ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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かまいたちの宿〈お若い二人〉

 

 結婚式も終えて以降も、俺たちの生活は変わらない。

 

 ただ、夜は分身して黄昏の館に帰り、一緒に語らってゆったりと過ごす時間は増えた気はする。

 ニャルは結婚指輪をうっとりと眺めていつも嬉しそうだ。

 ペットの星の精をつついたり触手を引っこ抜いたりして遊んで「幸せ家族は犬を飼うんですよね?前にドラマで見ました!」などと抜かしている。

 ひたすら幸せそうだ。

 

 でも星の精はどう見ても鬱状態だった。

 めっきりとくすくす笑わなくなったし、痩せ細って食欲も全然ない。

 てろんと触手を垂らして俺があげた毛布にくるまって丸くなるばかりで、見ていて可哀想というより他無い。

 

 まあ、人間で同じことするよりはいいと思うなどしている俺も同罪である。

 

 

 

 とかく、本日は長野の山奥にある旅館にてお仕事だ。

 

 怪異対策課で対応するには比較的危険度の高い案件の処理のため、俺が直々に来た形だ。

 同行者はコナン君に加えて諸伏さんと降谷さん。

 降谷さんはいつもの分身体。片方はせっせと庁舎で仕事中とのこと。

 

 強い冷気の吹き付ける宿周辺は、暴風雪で真っ白だ。

 

 視界は魔術で確保しているが、俺たち以外が車を運転しようものなら事故を起こすに違いない。

 駐車場にハイエースを停めて車を降りると、とんでもない冷気が肌を打った。

 コナン君がさらっと暖気を込める魔術を発動していい感じになっている。

 

 降谷さんと諸伏さんが「俺も俺も」「僕も」などと集りだす。

 俺たちで冷気が問題になる人はいないのだけれど、まあそれはそれか。

 

 降谷さんが厳しい顔をして目の前の旅館を見上げた。

 

「それで、ここにいるのか。落とし子とやらは」

「ああ。冷気の旧支配者ルリム・シャイコースの落とし子が封印されてるはずだよ」

 

 ルリム・シャイコース。

 

 白い蛆虫みたいな姿の旧支配者だ。

 クトゥグァさんの部下のアフーム=ザーさんのそのまた部下になる。

 

 ただしヴルトゥームの上をいくとんでもなくか弱い存在でもある。

 具体的には人間の銃火器で死にかねないレベル。

 だが原始魔術の腕は神業的で、俺も一目置いていたりする。

 

 その落とし子が封印されている品が、今回の目標である。

 諸伏さんが不安そうに眉を顰めた。

 

『大丈夫なのか?つまり落とし子ってやつも魔術を使ってくる可能性があるんだろ?』

「落とし子は言うほど脅威じゃないよ。まあでも、前のクラゲ旧神の方が弱いかなぐらい」

『それってとんでもなくヤバいって意味じゃないか?』

 

 諸伏さんがジロッと俺を睨みつけた。

 俺もうむうむと静かに頷くに留める。

 

 J332-6F「全能を騙るもの」。

 落とし子としても比較的大きな部類だ。

 封印越しに語りかけて人の願いを叶える代わりに対価を奪う、悪質な願望器擬き。

 もし封印が解かれれば、溜め込んだリソースを使って北半球全土の生命体ぐらいは支配下に置くことができるだろう。

 

 ルリム・シャイコースの落とし子って親に似て魔術超上手いからな。

 素の力は激弱だが、それを補って余りある長所だ。

 

 説明を聞いた降谷さんが大きくため息をついた。

 

「僕の魔術の腕はちっとも上達しないのに、チートツールを渡されたコナン君に急に追い抜かれて。いいとこ無しだよ」

「チートツールって言わないでよ。僕これ無いと魔術使えないし、実力で使える降谷さんの方がずっといいよ」

「手作りの棒立てただけの日時計よりも、買ってもらったロレックスの腕時計の方がいい。そんな化身の僻みだ。気にしないでくれ」

 

 降谷さんは恨めしそうにブツブツと文句を漏らしてコナン君に迷惑がられている。

 まあ言うて降谷さんには人間と違って膨大な時間があるからな。

 自分で学ぶ方が得なのは間違いない。

 

 だから俺にまでジメジメ湿った怨念を送りつけてこないでほしいところである。

 

 そんなふうに言い訳をしつつ旅館に入る。

 冷気が弱まって、暖かな暖房の風が俺たちを歓迎してくれた。

 現代文明さまさまである。

 

 まだチェックインの時間には早いが、受付横にはカフェコーナーが併設されているようだ。

 そこで名物の葛湯が楽しめるとのぼりが立っている。

 

 そそくさと俺が葛湯の席に吸い込まれていくと、コナン君に小突かれた。

 腹が減っては戦はできぬって言うじゃん!

 

 しかしカフェコーナーに近づいて、俺は思わぬ人の姿を見た。

 

 なんと、服部君と和葉ちゃんの姿があるではないか。

 服部君はちょっと照れくさいような顔をして、何か言おうか言うまいか悩むような仕草を見せて。

 二人でいい感じに葛湯を味わっている。

 

 ほほーう。よかろう。続けなさい。

 

 こちらに気づいた服部君が「げっ!?」と叫んで慌てて立ち上がる。

 人の目があるところでは告りづらいらしい。

 

 全てを察した俺はくるりと背を向けた。

 

「黄衣ハスタはクールに去るぜ……」

「おい待たんかいワレ!!なんやしょーもない勘違いしとるやろ!!言うてみぃや!!」

「服部お前図星つかれたからって逆ギレすんなよ」

 

 俺の数倍クールなコナン君の言葉が服部君の無防備な顔面に突き刺さる。

 

 服部君は「いてこましたろかアァ!?」と荒ぶってコナン君にガンつけて謎のいちゃもんを付けるなどした。

 青少年って感じで実に微笑ましい。

 ええってええって。あとは若いお二人でごゆるりと。

 

 突然置いていかれた和葉ちゃんも「なんなん平次?」と困っている。

 

 公安の独身二人も、甘酸っぺぇ青春の香りにほっこりしているようだ。

 

『ゼロ。この歳になるとこう、みんな周囲が結婚していくだろ?』

「ああ」

『祝福の気持ちと同時に、隙間風がな。時折強く吹き込んでさ』

「何言ってるんだ。ヒロには俺がいるじゃないか」

『ゼロ……!』

 

 友情を誓い合う二人は、しかし意外と冷静だった。

 「あ、瓶詰めは無しの方向で」と注釈をつけるのを忘れないお茶目な幽霊、諸伏さん。

 最近とみにニャルニャルしい降谷さんが心底わからないみたいな顔をした。

 

「何を言うんだ。お前好みのいい感じの瓶にするし。手足を落とす時はきちんと痛み止めもする」

『絶対お断りなんだよなぁ』

「無理やり詰められたいってことか?」

『目のハイライト取り落とすのはやめような』

 

 コント通り越えて変な人しかいない空間になってしまっている。

 すまんね和葉ちゃん、変なことに巻き込んで。

 

 服部君はオランオランとコナン君に突っかかったが、コナン君はニヤリと一言。

 「録音。聞くか?」などと謎の脅しを受けて、「ちゃいますやん、ほんの冗談やないですかぁ」と華麗な揉み手のターンに入った。

 

 なにやらコナン君に弱みの決定的シーンを録音されてしまっているらしい。

 これに関しては後で何を握っているかコナン君に聞くとしよう。

 と、俺も諸伏さんも降谷さんも、皆そう思っている顔をした。

 

 服部君は眉間に深い谷間を刻んだまま咳払いした

 

「そ、それで!アンタらはゾロゾロと何しにここに来たんや。まさか観光ってわけやあらへんやろ」

「仕事だよ。ちょっと厄介な怪異がいるから」

「………なんやて?」

 

 すぐに服部君も真面目で鋭い表情に変わる。

 「まさかこれのことか?」と俺たちに写真を見せた。

 

 写真には大鎌を抱えて水上を走る人のような影が一つ。

 人間の方に心当たりはないが、鎌のほうはドンピシャだ。

 

「おう、これ。ここに映ってる鎌が怪異の封印された鎌だ」

「ッ、………悪いけど俺らは帰るわ。いくで和葉」

「ちょっと平次!?急にどないしたん!?ここに事件があるって大阪から来たんやないの?」

 

 和葉ちゃんの腕を掴んで深刻な顔をする彼も、どうやら事件を追ってこの旅館まで来たらしい。

 とはいえ、なんかの冗談みたいな写真一枚。

 ここも数年前まで評判だった旅館だし、事件にかこつけて観光として一緒に来たのだろう。

 

 だが、服部君にとって不幸なことに事件は本物で、しかも本物の怪異関連だった。

 彼女を守るために帰ろうとするのも当然だろう。

 

 そこにコナン君が冷静に待ったをかけた。

 

「外はまだホワイトアウトしてるんだから、止むまで待ってからの方が安全じゃねぇか?」

「せやかて、こっから怪獣大決戦が始まったら敵わへんで」

「大丈夫大丈夫、俺が余波は来ないようにしておくし、なによりせっかく来たんだ。楽しんで行った方がいい」

「…………頼むで、黄衣サン」

 

 真剣な顔で頭を下げる服部君に、俺は安心させるように微笑んで見せた。

 

 やっぱり何が何やらわからない和葉ちゃんは、オロオロするばかりだった。

 





・各々の魔術の腕(公安信者さん評)
─降谷さん
一から学んで古エイボン式の魔術が自力発動できるまでの習得速度は異常の一言です。
邪神の分け身である影響だとは思いますが、少々己を振り返って羨ましくなります。

─ジンニキ、諸伏兄、大和警部、由衣さん
どうやら原始魔術をいくつか習得しているようですが、素人の域を出ません。
そちらより、怪異に相対する際の経験に裏打ちされたずば抜けた直感こそが、彼らの力になるかと思われます。

─諸伏さん
魔術は学んでいないようですが、私でも弾くのに苦労するだろう呪詛を身の内に溜め込んでいます。
何故神はあの怨霊を放っておくのでしょうか。

─コナン君
神器を使いこなすに足る素質を秘めた神童です。
魔術の素養というより、これは「必要なすべての才能が予め備わっている」ような……?

─松田さん
単なる亡霊です。形は変ですが。
最近変ではなくなったと聞きました。

─マモーさん
恐るべき魔術の使い手です。
純粋なる古エイボン式魔術への造詣の深さは明確に現生人類を超えています。
その気になれば人類全ての魂を掌握し支配下に置けるでしょう。
そうしないのは、単にコストがかかりすぎるのと、必要性を見出していないからかと。

─黄衣ハスタ
神です。いえ、魔術的な話として。
全知にして全能。
かの神の御業をもとに、現代の魔術の「奇跡」は定められています。
つまり時間遡行、神格の魂への干渉、因果律の変更など。
エイボン君3位階の認定は神の御業に手をかけたものへの称号ですから。
もっとも、本物の神の魔術に比べれば、太陽と血を這う虫以上の差がありますが。
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