ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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純黒の悪魔〈春の記憶〉

 

 遊園地と水族館を満喫してるなり。

 

 子供達が「東都水族館に来ていたなら、一緒に巡れば思い出すかも!」と言ったため、組織の女性さんも一緒である。

 

 午前中は水族館を回ってからランチを楽しんだあと、午後は大観覧車ほか遊園地を堪能した。

 ここはできたばかりだからか最新のアトラクションもあり、カートに乗るタイプのシューティングゲームもあったので皆で楽しんだ。

 

 

 最初に、煤けていた服は暫定的に上だけでも替えさせてもらった。

 子供達と一緒にお揃いで選んだ水族館Tシャツだ。

 

 イルカのシルエットがデザインされて、意外とシックでセンスがいい。

 スタイルの良い組織の女性さんが着ると、めちゃくちゃオシャレに見えるユニクロ現象もあり。

 子供達が口々に「お姉さん綺麗です!」「似合ってんぞ!」「歩美も歩美も!お揃い!」と称賛した。

 

 その言葉に恥ずかしそうに、しかし嬉しそうに笑う女性の笑顔が印象的だった。

 

 

 女性は子供の相手に慣れていないようだった。

 

 子供達にあっちこっちと引き摺り回されてオドオド。

 同時に、そうやって懐かれて連れ回されるのを喜んでいるようでもあった。

 どこか壊れ物でも触れるように子供達と接して、それを振り払うような探偵団の元気一杯の姿に動揺して。

 

 半ば引き摺り込まれる様子でレストランに入って、彼女は子供達に押し切られるままに水族館カレーを頼んだ。

 「見て!ヒトデさん型のニンジン!」と歩美ちゃんにニンジンを見せられていた。

 志保ちゃんにも「まあまあいけるわよ。食べてみなさい」と促されてソロソロと神妙に口に運ぶ様はどうにも笑いを生じさせるものだった。

 

 また、女性は組織の人間らしくシューティングの腕がとんでもなく良いらしい。

 

 子供達と参加したダーツはもちろん、シューティングゲームも軽々と高スコアを叩き出していた。

 子供達は大歓声を上げ、かわるがわる女性にハイタッチを強請った。

 

 景品のイルカのストラップは、子供達みんなで分け合った。

 女性は白いイルカのストラップだ。

 

 「お姉さんとお揃いだね!」「ですね!」「似合ってんぞ!」と子供達に言われて、女性は本当に嬉しそうに微笑んでいた。

 

 

 

 

 

「ねえ、あの人。組織の一員なのよね」

 

 こっそりと灰原さんにそう聞かれて、俺は頷いた。

 

 コードネームはキュラソー。

 潜入や諜報など難易度の高い任務に就くことの多いRUMの右腕。

 現在は阿笠博士にスマホの修復とデータの抜き出しを行ってもらっている最中だ。

 

 せっかく水族館まで来たのにUターンを強いられて、阿笠博士はほよよと泣いていた。

 でも泣きつつもコナン君に雑に頼られるのは好きなあたり、付き合いの長いいい関係だと思わせられた。

 

 でも、そんなふうに雑に色々願いを叶えてきたせいで、「博士!俺そっくりに動くメカを作ってくれ!」とかコナン君から珍発言が飛び出すんだぞ。

 

 ……順調に俺もその道を歩いていることは直視しないこととする。

 

「地位の高い幹部らしいね。記憶喪失は本当みたいだけど、なんというか、凄い巡り合わせだよな」

「あの人の記憶が戻ったら、私たちを消すのかしら」

「!」

 

 志保ちゃんは切なそうな、少しだけ寂しそうな顔をして言った。

 組織の人間ならば弱みは潰さなければならない。誰にも見せてはならない。あってはならない。

 そういうものだとは、俺も理解はできる。

 

「そんな人には見えないけど」

「優しい人じゃ、組織では生き残れないのよ。まして子供と遊んで嬉しそうに笑う人なんて、真っ先に蹴落とされる」

「………」

 

 コナン君が「灰原」と優しく名を呼んだ。

 窘めるようにも慰めるようにも聞こえる声だった。

 

「少なくとも、いまあの人が幸せそうなのは確かなことだ」

 

 ゴーカートの列に並びに、子供達に囲まれて嬉しそうに笑う彼女の姿を見る。

 子供達と触れ合ううちに戸惑いはだんだんと薄れ、ただ明るく美しく笑う様子が増えていった。

 志保ちゃんは「……そうね」と静かに言った。

 

 そうであればいいと願うように、静かに、静かに。

 

 

 

 

 そうして、時刻はすでに夕方になっていた。

 

 帰る時間だ。

 しかし記憶は一向に戻らない。

 

「姉ちゃんの記憶戻んねーな」

「そうですねぇ。やっぱり病院に早く行ったほうがいいんでしょうか」

「歩美もついてく!お姉さんも病院行こ!」

 

 なにやら決意した顔で歩美ちゃんが女性の手を取った。

 自分がついてるから病院も怖くないよと言いたいらしい。

 

 女性はほわほわと優しく微笑んだ。

 

「ありがとう歩美ちゃん。でも今日は遅いから、帰りましょうか」

「ま、どうせ今日は病院も休みだしな。詳しくは明日にでも病院に行けばいいだろう」

 

 俺も女性の言葉に賛同して頷いた。

 

 彼女は治りかけの小さな擦り傷があるだけで、脳にも体にも重篤なダメージは残っていない。

 休日診療に行ってもろくな対応はできないだろう。

 記憶喪失となっているのは、そういう物理的なダメージとは別の原因があるようだし。

 

 明日になったら、彼女を専門病院に連れて行って診てもらおう。

 

 保険証なんて持ってないので全額自費になるが、こればっかりは仕方ない。

 後で降谷さんに接待費として請求すればいいはずだ。

 ニャルニャル遊戯の一部なんだし、降谷さんが負担すればいいだけの話だ。

 

 夕飯も適当に食べて、彼女は申し訳ないが事務所で一泊だ。

 流石に男所帯の俺のマンションに通すのは彼女も不安だろうしな。

 

 ……いやまぁ、コナン君を除けば男って言っても幽霊と触手しかいないんだけども。

 

 みんなで「中華!」「歩美ケーキ!」「うな重!」「もううな重はいいですから!!」と案出しをする。

 中華もいいな。近くにいい中華料理店ってあったっけ。

 

 

 ふと、喉が渇いて「すまん!お茶買ってくる!」と言って皆と別れる。

 俺だけペットボトルのお茶を買いに自販機へと走り寄ると。

 

 そこには、警視庁捜査一課の面々が緊張した面持ちでテーマパーク内を捜索していた。

 一番近場にいた佐藤刑事に話しかける。

 

「佐藤刑事じゃないですか。どうされました?」

「黄衣さん!?ええ、今被疑者を捜索中でして」

 

 警察手帳から、監視カメラの映像から抜き取った写真を見せてくれる。

 それは遠目ゆえにぼんやりとはしていたが、間違いなく組織の女性さんの姿に見えた。

 

「昨晩遅くに警察庁に侵入者がいて、その犯人を追っているの」

「お、おお……」

「首都高を逆走していたところを、不審な赤いマスタングとカーチェイスになって。結構大きな事件になったの。知らない?」

「いや、今日は朝バタバタしてて…うん、というかいま俺たちが一緒にいる人だな、この写真に写ってる女性」

「なんですって!?」

 

 佐藤刑事に叫ばれてしまった。

 

 ここで隠すのは変だし、仕方あるまいよ。

 優しい記憶は十分に蓄えた。

 あとはこれまでの己の所業と向き合う時間だ。

 

 というか赤いマスタングって赤井さんの車じゃん。

 首都高でカーチェイスするとかまた降谷さんにクソほど嫌味言われるだろうに。

 たぶん赤井さん的には親切心なんだと思われるが……なんというか、彼らもデコボコな関係なんだよな。

 降谷さん、赤井さんの前でだけ急に怒り狂うチワワみたいになるし。

 

 俺は横にそれていた思考を咳払いして元に戻し、佐藤刑事に情報を伝えた。

 

「なんか記憶喪失みたいでさ、今日一日、記憶が戻らないかと園内を一緒に探索してたんだ」

「っ、まだその女性といるの!?」

「おう。いま子供達といるから、来るか?」

「ええ。お願いします!」

 

 俺と一緒にやってくる佐藤刑事の姿を見て、子供達はわいわいと思い思いに叫んだ。

 「高木刑事とですね!?」「デート!?」「やるじゃねーか!」と囃し立てる。

 

 佐藤刑事が「仕事よ仕事!!」と恥ずかしそうに叫んでから、組織の女性さんに視線を合わせる。

 

「貴方ね。昨日警察庁に侵入した犯人は」

「………えっと?」

 

 きょとんと、女性は首を傾げた。

 記憶がないのだから、そりゃ言われてもなんのことやらとなるに決まってるか。

 

 子供達が「えぇっ!?そんな事お姉さんはしないもん!」「そーだぞ!俺抱っこしてもらったんだ!」などと口々に擁護して庇う姿勢を見せる。

 

 子供達に睨まれ、何故か劣勢に立たされた佐藤刑事は困ってしまっている。

 「あのね、これは本当の話で…」と説得するも、納得しない子供達がガードは揺るがない。

 

 女性が困惑がちに口を開いた。

 

「あの…でも、監視カメラに私の姿が映っていたんですよね?」

「そうよ」

「なら私、一緒に行きます。もしかしたら記憶が取り戻せるかもしれないし」

 

 女性の言葉に「ええーーっ!」と非難の大合唱が響いた。

 

 歩美ちゃんが「なら歩美も一緒に行く!」と素早く引っ付いた。

 佐藤刑事が困り切っているのがそろそろ可哀想になってくる。

 

 俺は子供たちを納得させるべく、折衷案を出すことにした。

 

「なら俺が子供達を見てるから、取り調べの時廊下に居させてもらっても構わないか?途中まででいいから」

「……分かったわ。どうせ貴方たちにも事情聴取が必要だし、許可します」

 

 まったくもう、と佐藤刑事は折れた様子で肩を落としている。

 見知った子達に犯人を庇われるとは思っていなかったのだろう。

 

 子供達は女性に抱きついて登ったりして喜んでいる。

 女性もつられて笑顔になった。

 

 優しげな人だ。

 記憶がないからこその無垢な優しさ、なのだろうか。

 

 記憶が戻った時、それを自身がどう思うか。

 知るのは本人だけなのである。

 

 

 

 

 ご飯は途中で買ってきたコンビニ飯のみになった。

 

 警視庁にて、俺たちは廊下で目暮警部やら捜査一課の面々の取り調べを待っている。

 目暮警部が取り調べに立ち会うらしい。

 厳しい顔をして部屋に入っていくのが見えた。

 

 しばらく子供達ももごもごおにぎりを頬張っていると。

 

 何故か部下をゾロゾロと引き連れた風見さんがやってきた。

 目的は組織の女性さんらしい。

 

 ベンチで座る俺を確認して、固い表情のままぺこりと一礼。

 取り調べ中の部屋に入って行った。

 

 おお、また風見さんが佐藤刑事にめっちゃ悪口言われる羽目になるのか。

 

 前のはくちょうの件で、裏で動いてた風見さんはドチャクソ敵視されたらしいからな。

 被疑者を無理やり作り出そうとしてる!って、後日佐藤刑事が怒ってたのを思い出す。

 

 小翠のために怒ってくれてありがとな。

 でも出来レースなんじゃよ。

 

 パタンと閉じられた取り調べ室の向こう側で行われる睨み合いを思い、俺はため息をついたのであった。

 





・キュラソー
原作よりだいぶ多めに触れ合いを堪能した。
しあわせ。ほわほわとあたたかい。
故に自分探しにも積極的。
記憶を取り戻して、子供達に自分の名前を名乗りたい。過去を語りたいと思っている。
それが、陰惨で血塗られた過去だと、知りもせずに。

・風見さん
命令とあらば嫌味な公安も完璧にこなせる公安の鏡。
でも内心たくさん傷ついていて、それを沖野ヨーコのライブ観戦で癒している。
…のに、休日急に呼びつけられて上司の命令が降るのでそろそろ干からびそう。
────国畜の朝は早い。
なんなら先々日の夜から職場を出ていないのだと、風見さんは乾いた声で言った。
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