ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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10億円強奪事件&降谷零の嘲笑

 

 動きがあったのは、お昼ご飯を食べに近所の中華料理屋に行ったあたりだった。

 

 犯人追跡メガネで組織の女に取り付けた盗聴器の様子を確認していたコナン君が、突然立ち上がったのだ。

 

『どうした!?何か動きでもあったのか?』

「銃声だ!盗聴器の近くで発砲があったんだ!」

 

 思わず立ち上がって駆け出そうとして、コナン君は急ブレーキをかけた。

 焦り表情で俺を見て、「……ッ!」と眉間に皺を寄せる。

 どうやら俺に張り付くべきか事件現場に向かうべきかで迷っているらしい。

 

 俺は「こっちは大丈夫だから事件現場に向かえ!」と声をかけてサムズアップ。

 人死の恐れがあるという意味なら、発信機の先の方がよっぽど可能性が高い。

 コナン君が留守の間に俺が襲われる可能性もゼロじゃないが、俺はどうしたって死ぬことはないからな。

 

 コナン君はわずかに逡巡した後、机に立てかけてあったおもちゃのような色合いのスケボーを取り出し、そのまま店を飛び出して駐車場へと向かう。

 勢いよくスケボーを下ろし、その上へと飛び乗ってカッ飛んでいくのが窓越しに確認できた。

 

 うーん、相変わらずぶっ飛んだ発明品であることよ。

 伝え聞く阿笠博士の作品らしいが、割と高確率で魔術さながらの性能を発揮するのはどういう理屈か。

 

 あっという間に見えなくなった後ろ姿をぼんやり見ながら、俺は残っていたデザートの杏仁豆腐を一掬いした。

 

 ちなみに、諸伏さんもコナン君の後を追いかけるように飛び出して行ったようだ。

 「幽霊ダッシュ!!!」とかいいながら頑張って障害物をすり抜けて最短距離をかけてゆく。

 意外と速度が出ているが、あの爆走スケボーに追いつけるかは五分五分だろう。

 

 残されたのは俺一人。

 仕方ないから会計を済ませた後にゆっくりコナン君達の後を追おうか。

 そのように算段を立てていると。

 

 ふと、俺のスマホが着信を伝えてきた。

 表示された名前は公安信者さんのものだった。

 何かあったのだろうか。

 

「はい、黄衣です」

『神の忠実なる僕、君永でございます。大いなる方の時間を奪う不忠をお赦しください』

 

 相変わらず大袈裟な口ぶりだが、今回は何だか様子がおかしい。

 声がめちゃくちゃ震えている。

 引き付けを起こしているかのように呼吸も不自然だ。

 

「別に構わないって。それで、何の用だったのかな」

『この度は、御身に数々のご無礼を、私の部下が……御身を害するというあまりに罪深い、……所業を、』

 

 いよいよ声の震えがひどくなってきた。声が聞き取りづらい。

 

「え、ああ。あのバーボンっていう金髪潜入捜査官さんの件か?あれは別に―」

『奴の首と臓物とを切り分けたのち!!私も御身に血と肉と脳漿を捧げます!!お赦しを、お赦しくださ、もうし、もうしわけ、ありま、』

「いらないいらないいらない!!!別に気にしてないからグロテスクなのは止めて!!!」

 

 ついに決壊したらしい。電話越しでもダバダバに泣いているのがわかる。

 しかし困ったな。本当に気にしてないのに。

 信者さんも責任感が強過ぎる。

 

 裏社会の人間として動いている以上、非道な所業にも手を染めねばならない時もあるだろう。

 むしろこうして被害にあったのが俺で幸運だったぐらいだ。

 実質死傷者ゼロなわけだし。

 

「仕事だったんだろ?しかも警察として、組織を壊滅させるために必要な仕事。なら俺だって別に咎めることはないって!」

『ですが御身に…玉体に傷を…』

「コンマ秒で治る程度の傷だからノー問題!というか人の生首貰っても困るから!!!済まないと思うならこれからもしっかりお巡りさんとしてみんなの生活を守ってくれ!」

『………!!神よ……おお……我が信仰を捧げます……!』

 

 もはやぐちゃぐちゃで何を言っているのかほとんど聞き取れない。

 言葉全部に濁音がついてるみたいだ。

 

 しかしフィーリング八割でなんとか聞き取れた言葉から考えるに、ひとまず一件落着のようだ。

 いや、まだ油断できないか。

 ケジメつけるためとか言って金髪イケメンの生首がクール便で送られてくる可能性も否定しきれないし。

 真面目に仕事してるだけなのに、後ろから刺されるのは流石に可哀想すぎる。

 

 まあ、死体蹴りの件に関しては俺もまだ許してはいないが。

 とはいえもやっと来たという程度だし、死んで償えとかいうつもりもない。

 

 諸々を鑑みて、俺も一つ手を打っておくべきか。

 

 具体的には、念のため今後動きやすいように、俺の顔通しぐらいはしておくべきか。

 加えて信者さんがこんなに日々の仕事を頑張っているのだから、俺も多少の協力はやぶさかではない。

 

「あー、今後こういう事がないように金髪の捜査官さんとは顔通ししておきたいんだが、都合のいい時間とかあるか?」

『!!!今すぐ呼び出します!ご都合の良い場所等はございますか!?』

「お、おう…じゃあ前回使った貸し会議室とかで…あと無理はしなくていいからな?」

『我が神の御心のままに!!!』

 

 勢いに押された形で素早く決定した後は、日程調整の時間だ。

 15分ほどすると、折り返しの電話で信者さんから一時間後に会議室に集まる事ができる旨が伝えられた。

 潜入捜査官ってそんなカジュアルに呼び出せるものなのか?と若干胡乱な顔になる。

 

 ともかく。

 あの金髪イケメンに会えるのは俺としても渡りに船だ。

 

 今日の爆発の際、びっくりし過ぎてちょっとあの金髪イケメンに意識を向け過ぎたからな。

 

 本来、旧支配者は人間とは比ぶべくもない極大規模の概念存在。

 ほんの眼差し一つ、身じろぎ一つで矮小な生命の魂が崩落するほどの「差」なのだ。

 

 例えば旧支配者クトゥルフ。

 奴は俺が念入りに眠りの内へと追放したが、それでも微睡のうちの思念波一つで多くの人が発狂し、死んでいった。

 

 そんな旧支配者の一柱である俺がだ。

 あの爆発の瞬間、びっくりし過ぎて金髪イケメンさんを注視してしまった。

 

 まだ時間が経っていないから大丈夫だとは思うが…。

 そのまま魂が溶解して発狂死とかしたらあまりに申し訳ない。

 そのため、これは悪影響が出ていないか直接確かめる良い機会になるだろう。

 

 俺はデザートの杏仁豆腐を食べ終わってから、残り一時間、どのように時間を潰すかぼんやり思いを巡らせた。

 

 

 

 

 

 

 さて、一時間後。

 やってきました東都内に佇むオフィスビルの一角、以前と同じ…ではなく同じフロアの別の貸し会議室。

 前使った部屋はすでに予約で埋まっていたのか、二つ隣の会議室が集合場所になっていた。

 

 部屋の前まで来て以前の嫌な思い出が蘇り、若干入室を躊躇うなど。

 あの血まみれの儀式場はもういらないと伝えてはあるけれど、狂信者は話を聞かないからな…。

 

 しかしこうしてウダウダしていても話は始まらない。

 覚悟を決め、「失礼します」といい置いてから貸し会議室に入る。

 

 入った部屋は、先日と違って普通のレイアウトだった。

 そこはほっと一安心。

 

 やっぱり前と同じく部屋の中央で五体投地している信者さんの前に立ち、ちょっと言葉に迷いながら口を開く。

 

「うん、普通に座ろうね……」

「寛大な御心に感謝いたします!!!」

 

 ひとまず空いた席に座ると、信者さんが恐れ多そうな低い姿勢で俺の隣に座った。

 どうやら金髪イケメンが最後のようだ。

 本当に潜入捜査官をこんな突然呼び出してよかったのだろうか…と不安にかられてしまう。

 

 それから10分ほどして、金髪イケメンはやってきた。

 硬質な足取りで扉を開ける姿はキビキビとしていて、自然に体が緊張する。

 前置きもなく座るより先に口を開く様は、彼の焦りを示しているようだ。

 

「失礼します、君永課長。それで、緊急の要件とは一体何の…」

 

 言葉は途中で失速し、そのまま沈黙が部屋に満ちた。

 金髪イケメンが俺の姿を目に止めて、驚愕と共に硬直したからだ。

 信者さんが感情を堪えたような乾いた声を出す。

 

「入れ、降谷」

「………はい」

 

 なるべく視線を隠しているようだが、こっちを凝視しているのは丸わかりだ。

 できる限り平静を装っているが、めちゃくちゃに動揺しているらしい。

 

「彼は私の協力者だ。例の組織にも深く関わってくるため、今回正式に紹介することにした」

「黄衣ハスタだ。今日の朝はどうも」

「………」

 

 降谷というらしい金髪イケメンは黙ったままだ。

 それをどう思ったのか、ギラギラと燃えるような眼差しが信者さんから放たれた。

 降谷さんはそれを受け、わずかに視線を逸らした。

 そして動揺のまま口を開く。

 

「降谷零だ。君は、今朝のあれは別人が成り代わっていたという事か?」

「いいや。流石に影武者なんて非人道的な真似はできないって」

「……まあいいさ。残念ながら今朝の件は不可抗力だ。悪く思わないでくれ」

 

 実にあっさりとした「謝罪するつもりはない」の言葉に、信者さんの肩がぴくりと跳ね上がる。

 待て待て待て待て、ステイステイ!

 ここで謝ったら公安の非になっちゃうから、わざとヘイトを集めるような発言をしてるだけじゃん!

 公安が悪いんじゃなく、実行犯の降谷さん一個人が悪いのだと示すように。

 

 しかし、うーん、どうしたものか。

 ひとまず軽口に聞こえるように降谷さんを糾弾する。

 

「爆死させられたのは仕事だろうから仕方ないけど。俺がうつ伏せで顔が確認できなかったからって蹴って転がすのは流石に扱いがぞんざいすぎ。傷付いたぞ」

 

 降谷さんは俺が烈火の如く怒り出すと思っていたようだ。

 俺の言葉は予想外だったのか、呆然と瞬いて「それはすまなかった…?」と言葉を漏らした。

 うむ。これで俺のモヤモヤも成仏した。

 

 あとは俺が降谷さんを注視してしまった件の解決だ。

 

 俺の予想通り、魂に俺の思念の欠片がまとわりついていたのでさっさと清掃して綺麗にしておく。

 状態は思ったより悪く、今日中に処置できてよかったと素直に思えるようなこびりつき具合であった。

 このままだったらおそらく今晩SAN値が激減するような物凄い悪夢をみていたことだろう。

 

 魂の清掃の際にこの降谷という人のことを見ることができたのだが、かなり真面目で正義感のある人ということがわかった。

 

 俺をあっさり殺したのは、俺が違法薬物の売人だと誤解していたからだ。

 いや、いくら売人とはいえ爆殺して心が欠片も傷まないこの人が良い人であるかは諸説あるが…。

 

 めちゃくちゃに非難されると思っていたのにそうでもない状況に、未だ困惑したまま降谷さんが眉を顰める。

 

「君が君永課長の協力者であるということは理解した。だが、君は組織に命を狙われているだろう」

「まだ組織には俺の生存ってバレてないのか?」

「僕が送った写真があるからしばらくはやり過ごせると思うが。君がいつも通り活動するなら明日にでも命を落としているだろうな」

 

 冷静かつ温度のない声色だ。

 しかしそこには真摯な響きも見受けられる。

 今度こそ命を失う前に手を引け、という言外の配慮だ。

 

「どんなトリックであの爆発から逃げ延びたのかは知らないが。このままなら君は早晩命を落とすことになるだろう」

「うーん、……俺も俺の事情があるから今の探偵業は辞めたくないんだけど」

「君が預かっているという小学生が、危険に晒されてもか?」

 

 皮肉げに笑って降谷さんは肩をすくめた。

 信者さんがまた無言でピキってるので、机の下で彼女の足をつま先で小突く。

 どうどう、落ち着け。普通に真っ当なこと言ってるだけじゃろ。

 

「俺もコナン君に被害が及ぶのはできるだけ避けたい。そこでものは相談なんだが」

「なにかな?」

「『周りを巻き込まず俺だけ殺す』方向へ黄衣ハスタ殺害計画を誘導して欲しいんだよ」

 

 降谷さんは俺の言葉に目を見開き、そのまま軽蔑したような視線を俺へと向けた。

 

「自殺願望でもあるということかい?」

「そういうわけじゃなくて、あー、10回ぐらい殺されてやれば向こうも諦めてくれるかなって」

「それは……どういう」

 

 信者さんが小刻みに震えている。

 初っ端「口出し無用」と言ったのが効いているのだろうが、この人の我慢の限界もそろそろ近そうだ。

 早めに話をつける必要がある。

 

「細かいことはいいとして!周りを巻き込まず俺だけ狙うように誘導すること!できそうか?」

「僕も今回の失敗で失点がつく身だ。タダでとはいかないな」

 

 なかなか強かだ。「骨を折るだけの理由を見せろ」と彼は言いたいらしい。

 

 しかしそう改めて言われると難しいものだ。

 アーティファクトを作って贈るとかが一番楽なのだが、動作原理のよくわからないものは使うタイプではなさそうだし。

 うーん、ならあれか。

 

「3日後の夜にどこかで落ち合わないか?そこで渡すもので満足してもらえたなら、今回の件を考えてくれ」

「へぇ、その前に死ぬ可能性もあるが」

「その時はその時。俺も時間が必要だしな」

 

 具体的には、諸伏さんを説得する時間が必要だ。

 「死者と話す」経験は一回こっきりの取引としてはちょうど良い塩梅だろう。

 降谷さんは諸伏さんの親友だというし、マイナスにはならないはずだ。

 

「なるほど。では楽しみにしているよ」

 

 ちっとも楽しみそうじゃない、小馬鹿にするような口ぶりで降谷さんが嘲笑った。

 その様子にまた信者さんが漆黒の炎を燃やして震えている。

 だから落ち着いて欲しいんだが。

 

 しかし何で降谷さんはこんなトゲトゲしてるんだ?

 初対面の人にこんな嫌われるようなことは…いや、そうか。

 

 子供を預かっているくせに死にたがりな無責任野郎、と思われているのだろう。

 魔術のことを言えば話が拗れるし、絶妙に言い訳しづらい誤解だ。

 それに暫定違法薬物の売人だし。

 急に呼び出されたと思ったらこんなことが用件だったし。

 良い印象ないのは当然だったわ。

 

 おお、これは何が何でも3日後の諸伏さんとの再会を成功させねば。

 

 そのように俺が決意を改め、ギスギスとした会議は幕を閉じたのであった。

 

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