ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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犯罪者の過去と楽園への郷愁

 

 あの後、無事買取が成立した。

 

 がめつい大旦那に毟られそうになったが、マモーさんのアドバイスもあり上手く駆け引きを終える事ができた。

 マモー様さまさまである。

 

 鎌の中の落とし子は、どうも常に変な術式を展開していて、人類の魂を観測し続けているようだった。

 話しかけても無言で何も取り合わなかったが、どうも特定の人物を探しているようだ。

 

 まあ、放っておいても問題あるまい。

 

 その道は俺も通ったからな。

 今もハスターの瞳にかつての知人がひょっこり現れやしないかと探させているが。

 転生なんて偶然魂の形質が似通っただけの類感魔術の類に過ぎなかったし。

 

 それを転生と認めてなお、これまで一度として再会できたりはしなかった。

 

 

 ちなみに、別れ際に星の精は鳴いて鳴いて諸伏さんにひっついて離れなくなった。

 よほど帰るのが嫌だったらしい。

 ぴいぴいと変な声を上げて全身を震わせている。

 

 あまりにも哀れだし、仕方がないので頑張って「テュフォンの獣」を手懐けて星の精の代わりにニャルへと渡しておいた。

 

 テュフォンの獣はジャッカルっぽい見た目の神話生物だ。

 

 気品のある黒いイケメン犬で、人間の感性としても非常にかっこいい。

 深い次元に篭ってなかなか外へ出てこない珍しい種族でもある。

 

 捕獲する時は違法な犬攫いみたいですごく気が引けたが、テュフォン的には特に気にしていないようだ。

 大欠伸をしてリードをつけられたまままったりと過ごしている。

 

 ニャルもこの珍しい犬さんには目を輝かせたようだ。

 すぐに可哀想な星の精を忘れてテュフォンへと飛びつき、すかさず尻尾の毛を毟ろうとした。

 そしてテュフォンに「ヴヴヴヴ!!!」と唸られて心外そうな顔をする。

 

 俺は嘆息してニャルに注意した。

 

「前から言ってるけど、生き物の一部を無闇矢鱈に引っこ抜かないこと!痛いんだってば!」

「でもすぐ治しますよ?尻尾引っこ抜いたところで困りはしないしいいじゃないですか。親愛の印です」

「だめ。見ろよこんなに唸ってる」

「その犬ころが狭量なだけです」

 

 しばらく睨み合って、ニャルは舌打ちした。

 誇り高いテュフォンの獣は格上相手に全く引かず、フンと見下したような鼻息を漏らして顔を背けた。

 

「あーっ!この犬!僕を舐め腐ってますよ!許されない!手足もいでしばらくお仕置きしましょう!」

「だめ。お前はそろそろ格下生物との触れ合い方を見直すべき」

「ねえやっぱあの星の精を戻しましょうよ!犬ころの100倍可愛かったし!触手も引っこ抜き放題でしたし!」

「ダメったらダメ」

「あ゛ーーーーーーーー!!!!」

 

 ニャルは派手に発狂した。

 

 碌でもねぇニャルの横で、俺はテュフォン君の肩と胸元を撫でさせてもらった。

 艶やかな毛は触り心地が良く、テュフォン君も満足そうにフンフン言っている。

 

 ニャルもそのうちベソベソしながら撫でに来た。

 しかしテュフォン君は歯を剥き出しにしてその手を避けたようだった。

 

 ニャルが三眼を開いてギリギリと歯軋りする。

 

「この畜生をミンチにして今日の晩ごはんにしましょう。精がつきますよ」

「ダメ。今後3ヶ月以内にテュフォン君と仲直りすること。これ、ニャルへのお題な」

「ばか。あほ。異常羽虫愛者…」

「やんのかオラ」

 

 俺はテュフォン君の側についてニャルに唸るなどした。

 そうして、最終的にニャルは屋敷に引きこもって延々と文句を言うターンに入ってしまったのだった。

 

 まあしばらくすれば下等生物との正しい付き合い方も身につくだろう。

 それまでテュフォン君が生きていられるか不安だし、念のため保護魔術をかけておくこととする。

 

 

 

 

 とまあ、平和に過ごす今日この頃。

 通常の依頼も公安から降りて来た任務も相変わらず山積みで、黄衣探偵事務所は常に大忙しだ。

 

 魔術「スペクトラルハンターへの変身(改造版)」でチワワに変身した星の精は、今日も元気に事務所内を駆け回っている。

 昨日も少年探偵団にも可愛がられていて、ドッグフードを与えられて困惑していた。

 変身してても星の精だし、血しか飲まんしな。

 

 中身を知っているコナン君は頑として近寄らないので、子供達に不審がられている。

 

 

 特に今日は銀髪マフィアは顔を出して、呪詛の絡む案件について相談を受けた。

 

 いつも通り真っ黒な姿に銀の長髪が実に威圧的だ。

 コナン君もむすっとして俺の隣に座り、若干威嚇するなどしている。

 

「なら、回収時に触れさえしなければいいんだな」

「そうだよ。布越しに触れるなら大丈夫だから、手袋とかするだけで十分かな」

「……ふん」

 

 銀髪マフィアは公安の回収任務らしい。

 公安の任務を受けるようになってからは、確実な情報源として頻繁に俺に話を聞きに来るのだ。

 

 こういう手間は惜しめば惜しむだけ死ぬ確率が高まる。

 賢い選択には違いあるまい。

 

 銀髪マフィアが一通り話を聞き終えてから、ふと思い出したように口を開いた。

 

「そういや、バーボンがRUMに呪詛を乗せたそうだが、どう言った性質のものなんだ」

「!!」

 

 コナン君がビャンッと飛び上がりそうになってなんとか堪えている。

 

 コナン君は最近RUMについてアンテナを張っている。

 降谷さんが教えてくれないから大っぴらには調べられないが、どうしても気にはなるらしい。

 

 俺はふむ、と少し「瞳」で確認してから答えた。

 

「単に伝染性の位置情報把握系だな。まあ、呪詛なんてすぐに内容変更できるものだから現在はって話だけど」

「……そうか」

 

 銀髪マフィアは仏頂面の向こうに若干心配そうな色を見せた。

 

 いくら公安に鞍替えしたとして、忠誠が全て無くなったわけではないのだろう。

 前に恩義があるって言ってたし、それとこれとは話は別ってやつか。

 

 コナン君がブスくれて「どうしてそんなに入れ込むの」と不機嫌そうに口を尖らせた。

 

 銀髪マフィアはチラリとコナン君を見てから、ぼそぼそと話し出す。

 

「恩義がある。生ゴミのように路地裏に捨てられていた餓鬼を拾って育ててくれた恩だ」

「……そう」

「テメェも黄衣ハスタには感謝しておけよ。餓鬼の独り身に世間は冷酷だ。たった数ドルを稼ぐために中央分離帯にへばりついて車の窓を拭くぐらいなら楽な仕事だった」

 

 ヤク中に死ぬほど殴られながら小間使いして、結局一銭も入らないで冷たいアスファルトの上で餓え死にしかけたこともある。

 雑踏の中で必死で媚びて手にした紙幣一枚を、他の餓鬼どもに囲われボコボコにされて奪い取られたこともある。

 

「ありふれた話だ。御涙頂戴にすらなりゃしねぇ」と銀髪マフィアは吐き捨てた。

 

 それは事実、ありふれた話だったのだろう。

 だから組織が銀髪マフィアを拾った意味は特になく、彼自身それをよく知っている。

 

 コナン君は沈黙して、重い口を躊躇いがちに開いた。

 

「でも、それで犯罪行為をさせられてたんでしょ」

「少なくともカビの生えてない、しかも他人の食いカスでない飯が毎日食えた。寝ている間に腹に蹴りを入れられる心配のない寝床もだ。他がどうなろうが知ったこっちゃねえってやつだな」

「…………、そっか」

 

 純然たる富裕層であるコナン君には、知識としてしか知りようのない世界だったのだろう。

 彼はしばし目を伏せて、そのやるせなさを噛み締めたようだった。

 

 でも、その果てに悲劇を再生産することを現代司法は許さない。

 

 何不自由なく過ごした工藤新一と、身寄りもなく彷徨った銀髪マフィア。

 どちらにとっても等しく、殺人は重い罪として定められる。

 取れる手段のあまりに激しい不均衡は個人の問題、良心の問題として処理されるのだ。

 

 茶を運んできたマモーさんが、俺たちに入れたての香り高い紅茶を置いて嘆息した。

 

「まったく、猿どもの醜悪さは本当に度し難い。古代、神のもとにおいて我らは真に幸福で平等だった。心の清いものしかいなかった」

「……神話の類か?」

「単なる事実だ。そも寿命以外の死別なぞ無かったし、物質的栄華を極めたゆえに貧富自体が存在しなかった。完璧な福祉と医療が個人個人と紐付いていたから、狭量な人間すら極めて稀だった」

 

 銀髪マフィアは目を丸くしている。

 ハイパーボリアの伝承を知っているようだし、マモーさんのことも薄っすら理解してるみたいだが。

 それを加味しても信じられない話だったのだろう。

 

 しばらく言葉を反芻して、銀髪マフィアは視線を落として自重した。

 

「そりゃあ、楽園と呼ばれるわけだ。俺たち獣なんぞ入国と同時に害獣として処分されそうだ」

「馬鹿を言うな。ハイパーボリアは人類種の楽園だ。単に福祉で保護・治療対象になるだけだ」

「フン。なんにせよ今ここに無けりゃ意味はねえな」

 

 銀髪マフィアの言葉に何故かマモーさんが誇らしげな顔をした。

 「そんなあなたの前に神がおわします!」と副音声が聞こえて来そうなしたり顔だ。

 

 居心地が悪くて俺はもぞもぞと星のチワワを抱き抱えた。

 

 というか、それって裏を返せば何を成しても自己満足にしかならないということでもあったんだよな。

 

 俺は幸福を敷こうとするあまり、人を平等にし過ぎたのだ。

 だから刺激不足で一定数不満も出て来たし、なにより三億年もあったのに人は近未来程度の文明しか築く事ができなかった。

 

 もう少し競争に寛容であれば滅びなかったのかな……でも不幸な人間が出てくるのは可哀想で無理だし……。

 

 などとウジウジ悩む今現在。

 マモーさんの入れてくれた茶は相変わらず香り高くていい味がした。

 

 

 

 

 その辺りで来客が来た。

 扉を開けたのは……なんと志保ちゃんだ。

 

 中にいる銀髪マフィアを眼にすると同時に、彼女は愕然と凍り付いたようだった。

 





・テュフォンの獣
星の精の代わりにペットになったかっこいいお犬様。
開幕尻尾引っこ抜こうとしたニャルが嫌い。
たとえ苦しめられて殺されても唸り続ける誇り高さがある。
ニャルはこの生意気な犬畜生を罵倒し、さらに嫌われるなどしている。
ハスターの取りなしで一応屋敷に住んでくれている。
星の精はチワワ姿で毎日諸伏さんに可愛がられているらしい。

・ジンニキ
実は終始「なんで財界の帝王が茶汲みなんてやってんだ???」と思ってた。
裏社会でマモーは数世紀前より生きる怪人って噂だから、そんな人物が古代帝国を知ってても不思議はない。
でも一般茶汲み男してるのは変だろ。
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