ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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虹色の愛情

 

 わけがわからんのだが!?!?

 

 咄嗟に術式を割り込ませて来場者を守ったのは、ブレスレットを使いこなすコナン君だった。

 どうやらトイレに行く途中に不審な影を見ていたようで、いつでも動けるように防護術式を装填していたらしい。

 ナイスフォロー!後でめっちゃ美味しいもの食べに行こう!

 

 広い会場はめちゃくちゃになっていたが、来場者は全員傷一つ無かった。

 

 術式は一般的な攻性魔術である「ハスターの歌」に「死の呪文」を組み合わせたものだろう。

 「ハスターの歌」は声に術式を乗せて吼えるように歌うことで、肉を融解させるものだ。

 「死の呪文」は対象を消えぬ炎で燃やす呪詛に近い魔術。

 

 溶けかけた壁や花瓶、呪詛の炎に包まれた会場を見て、来場者から遅れて悲鳴が上がる。

 白いテーブルクロスが燃え上がり、呪詛の孕んだ煙を撒き散らしている。

 

 すぐさま俺の術式で消火して呪詛を散らしたが、会場は半壊状態。

 この場には警察関係者が多く集まっていたので、彼らが俺と客達を庇うように前に出てくれた。

 

 犯人は三人ほどの男女だ。

 正面扉の向こうから堂々と乗り込んできた彼らの様子を見るに、すでにSAN値は無いようだ。

 

 「神よ神よ神よいま邪神の化身を我が手にて誅します!」などとぶつぶつ訳のわからぬことを言っている。

 

 佐藤刑事が「貴方!自分が何をしたかわかってるの!何が目的!?」と声を上げたが。

 初めから狂人に会話する能力などなく、話を聞いてもいないようだった。

 

 怪異と直接対峙した経験のない刑事さん達も動いているあたり、これが魔術であると気付いていないようだ。

 一瞬で火が回ったし、爆弾だと思ったのかもしれない。

 

 諸伏さんもマモーさんとコナン君を庇うように前に出た。

 マモーさんは「ゆ、許されない…こんな…猿共がいかに野蛮と言え…こんなこと…」と震えている。

 

 目暮警部に庇われている兄弟団の偉い人も攻性魔術を準備中。

 ブチ切れの公安信者さんが米国兄弟団トップの人と、ひっそり共同で魔術式を編んでいる。

 現在の魔術師の頂点に立つ二人の夢のコラボの中身は、生と死を繰り返す極大の呪詛だ。

 俺に捧げて神の怒りを鎮めてもらう感じのデザインに仕上がっている。

 

 そんな怒ってないから気にしないで。

 いや怒ってるけど。怒ってるけど分は弁えてるんで大丈夫。

 

 コナン君はといえば、もし二撃目が来たらカウンターできるように魔術を砲身に装填しているようだ。

 もうかなりブレスレットを使いこなしている。

 八連装填でずらりと術式を並べて、ほぼほぼ魔法少年コナンである。

 

 というかいくらブレスレットがあるからって、八連装填は脳が二つないとできないと思うんじゃが。

 まあいいか。

 

 それらの敵意を一身に受けても、犯人はまるで取り合わずゲラゲラと笑うのみ。

 残る二人も無言で、次の魔術を打ち出すべく詠唱を続けている。

 

 

 ここまで反応なしのニャルがあまりにも怖くて、俺はガタガタと震えた。

 そーっと横に視線を移動してから、視線を向けたことを後悔した。

 

 ニャル、見たこともないほど激怒なり。

 

 真顔だ。

 いや真顔というか、度を超えた怒りでぐにゃりと変化が歪んで中から本性がまろび出そうになっている。

 1D10/1D100のSAN値チェックが露出していて、俺は慌てて外側から視覚阻害のカバーをかけた。

 

【───、─────】

 

 ニャルはブツブツ何か呟いている。

 どうやら音声補助動作で魔術の発動補助をしているらしい。

 瞬きする間にあらゆる魔術を構築する外なる神ニャルラトホテプが、音声補助を使うとは、どんなヤバい魔術を使おうというのか。

 

 今すぐ地球ごと抱えてニャルから距離を取ろうかなどと思案する。

 今回の犯人三人だけニャルの前に置いておけば、他の人間は助かるだろう。

 

 よく見ると降谷さんの方も様子が可笑しい。

 ガクガクと震えて自分を押さえつけようと弱々しく頭を振ってよろめいている。

 たぶんニャルの激怒が逆流してわけわかんなくなりつつあるのだろう。

 

 俺がひとまずニャルと犯人を放り出そうとした、その瞬間である。

 

 

 にゅるん、と視界の全てを虹色の泡が覆った。

 

 

 視界一面が虹色に染まる直前に防御障壁を参加者全員に付与できたのは幸運だった。

 

 虹色は不定形に、奇妙に歪曲して小さな棘を蠢かせている。

 時間も空間も曖昧だ。

 そこは外なる神ヨグ=ソトースの中。大いなる父神の剥き出しの権能に触れれる神域である。

 

 父神はどうもかなり不機嫌なようだ。

 パチパチと小さく弾け、ざわめき、苛立っている。

 

 思い返せば、コナン君は飾ってあったヨグ=ソトースの一部には防護魔術をかけていなかった。

 そりゃ泡立つ生花に防護なんてかけないに決まってる。

 

 すると当然、ヨグ=ソトースは羽虫による呪詛の直撃を受けたわけだ。

 

 俺は全身ざっと青ざめさせて土下座した。

 

「申し訳ありません父上!今の魔術は人間達のほんの戯れなのです!」

【──────】

「ご慈悲を!敵意も、御身を害す意思もかけらもなかったのです!」

 

 もしほんの僅かでもヨグ=ソトースが「反撃」の意思でも持とうものなら、次の瞬間には人類は滅亡する。

 それどころか、「居なかったこと」になる可能性だって大いにあり得る。

 

 ただ戦慄とともに大いなる神へと慈悲を乞えば、ヨグ=ソトースは長い沈黙ののちに蠢いたようだった。

 

 そのまま俺を虹色の泡で包み、ムニョムニョと揉む動作。

 あとちょんちょんと泡でつついてくる。

 何を言っているのかは分からないが、怒りを収めたようだ。

 宥めるように優しくコロコロと手の中で転がされて、ふーむと疑問符を飛ばすしかない。

 

 そして俺を存分に転がしてから、ぺいっと外へと放り出した。

 

 

 

 

 そこは爆破が起こる、10分前であった。

 

 和やかな空気で、コナン君を含めてほとんど皆、先ほどあったことを覚えてはいなかった。

 

 ニャルは先ほどのことを覚えているのか、キレ散らかして罵詈雑言を漏らしている。

 マーメイドドレスの下でぞろぞろと触手を蠢かせて先ほどの魔術の続きを編んでいる。

 

【は?は???羽虫が、羽虫如きが、僕の、この外神の一生に一度のイベントに傷を???はは、ははは、許さない。許されない。終わりを許容しない。絶望以外の出力を許可しない。舐って、舐って舐って…】

「落ち着け、本性出てる。それと降谷さんがバグってるからやめてやれよ」

【はは。どうしましょうかね】

 

 一応、さっきのヨグ=ソトース降臨でニャルも若干怒りはトーンダウンしているようだ。

 どうやら降谷さんとイブ=ツトゥルも先ほどのことを覚えているように見える。

 

 耐えかねて席を立った降谷さんが、こちらへとツカツカと歩み寄る。

 

 訝しげに長野県警諸君が降谷さんに視線を向けた。

 地味に同じテーブルに銀髪マフィアがいて、居心地悪そうに肩身を狭くしている。

 ちゃんと諸伏警部が連行してきてくれたようだ。

 銀髪分の招待状は諸伏警部にも送っておいたから、きっと連れてきてくれると踏んでいたのだ。

 

 降谷さんは若干フラフラしている。

 なんとか落ち着けるよう肩で息をして、青白い顔で陳言した。

 

「本体、羽虫の駆除はこちらに任せてくれ」

【……なるほど。いいですよ?任せました】

 

 予想外にすんなりと引いたものだ。

 いや、違うか。

 自身の怒りを化身に託しただけだ。

 化身とは本体であるからして、化身がきちんと誅罰を与えたなら本体が動いたのと変わりない。

 

 しかしその代わり、とんでもない激怒を押し付けられた降谷さんが小刻みに身体を震えさせて、なんとか己が喚き出さないように堪えている。

 念のため俺もニャルに問いかけた。

 

「いいのか?」

「この式の主役は僕と貴方ですから。害虫駆除ごときに席を外すのはふさわしくないでしょう」

「………そうだな」

 

 ニャルが動かないならそれ以上のことは無い。

 降谷さんが足早に会場から出ていき、その後を素早く追う探索者諸君とコナン君が続く。

 目ざといんだよなぁ。

 

 ニャルは大きなため息をつき憂い顔をした。

 

「それにしても副王は何を考えたんでしょうね。時を巻き戻す……というより、これは副王自身の身体をくねらせて現在位置をずらした形ですか」

 

 俺たちのようなものは、通常時間軸に渡って等しくあり続ける。

 過去も現在も未来も同一の俺自身、みたいな感じか。

 

 そんな俺たちに齟齬を感じさせない形で時間的に移動させるなんて、ヨグ=ソトース自身が鳴動する以外に方法はない。

 凄まじく大規模な活動だ。多次元宇宙全てに関わる規模ですらある。

 

 俺が首を捻ると、ニャルは肩をすくめて笑った。

 

「副王はいつもあなたに優しいですから。その一環だとは思いますけど」

「でも人間的な意味合いで優しいのは幾ら何でも変だろ。ヨグ=ソトースに人間的感性は無いんだし」

「いえ。ありますよ。人間的感性」

 

 つい「へ?」ときょとんと瞬いてしまう。

 副王ヨグ=ソトースに人間的感性がある?

 一体何の冗談か。

 

 ニャルは静かに、同時にちゃめっ気たっぷりに内緒話のポーズをした。

 

「貴方が生まれた時に、外なる神々はその概念を手に入れました。新しい発見として、『盲目白痴なる創造主の外より来たるもの』として、その概念は興味と関心の的になりました」

 

 にっこりと笑って、愛おしげに俺の手に手を絡める。

 

 「盲目白痴なる創造主の外より来たるもの」?

 俺は普通にヨグ=ソトースの息子だと思ってたけど。

 

 ───前世なんて、所詮俺がそう思ってるだけの誕生時の記憶のバグなんだとばかり、思っていたけど。

 

 そうではなかったということか?

 

「まあ僕は白痴共がたかってるゴミになんて興味なかったし、不愉快だったので星を消したり暴れたりしてましたけどね」

「待って待って、今明かされる衝撃の真実みたいな話しなかった?」

「むしろどうして今まで気付いてないのか意味不明なんですけど」

 

 ニャル困惑、みたいな顔で眉間に皺を寄せられてしまった。

 俺は憤慨して口を尖らせた。

 もしかして俺の頭が悪いって話ですか???

 

「ともかく、今度こそ披露宴は羽虫に邪魔されないで済みそうです。化身もたまには役に立つこともしますね」

「降谷さんには後でお礼言っとかないと…。あとニャル。この後も犯人は殺さないように」

「さて」

 

 うっそりとニャルラトホテプは陰惨な笑みを浮かべた、

 怒りは根深いようだ。

 

 まあ、俺も結婚式をめちゃくちゃにされて怒らないはずもない。

 助け舟は出さないから、あとは犯人自身が頑張ってもらうとしよう。

 

 椅子で置物みたいに座っているイブ=ツトゥルの姿は干物のように見える。

 

 あまりのストレスに変化が解けかけているのか、顔を這い回る一つの目が動揺のあまりポトンと落ちた。

 あとザラザラとラジオの砂嵐みたいな音を立てている。

 

 副王ヨグ=ソトースにもぐもぐされた上に、信じられないほど怒っているニャルと同じ空間に閉じ込められているのだからな。

 まあ、人間ならしめやかに昇天してるところなのだろう。

 

 

 そのようにして、結婚式は円満のうちに幕を閉じた。

 

 しばらくして降谷さんも無事犯人達を確保できたようで。

 探索者達とワイワイ言いながらお開きとなった会場に戻ってきていた。

 

 なんか一悶着あったらしい。

 我を忘れて本性を曝け出そうとする降谷さんを拘束しながら犯人達の魔術を躱してなんとか確保するのにかなりの苦労を要したとかで。

 降谷さんが四方八方から小突かれて萎れている。

 攻性魔術を無効化したのはコナン君らしく、ぶっつけ本番の使い方にまだ顔を青白くさせていた。

 

 なんにせよ、みんなが無事でなによりだ。

 

 犯人達にはニャルラトホテプの呪詛がびっしりと張り付いていたが。

 俺は見ないふりをしたのだった。

 





・「外なる」神ハスター
全てがアザトースより生まれ出た世界において、その外の存在を証明しうるもの。
「外なる」神。
その時、彼らは初めて見たその在り方に群がり、少しばかり味見した。
特に親たるヨグ=ソトースは「外」を多く摂取したのだと言う。

・黄色の印の兄弟団
実は米国兄弟団のお偉いさん5名と日本支部のお偉いさん三名が来ていた。
後日カチコミしようとしてたカルコサ新党の話を聞いて身内の恥過ぎて昇天。
人類トップの二人による呪詛は不発だったが、決まってればニャルも不満ながらやや納得していた。
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