったか。
・化身「黒い風」
やめてくれ。気持ちはわかるがそれをされると本気でアレの制御ができなくなる。
夜な夜な話しかけれて「結婚式の出し物決まらん」「何がいいかな?」「いいデスゲーム案出せ」などと脅されている。
うーん、本体…無難にウェディングビンゴとかにしておけ…奇を衒うな…うーん