ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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変わらぬものさえあるのなら

 

 翌朝、降谷さんが事務所に来た頃には、すっかり準備は整っていた。

 

「お、おお……なんと言うか、すごいな」

「おはよう降谷さん。早速だがここに寝てくれ」

 

 探偵事務所のソファがあった場所には、代わりに魔術的に作成された手術台がある。

 

 幾重にも魔術が込められた特製の手術台だ。

 昨日夜なべして作ったのだが、結構いい出来になったと思っている。

 魂への本格的な処置だし、準備はあればあるだけ良いからな。

 

 さも手術助手です、みたいな顔をして側に控えるマモーさんを添えて。

 流石にこのレベルの魔術に参加させるわけにはいかないので見学だけだが。

 

 それでも、汗を拭くのは自分だと言う気概は伝わってきた。

 

 諸伏さんがペットボトルのお茶を降谷さんへと渡す。

 「ゼロ、お茶。先に飲んでおいた方がいいぞ」との声を受けて、動揺のまま降谷さんは「す、すまないなヒロ」と言ってペットボトルを開封してごくごくと飲む。

 

 こういう人から渡されたもの基本は絶対飲まないのに、諸伏さんからは躊躇いなく飲食するんだよな。

 親友の力ってやつか。

 

 

 そして。

 キッチンからひょいと出てきたニャルラトホテプが降谷さんの姿を見てにんまり笑った。

 

「あ!我が化身が到着したんですね。待ってましたよ!」

「!?!?!?」

 

 降谷さんが跳ね上がってビビり散らかした。

 瞬時に逃走の姿勢に入るが、ニャルはすかさず入り口扉の前に瞬間移動。

 ニタニタと「どうしました?」などと言って揶揄っている。

 

 降谷さんは血走った目を正面窓に向けた。

 

 スパイ映画じゃないんだから窓を割って逃げるのだけはやめてほしいところである。

 いやまあ、黒い風なんだから外へ出さえすれば飛んで逃げられるだろうけど。

 

 ニャルラトホテプはくすくす笑いながらガラス扉へともたれかかった。

 

「安心してください。今回は単に魂への処置を見届けにきただけですから」

「……今回の治療はそんなに大規模なのか?」

 

 降谷さんは困惑しているようだ。

 

 これまでちょちょっと片手間に治療していたから、そのぐらいだと思っていたのかもしれない。

 そういう意味では過去一大掛かりな手術になる。

 事前に言っておいた方が良かったかもしれない。

 

 俺は降谷さんの問いに、やや頷くにとどめた。

 

 なお、星の精はイタズラをしないようにコナン君に抱いてもらっている。

 コナン君はおっかなびっくりな様子で、色づいたゼリー状の身体を抱きしめている。

 星の精もコナン君の不慣れさを察して、大人しく居心地悪そうにみじろぎした。

 

 

 ひとまず手術台に乗ってもらうとする。

 上に乗った降谷さんを感知して、術式が淡く発光した。

 降谷さんは不安そうに視線を彷徨わせている。

 

 俺は「手術前に聞きたいんだけどさ」と降谷さんに話を切り出した。

 答えによって手術内容が大きく変化するからな。

 運命の選択ってやつだ。

 

「……なんだ?」

「今の自分のまま、遠い未来に自我が変質して暴れる結末がいい?それとも、永劫ニャルっぽい降谷さんの方がいい?」

「突然最悪の二択を突き付けるのはやめてくれないか?」

 

 降谷さんはかなり険しい顔をして黙り込んでしまった。

 でも冗談でもなんでもないから、答えてもらわないと話が進まない。

 

 俺の本気が伝わったのか、降谷さんは腹を括ったようだ。

 

「聞くんだが、ニャルっぽい、というのは僕の信念を維持していられる程度なのか?」

「調整次第だから十分可能、かな。ただ、やらかす可能性は大」

「本当に究極の二択だな。このままじゃダメなのか?」

 

 降谷さんの問いに、側で聞いていたニャルが目を三角にして怒り出した。

 

「ダメに決まってます。常にチクチク痛んで迷惑です。こんなに羽虫の魂が脆弱とは思ってませんでした」

「降谷さんの魂を継ぎ接ぎする選択をしたのはニャル自身だもんな……」

「いやだって、貴方が羽虫好きだから!僕が羽虫っぽく振る舞えば気を引けると思って!」

「サンキュー。ご明察だ」

 

 降谷さんが手術台に寝転がったまま「ここでイチャラブしないでくれないか…」と渋面を作っている。

 すまんね。新婚夫婦なんだ。

 

 しかし、ニャルの「脆弱」の言葉に己の魂が予想よりずっと弱っていると理解したのだろう。

 ため息をついて視線を落とした。

 

 そして、諸伏さんと目が合う。

 二人は静謐な、それでいて信頼の籠った視線をまっすぐに向け合ったようだった。

 

 降谷さんが、静かに答えを口にする。

 

「自我が壊れてただの災害に堕ちるくらいなら、俺が俺でなくなっても日本を永く永く守りたい。それがあの日の『俺たち』の誓いで、約束だ」

「………了解。ま、降谷さんが降谷さんのままでいられよう全力を尽くすよ。あと希望ある?」

「俺がやらかしそうになったら止めてくれ。そこの本体と二人して企むのを止めるのは大変だろうがな」

「化身の分際で、僕が迷惑になってるみたいな言い方は名誉毀損ですよ」

「事実じゃんね…」

 

 俺は思わず突っ込んだ。

 ニャルは「え、そんなことないですよね?僕の趣味にも理解を示してくれるいい夫ですもんね!?」と心外そうだ。

 

 あまり厳しく取り締まりすぎると爆発するから見逃してるだけで、別に理解を示してるわけじゃないんだよ。

 

 俺の生ぬるい視線を受けて、ニャルはむしゃくしゃしたようだ。

 手近に抱かれていた星の精の触手を、急に3本ほど引っこ抜いた。

 

 震えていた星の精はギッッッ⁉︎と悲鳴をあげてさらに震えた。

 もう少し引っこ抜こうと手を出して。

 それをコナン君が「かわいそうだよ!」と抗議して星の精を体の後ろに隠したようだ。

 ニャルは不満げにブツブツと言いながら手を引っ込めた。

 

 星の精がトゥンク…みたいな空気を出している。

 そうだよコナン君は基本良い子なんだよ。

 

 まあ、ともかく方針は決まった。

 

 あとは手術の実行あるのみ。

 俺以外は皆範囲外に出てもらって、術式展開行っていくのだ。

 

 降谷さんに事前説明を兼ねてこれから行う施術の説明をしていく。

 

「じゃあ始めるぞ。術式は通常時間流で一時間ほど。折りたたむので実際の手術時間は八時間程度かかる予定だ」

「そんなにか!?」

「おう。魂の専門家による全力の施術だ。俺以上に上手くやれる神は居ないと自負してる」

「………そうか。なら安心だな」

 

 降谷さんは少し笑って、目を閉じた。

 この信頼に応えねば神の名が廃る。

 

 

 今回の施術は、ある種「俺の在り方を模倣する」ものとなっている。

 降谷さんの魂を、ヒトの形を保ったまま上から下まで神性のそれに変質させきってしまうのだ。

 

 これにはかなりの労力がともなうが、降谷さんはあくまで化身であるため一応頑張れば可能な範囲の施術になっている。

 

 その過程で取り落とす部分も出てくるだろうが、俺の頑張り次第で最小限に抑えることが可能だ。

 

 

 時流操作のための結界を確立。

 立方体の形をした結界を展開して、その上で八重の保護を降谷さんに被せていく。

 

 万が一バランスが崩れても、魂が形を失って離散しないようにという安全弁だ。

 

 そうして、そっと魂を露出させる。

 

 神性を凍結。

 ヒトの部分のみを慎重に切り分けていく。

 

 降谷さんが困惑して、「意識があるままなんだが、これでいいのか?」と聞いてきた。

 

「痛みがあるわけじゃないし、この方が異常があった時にわかりやすいからな」

「そういうものか。施術中わけがわからなくなって妄言を吐いたりしないだろうな」

「それはする」

「おい」

 

 降谷さんに半目で突っ込まれてしまうが、でもそれ込みで正常な反応だし、やはり意識はあったほうがいい。

 

 俺は少しづつ慎重に彼の魂へと干渉しながら、ゆっくりと口を開いた。

 

「できる限り降谷さんが降谷さんのままでいられるようにする。でもたぶん、取り落とす部分も出てくるはずだ」

「いいさ。自我を失うよりずっと良い」

 

 降谷さんは淡く笑って、それを受け入れたようだった。

 

「志半ばで命を落とすよりずっといい。あいつらとの約束を守れるんだ。それ以上を望むべくもないさ」

「………」

 

 気まぐれに結界内を覗くニャルラトホテプが、「相変わらず理解不能です」と眉間に皺を寄せた。

 

 常に現在に生き、己の快不快にしたがって動くニャルに、その葛藤は理解不能というより他無いだろう。

 そもそも、ニャルラトホテプは無形の怪物だ。

 己すらも不定形なのだから、アイデンティティの問題など理解の遥か外に違いない。

 

 降谷さんは軽く笑ってニャルへと提案した。

 

「これを機に羽虫の在り方を導入してもいいんじゃないか、本体。黄衣君受けは間違いなくするぞ」

「!!なるほど、一考の余地ありですね」

「だろう?その時は日本を守ることを芯にするとかどうだ?」

「そこ、ダイマはやめような」

 

 降谷さんがニャル相手にとんでもないダイレクトマーケティングを始めた。

 強かで結構なことだが。

 本体までそんな尖らせてどうする気だよ。

 

 

 そうして手術は、きっかり八時間ののち終了した。

 現実時間では一時間のみ。

 

 黒い風は、ニャルラトホテプの化身として、正しい姿を取り戻したのだ。

 





・神への変質
考えに考え抜いて生み出した新しい、人間を不老不死にするためのカタチ。
ニャルの助言があったとかなんとか。
芯の強いヒトじゃ無いと人格を取り落としやすい。
本当はハスターが持つ「強い光」を使えばもっと楽に施術が可能。
だが、ハスターはそれを制御できていないようだ。

・ニャルラトホテプ
実は「強い光」を舐める程度にしか摂取していないので、夢の終わりを越えるたびに別人と化している。
が、ニャルラトホテプの在り方的に特に気にしていないらしい。
次の宇宙でもハスターとは唯一無二の親友である。遊び、楽しみ、ずっと一緒。
それが違わないなら、己のカタチを気にする必要はない。
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