ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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あまりに懐かしい味だった

 

 凍りついた志保ちゃんは、あまりの恐怖に動けないようだった。

 

 それをどう受け取ったのか、銀髪マフィアは立ち上がって「邪魔したな」と言って。

 するりと背を向ける。

 

 どうやら帰るようだ。急なそぶりに俺も少し動揺してしまう。

 銀髪マフィアは「退け、餓鬼」と荒っぽく言って、志保ちゃんの脇をすり抜ける。

 

 どこか志保ちゃんのことを気にする様子を滲ませて、それを見せまいとそっけなく振る舞って。

 そしてそのまま、事務所から姿を消した。

 

 灰原さんは立ち尽くしたまま動けないようだった。

 

 コナン君が「灰原!」と言って志保ちゃんへと駆け寄る。

 喘ぐように荒い呼吸の合間に声を縫って、なんとか声を漏らす。

 

「え、江戸川君、あれ、いったい、どうしてッ…!?」

「大丈夫だ。アイツは色々あって組織を抜けて仲間に、」

「そんなわけないでしょ!!!巫山戯ないでッ!!」

 

 志保ちゃんの怒りをはらんだ絶叫が叩きつけられる。

 

 可哀想に、コナン君の言ってることは純然たる事実なのだが。

 志保ちゃんは信じられないようだ。

 同じ組織の人間だと言うし、姉を殺された恨みもある。

 彼女は沈黙の落ちる事務所内で、志保ちゃんは僅かに歯軋りのみをした。

 

 コナン君は彼女の息が整うのを待ってから、静かに声をかけ直した。

 

「……落ち着け灰原。よく聞け。疑うなら安室さんに聞いてもいい。公安で既に司法取引が成立してる」

「う、そ。嘘よ。そんなの。あり得ないわ」

「本当だ」

「あの悪魔みたいな男が組織を裏切るわけない」

「そんだけのことがあったんだ。俺も詳しくは知らねぇけどな」

 

 志保ちゃんは黙りこくって、言葉もないようだった。

 考えて、考えて、考えて。

 

 やっと飲み込んだ言葉を反芻してから、腑の底から絞り出すような言葉を落とす。

 

「そんなの。……そんなの、許されるわけないじゃない」

 

 私が許されないのと同じように。

 あの男だって、許されていいはずがない。

 

 灰原、とコナン君が気遣わしげに呼んだ。

 

 志保ちゃんは取り合わず、ふらふらと帰ろうと事務所の扉を開ける。

 事務所に来たからには何か用事があっただろうから、念のため、俺は背を向ける彼女に声をかけた。

 

「あー、何か用があったんならやっとくぞ?」

「……そんな気分じゃなくなったわ。騒いでごめんなさい」

「そうか。気をつけてな」

 

 外に銀髪マフィアがまだいる可能性もあるのに、帰る選択肢を取るとは。

 志保ちゃんも心が追いつかないだけで、コナン君の言ったことを信じてはいるのだろう。

 そこに彼への絶対の信頼を垣間見ることができる。

 

 なでなでされなかった星のチワワがきゅうん?と訝しげにしている。

 すっかり撫でられるのが当然の気持ちになっているらしい。

 

 マモーさんは特に口出しせず、茶を片付けようと立ち上がる。

 俺はその前に残りを飲み干してしまってから、マモーさんに礼を言ってカップを渡した。

 

 コナンくんは立ち尽くして沈黙したままだ。

 

「言ってなかったのか?あの銀髪の彼が心変わりしたの」

「俺自身信じられなかった気持ちもあるけど。やっぱ、言い出しづらかったんだ」

 

 後悔を滲ませて、コナン君が視線を落とす。

 というか、こんな重要ごとをコナン君に任せて放っておいた俺も同罪だな。

 

 銀髪マフィアの悪評は存じ上げてないが。

 俺に躊躇いなく鉛玉をぶち込んだあたり、凶悪さは知れ渡っていたのだろう。

 姉を失い自ら毒を飲んだ彼女の絶望はいかばかりか。

 

 俺なら軽く呪詛つけて無罪放免にするとか、色々気持ちを発散する術はあるが、志保ちゃんはそうはいかない。

 恨みを恨みのまま飲み込むことを強要されるのだ。

 

 難しい問題だ。

 しばらく顔の形が変わるくらい顔面張り倒す程度なら許されると思うから、その辺で手打ちにできないかと思う俺なのである。

 

 

 

 

 

 その後は沈鬱な空気のまま仕事をこなして。

 日も暮れかける頃、ひとまず夕方だし飯の用意をすることに決める。

 

 腹も減って来たし、何か作るか。

 

 星の精へかけていた魔術を解除して、コップに入れた血液をやっておく。

 星の精は透明なゼリー触手の姿に戻り、「クスクス!」と大喜びで血液に吸い付いた。

 その体が赤くグロテスクに色づいていく。

 

 俺はんーと伸びをしてから、二人に声をかけた。

 

「今日諸伏さん帰ってこないって言うし、せっかくだからマモーさんもご飯一緒にどうだ?俺がこの事務所で作って出すよ」

「!?!?!?」

 

 マモーさんが飛び上がらんばかりに驚愕した。

 激しく動揺している。

 「そ、そんな、神自らが、私如きに料理など」と視線を左右に忙しなく動かしている。

 どうやら神に料理を作らせるなど不敬と思いつつ、同時に俺の誘いを断るのも不敬として困っているのだと思われる。

 

 俺はふふーんと笑ってニヤニヤした。

 

「俺の完全再現手作りハイパーボリア風肉巻き。食べたくないか?」

「ッ!!!!!」

 

 マモーさんは息を詰めて目を見開いた。

 

 調味料から完全再現した、ハイパーボリアの当時の味の復活企画だ。

 最近になって、俺も当時の魚醤を自家発酵で作りだしたからな。

 ベランダの家庭菜園でハイパーボリアの野菜の種を育てて収穫もしたし。

 

 ちょうど食材が揃ったタイミングではあったから、近々作ろうとは思っていたのだ。

 

「あ、アレルギーとかマモーさんある?」と聞けば、呆然としたまま首を横に振ってくれた。

 

 まあハイパーボリア人にアレルギーなんてとっくに治療してるか。

 でも王国崩壊後に治療できず発症したかもしれないし、念のため確認するのは大切だろう。

 

 善は急げだ。

 

 コナン君も俺のハイパーボリアシリーズ料理は気に入ってくれている。

 今回は完全再現につき、若干異国感が強まるから口に合うか微妙なところだが。

 ともあれ食ってからのお楽しみだ。

 

 マモーさんはどこかぼんやりと、しかしソワソワと妙な反応をし出した。

 

 今回の料理は肉巻きとはいえ、現代のそれとは大きく異なる。

 なにせ全行程が魔術によって行われるから、緻密かつ独特な魔術の腕が求められるのだ。

 その分長時間かかる熟成もmg単位の味付けも自由自在だから、現代料理よりもできることは多い。

 

 家からとって来た分と、軽くスーパーから買って来た食材も含めて全てキッチンに並べていく。

 

 術式の装填完了。

 コナン君がトコトコとやってきて、観戦の姿勢を整えた。

 魔術料理の様子が面白いのか、こうして時々見に来ることがある。

 

 そして遅れてマモーさんもソワ…ソワ…と落ち着きなく見に来る。

 彼も術式が気になったのかもしれない。

 

 しかしなぜみんなして事務所の狭いキッチンに集合するのか。別にいいのだけれど。

 

 俺は得意げに解説を加えた。

 

「術式はウズルダロウム料理コンテスト、レムリア182年優勝者のものでーす。魚醤ソースの豆苗の肉巻き」

「へー、料理コンテストとかあったんだ」

 

 コナン君の言葉に、マモーさんが深く頷いて早口で語り出す。

 

「まだ首都がコモリオムだった頃からの歴史あるコンテストだ。優勝者は神直々に祝福され、全国民から尊敬の的となった」

「いやー、美味しそうだしコンテストにかこつけて俺も食べさせてもらってただけだけどな。それでめちゃ美味しかったぜ!と言うだけというか」

 

 当時の俺は忙しかったので年一のそれだけが飯の食いどきだったからな。

 美味しかったからよく覚えている。

 

 なお、コンテストが終わったら術式は一般開放され、全国民が同じ料理を楽しむことができるようになった。

 

「マモーさんもこの術式知ってるか?ほらこれ」

「!」

 

 そう言って術式をマモーさんのオーガナイザーへと転送する。

 

 どうやら料理アプリが入っていないようで、そこへの登録ができなかったから一般魔術一覧の方に繋げておく。

 もしかしたら料理系魔術は苦手だったのかもしれない。

 構成が独特だし芸術肌の料理人が多かったから、一般人が発動するのは大変だしな。

 

 マモーさんは目を見開いて全生活オーガナイザーを確認した。

 

「ええ、ええ、覚えております!一時期はまって、私は作れないので得意な友人に作ってもらってパーティがてら食べていました!」

「ならよかった。よいしょ、と」

 

 術式をひょいと発動する。

 あっという間に食材が空中で変化していき、ほかほかのハイパーボリア風肉巻きが完成する。

 俺はそれをそっと用意していた皿に置いた。

 濃厚で美味しそうな香りがキッチンに満ちる。

 

 マモーさんが「お運びします!!」と飛びつくように皿を運んだ。

 

 それでは、三人でご飯の時間だ。

 いただきます、とみんなで手を合わせてご飯とする。

 ちなみに、これはハイパーボリアでも同様の作法が一般的になっている。

 俺がやってたらうつったとも言う。

 

 マモーさんは一口食べて、やや震えて。

 また一口、また一口と猛烈な勢いで食べ始めた。

 

「どうコナン君、美味しい?」

「いける!魚醤が独特だけど意外とまろやかで、ご飯によく合う!美味しいね!」

「よしよし。今回も成功、と。ふはは、魔術の神である俺が失敗するはずもないのだ」

「突然何キャラなの黄衣さん」

 

 俺が勝ち誇るとコナン君に突っ込まれてしまった。

 マモーさんはついに泣き出したらしく、「ふぐぅぅぅ…」と嗚咽を漏らしながらひたすら言葉もなく肉巻きを口に運んでいく。

 

 かつてあった友人達との平和な日々に想いを馳せているのかもしれない。

 思い出の味だと言うなら、俺も作った甲斐があった。

 

 一通り食べ終わると、日もとっぷりと暮れていた。

 

 マモーさんは涙を拭いてスッキリした様子だったが。

 同時に、どうやって唸るような大金を事務所に注ぎ込んでやろうか考えている顔をしていた。

 

 やめてくれ。

 ただでさえどんどん事務所の備品が地道に超高級品に変えられてるのに。

 これ以上金を流し込まれたら東都の一等地にビルが立ってしまう。

 

 しばらくまったり「ハイパーボリアってどんな仕事があったの?」とかコナン君とマモーさんが雑談していたら。

 

 いつ事務所の扉を開けたのか。

 さらっと現れたルパン三世が「今お邪魔?」とソファの端っこで座って俺に問いかけて来ていた。

 すごい神出鬼没さだ。

 いくら俺が在中しているから防犯魔術を切っているからって、気配なさ過ぎだろうに。

 

「うおっ!?何何何!?お帰りなさい再封印業務終わったんだ!」

「俺様の苦労あり涙ありの一大冒険譚聞く?」

「うん。後で詳しく頼む」

 

 俺が頷くと、はあ、とがっくしとルパンは肩を落とした。

 そしてチラリとマモーさんを見て、訝しげな顔をする。

 

「ところで……どちらさん?この野生の超お金持ち」

「知ってるじゃん」

「ま、有名ではあるぜ。突然隠居して莫大な財を抱えて行方をくらませた世紀の怪人、財界の帝王って」

「行方くらませてたの!?!?!?」

 

 初耳すぎて目を剥いてマモーさんを見てしまう。

 マモーさんはしれっと「雑多な猿に集られても迷惑かと思いましたので」と答えた。

 そりゃそうだが。

 そうなのだがバレたらえらい一大事になる予感がするぞ。

 

 ルパンはどこか探るような目をマモーさんへと向けた。

 なんとなく緊張感。

 運命の宿敵に会ったような、複雑な雰囲気が部屋に充満する。

 

 ふと、ルパンが部屋の端に目を向けた。

 すっかり赤黒く血色の良くなった星の精と目が合う。

 

 星の精は触手をざわめかせて「クスクス…?」と体を傾けた。

 

 

 ルパンは「おわーーーーっ!?!?」と叫び声を上げたのだった。

 





・ルパン
再封印業務を完遂してきた。
131話「ルパコナTheMOVIE〈加護の光〉」参照。
道中、周囲にいた観光客があっという間に吸い付かれてミイラにされてたのを見てる。
暗闇の遺跡に閉じ込められ、星の精と鬼ごっこした記憶が蘇る。
魔術を使う個体もいてかなり苦労したが、頑張ってルパン一味で群れを退治した。
マモーさんに対してなんとなく警戒心のようなものを抱いている。

・ジンニキ
灰原さんを見て「もしかして」って思ったけど言わなかった。
どの面過ぎてかける声がなかったとも言う。
詳しくは次回かな。

・マモーさん
なんとなくルパンが気に食わないような気がする。
あまりに懐かしい味に涙が溢れて止まらなかった。
気心知れた友人と集まって宅飲みをよくしていて、その中の料理担当が作ってくれた記憶がある。
気のいいやつだった。否、あの頃のハイパーボリアに嫌な奴なんてどこにもいなかった。
平和に近況を語り合って、何の心配も不安もなくて、ただ穏やかに笑い合う日々の味が口の中に広がって。
過ぎ去ったあまりにも長い苦難の時が。
変わってしまった己の醜さが。
目の前に同時に突きつけられるのだ。
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