ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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宮野明美の心残り

 

 あの後、キレ散らかす信者さんをなんとか宥めるのに幾分か時間を要した。

 

 退出する降谷さんの背中を「萎縮」の呪文で

強襲しようとしていたからな。

 これは相手を黒焦げのゴミ屑へと破壊する極めてシンプルかつ殺意の高い攻撃呪文だ。

 もし当たっていれば降谷さんは内側から爆散して炭化死体となっていただろう。

 

 もちろん、流石に事案過ぎるので羽交締めにして止めさせてもらった。

 

 そりゃ俺だって思うところがないと言えば嘘になるが。

 だからって粗挽き肉団子にしていいわけではないのである。

 

「やるならもっと穏便に!人事評価でマイナス点つけるとか!そういう人間社会の内側で対応してくれ!」

「はい!!!」

 

 俺の説得に、信者さんは素早く五体投地してすごい良い返事を返した。

 

 迂闊なことを言ってしまったのではないかと不安がつのる。

 まさか閑職に回して徹底的に昇進の芽を積むとかそういう姑息なことはしないよな?

 しかし流石に人の職場内のことまで口出しするのはマナー違反だし。

 

 許せ降谷零。

 あんまり露骨に酷いようなら注意するから耐えろ。

 

 と、そうこうしているうちに夜遅くなったので、愛しの我が家、米花シティマンションに帰って寝るとしよう。

 

 コナン君には鍵を渡しているし、入り口の生体認証も登録済みだ。

 だからよっぽど事件が長引きでもしない限り、彼らも先に帰ってすでに寝ていることだろう。

 

 諸伏さんなんかはお腹を空かして怒っているかもしれない。

 一応「所用で遅くなる」とメッセージアプリで連絡を入れておいたので、問題ないとは思うが。

 

 エレベーターで階を上り、眼下には都会の灯りが煌々と広がっているのがよく見える。

 いい景色だ。

 

 扉を開けると、玄関にはコナン君の靴がやや乱雑に脱ぎ捨ててあった。

 やはり既にコナン君達も帰って来ているらしい。

 

 そのまま廊下を進めば、居間は暗いまま。

 電気もつけていないようで、しんと静まり返る室内に人の気配だけがわずかに香っている。

 

 居間を覗き込めば、コナン君はだらりと座椅子の上で体操座りをしたまま無言。

 諸伏さんは遠い目で夜の都会の光を見下ろして、どこか物思いに耽っているようだった。

 お通夜みたいな空気だ。

 

「えーっと、あー、ただいま」

「……おかえりなさい、黄衣さん」

 

 コナン君も一応返事をしてくれるらしい。

 これは流石に俺がいない間に何があったのか聞かねばならないだろう。

 

「あの広田とかいう組織の女の人はどうだった?」

「死んだよ………俺は、助けられなかった」

 

 それだけ搾り出すように答えて、コナン君は再び沈黙した。

 無力感が滲んでいる。

 人の死に慣れたコナン君がここまでショックを受けていると言うことか、ただの組織の女だったわけでは無いのか。

 それとも庇われたりしたのか。

 

 よく見ればあちこち服もボロボロで、手足は擦り傷だらけだ。

 誰かと追いかけっこでもしたかのようだ。

 

 なんにせよ、このままでは精神衛生上大変よろしくない。

 

 先ほどから隣の物置から隠れ潜む幽霊の気配もするし、そちらからまずは片付けるべきか。

 俺はそっと視線を奥の部屋のドアに向けて、声をかけた。

 

「出て来なよ。コナン君の後を追って来たんだろ」

「?黄衣さん、なにを……」

 

 困惑するコナン君を尻目に、俺は相手が出てくるのを沈黙でもって待った。

 数秒の間。

 

 物置部屋のドアをすり抜け、控えめに顔を出したのは、銀行にいた広田という組織の女性であった。

 

 胸を撃たれたらしく、霊体の姿でもその血まみれの様子が反映されている。

 コナン君が目を見開いて叫んだ。

 

「宮野明美さん!?」

『やっぱり、私が見えるのね』

 

 組織の女性は目を伏せ、やや後ろめたそうに視線を逸らした。

 

『そこの人も私と同じ死人でしょう?コナン君が彼と普通に話しているから、もしかしたら子供は幽霊が見えるのかと思って、隠れていたの』

「別に子供だからじゃないけれど…明美さんはどうして…」

 

 どうして、の先は言葉にならないようだった。

 どうして後をつけて来たのか、どうして幽霊になったのか。

 コナン君自身、整理がついていないのかもしれない。

 女性は苦笑して、コナン君と目線を合わせるように座った。

 

『ごめんなさい。あんなに格好をつけたのに、顔を合わせづらくて』

『なるほどな』

 

 諸伏さんが同意するように深く頷いた。

 いつまで経っても降谷さんへの伝言を俺に頼まないのは、諸伏さんも顔を合わせづらいからなのかもしれない。

 

 コナン君がわずかに俯いてから、堰を切ったように声を上げる。

 

「宮野さんっ、俺……!」

『いいの!私の行動も、妹を貴方に託せたことも、後悔はないわ』

「でも、貴方は、」

『妹を置いていくことは、やっぱり心残りだけれどね』

 

 コナン君の言葉を遮って、広田さん───本名は宮野と言うらしい───は柔らかく微笑んだ。

 そして表情を険しくして、その隣で無表情に彼女を見下ろす諸伏さんと視線を合わせる。

 

『貴方の方は見たことがあるわ。組織の実働部隊で、幹部だった男。確かコードネームは…スコッチ』

『へぇ、よく覚えてるな』

『組織では、幹部の顔と名前すら覚えてない人間から死んでいくものよ。……使い捨てられるのは、どちらにしろ変わらないけれど』

 

 怖い組織過ぎる話だ。

 流石マフィア。いや正式にはマフィアじゃないらしいが。

 俺のような一般人からすればどちらも変わらない。

 

 というか、今まで部屋に隠れて出てこなかったのは、諸伏さんのことを警戒していたのもあるかもしれないな。

 

 ちらりと諸伏さんと視線を合わせて頷き合う。

 ここは彼女を安心させるため、正体をきちんと明かすべきだろう。

 

 諸伏さんは姿勢を正して一礼した。

 

『俺の本名は諸伏景光。警視庁公安部所属の、潜入捜査官だ。貴方のことを助けられなくて済まなかった』

『!』

『俺は現在、組織壊滅に向けてこの探偵事務所に滞在している。貴方にも、コナン君にも危害を加えるつもりはない』

 

 その言葉にしばらく目を見開いた後、宮野さんは少しだけ肩の力を抜いた。

 

 なお、逆にギョッとした表情で諸伏さんをガン見するのはコナン君の方である。

 寝耳に水というか、あまりに想定外の情報を聞いて硬直している。

 

「え……あんたマジで言ってる?」

『そうとも。スコッチお兄さんとは仮の姿、正義のお巡りさんこそが俺の正体だ!』

「俺に言わなかった理由は?」

『その方が面白そうだったから』

 

 諸伏さんがすごい勢いでコナン君に蹴られている。

 

 コナンくんの怒りの連撃を気にした様子もなく胸を張っているようだ。

 これが正義のおまわりさんの所業かどうかは議論が分かれるところである。

 

『なんにせよ、安心してくれ。貴方の妹は俺たちが必ず助ける。たしか幹部で研究者って言うと、噂に聞くシェリー、だったよな?』

『そうよ。本名は宮野志保。今は氷室製薬会社で研究を続けているはずよ』

 

 これはかなり有益な情報だ。

 コナン君と諸伏さんが頷き合ってアイコンタクトだけで意思疎通した。

 こういう時、INTが高いものだけで通じ合う感じがジェラシーを呼ぶんだよな。

 

「黄衣さん、製薬会社を調べよう!諸伏さんが中の警備状況を探るから、黄衣さんと俺は侵入と妹さんの脱出の手引きだ!」

「オーケー、コナン君。まずは妹さんが今もその製薬会社にいるかの確認だな」

 

 軽くデスクの上にあるPCを立ち上げて、該当する製薬会社を検索する。

 調べた結果、その製薬会社は車で一時間ほどの位置にある結構な大企業らしい。

 地図上で見るだけでも敷地内は結構な広さがあって、この中から人一人を探すのはなかなかの手間だ。

 

 心細そうな顔の宮野さんへと歩み寄ったコナン君は、その手に己の手を重ねるように固定して、真っ直ぐに彼女を見つめた。

 

「宮野さん、貴方の心残りは必ず晴らします」

『…工藤、新一君』

 

 宮野明美が幽霊となったということは、そこには拭いきれない心残りがあったのと同義。

 それを思って、コナン君は彼女を勇気づけようとしたのだろう。

 というか普通にコナン君の本名が知られてるけど、何があったんだ本当に。

 

 ああ、そうだ。

 そろそろ俺の方も用事を伝えねばならない。

 

「あー、俺の方からも業務連絡なんだけど」

 

 俺の声で、部屋の中の視線が集中する。

 宮野さんの話とは全くの別件だから言いづらいが、早いとこ伝えねば話が進まないからな。

 

「3日後の夜に諸伏さんの友達の…降谷零ってひとと会うことになったから、心残り準備しといてくれ」

「零…ゼロ…それって前にあんたが言ってた親友ってやつだよな?」

 

 コナン君に話しかけられたが諸伏さんは無言。

 思考が追いついてないらしく、たっぷり数秒とった後に「えっ」と間抜けな声出す。

 

 コナン君が思考を浚うように目を細めた。

 

「俺たちもさっき帰って来たばっかりですけど、『用事』ってのがこんな時間までかかったのはその降谷零って人が関係しているってことですか」

「まあな。それだけじゃないけど、概ね合ってる」

 

 本当ならもっと早く帰れたのだけれど。

 最近魔術を使う機会が多かったので、帰りにふと思い立って「ハスターの瞳」の制御基盤をメンテナンスしたのが少し時間をくってしまった。

 良い機会なのでと対旧支配者用の封印機構を増設したのが間違いだったか。

 

 ニャルラトホテプのアンチクショウも対象とした多重の降臨阻害に目眩し、術式破壊などなど山盛りにしてみたのだが。

 多分今回も突破されたあげく煽られるのだろうと思うと気が重い。

 

 俺が思考を飛ばしていると、諸伏さんは恐る恐る俺の方を見て言った。

 

『俺は別にいつも通り透明なまま後ろでそっと息を潜めてればいいよな?』

「アンタ普段息を潜めてたことないだろ」

『お黙り少年』

「いや、そこで諸伏さんを降谷さんに引き合わせるつもりだ。せっかくの死者と話す機会だし、しばらくは歓談の時間を取るつもりだけど」

 

 そう言うと、諸伏さんが静かに己の顔を両手で覆ってしゃがみ込んでしまった。

 

『やだ。合わせる顔が無さすぎて絶対やだ。というかあの現実主義に幽霊とかどうやって信じさせたんだよ』

「それは当日説明する予定だけど」

『嘘だろ絶対拗れる奴じゃないか!どう穏便に見繕っても俺が顔面にストレートパンチ食らうのは確定だろ!!』

「え、暴力には手を出さなさそうな人に見えたけど」

『アイツは短気なんだよ!絶対色々誤解して秒でキレる!』

 

 意外だ。

 彼の雰囲気はインテリヤクザというか、TVドラマに出てくる嫌味な公安概念さながらであった。

 直接手を下すことは避けて間接的に相手を陥れるタイプというか。

 いや悪口じゃないけど。

 

 友人である彼が言うなら、思ったよりまっすぐな人なのかもしれないと思うなど。

 

 どうも俺が話を降谷零と諸伏景光の再会ということで進めていることを諸伏さんも感じ取ったらしい。

 諸伏さんはビターン!と倒れた挙句床にめり込んだまま動かなくなってしまった。

 

 そんなに嫌か。

 説得も長期戦になりそうなので、俺はソファに置きっぱなしだった荷物を机へと移動させてソファを開ける。

 

「ひとまず夜も遅いし寝よう。あー、宮野さんは今日のところは居間のソファでいいかな?」

『え、私は…』

「行くところ無いんだろ、朝飯も出すし、女性の夜の独り歩きは危険だ。しばらくここでゆっくりしていくといい」

 

 諸伏さんがズポッと顔を床から出して真顔で口を開いた。

 

『絶対ここにいた方がいい、断言する。悪いこと言わないから』

『え、ええ…』

 

 一言言い終えた後、また諸伏さんは床に顔を埋めてしまった。

 断固話し合いには応じない姿勢のようだ。

 

 明美さんは少しだけ笑った。

 その顔は、彼女の芯の強さが垣間見える美しさを秘めていたのだった。

 

『なら、しばらくここでお世話になるわ。よろしくね、工藤新一君』

 




・コナン君達
アニメスペシャル二時間分ぐらいのアクションの末、ギリギリジンに明美さんを殺されてしまった。
明美さんが体を張って囮になったのでコナン君の姿は見られていない。

・ニャルラトホテプ
浅黒い肌に金髪、男か。なるほど、ちょうどいいな。
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