ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

178 / 469
ハロウィンの花嫁〈かくれんぼ〉

 

 少しばかり面倒なことになったかもしれない。

 

 帰ってきたら諸伏さんには収穫はほとんどなかった。

 「奇妙な爆弾付きのメカが一つ落ちていた」のみだった、と諸伏さんは訝しげにしていた。

 

 それから2日ほどすると。

 

 今度は警視庁捜査一課のメンバーが一人攫われた事件が起きた。

 「松田陣平を出せ」と言われたので、高木刑事が松田さんに直々に指導を受けながら犯人グループと対峙した。

 

 そこにおいても成果はほとんど無かった。

 おそらく爆弾犯はプラーミャと呼ばれるロシアのエージェントであること。

 それを追って被害者会である彼ら…ナーダウニチトージティが日本にやってきたということ。

 わかったのはそのぐらいだ。

 

 ちなみに、高木刑事の演技は途中からほぼ全てアドリブだったが、同期達に高い評価を得ていた。

 降谷さんも諸伏さんも「100点」「これは100点満点」「実質松田本人」などと褒め称えていた。

 松田さんのみは「俺あんなん言うか?」と懐疑的だった。

 二人は声を揃えて「言う」と断言。

 

 高木刑事の解釈力の高さを見せつける形となった。

 

 

 なんにせよ、犯行予告を受けとって三日経っても事態は膠着状態のままだ。

 

 なんとなく嫌な予感はしていたので、俺も気をつけてはいたのだが。

 きちんとニャルは約束通り毎晩家に帰ってきたので油断していた側面はあった。

 

 「なんか企んでる?」と聞いても「どれのことです?」って言われておしまいだったし。

 企んでるか否かで言ったら企んでない時間なんて無いニャル野郎である。

 全部聞いていたら日が暮れるどころか人類が滅亡する。

 

 そうして。

 ハロウィンまであと三日に迫った、昼のことである。

 

 突如、渋谷のビル群に輝くデジタルサイネージが、ことごとく何者かにジャックされた。

 

 

 我が名はプラーミャ

 これよりゲームを始める

 

 ルールは簡単

 ハロウィンの日の午後3時までに私を見つけ、殺害すること

 参加者はこの街を守らんとする全てのものだ

 

 もしそれが叶わなかった場合、渋谷は見渡す限りの瓦礫の山と化す

 

 これは互いの生存をかけたゲームである。

 健闘を祈る

 

 

 同様にTVも省庁のWEBサイトもハッキングされて同じ文面を映し、世間は一時騒然とした。

 メディアは緊急特番で持ちきりとなり、この脅しが真実か否かを喧喧諤諤に騒ぎ立てた。

 

 そこでやっと、俺はある種の確信を得ることができた。

 探偵事務所の椅子に座って、その場でニャルラトホテプへと念話を繋ぐ。

 

 すぐにそれは繋がり、ニャルは至極上機嫌そうに笑いを漏らした。

 

『───ニャル、これお前の仕業だよな』

 

 ニャルラトホテプはクスクスと笑って、俺の詰問を堪能したようだった。

 

『いえ。僕はただその背を押しただけです。僕が始めたことじゃありませんよ?』

『でも小火だった火事を大規模火災にしたのはお前だろ』

『最後に起こる目玉イベント「見渡す限り瓦礫の山」ってのは犯人が自分で準備したやつなのでノータッチです』

『ウッソ犯人ヤバすぎか?』

 

 稀に見るやばい犯人だったようだ。

 

 ニャルは大嘘つきだが、この手のことに嘘はつかない。

 奴がクライマックスに持って来るレベルの爆弾を用意するとか、とんでもなく頭おかしい犯人に違いあるまい。

 

 とりあえず一通り情報を聞き出してから、ニャルのいる渋谷の街に転移。

 

 喜ぶニャルを路地裏に引き摺り込み、その場で拘束。

 グルングルンに封印した。

 

 「おお、これが家庭内DVってやつですか?」とか言い出したニャルをポコって殴ってから、射出魔術を形成。

 組成を読み取ったニャルが「!?!?」と驚愕した様子を見せた。

 逃げ出す前に再び封印を重ねがけする。

 

 今回の射出先は、王宮におわす副王ヨグ=ソトース本体の元だ。

 

 ヨグ=ソトースは何かにつけて俺に優しい。

 耐えかねた俺がニャルを送りつけると、そのまま捕らえて、アザトースの触手で軽く炙ってくれるのだ。

 アザトースの触手は多次元宇宙を創造するほどに膨大なエネルギーを秘め、王宮を焦がしながら常に揺蕩っている。

 それでちょいと炙れば、すっかり焼き上がったこんがりニャルの完成である。

 

 流石のニャルも泣きながら捨て台詞を残して王宮を飛び出すしか無い、確実なお仕置き手段の一つだ。

 

 ミゼーアさんのもとにのし付けて送り出すことも考えたのだが。

 そうすると、流石に結婚式に間に合わなくなるだろうと俺の温情が働いた。

 

 どうしてこんなになってもまだ結婚式する話をしてるのか。

 これがわからない俺である。

 

 暴れるニャルを問答無用で射出。

 ヨグ=ソトースが受け取ったことを確認してから、俺は一息ついた。

 

 

 そのあたりで電話の着信あり。

 相手は降谷さんだ。

 

 出た途端「警視庁14階の会議室に今すぐ来い」とのお達しだけがあった。

 

 コナン君は学校だし、ともかく事務所を閉めて急いで俺だけで向かうこととする。

 

 

 

 

 会議室に入ると、すでにメンバーは揃っていた。

 

 降谷さん、諸伏さん、風見さんに松田さん。

 加えて上座に公安信者さんが座している。

 偉い人筆頭たる公安信者さんの姿に、風見さんがカチンコチンになっている。

 副総監だっけか。警官の階級はよくわからない。

 

 上から下まで集まっているのは、ニャルがやらかした可能性を考慮に入れてのことだろう。

 

「お待ちしておりました、神よ」

「いいって。いつもご苦労様、君永さん。激務だったんだろうけど、あまり無理しないようにな」

 

 深々と頭を下げた公安信者さんはげっそりと痩せたように見える。

 一時期みんな働きすぎだったもんな。

 俺の労りの言葉を受けた公安信者さんは、目に涙を溜めて震え出した。

 

 ちなみに五体投地しないのは俺が止めてと再三お願いしたためだ。

 代わりに立ち上がって折れ曲がらんばかりにお辞儀しているが。

 

 ともかく、本題に入ろう。

 降谷さんが書類を手に、改めて口を開いた。

 

「今朝のニュースについては聞いているな。外なる神ニャルラトホテプは本件に関わっているのか、再度確認願いたい」

「それならさっきニャルを締め上げたら吐いたよ」

「ッ!なんだって?」

「元々危険思想の犯人がいて、それに便乗してお遊びを開催したらしいんだ」

 

 個人名はニャルが認識していないので省略。

 

 犯人は元々、自分を知る全てを殺害しようとしていた。

 そのために着々と準備を進めていて、最後には渋谷に関係者をおびき寄せて街ごと爆破することを目論んでいた。

 

 東都タワーの犯人逃走もその一貫だ。

 暗号で呼び出させた人間に首輪をはめて、渋谷に降谷さんを呼び出すつもりだったらしい。

 

 が、そこに邪神がダイナミックエントリー。

 

 犯人を核に大規模なかくれんぼを計画。

 期日までに見つけられなければ、犯人が用意していた爆弾が爆発するという筋書きを描いたのだ。

 どっちにしろ渋谷は吹き飛ばされるが、吹き飛ばない芽があるだけニャルゲームの方がマシという最悪具合である。

 

「詳しい爆破範囲は?」

「『羽虫の爆弾をそのまま流用したからよく見てない』らしい。スクランブル交差点を中心に半径3kmぐらいは吹っ飛ぶかも、ぐらいのことは言ってたけど」

「………東都タワーの件の犯人はどうなった?プラーミャが隠れ役だろう。残った奴は何をさせられている?」

 

 それに関してはちょっと言いづらい。

 だが俺も呪ってやろうとは思っていたし、人のこと言えないからな。

 

 俺は少し視線を逸らしながら、ニャルの発言をそのまま復唱した。

 

「『いらないから潰して捨てた』と。そう言ってた」

「………クソが」

 

 降谷さんが舌打ちした。

 公安信者さんが「神の御前だ。控えろ」と厳しく注意する。

 むっつりと松田さんの不満げな視線を受けて、針の筵を感じざるを得ない。

 

 降谷さんが深いため息をついて首を振った。

 

「ともかく、それなら避難範囲は大体わかっている。経済的影響は大きいが、渋谷一体から民間人を避難させれば済む話だ」

「いや、現状それは悪手だ」

「何?」

 

 眉間に深い谷を刻む降谷さんに、俺は言葉を選ぶべく長い母音を垂らした。

 避難しようとすることぐらい当然ニャルも想定していた。

 わざわざ結界で閉じ込めなかったのは、避難するよう行動を誘導していたのだ。

 

「すでに未来が先取りされてるんだ。爆発があったこととして、群衆の身体には炎の記憶が植え付けられてる」

「………どういうことだ?」

「避難させても無駄ってことだ。時間になれば、『その場にいるはずだった人』は小型爆弾のように破裂する」

「ッ!!!」

 

 限定的な未来の取捨選択だ。

 家族団欒を楽しむ人々は、不意にその家や大切な人を吹き飛ばす記憶の再生機と変化する。

 

 この術式を普通に解呪するには、俺でも最速で4日かかる。

 時間を折りたたんでも、これそのものが時軸に関わる術式であるため無意味。

 

 つまり間に合わない。ジ・エンドである。

 無理をおしてこれを短縮するためには、俺が渋谷のど真ん中で元の姿をさらし権能を使う必要がある。

 しかし、無数の人がいる渋谷でそんな暴挙を働くことこそ不可能だ。

 

『つまり、あのペストマスク野郎…プラーミャを探し出す必要があるってわけだ』

 

 松田さんの挑戦的な声が響いた。

 

「───ああ。ニャルのことだから、頑張れば見つけられるように、ヒントをたくさん残していると思う」

『クソッタレ。いい度胸じゃねーか。人間舐めんなよ。なぁ、ゼロの旦那?』

「俺に話を振らないでくれ。頼む」

『?便所か?早く行ってこい』

「違うふざけるな第一今の僕は便所はいかない」

『アイドルじゃねーか』

「もっと違う!!!」

 

 風見さんが青白い顔で胃薬を飲み込んでいる。

 同期系コントをまるで無視して、公安信者さんが「では我々はなんとしてでも、ハロウィン当日までにプラーミャを見つけることに注力すべきですね」と冷静にコメントした。

 

「ああ。ニャル自体は処したから、しばらく大規模な行動は取れないと思う」

「かの邪神を誅する御力、偉大なる神の慈悲に感謝いたします」

「いいっていいって」

 

 やることは単純だ。

 プラーミャを見つけること。

 

 俺たちが渋谷を救う現状の唯一の手は、それのみなのである。

 





・ニャル焼きの刑
料理人ヨグ=ソトース。
送り付けられたニャルを串に刺して、焚き火でマシュマロ焼くみたいに軽く炙るだけ。
ヨグ=ソトースの行動の真意は不明だが、焼かれたニャルは「白痴盆踊り集団!馬鹿!アホ!」と捨て台詞を残して半泣きで逃亡する。
無論アザトースに焼かれてタダで済むわけもなく、しばらく弱体化する模様。


・プラーミャさん
邪神に魅入られて夜も眠れない。
村中警視正が不眠の彼女を心配してくれているが、「鬱陶しい奴だ」としか思ってないサイコパス。
有象無象に自分の正体が見破れるはずがないと思っているが。
爆発後、あの化け物が自分を生かして解放するはずがないとも思っている。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。